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カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第6幕 カーテンコール

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シーン3:カーテンコール

やがて、ミアラの奏でる曲が、緩やかな調べへと変わっていく。



それに合わせるように、レックスとリーアの動きもゆっくりとしたものになった。


レックス:「……」


リーア:「……」


二人は無言で刃を交わしながら、互いの隙をうかがっていた。



剣を受け、流し、足を運ぶ。



その間も、相手を見据える眼差しは揺るがない。


観客たちの声は、いつしか途絶えていた。



誰もが固唾をのんで、二人の動きを見守っている。


やがて――。


レックスの長剣と、リーアの短剣が、同時に走った。



互いの首筋へと、吸い込まれるように刃が迫る。


ミアラは弦の上で、弓を長く滑らせた。


キュイーン。


細く澄んだ音が、張り詰めた静けさの中を伸びていく。


その音が途切れた瞬間。


レックスとリーアの動きも、ぴたりと止まった。


二人の刃は、互いの首をはねる寸前にあった。


レックス:「……えっ」


リーア:「……なにっ」


静寂の中、レックスとリーアは我に返った。


互いの首元で止まった刃に目をやり、そろそろと剣を引く。



姿勢を正し、辺りを見回すと――。


大勢の人々が、二人を見つめていた。


リーアは慌ててフードを深くかぶり、顔を伏せる。



レックスは気まずそうに口元をゆがめ、視線を泳がせた。


その目が、傍らに立つミアラの姿を捉える。


ヴァイオリンを胸に抱き、そっと目を閉じていた。



まだ音色が聞こえているかのように、演奏の余韻に浸っている。


レックス:「……ミアラさん」


呆然と漏らした声に、ミアラが目を開けた。



レックスを見つめ、それからフードをかぶったリーアへと視線を移す。


ミアラ:「ごめん。邪魔しちゃったかな」


その声を合図に、観衆からわっと歓声が湧き上がった。



あちこちで手が打ち鳴らされ、歓声に新たな歓声が重なる。



瞬く間に、公園全体を揺るがすほどの大歓声が三人を包み込んだ。


レックス:「なんだ」


レックスは目を大きく見開き、狼狽したように辺りを見回す。


リーア:「……」


リーアもまた肩をすぼめ、身を小さく固めていた。


ミアラだけが、にこにこと周囲を眺めている。


やがて二人の間に立つと、左右に手を伸ばし、それぞれの手を取った。



レックスを見上げ、続いてリーアの顔をのぞき込む。


ミアラ:「さあ、みんなに感謝だよ」


そう言って、観衆へと向き直る。


レックスとリーアは、戸惑いながら顔を見合わせた。



その間にも、ミアラは二人の手を握ったまま、深々と頭を下げる。


レックス:「……あ、ああ」


レックスがぎこちなく頭を下げた。



リーアも一拍遅れて、ミアラにならう。


並んで頭を下げる三人を見つめ、クリスは口を開いた。


クリス:「カーテンコールです」


ワードック:「うむ。見事じゃ」


再び、拍手と歓声が湧き上がった。


マイケル:「凄かったぞ、レックス!」


マイケルが声を張り上げる。



その隣では、ピートも盛んに手を叩いていた。


ピート:「よくやったな!」


二人の後ろに立つクインも、三人へ拍手を送っている。


高台で見守っていたクリストファーとウィリアムもまた、惜しみなく手

を打ち鳴らしていた。


やがて拍手と喝采が止み、三人は頭を上げた。


レックス:「うっ」


不意に、レックスの視界がぐらりと歪む。



足元を踏みしめようとしたが、膝に力が入らない。



そのまま、崩れるように地面へ倒れ込んだ。


ミアラ:「レックス君!」


ミアラの悲鳴が響く。



クリスとマイケル、ピートが、すぐさま駆け寄った。


観衆の間にざわめきが広がり、人々の視線が倒れたレックスへと集まっていく。


リーア:「……」


リーアはその場から、ゆっくりと後ずさった。



レックスの傍らに膝をつくミアラたちを見つめ、かすかに唇を動かす。


リーア:「ごめん」


それだけ言い残し、森へ向かって駆け出した。


クイン:「待て!」


気づいたクインが、後を追おうと一歩踏み出す。


ワードック:「行かせてやれ」


その声に、クインは足を止めた。


クイン:「しかし……」


ワードック:「あやつを捕らえる機会は、まだある。今は行かせてやるのじゃ」


クインは森へ目を向けたまま、しばし立ち尽くしていた。


クイン:「……はい」


短く答えたときには、リーアの背中はすでに木々の奥へ消えていた。


              ♢

ウィリアム:「逃がすのか」


水の壁に映る光景を見つめたまま、ウィリアムが問いかけた。


クリストファー:「ああ、二人ともな」


クリストファーは足元へ目を落とす。



地面には、ソフィを縛っていた木の蔓が、ひと束になって転がっていた。


クリストファー:「俺が捕まえちゃ、お前らのためにならねぇだろ」


そう言って、にやりと不敵な笑みを浮かべる。


ウィリアム:「なんで、ボクまで……」


言いかけて、口を閉じた。



クリストファーの目は誤魔化せない。



ウィリアムは小さく鼻で笑う。


ウィリアム:「ウチの従業員に欲しかったけどな」


クリストファー:「まだチャンスはあるさ」


したり顔のクリストファーを、ウィリアムは横目で見やった。


ウィリアム:「そうだな」


クリストファーは水の壁へ歩み寄る。



そこに映る、倒れたレックスの顔をのぞき込んだ。


クリストファー:「運命によって結ばれたものは、運命によって引き裂かれる」


ウィリアム:「そのこころは?」


クリストファー:「運命に弄ばれてるんだよ」


水の壁の前で、無造作に手を振る。


映っていた光景が崩れ、宙に留まっていた水が一気に落下した。

水音が響き、足元に飛沫が散る。


クリストファー:「あいつらが運命に負けないくらいに強くなった時、また会えるさ」


クリストファーは遠くへ目を向け、しばらくじっと見つめていた。

やがて、大きく息を吸う。


クリストファー:「もっと強くなれ、レックス! 俺も強くなるから!」


夜空に向かって叫ぶと、踵を返して歩き始めた。


ウィリアムはその背中を見送り、もう一度、公園へと目を向ける。


ウィリアム:「いつかまた会おう! レックス・アーポット!」


別れの言葉を投げかけ、クリストファーの後を追った。




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