シーン3:カーテンコール
やがて、ミアラの奏でる曲が、緩やかな調べへと変わっていく。
それに合わせるように、レックスとリーアの動きもゆっくりとしたものになった。
レックス:「……」
リーア:「……」
二人は無言で刃を交わしながら、互いの隙をうかがっていた。
剣を受け、流し、足を運ぶ。
その間も、相手を見据える眼差しは揺るがない。
観客たちの声は、いつしか途絶えていた。
誰もが固唾をのんで、二人の動きを見守っている。
やがて――。
レックスの長剣と、リーアの短剣が、同時に走った。
互いの首筋へと、吸い込まれるように刃が迫る。
ミアラは弦の上で、弓を長く滑らせた。
キュイーン。
細く澄んだ音が、張り詰めた静けさの中を伸びていく。
その音が途切れた瞬間。
レックスとリーアの動きも、ぴたりと止まった。
二人の刃は、互いの首をはねる寸前にあった。
レックス:「……えっ」
リーア:「……なにっ」
静寂の中、レックスとリーアは我に返った。
互いの首元で止まった刃に目をやり、そろそろと剣を引く。
姿勢を正し、辺りを見回すと――。
大勢の人々が、二人を見つめていた。
リーアは慌ててフードを深くかぶり、顔を伏せる。
レックスは気まずそうに口元をゆがめ、視線を泳がせた。
その目が、傍らに立つミアラの姿を捉える。
ヴァイオリンを胸に抱き、そっと目を閉じていた。
まだ音色が聞こえているかのように、演奏の余韻に浸っている。
レックス:「……ミアラさん」
呆然と漏らした声に、ミアラが目を開けた。
レックスを見つめ、それからフードをかぶったリーアへと視線を移す。
ミアラ:「ごめん。邪魔しちゃったかな」
その声を合図に、観衆からわっと歓声が湧き上がった。
あちこちで手が打ち鳴らされ、歓声に新たな歓声が重なる。
瞬く間に、公園全体を揺るがすほどの大歓声が三人を包み込んだ。
レックス:「なんだ」
レックスは目を大きく見開き、狼狽したように辺りを見回す。
リーア:「……」
リーアもまた肩をすぼめ、身を小さく固めていた。
ミアラだけが、にこにこと周囲を眺めている。
やがて二人の間に立つと、左右に手を伸ばし、それぞれの手を取った。
レックスを見上げ、続いてリーアの顔をのぞき込む。
ミアラ:「さあ、みんなに感謝だよ」
そう言って、観衆へと向き直る。
レックスとリーアは、戸惑いながら顔を見合わせた。
その間にも、ミアラは二人の手を握ったまま、深々と頭を下げる。
レックス:「……あ、ああ」
レックスがぎこちなく頭を下げた。
リーアも一拍遅れて、ミアラにならう。
並んで頭を下げる三人を見つめ、クリスは口を開いた。
クリス:「カーテンコールです」
ワードック:「うむ。見事じゃ」
再び、拍手と歓声が湧き上がった。
マイケル:「凄かったぞ、レックス!」
マイケルが声を張り上げる。
その隣では、ピートも盛んに手を叩いていた。
ピート:「よくやったな!」
二人の後ろに立つクインも、三人へ拍手を送っている。
高台で見守っていたクリストファーとウィリアムもまた、惜しみなく手
を打ち鳴らしていた。
やがて拍手と喝采が止み、三人は頭を上げた。
レックス:「うっ」
不意に、レックスの視界がぐらりと歪む。
足元を踏みしめようとしたが、膝に力が入らない。
そのまま、崩れるように地面へ倒れ込んだ。
ミアラ:「レックス君!」
ミアラの悲鳴が響く。
クリスとマイケル、ピートが、すぐさま駆け寄った。
観衆の間にざわめきが広がり、人々の視線が倒れたレックスへと集まっていく。
リーア:「……」
リーアはその場から、ゆっくりと後ずさった。
レックスの傍らに膝をつくミアラたちを見つめ、かすかに唇を動かす。
リーア:「ごめん」
それだけ言い残し、森へ向かって駆け出した。
クイン:「待て!」
気づいたクインが、後を追おうと一歩踏み出す。
ワードック:「行かせてやれ」
その声に、クインは足を止めた。
クイン:「しかし……」
ワードック:「あやつを捕らえる機会は、まだある。今は行かせてやるのじゃ」
クインは森へ目を向けたまま、しばし立ち尽くしていた。
クイン:「……はい」
短く答えたときには、リーアの背中はすでに木々の奥へ消えていた。
♢
ウィリアム:「逃がすのか」
水の壁に映る光景を見つめたまま、ウィリアムが問いかけた。
クリストファー:「ああ、二人ともな」
クリストファーは足元へ目を落とす。
地面には、ソフィを縛っていた木の蔓が、ひと束になって転がっていた。
クリストファー:「俺が捕まえちゃ、お前らのためにならねぇだろ」
そう言って、にやりと不敵な笑みを浮かべる。
ウィリアム:「なんで、ボクまで……」
言いかけて、口を閉じた。
クリストファーの目は誤魔化せない。
ウィリアムは小さく鼻で笑う。
ウィリアム:「ウチの従業員に欲しかったけどな」
クリストファー:「まだチャンスはあるさ」
したり顔のクリストファーを、ウィリアムは横目で見やった。
ウィリアム:「そうだな」
クリストファーは水の壁へ歩み寄る。
そこに映る、倒れたレックスの顔をのぞき込んだ。
クリストファー:「運命によって結ばれたものは、運命によって引き裂かれる」
ウィリアム:「そのこころは?」
クリストファー:「運命に弄ばれてるんだよ」
水の壁の前で、無造作に手を振る。
映っていた光景が崩れ、宙に留まっていた水が一気に落下した。
水音が響き、足元に飛沫が散る。
クリストファー:「あいつらが運命に負けないくらいに強くなった時、また会えるさ」
クリストファーは遠くへ目を向け、しばらくじっと見つめていた。
やがて、大きく息を吸う。
クリストファー:「もっと強くなれ、レックス! 俺も強くなるから!」
夜空に向かって叫ぶと、踵を返して歩き始めた。
ウィリアムはその背中を見送り、もう一度、公園へと目を向ける。
ウィリアム:「いつかまた会おう! レックス・アーポット!」
別れの言葉を投げかけ、クリストファーの後を追った。




