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カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第6幕 カーテンコール

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シーン2:フィナーレに向けて

クリストファー:「ほう、あの坊主、なかなか筋がいいじゃないか」


クリストファーは腕を組み、水面を見つめながら感心したように頷いた。


ソフィ:「あら……あの時の坊やじゃないの」


ソフィが首をかしげ、水面に映るクリスの顔を覗き込む。


ウィリアム:「お前たち、好き勝手に坊主だの坊やだのと呼んでいるが……」


脇から口を挟んだウィリアムは、二人を見やった。


ウィリアム:「あのお方は、この国の王子だぞ」


ソフィ:「えっ……嘘でしょ!?」


ソフィの顔から、さっと血の気が引いた。



もう一度、水面へ目を向ける。


ソフィ:「私……王子様を思い切り蹴りとばしちゃったんだけど……!」


語尾が悲鳴のように裏返る。



ソフィは気まずそうに目を伏せ、身を縮こまらせた。


クリストファー:「へえ、大した度胸じゃないか」


震え出したソフィを横目に、クリストファーは他人事のように笑う。


クリストファー:「それにしても、たいしたもんだよ」


再び水面へと視線を戻し、目を細めた。


クリストファー:「おチビちゃんは、この戦いを舞踏へと変えた」


しばし、その光景を眺める。



やがて、クリストファーの視線が、水面に映るクリスの顔で止まった。


口元に、期待をにじませた笑みが浮かぶ。


クリストファー:「さあ、君には何ができるのか、見せてくれ。殿下」


                ♢


クイン:「観客ですか」


クインは眉をひそめ、クリスを見返した。


クリス:「いま、三人はミアラさんの奏でる音色に合わせて身体を動かしています」


クリスは耳を澄ませ、ヴァイオリンの旋律に合わせて、ゆっくりと身体を揺らす。


クリス:「ミアラさんが二人の心の中に入り込み、心と身体に同調して操っているんです」


クイン:「操っている……」


クインは、刃を交えるレックスとリーアへと目を向けた。


ワードック:「操っているというのは、少々言い過ぎじゃな。曲に乗せて踊らせている、と言ったほうがよかろう」


クインはしばらく二人の動きを見つめていたが、やがて顔を伏せ、ゆるく首を振った。


クイン:「初めて彼女を見た時から、ただ者ではないと思っていましたが……まさか、そんな力を持っていたとは」


その言葉に、クリスが振り向く。


クリス:「ミアラさんをここによこしたのは、あなただったんですか」


クインは苦笑を浮かべ、小さく頷いた。


クイン:「それで……」


説明の先を促すように、クリスへ視線を戻す。


クリス:「ミアラさんの演奏が終われば、この戦いも終わります。ただし、途中で演奏を止めても、戦いは終わりません」


クイン:「なぜです?」


クリス:「二人との心の繋がりが切れてしまうからです。あくまでも、一曲を自然に終わらせなければいけないんです」


クインは顎に手を当て、口を結んだ。



考え込むように眉を寄せ、しばし黙り込む。


クイン:「聞けば聞くほど、ついていけない話ですが……それと観客に、何の関係があるんですか?」


クリス:「もちろん、関係あります」


クリスはにやりと笑った。


クリス:「観客がいれば、演者も気分が高まるでしょう。それだけ演奏にも熱が入ります」


クイン:「なるほど」


クインは顎から手を離し、ぽんと両手を打ち合わせた。


クイン:「彼女を熱くさせて、満足させるんですね」


クリス:「その通りです」


クリスが頷くと、クインの顔にも笑みが浮かんだ。


クイン:「それなら、もう彼女自身が観客を呼んでいますよ」


クリス:「えっ」


クリスは拍子抜けした声を漏らし、クインの顔をまじまじと見つめた。


その時だった。


「こっちだ、こっち」



「待て、なんかやってるぞ」


木々の間から人影が次々と現れ、広場へと足を踏み入れた。



街の住人や、この街を訪れていた冒険者たちだ。


クリス:「なんだ」


クリスは目を丸くし、集まってくる人々を見回した。


クイン:「私も、ここへ来る途中でヴァイオリンの音色を耳にしました」


戸惑うクリスを見て、クインは目を細める。


クイン:「彼らも、その音色に誘われて来たのでしょう」


クリスは、ヴァイオリンを奏でるミアラへと視線を走らせた。


クリス:「やるな、ミアラさん」


演奏を続けるその姿に、思わず苦笑が漏れる。


「なんだよ。何かやってるのか」



「剣舞か? 暗くてよく見えないな」


人々は足を止め、広場で刃を交える二人に目を凝らした。


「でも、なんか面白そうなことやってるぞ」



「おい、誰か松明を持ってこい」


人垣の中から声が上がる。


広場にはまだ灯りがなく、レックスとリーアの姿を照らすのは、月と星々の淡い光だけだった。


ワードック:「みんなに見せてやれ。クリス」


ワードックがにこりと笑う。


クリス:「はいっ」


クリスは勢いよく腕を掲げた。


クリス:《光よ》


レックスとリーアの頭上で、光がパアンッと弾ける。



降り注ぐ光は、刃を交える二人を、そしてヴァイオリンを奏でるミアラ

を、夜の闇の中に幻想的に浮かび上がらせた。


「わああっ!」


観衆から、一斉に歓声が湧き起こる。


クリスは掲げた手を動かし、三人へと光を向けた。


激しく剣撃を交わしながら、舞うように身を翻すレックスとリーア。



その傍らで、心地よさそうにヴァイオリンを奏でるミアラ。


クリスは旋律に乗せて、ゆったりと腕を振る。



その手が描く軌跡に、光が舞う。


ときに力強く、ときに優しく。



まるで指揮を執るように、クリスは光で三人の舞台を彩り、終幕へと導いていく。


レックスとリーアの華麗なる舞いが。



ミアラの奏でる美しい旋律が。



クリスが導く光の操演が。


集まった観客たちを魅了していく。


クリストファー:「そうだ、それでいい」


水面に映る光景を見つめ、クリストファーは満足そうに頷いた。


クリストファー:「演者が魅せ、裏方が支え、観客が沸かす。そのすべてが、ここに揃った」


ウィリアムとソフィは、静かにその言葉に耳を傾けていた。



水面の向こうから、演奏に重なって歓声が響いてくる。


クリストファー:「今宵、集いし者たちは、運命に導かれてここに来た」


クリストファーはぐっと拳を握る。



その口元には、抑えきれない笑みが浮かんでいた。


クリストファー:「皆で完成させようじゃないか。このソードダンス・演武を」


「迫力あるな。本当に戦っているみたいだ」



「動きにキレがあるな。目が離せないよ」



「ちょっと、うるさいわよ。黙って見てなさいよ」


「美しい……」



人垣のあちらこちらから、感嘆の声が漏れる。



その中で、一人の子供がぱっと顔を輝かせた。


子供:「あ、この前のお兄ちゃん、お姉ちゃんたちだ」


母親:「ほんとだね」


母親は子供の指さす先へ目を向け、微笑んだ。


子供:「ねぇ、ケンカしてるの?」


母親:「ケンカしてるように見える?」


子供はもう一度、光の中で舞う二人を見つめる。



それから、首を横に振った。


子供:「見えない」


父親:「きっと、音楽に合わせて踊っているだけだよ」


父親も目を細め、二人の舞いを見守っていた。

                ♢

ウィリアム:「お前、わざと結界を緩めただろ」


水面から視線を外し、ウィリアムが隣のクリストファーを見やる。


クリストファー:「むっ……まあな」


クリストファーはちらりと目を向け、ばつが悪そうに笑った。


ウィリアム:「手は出さないんじゃなかったのか」


クリストファー:「これくらいは勘弁してくれよ」


ウィリアム:「お好きに」


ウィリアムは軽く肩をすくめ、再び水面へと目を戻した。

                ♢

ミアラ:「……」


観客たちの歓声が届くたび、ミアラの頬に熱がこもる。



次第に赤みを帯びていくその頬に、笑みが浮かんだ。


弓を運ぶ腕にも、いっそう熱が入る。



ミアラは身体を揺らしながら、情熱のままにヴァイオリンを奏でた。



その音色が、公園いっぱいに響き渡る。


レックスとリーアは刃を合わせ、その向こうで互いの顔を見つめていた。


レックス:『俺は君に会いたかったのかな』


刃が離れ、二人は身を翻す。



再び向き合ったとき、リーアの瞳がレックスを捉えた。


リーア:『あたしの探していたのは、あんただったのかな』


旋律に乗って踏み込み、互いの刃を重ねていく。


レックス:『君となら、俺は……』


リーア:『あんたとなら、あたしは……』


ミアラの奏でる音色は、二人の想いを絡み合わせ、優しく運んでいく。


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