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カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第6幕 カーテンコール

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シーン1:心の中の交流

レックス:『なんだ?』


リーア:『なにっ?』


荒かった呼吸が、いつの間にか落ち着いていた。



重かった手足も、思うままに動く。


相手の動きが、よく見える。



迫る刃の軌道も、それを受ける自分の刃の位置も、はっきりとわかった。


急激な変化に戸惑いながらも、二人は刃を打ち合わせ続ける。


その耳に、かすかなヴァイオリンの音色が届いていた。



刃の響きの合間を縫うように、細く、長く尾を引いていく。


リーア:『……なんて悲しい音色……でも……やさしい』


レックス:『……ああ……これはいいな……気分が落ち着くよ』


レックスが踏み込み、剣を振るう。



リーアは身をひねって受け流し、その動きのまま短剣を繰り出した。


音色に誘われるように、足が運ばれる。



刃をかわし、打ち合わせ、また離れる。


二人の動きから荒々しさが薄れ、途切れがちだった攻防が、再び流れるようにつながっていく。


クリス:「戦況が変わりましたね」


クリスは、眼下で刃を交える二人を見つめていた。


ワードック:「うむ……これがあの子の力か」


その視線が、二人の傍らに立つミアラへ移る。


ミアラは顎にヴァイオリンを挟み、ゆったりと弓を引いていた。



レックスが踏み込めば、身体を傾け、リーアが身をひるがえせば、ふわりと揺れる。


まるで、自分も二人に合わせて戦っているかのようであった。


ソフィ:「……なにが起こっているの」

ソフィは目を離せないまま、ぽつりと漏らした。


クリストファー:「同調だよ」


ソフィ:「同調?」


聞き返すソフィの隣で、クリストファーは二人の攻防に目を向けている。


クリストファー:「音を通して、二人の心に入り込んだんだ。彼女は」



レックス:『……やっぱり、ミアラさんか……』


リーアと刃を交えながら、レックスは傍らへ目を向けた。



そこには、軽やかに足を運びながら、ヴァイオリンを奏でるミアラの姿があった。


ミアラ:『二人とも、ずるいんだ』


ミアラは閉じていた目をぱっちりと開き、にこりと笑う。


ミアラ:『自分たちだけ楽しんで』


レックス:『悪かったよ……でも……助かった』


レックスが長剣を振り下ろす。



リーアの短剣がそれを受け、澄んだ音が響いた。


レックス:『この石頭のじゃじゃ馬を、おとなしくしてもらえてね』


リーア:『誰が石頭のじゃじゃ馬よ』


受け止めた長剣を押し流し、リーアがもう一方の短剣を繰り出す。



レックスは身をひねり、その切っ先をかわした。


レックス:『君のことだよ』


ミアラ:『まあ、まあ』


二人の間を取り持つように、弓が弦を滑る。


ミアラは再び目を閉じた。



身体をゆらりと揺らすと、それまで物悲しく響いていた旋律に、弾むような調子が加わっていく。


ミアラ:『二人だけで楽しんでいないで、わたしも楽しませてよ』


レックス:『おう』


リーア:『いいわよ』


音色に合わせ、二人が踏み込む。


振り上げた長剣に、二本の短剣が絡むように舞う。



刃の響きが、ミアラの奏でる旋律に重なった。


         ♢


ワードック:「うむ。うまくいったようじゃな」


ワードックは目を細め、髭を撫でた。


クリス:「ほんとですか?」


クリスがぱっと顔を輝かせ、ワードックを振り返る。


ワードック:「あやつらの心もほぐれたようじゃ。あとは演奏が終われば、戦いも終わろう」


クリスはほっと胸を撫でおろした。

安堵の表情で、再び三人へ目を向ける。


クリス:「……あれ?」


その眉が、わずかに寄った。


ミアラは二人に合わせて身体を揺らし、楽しげに弓を引いている。



演奏を終える気配は、まるでなかった。


クリス:「ミアラさんのあの様子じゃ……終わりませんよ」


ワードック:「そうじゃな……」


ワードックは額に手を当て、うなだれた。


         ♢


クリストファー:「駄目だな。これじゃ、終わりがねぇ」


ソフィ:「なんでよ」


ソフィは眉をひそめ、クリストファーを見上げた。


クリストファー:「あのおチビちゃん、同調しすぎて、自分もレックスたちと踊っちまってる」


クリストファーは困ったように肩をすくめた。


ウィリアム:「ミイラ取りがミイラになったか」


ウィリアムが鼻で笑う。


ソフィ:「それじゃ、どうすればいいのよ」


ソフィは苛立ちを隠そうともせず、二人を見据えた。


クリストファー:「こいつを終わらせるには……何かが足りねぇんだ」


クリストファーは頭を抱える。


ソフィ:「足りない?」


ソフィが怪訝そうに聞き返した、そのときだった。


ウィリアム:「おい」


ウィリアムが、水の壁の一角を指さした。



そこには、公園の入口が映し出されている。


ウィリアム:「公園に人が入ってくるぞ」


クリストファーは顔を上げた。


数人の人影が、入口を通って公園へ足を踏み入れていた。


ウィリアム:「結界を張ったんじゃなかったのか」


ウィリアムは目を細め、クリストファーへ視線を移す。


クリストファー:「……呼んだんだ。おチビちゃんが……俺の結界を超えて」


人影を追っていたクリストファーの目が輝いた。



やがて、その口元に笑みが広がる。


クリストファー:「これですべて揃った。あとは終わらせるだけだ」


ソフィ:「ほんと? これで終わらせられるのね?」


ソフィは念を押すように、その顔を覗き込んだ。


クリストファー:「ああ」


力強く頷き、クリストファーはミアラへ目を向ける。


クリストファー:「フィナーレは任せたよ。おチビちゃん」


             ♢


マイケル:「おい、君たち!」


振り返ると、木陰から新兵服を着た若者が姿を現した。



こちらへまっすぐ歩いてくる。


クリス:「えっ、えっと……」


突然の呼びかけに、クリスは狼狽えた。


マイケル:「何をしてるんだ?」


クリスたちの前で足を止めたマイケルは、返事を待つ間もなく、その向こうへ目を向けた。


マイケル:「……レックス?」


眼下では、レックスと黒い服をまとった少女が刃を交えている。



その傍らでは、ミアラがヴァイオリンを奏でていた。


マイケルは目を瞬かせ、三人の姿を見比べる。


ピート:「大佐!こっちの方から聞こえます」


続いて木々の間から現れたピートが、後ろを振り返って声を張り上げた。



そのまま、クリスたちのもとへ駆け寄ってくる。


ピート:「どうした?」


ピートは、呆然と立ち尽くすマイケルの隣に並んだ。


マイケル:「見てみろよ。なんか、すげぇぞ」


マイケルはレックスたちから目を離さず、興奮気味に指をさす。


ピート:「えっ?」


その先へ顔を向けたピートも、目を丸くした。


ピート:「ほんとだ。やっぱレックス、すげぇ」


マイケル:「いや、相手の子もなかなかやるぞ」


二人はすっかり戦いに見入り、刃が交わるたびに歓声を上げた。


クリス:「……むっ」


クリスは眉をひそめ、ミアラへ視線を向ける。


ヴァイオリンを奏でるその横顔が、熱を帯び、ほんのりと赤くなっていた。


クリス:(ミアラさんの魔力が……上がっている?)


クリスは、歓声を上げるマイケルとピートを振り返った。



それから、確かめるようにもう一度ミアラを見る。


クリス:「もしかして……」


クイン:「殿下じゃないですか」


その声に、クリスは振り向いた。



木々の間から、クインが息を切らせて近づいてくる。


クリス:「クイン大佐」


クイン:「こんなところで、何をしてるんですか」


クリスの目つきが変わった。



歩み寄ってきたクインの腕を取り、まっすぐにその顔を見上げる。


クリス:「それよりも、ここに人を集めてください」


クイン:「えっ?」


突然の頼みに、クインは戸惑った。



クリスの顔を見つめ、言葉の続きを待つ。


ワードック:「どうしたのじゃ」


傍らから声をかけられ、クリスはワードックへ顔を向けた。



その表情には、確信が浮かんでいる。


クリス:「分かったんですよ。この戦いの終わらせ方が」


ワードック:「ほぉ」


ワードックの目が細められる。


ワードック:「して、どうするのじゃ」


クリスはにこりと笑った。


クリス:「観客を呼ぶんです」



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