↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第5幕 魂の激突

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/27

シーン4:奇跡の始まり

リーアは両膝に手をつき、肩を大きく上下させながら、荒い息を整えていた。



リーア:「……少し、力を使いすぎたか……」



顔を上げ、地面に仰向けに倒れたレックスへ目を向ける。



今度は、レックスが動かない。



それでも、リーアは警戒を解かず、その姿をじっと見据えていた。



しばらくして――。



リーア:「……ふっ」



口元に、かすかな笑みが浮かぶ。



リーア:「いつまで、そこで寝ているつもりだ」



その声に応えるように、レックスがぱちりと目を開けた。



寝転がったまま両足をぐっと伸ばし、一息つく。



レックス:「よいっしょ」



掛け声とともに勢いよく上体を起こし、そのまま立ち上がる。



レックス:「ああ。すっきりした」



大きく伸びをしながら振り向き、リーアの顔を見て苦笑した。



レックス:「君はまだ、すっきりしてないようだけど」



リーア:「当たり前だろ。自分ばかりすっきりしやがって」



リーアは少し拗ねたように視線を外す。



レックス:「そりゃ悪かったね」



リーア:「いいさ。続きですっきりさせてもらうよ」



再びレックスへ目を向け、二本の短剣を構えた。



レックスは長剣を下げたまま、彼女を見据える。



レックス:「まだ自分の道を行くつもりかい」



リーア:「……」



リーアは唇を引き結んだ。



その瞳がわずかに潤む。



レックス:「迷いが出たね」



リーア:「うるさいっ」



リーアは地を蹴り、レックスに斬りかかる。



レックス:「おっと」



レックスは素早く後ろに下がり距離を取る。



レックス:「分からず屋が」



リーア:「負けたくないだけさ」



その口元に笑みが戻る。



リーア:「根っからの負けず嫌いなんでね」



レックス:「俺もだよ」



レックスは一度足元へ目を落とし、地面を踏みしめた。



そして顔を上げ、鋭い視線をリーアに向ける。



レックス:「ここで君を確保する」



ゆっくりと長剣を掲げる。



レックス:「もう、君の望むものは渡さない」



リーア:「……ふっ」



リーアは笑みを深くした。



短剣を握り直し、腰を低く落とす。



リーア:「ならば奪い取るまで」



地を蹴り、真っすぐレックスへ突進した。

                ♢

激しく波立つ水の壁を前に、ウィリアムはつまらなさそうに鼻を鳴らした。



ウィリアム:「なんだ。拍子抜けだな」



クリストファーは視線を前に向けたまま、口を尖らせる。



クリストファー:「何が不満なんだよ」



ウィリアム:「お前の弟も、エルーデのお嬢さんも、今ので決め手を失った。泥沼の戦いになるぞ」



そう言って、ウィリアムは深く息を吐いた。



ソフィ:「……それ、どういう意味なの?」



二人の顔を交互に見ながら、ソフィが眉をひそめる。



クリストファー:「このままじゃ、どっちも力尽きるまで剣を交え続けるってことさ」



クリストファーは苦々しく言い放つ。



クリストファー:「行き着く先は、共倒れだ」



ソフィ:「共倒れって……嘘でしょ?」



ソフィの顔から、すっと血の気が引いていく。



水の壁へ目を向け、すぐさまクリストファーへ向き直った。



ソフィ:「ねえ、あなたなら止められるんでしょ!?」



身を乗り出し、縋るようにその顔を見上げる。



クリストファー:「いまさら俺が割って入ったところで、結末は変わらないさ」



クリストファーは口元を歪め、肩をすくめた。



ウィリアム:「相変わらず、容赦というものを知らんな、お前は」



クリストファー:「しゃーねぇだろ。そういう戦い方しか教わってねぇんだから」



ソフィ:「そんな……」



ソフィはうつむいた。



何か言おうと開きかけた唇から、かすかな息だけが漏れる。



クリストファー:「心配しなさんな」



その声に、ソフィはのろのろと顔を上げた。



クリストファーは水の壁を眺めている。



口元には、いつの間にか笑みが浮かんでいた。



クリストファー:「そんな幕引きには、なりそうもないぜ」



ソフィ:「えっ……?」



クリストファーが、水の壁の端を指差す。



そこに、一人の小人族の姿があった。



ミアラだ。



ヴァイオリンを胸にしっかりと抱え、剣を交える二人のもとへ懸命に駆け寄っている。



ソフィ:「あの小人族が……どうしたというの?」



クリストファー:「この公園には、他の者が入り込まないように結界を張っておいたんだ」



ソフィは眉を寄せ、クリストファーを見た。



彼はミアラを目で追ったまま、言葉を続ける。



クリストファー:「俺が張った、普通じゃ入れない結界だ。それを、おチビちゃんは通り抜けてきた」



ソフィ:「それって……まさか……」



ソフィは再び、水の壁へ目を向けた。



クリストファー:「運命が彼女を呼んだのさ」



小さな姿が、迷うことなく二人へ近づいていく。



クリストファー:「奇跡を起すために」

              ♢

リーア:「はあああっ!」


リーアが左右の短剣を立て続けに繰り出す。


レックスは長剣でその刃を受け流しながら、反撃の隙をうかがっていた。


だが、剣を返そうとするたび、次の刃が迫ってくる。受けに回るばかりで、斬り込めない。


攻め続けるリーアもまた、決め手を欠いていた。


幾度短剣を振るっても、その切っ先は長剣に阻まれ、逸らされる。


クリス:「……この戦いは、いつまで続くんでしょうか」


ぽつりと漏らしたクリスの手は、固く握り締められていた。


ワードック:「一度火のついた魂の激突は、そう簡単には静まらん」


ワードックはわずかに視線を落とす。


ワードック:「もう、自分たちの意志だけでは、どうすることもできんのじゃ」


クリス:「……」


クリスは唇を噛み締め、再び二人を見つめた。


互いに肩で息をしながら、それでも刃を打ち合わせている。


先ほどまでの、目を奪われるような優雅さは、もうなかった。


刃を受けるレックスの足がよろめく。追いすがるリーアもまた、踏み込んだ先で体勢を崩しかけた。


クリスは一歩、足を踏み出した。


ワードック:「どこへ行くのじゃ」


行く手に腕を差し出され、クリスは振り返る。


クリス:「あの二人は、もう限界です。誰かが止めないと……」


それだけ告げると、クリスは前へ向き直り、歩き出した。


ワードック:「待て」


クリスは足を止めた。


振り返らず、拳を握り締めたまま立ち尽くす。


ワードック:「わしも行こう」


その声に、クリスは振り返った。


クリス:「ワードックさん……」


ワードック:「うむ」


ワードックは力強く頷いた。


そのとき――。


クリス:「……ん?」


刃のぶつかり合う音に交じって、柔らかなヴァイオリンの音色が聞こえてきた。


クリスは眉を寄せ、辺りを見回す。


やがて、その視線が二人のすぐ傍で止まった。


ミアラがいる。


ヴァイオリンを肩に当て、剣を交える二人に向かって、静かに弓を滑らせていた。


ワードック:「どうしたのじゃ?」


クリス:「あそこで、ミアラさんがヴァイオリンを弾いてますよ」


クリスが指差すと、ワードックもそちらへ目を向ける。


ワードック:「ふむ……そうじゃな」


怪訝そうに目を細めるワードックの隣で、クリスは耳を澄ませた。


柔らかな旋律が、途切れることなく流れてくる。


クリス:「この音色……魔力が込められています」


クリスの目が輝いた。


ワードック:「ほぉ、面白い」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。