↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第5幕 魂の激突

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/27

シーン3:魂の激突

クリスは下唇を痛いほど噛み締め、戦いの行方を凝視していた。



握りしめた拳には、爪が掌に食い込むほどの力がこもっている。



クリス:(……僕には、何もできないのか)



目の前で、繰り出される刃が流れるように重なり合い、一瞬ののちに離れていく。



そのたびに二人は地面を蹴り、身を翻して宙を舞う。



止めなければならない。



そう思っているはずなのに、二人の姿から目を離せない。



握りしめていた拳は、いつの間にかほどけていた。



そのことにクリスは気づいていなかった。



ミアラ:「……なんで」



隣で、ぽつりと声が落ちる。



クリスははっと我に返り、ミアラへ顔を向けた。



ミアラ:「なんで、あんなに楽しそうなの」



ミアラは目を見開いたまま、戦いを見つめている。



ミアラ:「戦っているのに。あんなに傷つけ合っているのに……」



言葉の途中で唇を噛む。



ミアラは顔を伏せ、小さく首を振る。



ミアラ:(わたしには分からない……でも)



伏せた視線が、また二人のもとへ戻っていく。



ワードック:「普段は抑えておる力を、互いに思う存分ぶつけ合っておるのじゃ」



ワードックは目を細め、ゆっくりと髭をさすった。



クリスとミアラが、その横顔を見つめる。



ワードック:「楽しいに決まっておる」



二人を横目に見やり、ワードックは口元に笑みを浮かべた。



クリス:「魂の激突ですか」



呟くように言って、クリスは再び戦いへ目を向ける。



クリストファー:「二人とも、やめたくねぇんだろうな。この戦いを」



クリストファーは戦いを見つめたまま、ぽつりと呟いた。



刃がぶつかり合う。



その響きが消えるより早く、二人は次の一撃を繰り出していた。



クリストファー:「この時をずっと楽しみてぇんだよ」



ソフィ:「……リーア様」



ソフィは胸の前で拳をぎゅっと握った。



その目は、戦い続けるリーアの姿に向けられていた。



ミアラ:「……そうだッ!」



突然声を上げると、ミアラは背負っていたリュックを肩から外し、地面へ

投げ出すように下ろした。



その場に膝をつき、口を開くなり、中の荷物を次々と引っ張り出していく。



クリス:「み、ミアラさん!? どうしたんですか!」



呼びかけにも顔を上げない。



ミアラは荒い息を吐きながら、なりふり構わずリュックの奥へ手を突っ込んだ。



クリス:「……っ」



何かを言いかけたものの、その必死な横顔に口をつぐんだ。



ワードック:「いかん……!」



鋭い声が響いた。

クリスは弾かれたように戦いへ目を戻す。



クリス:「レックスさん……?」



二人の刃には、先ほどまでの勢いがない。

地面を蹴る足も重く、互いの攻撃をかわす動きに余裕がなくなっていた。



とりわけ、レックスの変化は著しかった。

剣を振り抜くたびに身体が流れ、構え直すまでに一瞬の間が空く。



ワードック:「そろそろ限界のようじゃ……」



ワードックは眉をひそめ、低く唸った。



                 ♢

激しく交錯していた刃が離れ、二人は大きく間合いを取った。



レックス:「……っ」



レックスは顔を伏せながら、リーアに長剣を向けていた。



喉の奥で荒い息が鳴る。



顎から滴る汗が地面に落ち、目の前の景色がわずかに揺らいだ。



リーア:「……どうした!」



リーアも激しく肩を上下させながら、声を張り上げる。



リーア:「もうおしまいか?」



鋭い視線を向けても、レックスは顔を伏せたまま答えない。



二人の間に、荒い息遣いだけが続いた。



レックス:「……れろ」



うつむいた口元から、呻くような声が漏れる。



リーア:「……むっ」



そのかすかな声に、リーアははっと意識を引き戻された。

一瞬、意識が途切れていたらしい。



レックス:「……はな……れるんだ」



剣の柄に身体を預けたまま、レックスは途切れ途切れに言葉を絞り出す。



レックス:「……きみ……なら……にげられる」



リーア:「あんた、意識がもう……」



リーアは上体を起こし、レックスを見据えた。



リーア:「……」



レックスは顔を伏せたまま、動かない。



攻めるなら、今かもしれない。



だが、踏み出そうとした足が震えていた。



短剣を握る手にも、かすかな震えが伝わっている。



リーア:(……震え? このあたしが……怯えているのか)



リーアは瞼を閉じた。



乱れた息を、ゆっくりと整えていく。



リーア:(このまま逃げるか)



そんな考えが、ふと頭をよぎった。



まだ手足の震えを感じる。



望んでいたものが、今ここにあるのに。



リーア:(……あたしは死にたくないのか)



だが――。



ここで逃げたら、自分の望みは叶わない。



リーア:「やだね」



瞼を開き、二本の短剣を構える。



リーアは地面を蹴り、レックスへ突進した。



クリス:「駄目です! リーアさん!」



クリスは思わず叫んでいた。



だが、その声は届かない。



リーアはレックスへと肉薄し、短剣を振りかぶった。



リーア:「そりゃあ……がっ」



気勢が、くぐもった呻きに変わる。



レックスが無造作に突き出した右手が、リーアの顔を鷲掴みにしていた。



レックス:「……」



顔を伏せたまま、レックスは片腕でその身体を持ち上げる。



リーアの両足が宙に浮いた。



次の瞬間、その身体を力任せに地面へ叩きつけた。



リーア:「ぐわああっ!」



鈍い衝撃音とともに土埃が噴き上がる。



リーアの身体は一度跳ね、うつ伏せに転がった。



レックスは間を置かず、その背中へ足を振り下ろす。



リーア:「がああっ!」



悲鳴が辺りに響き渡った。



だが、レックスはやめない。



足を上げ、再び踏みつける。



一度、また一度と、その背中に容赦なく足を叩き込んでいく。



ソフィ:「……っ」



ソフィは顔を歪め、目を背けた。



それでも、リーアの悲鳴は耳に届く。



クリストファー:「おいおい、一体何をしてるんだよ……」



水面に映し出される惨状を目にして、クリストファーは頭を抱え込んだ。



ウィリアム:「死なさないんじゃなかったのかい?」



傍らのウィリアムが、問いかけるように視線を送る。



クリストファー:「ようやく見つけ出した運命の相手なんだろ。しっかりしてくれよ、レックス」



映し出されたレックスの姿を凝視しながら、苦々しく漏らした。



踏みつけられるたびに上がっていたリーアの悲鳴は、次第に弱々しくなっていく。



やがて、声は聞こえなくなった。



レックス:「……」



レックスは濁った瞳で、倒れたリーアを見下ろしていた。



リーアはうつ伏せになったまま、ぴくりとも動かない。



クリス:「……そんな」



クリスは目を見開き、横たわるその姿を見つめた。



やがて、レックスはリーアに背を向けた。



足元をふらつかせながら、その場を離れていく。



だが、数歩進んだところで、その足が止まった。



ゆっくりと振り返る。



そこには、立ち上がったリーアの姿があった。



リーア:「まだ……終わっていない」



身体は揺れている。



それでも、その鋭い眼差しはまっすぐにレックスを捉えていた。



レックス:「うぐっ」



レックスは後ずさった。



こめかみを冷たい汗が伝い落ちる。



リーア:「まだ……まだあああーっ!」



叫びとともに、リーアが踏み込んだ。



短剣を握る腕が、レックスへ向かって突き出される。



レックス:「……!」



とっさに剣をかざした。



直後、刃越しに凄まじい衝撃が襲いかかる。



踏ん張る間もなく両足が地面を離れ、レックスの身体は大きく後方へ吹き飛ばされた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。