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カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第5幕 魂の激突

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シーン2:傍観者の嘆き

レックスとリーアは縦横無尽に駆け回りながら、互いの刃を激しく打ち合わせていた。



二人が駆け抜けるたび、轟音とともに地面が砕け、巻き込まれた木々が次々となぎ倒されていく。



その後を追ってきたクリスとワードックは、遠巻きに激闘を見守ることしかできなかった。



クリス:「……駄目ですよ」



目の前で繰り広げられる凄まじい戦いに、クリスは青ざめた顔で呟いた。



ワードック:「何がじゃ?」



ワードックが怪訝そうに眉を上げる。



クリス:「早く止めないと。このままでは、二人とも死んでしまいます」



クリスは助けを求めるように、ワードックへ縋りついた。



ワードック:「……うむ」



ワードックは低く唸り、わずかに顔を伏せる。



ワードック:「確かに、力の拮抗した者同士じゃ。下手をすれば、相打ちになりかねん」



クリス:「そうでしょう。だったら――」



ボガン。



また轟音が鳴り響き、土煙が舞い上がった。



ワードック:「じゃが、あれをどうやって止める?」



荒れ狂う二人の戦いへ目を向けたまま、ワードックはちらりとクリスの顔を窺った。



クリス:「うっ……それは……」



クリスは言葉に困り、動きを止める。



ワードック:「わしとお前さんが割って入ったところで、どうにかなる戦いではないぞ」



鋭い視線を向けられ、クリスは怯んだ。



クリス:「……だけど」



それでも諦めきれず、クリスは拳を固く握り締める。



ワードック:「それに、まだ二人が死ぬと決まったわけではあるまい」



クリス:「……そうでしょうか」



ワードック:「結論を急ぐな。最後まで見届けるんじゃ」



クリス:「……はい」



ワードックは再び、レックスとリーアへ目を向けた。



ワードック:「この戦いは、お前さんにとっても転機になるやもしれん。目を逸らさず、よく見ておけ」



クリス:「……」



クリスはしばらくワードックの横顔を見つめていたが、やがて二人の戦いへ目を戻した。



そのとき――。



ミアラ:「ちょっと、何なのよ、これー!」



突然すぐ隣から聞こえた声に、クリスは驚いて振り向いた。



いつの間に来たのか、大きなリュックを背負ったミアラが、クリスとワードックの隣に立っている。



その目は、激しくぶつかり合うレックスとリーアへ釘付けになっていた。



クリス:「き、君は……」



ミアラ:「『き、君は』じゃないよ。一体どうなってるの?」



ミアラは勢いよく二人を指差した。



ミアラ:「あそこで戦っているの、レックス君とあの子じゃない!」



クリス:「ええ、まあ……その通りですが……」



その迫力に圧倒され、クリスは思わず後ずさっていた。



ワードック:「まあ、落ち着くのじゃ」



たじろぐクリスを庇うように、ワードックが一歩前へ出る。



ワードック:「おぬしは何をしに、ここまで来たのじゃ?」



ミアラ:「何って……急いでいた軍人さんに、レックス君が大変だって聞かされて来たんだけど……」



ワードック:「ほう」



ワードックは探るように、ミアラの姿をじっと見つめた。



ワードック:「おぬし、冒険者じゃな?」



ミアラ:「そうですけど……」



値踏みするような視線に居心地の悪さを覚えたのか、ミアラは顔を伏せながら一歩下がった。



クリス:「彼女が何か?」



ワードック:「おそらくじゃが、その軍人は、おぬしの内に何かを感じ取ったから、ここへ寄越したのじゃろうな」



ミアラ:「何かって……」



バキッ――。



続けざまに、バキ、バキバキッ、と木々のへし折れる音が鳴り響く。



三人は揃って、戦いへ目を戻した。



ミアラ:「確かに、あの軍人さん……わたしなら何とかできるかもしれないって言ってたけど……」



次々と倒れていく木々を眺めながら、ミアラは呆然と呟いた。



やがて、その表情がみるみる険しくなっていく。



ミアラ:「こんな怪獣大決戦、わたしに何とかできるわけないじゃない!」



とうとう堪えきれなくなり、ミアラは烈火のごとく怒鳴り声を上げた。



ミアラ:「明らかに、あの人の人選ミスよ! あなたたちもそう思うでしょ?」



クリス:「は、はあ……そうですね」



詰め寄ってくるミアラをなだめるように、クリスは額に汗を浮かべながら両手を振った。

               ♢



木々をかき分けて飛び出したレックスの前に、広場が開けた。



その瞬間、視界の端を黒い斬撃が走る。



レックス:「……っ!」



とっさに足を止め、身を低く沈めた。



頭上すれすれを斬撃が掠めていく。



レックス:「あぶねぇ……」



レックスは額の冷や汗を拭い、ゆっくりと身を起こした。



振り返ると、木々の間からリーアが姿を現す。



両手に短剣を下げたまま、悠然とこちらへ歩いてきた。



レックス:「森林破壊するなよ」



リーア:「ちょこまかと逃げ回るあんたが悪いんじゃない」



リーアはレックスを見据えたまま、親指で背後を示した。



その向こうでは、無数の大木がなぎ倒されていた。



地面は至るところで深くえぐれ、さっきまで木々に覆われていた一帯が、ぽっかりと大穴を開けている。



レックスはその惨状に、わずかに顔をしかめた。



リーア:「それとも、ここに誘い込んだのかい?」



足を止めたリーアが、広場をぐるりと見渡す。



レックス:「まあ、そんなところだ」



レックスは何食わぬ顔で剣を構え直した。



リーア:「うそつけ」



言い終えるや否や、二人は同時に地を蹴った。



再び、夜の公園に刃の打ち合う音が響き渡る。



              ♢

ウィリアム:「本当に手を出さなくていいのか?」



水の壁に映し出される激闘を見つめながら、ウィリアムが尋ねた。



クリストファー:「野暮はやらねぇよ」



クリストファーは腕を組んだまま答える。



ウィリアム:「ふーん」



その斜め後ろから、ウィリアムは横顔を窺った。



口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。



ウィリアム:「さいですか」



ウィリアムは肩をすくめ、ソフィへ目を移した。



ウィリアム:「君は、止めに行きたいんだろ?」



ソフィ:「えっ?」



不意に話を振られ、ソフィは戸惑ったように顔を上げる。



ソフィ:「行きたくても、これじゃあね」



身体を軽く揺すってみせる。



だが、幾重にも絡みついた蔦はびくともしなかった。



クリストファー:「そいつを解いたら、行くかい?」



前を向いたまま、クリストファーが問いかけた。



ソフィ:「……行かないわ」



少しの間を置いて、ソフィは静かに答える。



ソフィ:「この戦いは、リーア様が望まれた戦いよ」



水の壁の中で刃を振るうリーアを、じっと見つめる。



ウィリアム:「彼女、死ぬぞ」



ソフィ:「……」



ソフィは唇を引き結び、顔を伏せた。



ソフィ:「……それこそが、リーア様の望まれたこと」



ぽつりと落ちた言葉に、クリストファーの口元から笑みが消える。



クリストファー:「死なせやしねぇさ」



ソフィが顔を上げると、クリストファーがこちらを振り向いていた。



クリストファー:「そのために、レックスは戦っている」


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