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カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第5幕 魂の激突

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シーン1:剣の語らい

二人の大柄な男に挟まれ、仮面をつけた暗殺者が公園を一望できる高台を登ってきた。


その身体は木の蔓で幾重にも縛られ、半ば引きずられるようにして歩かされている。


クリストファー:「さあ、着いたぞ」


高台まで登りきると、クリストファーは両腕を上げ、大きく背筋を伸ばした。


そのまま辺りをぐるりと見渡す。


眼下には、木々に覆われた公園が広がっていた。


ソフィ:「……こんなところまで連れてきて、何をするつもりだ」


身動きを封じられながらも、ソフィの声に怯えはなかった。


ウィリアム:「落ち着けよ。何もしないさ」


蔓の先を握ったウィリアムが、ソフィの背後で口角を上げる。


ソフィは首だけを巡らせ、背後の男を見た。


ソフィ:(こいつら……何者だ?)


リーアを迎えるため、公園の森に潜んでいた。


この二人が近づいてくる気配など、まるで感じなかった。背後に立たれたと気づいたときには、すでに身体を蔓で封じられていたのだ。


ウィリアム:「エルーデのお嬢さんの戦いを見たいだろ?」


ソフィ:「なにっ……」


仮面の奥で、ソフィの目が見開かれる。


リーアのことまで知っている。


背筋を冷たいものが這い上がり、ソフィの身体が強張った。


ウィリアム:「ここは特等席だよ」


ウィリアムは、崖際に立つクリストファーを指さした。


ソフィもつられて、そちらへ顔を向ける。


クリストファー:《水よ。遠方を映せ》


クリストファーが眼下へ片手をかざし、呪文を唱える。


すると、何もなかった空中に水が湧き上がり、波打ちながら薄く広がっていった。


やがてそれは、宙に浮かぶ一枚の水の壁となった。


その表面が大きく波打ち、ぼんやりと景色が浮かび上がる。


ソフィ:「リーア様……」


映し出されたのは、二本の短剣を手に、新兵服の男と激しく剣を打ち合うリーアの姿だった。


クリストファー:「ありゃ、俺の弟のレックスだ」


クリストファーは腕を組んだまま水の壁を覗き込み、ソフィのそばへ歩み寄った。



             ♢

レックス:「そりゃあっ!」



レックスは一息に間合いを詰め、渾身の力で長剣を振り下ろした。



レックス:『君は、なぜ死の道を行こうとする』



リーアが身を翻し、上空へ逃れる。



直後、長剣が地面を叩いた。



凄まじい衝撃に大地が砕け、土砂が激しく噴き上がる。



リーア:『あたしの行く道は、それしかないからさ』



高く舞い上がったリーアは空中で身を捻り、眼下へ目を向けた。



リーア:「――!」



しかし、砕けた地面にレックスの姿はなかった。



背後で、風が鳴る。



リーアは空中で体勢を立て直し、弾かれたように振り返った。



いつの間に追いついたのか、レックスがさらに高い位置まで跳び上がっている。



その両手には、頭上へ振りかぶられた長剣。



レックス:『そんなことはない!』



長剣が唸りを上げて振り下ろされる。



リーアは二本の短剣を交差させ、その一撃を受け止めた。



刃と刃がぶつかり、火花が弾ける。



レックス:『道はまだある!』



レックスの力が、短剣ごとリーアを押し込んだ。



リーアの身体が地上へ向かって弾き飛ばされる。



ズガアアン――!



地面が大きく陥没し、辺り一面に砂煙が巻き上がった。



遅れて降下してきたレックスが、その手前に着地する。



レックス:「俺は、その道を行く」



リーア:「ならば――」



砂煙の中から、リーアが飛び出した。



リーア:『見せてもらおうじゃないか』



鋭い突きが、レックスの胸元へ迫る。





レックスは長剣で弾きながら後退するが、リーアの攻撃は止まらない。



右から、左から、息つく間もなく二本の短剣が繰り出される。



リーア:『その道とやらを』



レックスは迫る刃を次々と捌いていく。



だが、そのすべてを防ぎきることはできない。



短剣の切っ先が服を裂き、腕を、肩を、脇腹を浅く切りつけていく。



後退を続けていたレックスの背後に、大木が迫った。



レックスは寸前で幹の裏へ回り込む。



リーア:『そんな道があるならね!』



リーアが短剣を横薙ぎに振り抜いた。



放たれた斬撃が大木の幹を走り、深々と切れ目を刻む。



リーアは後方へ跳んで距離を取ると、そのまま幹へ鋭い蹴りを叩き込んだ。



大木が軋みを上げて傾き、レックスめがけて倒れかかる。



倒れかかる大木を追うように、リーアも地面を蹴った。



レックス:『いいだろう。見せてやるよ!』



レックスは逃げなかった。



その場で足を踏ん張り、落ちてきた太い幹を肩で受け止める。



地面を踏みしめた両足が、土の中へ深く沈んだ。



レックス:「おおおおっ!」



雄叫びとともに身体を捻り、迫ってくるリーアへ大木を投げ返す。



リーアは横へ跳び、唸りを上げて飛んでくる大木をかわした。



地面へ降り立つと同時に、そのままレックスへ向かって駆け出す。



レックスも長剣を構え、一歩踏み込んだ。



再び長剣と二本の短剣が激突し、夜の公園に甲高い剣戟の音が響き渡った。



                 ♢


クリストファー:「君はもちろん、リーアって子に賭けるんだよな?」


ソフィ:「か、賭ける……?」


思いがけない言葉に、ソフィの声が引き攣った。


クリストファー:「ウィリアムは、どっちに賭けるんだ?」


クリストファーは背後を振り返り、にこやかに問いかける。


ウィリアム:「ボクは結果の分かっている勝負には賭けないんだ。だから、どちらにも賭ける気はないよ」


クリストファー:「つまらんやつだな。アーポットとエルーデの対決だぞ」


クリストファーは不満そうに顔をしかめた。


ソフィ:「アーポット……」


ソフィは、小声でその名を呟く。


ウィリアム:「代わりに、その勝負を少し面白くしてあげるよ」


クリストファー:「おっ、いいねえ。やってくれ」


クリストファーの目が期待に輝く。


ウィリアム:「もしお前の弟が負けたら、彼が割った窓ガラスの代金は、お前に払ってもらう」


クリストファー:「なんだ、そりゃ」


クリストファーは振り返り、露骨に顔をしかめた。


ウィリアム:「まさか、弟が負けるとでも思っているのかい?」


クリストファー:「……それもそうだな」


ウィリアム:「ちなみに、うちの窓ガラスは特別製でね。あれ一枚で、屋敷

一つ買えるから」


クリストファーの笑顔が固まった。


次の瞬間、水の壁へ勢いよく向き直る。


クリストファー:「頑張れ、レックス! 絶対に負けるな!」


クリストファーは水の壁の前で両手を振り、必死に弟を応援し始めた。


ソフィ:「……ほんと、なんなのかしら、こいつら」


ソフィは呆れたように呟いた。



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