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カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第4幕 戦いの始まりと傍観者たち

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シーン2:滅びた王国の真実

木の幹に叩きつけられたリーアは、何事もなかったかのように立ち上がった。



服についた土埃を手で払い、軽く身体をほぐす。



リーア:「ふん」



鼻を鳴らすと、レックスとクインをまっすぐに見据えた。



レックスはそんなリーアを警戒しながら、クインを庇うように前へ出る。



クイン:「大丈夫なのか」



クインの視線が、レックスの脇腹へ向けられた。



新兵服はあちこちを斬り裂かれ、その下から滲み出した血が布を赤く染めている。



レックス:「ええ。身体だけは頑丈にできてますからね。これくらいなら」



レックスは傷口へちらりと目を落としただけで、何でもないことのように答えた。



クイン:「……すまん。彼女の力を見誤っていた」



クインは悔いるように顔を伏せた。



レックス:「それより、さっきの話ですけど」



レックスは神妙な面持ちで切り出した。



レックス:「俺にはなんだかさっぱりで」



そう言って、肩をすくめる。



クイン:「……そうだな」



クインは小さく息を吐いた。



クイン:「バルサム卿が、何のためにこの国を訪れたと思う?」



レックス:「さあ?」



間髪入れずに返された答えに、クインは眉尻を下げた。



クイン:「少しは考えろ」



レックス:「考えて分かることなら聞きませんよ」



クイン:「……エルーデを殲滅するための部隊を、ロールブレアに要請しに来たんだ」



レックス:「えっ」



レックスは眉を跳ね上げる。



クイン:「ヴィクターが倒れれば、エルーデの残党は守りの要を失う」



レックス:「なるほど。それに乗じようってわけですね」



クイン:「そうだ。反乱を起こした貴族たちにとっては、エルーデを根絶やしにする絶好の機会だからな。考えれば分かるだろ」



レックスは顎に手を置いて視線を伏せる。



レックス:「それじゃ、先に仕掛けたのはヴィクターじゃないんですか」



クイン:「……それについては、私の口からは何も言えん」



クインはどこか苦々しく答えた。



レックスとクインは、揃ってリーアの方へ目を向けた。



いつの間にか、リーアは木の根元に腰を下ろしていた。



膝を立て、その上に頬杖をつきながら、二人のやり取りを愉快そうに眺めている。



その顔には、すべてを知っているかのような笑みが浮かんでいた。



レックス:「なんで、彼女たちが追い詰められなきゃいけないんですかね」



レックスはリーアを見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。



クインは目を閉じ、ひとつ息を吐く。



クイン:「……陛下は、エルーデの残党に対して部隊を派遣することを決めた」



レックス:「えっ、そんな……」



レックスは目を見開き、クインの顔を見た。



レックス:「まさか、本気でエルーデを根絶やしにするつもりなんですか」



悲しげに眉を下げ、その声をわずかに震わせる。



リーア:「……」



「根絶やし」という言葉に、リーアの耳がぴくりと動いた。



それまで浮かんでいた笑みが消え、表情がみるみる険しくなっていく。



クイン:「違う。エルーデを殲滅するためではない。解放するための部隊だ」



レックス:「解放?」



リーアがゆっくりと立ち上がる。



クインはその姿から目を離さなかった。



クイン:「聞いていたんだろう。これは我が王の意思だ」



リーアは両手を腰の後ろで組み、ゆっくりと二人へ近づいていく。



そして二人の数歩手前まで来ると、ぴたりと足を止めた。



リーア:「それは、お前たちの王の意思などではない」



クイン:「なに?」



クインは眉をひそめた。



リーア:「三十年前、己の王国を自ら滅ぼした、愚かな王の意思だ」



クイン:「なっ……」



クインは目を見開き、言葉を失った。



クイン:「エルーデマシス王が……? 信じられん」



レックス:「ど、どういうことです?」



レックスは困惑し、クインの顔を見た。



クイン:「すべては、三十年前から仕組まれていたということか」



リーアは静かに口角を上げた。



リーア:「すべてではない。王が望んだのは、エルーデ暗殺術を正しき道へ戻すことだ」



リーアは自分の手をじっと見つめる。



リーア:「そして、その裁定を民衆に委ねた」



クイン:「それが今や、エルーデの残党と貴族だけの争いでは収まらず、世界規模にまで広がったということですか」



リーアは静かに頷く。



リーア:「おかげで、このざまだよ」



リーアは自嘲気味に微笑んだ。



レックス:「エルーデ王国が滅んだのもその裁定のせいなのか」



レックスは眉を下げてリーアを見つめる。



リーア:「エルーデ暗殺術は、本来、多くの者を守るための力だ。それを王家は政に使ってしまった」



リーアはまっすぐな目をレックスに向ける。



リーア:「それが過ちだと、王は気付いていた。だから暗殺術を本来の正しき道へ戻そうとしたが、もう手遅れだったのさ」



リーアはそっと瞼を閉じた。



クイン:「民衆の目には、暗殺術はすでに恐怖の象徴としか映らなかったんだな」



レックス:「それじゃ、君たちを弾圧している連中は、暗殺術を恐れているってことか」



リーアはニヤリと笑った。



リーア:「連中は今も亡霊に取り憑かれているのさ。愚かだね」



レックス:「君も取り憑かれているけどね」



リーア:「……だから、あたしも愚か者さ」



クインが一歩前へ出る。



クイン:「あなたは、その力を正しき道に戻そうとしているのですか? 」



クインは静かに問いかけた。



リーア:「正しき道?そんなものは、どうでもいい」



リーアは視線を上げ、ふんと鼻を鳴らす。



リーア:「この力は、じいさんがあたしを守るためにくれた力さ。せいぜいありがたく使わせてもらうよ」



レックス:「自分のためだけに使うつもりかよ。仲間はどうするんだ 」



レックスはむすっとした顔でリーアを睨む。



リーア:「もちろん、仲間のためにも使うさ。だけど、それ以外に使うつもりはないね」



リーアはレックスを睨みつける。



リーア:「さて」



リーアは二本の短剣を抜いた。



リーア:「おしゃべりはここまでだ。そろそろ続きを始めようか」




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