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カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第3幕 エルーデリーア・オルディル

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シーン2:ここからお前の晴れ舞台

クリス:「君だけでもいい。君がこの国に亡命すれば、ロールブレアはエルーデの保護に動けるはずだ」



クリスは真剣な眼差しで訴えた。



リーア:「はあ? あんた、自分が何を言ってるのかわかってるのか?」



リーアは呆れたように首を傾げ、肩をすくめる。



仮面の向こうの表情までは窺えない。



だが、きっと眉をしかめているに違いない。



リーア:「ロールブレアに、何の得があるんだ」



クリス:「僕たちの損得の話じゃない。君たちが生き残れるかどうかの話だ」



リーア:「……」



クリス:「この国なら、君たちを守れる。エルーデの民が生きていける場所を作れるんです」



クリスの声に、次第に熱がこもっていく。



リーアからは何も返ってこなかった。



先ほどまで呆れたように上がっていた肩が下がり、しばらく黙ったままクリスを見つめる。



リーア:「……あんた、何様のつもりだ」



やがて口を開いた。



その声には、先ほどまでの冷ややかさがなかった。



クリス:「僕はクリス・ロールブレア。この国の王子です」



リーア:「……なに。王子だと?」



仮面の奥で、その目が再び大きく見開かれる。



クリス:「君の母上、エルーデエルメイアと僕の母上は親友でした。エルーデが滅んだあとも、二人は密かに手紙を交わしていたんです」



リーア:「……母様と?」



リーアは確かめるように、わずかに顔を前へ傾けた。



クリス:「その手紙で、僕は君のことを知りました。父上も、君が生きていることを知っています」



リーア:「だから、ロールブレアが保護に動くというのか」



クリス:「そうです」



クリスは力強く答えた。



仮面の奥の目が、探るようにクリスの真っ直ぐな眼差しを見返している。



クリス:「母上たちがそうだったように――僕たちも、友人になれるはずだ」



クリスはリーアへ手を差し出した。





リーアは差し出された手をじっと見つめる。





クリス:「エルーデリーア・オルディル」



リーア:「……」



リーアの指先が、ピクリと揺れた。



差し出された手へ伸びかけ――止まる。



リーア:「……あんた、いい王になれるよ」



仮面の奥で、リーアの目がわずかに細められた。



だが、伸びかけていた手は、静かに下ろされる。



リーア:「でも、あたしには関係ない」



リーアは大きく後ろへ跳んだ。



黒い外套が夜風をはらみ、その身を闇の中へと運んでいく。



クリス:「待ってくれ!」



クリスも咄嗟に手を伸ばした。



だが、その手が届くより早く、リーアは屋根の向こうへ姿を消した。



ワードック:「残念じゃったな」



肩を落とすクリスに、ワードックが後ろから手を置く。



クリス:「ええ。うまくいかないものですね」



クリスは、リーアが消えた先を見つめた。



クリス:「彼女とは、友人になれると思ったんですが……」



ワードック:「残るは、あの男に賭けるしかあるまい」



クリス:「あの男って……まさか、レックスさんですか?」



ワードック:「そうじゃ」



ワードックはクリスの肩から手を離すと、自信ありげに胸を張った。



クリス:「でも、レックスさん、彼女のことになるとかなり奥手でしたよ。大丈夫ですかね」



クリスは困ったように頭を掻いた。



ワードック:「あやつの両親はな、過酷な運命に苦しむ者たちと幾度も出会い、そのたびに運命を変えて救ってきた」



クリス:「……」



ワードック:「あやつにも、その血が流れておる。必ずや、あの娘の運命も変えてくれるはずじゃ」



クリス:「……そこに賭けるしかないんですかね」



クリスは小さく息を吐くと、眼下に見える酒場へ目を向けた。



クリス:「頼みますよ、レックスさん」



               ♢

喧騒に満ちた街の大通りを、クインは一人で歩いていた。



行き交う人々に紛れ、さりげなく周囲へ視線を巡らせる。



やがて、クインは足を止めた。



クイン:(こいつら……こんな場所でやるつもりか)



前方に、フードを目深にかぶった男たちがいる。



男たちは人混みに紛れながら左右へ広がり、クインを囲むように少しずつ距離を詰めていた。



そのうちの一人が、人波を縫って真っ直ぐ近づいてくる。



クインの手が、腰の剣の柄へ伸びた。



そのときだった。



レックス:「大佐じゃないですか」



背後から、場違いなほど呑気な声が聞こえてきた。



クイン:「レックス?」



クインが振り向きかける。



その一瞬を狙い、近づいていた男が外套の下から短剣を抜いた。



地面を蹴り、一気にクインへ襲いかかる。



レックス:「なぁにやってるんですか!」



レックスが拳を振り上げ、クインの脇を勢いよく駆け抜けた。



そのまま男との間合いへ飛び込み、振り抜いた拳で思いきり顔面を殴りつける。



鈍い音が響いた。



男:「ぐはっ!」



男の身体が派手に吹き飛ぶ。



手から離れた短剣が石畳を跳ね、甲高い音を立てた。



男はそのまま地面へ叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。



仲間が一撃で殴り飛ばされる姿を目の当たりにし、残った四人の男たちは思わず足を止めた。



レックス:「なんすか、こいつら」



レックスはたじろぐ男たちから目を離さないまま、クインに問いかけた。



クイン:「話は後だ。場所を変えるぞ」



クインは踵を返すと、大通りから脇道へ駆け込んだ。



レックス:「あー、はい」



レックスも慌ててその後を追う。



フード姿の男たちは顔を見合わせると、すぐさま二人を追って走り出した。



そのときだった。



クリストファー:《根よ。絡みつけ》



最後尾を走っていた男の足元で、石畳の隙間から細い根が伸びた。



根は生き物のように足首へ巻きつき、男の足を引く。



男:「うおっ!」



男は大きくよろめいた。



それでも倒れることなく、片足を踏ん張って持ちこたえる。



だが、体勢を立て直したときには、仲間たちの背中はすでに路地の角へ消えていた。



男が舌打ちし、後を追おうと顔を上げる。



いつの間に現れたのか、目の前には二人の大男が立っていた。



狭い路地を塞ぐように、並んでこちらを見下ろしている。



男:「……っ!」



男は大きく目を見開いた。



二人のうちの一人が、先ほど仲間を殴り飛ばした若者と、どことなく似ていたからだ。



クリストファー:「さっき見た顔に、似てるだろ?」



クリストファーがニヤリと笑う。



男の意識が、そちらへ向いた。



その瞬間――。



バコッ!



横合いから振り抜かれたもう一人の大男の拳が、男の顔面をまともに捉えた。



男の身体は勢いよく吹き飛び、路地の壁へ叩きつけられた。



クリストファー:「ここは俺が殴るところだろ」



クリストファーは不満げに口を尖らせ、ウィリアムを見上げた。



ウィリアム:「お前のへなちょこパンチじゃ、こいつは倒せんよ」



ウィリアムは殴った拳をさすりながら、何でもないことのように肩をすくめる。



クリストファー:「そうですか」



クリストファーは不服そうにそっぽを向いた。



ウィリアム:「まったく、お前ら兄弟には手を焼かされるよ」



ウィリアムは呆れたように片手を振る。



クリストファー:「それで――我が弟は、いいライバルになりそうか?」



クリストファーは口元に笑みを浮かべ、改めてウィリアムへ目を向けた。



ウィリアムはすぐに答えを出さなかった。



クリストファーから視線を外し、レックスたちが消えた路地の先を見つめる。



しばし考えたのち、わずかに口元を緩めた。



ウィリアム:「……かもな」



その答えに、クリストファーは満足そうに微笑み、路地の先へ向き直る。



クリストファー:「頑張れよ、レックス。ここからがお前の晴れ舞台だ」






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