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召喚女子高生勇者が思いのほかポンコツでした  作者: よしぞう
第4章 エリチンの里帰り

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第90話 勇者の真の伝説

エルフの森にある長老の館で、真一達はエルフの長老と話し合いを続けていた。


「依頼と言うからには、報酬は出るのですか?」


 真一がそう聞くと、マツ〇・デラック〇にそっくりな長老が真剣な表情で頷いた。


「人間の相場というものが分からないから、逆に聞くけど、いくら欲しいんだい?」


「……」


 今まで冒険者ギルドで依頼を受けていたので、こういうパターンは初めてだった。


 大軍に包囲されてから、ラムゼン・ピントを連れて街を脱出するのは、かなり難しいだろう。彼が逃げたと知れば、当然、敵は必死になって追いかけてくるだろうし。


 このエルフの里で匿ってもらえるというなら簡単だが……。


「長老、ラムゼン領主をこの森で匿うことは可能か?」


「それをすれば、人間の軍勢にこの森を燃やす口実を与えることになる」


「連中はこの森が欲しいわけだから、それはやらないと思うが」


「人間は時として短絡的な行動を取る。警告や見せしめとして、森の一部を焼くくらいのことはするだろう」


 確かに、絶対にそのようなことはしないとは言い切れない。


 となれば、エルフの長老からの依頼には、トルタロス王国軍にラムゼンはこの森に逃げ込んでいない、つまり、森から離れていると認識させることまで含まれているだろう。


 それはかなり難しい。


「どう思う?」


 こういうときに一番頼りになるのはシラクサだ。


「さらってでも逃がせばいいというのなら、そんなに難しくはないけど、あのお人好し領主様は絶対にそんなことは認めないだろうし、かといって、大軍が攻めて来てから街を脱出してもねぇ」


 彼女も真一と同じ考えのようだ。


「先生、先生、ゴットバードで逃がしたら?」


 阿左美が良いことを思いついたとばかりに指を鳴らして言った。


「そうだな。いよいよとなったら、その手があるな」


 もちろん、ラムゼン・ピントは嫌がって抵抗するだろうが、あの神鳥なら彼を掴んでひとっ飛びし、例えばフラーノ城塞まで逃がすことができるだろう。


 あの人類の最前線基地である城塞には、さすがのトルタロス王国軍も手を出せないはずだ。


 しかし、問題はある。


 今度は、残された彼らがどうやってリコンの街から脱出するかということだ。


 ゴットバードは同時に二人まで運べるから、ピストン輸送をさせるという方法もあるが、何度も往復していたら、さすがのトルタロス軍も黙ってはいないだろう。


 大軍で攻めてくれば、魔術師もその中に複数含まれているはずだ。


 ゴットバードも不死身ではない。いや、正確には死なないのだが、大きなダメージを受けると、元の世界に強制送還されるのだ。


 その後は、ダメージが回復するまで呼び出せなくなる。


 パーティーがバラバラになるという事態だけは避けたかった。


 となれば、最小限の人数をリコンの街に残し、残りのパーティーメンバーは先に逃がしておく必要があった。


 そして、敵軍が街に迫ったとき、その頭上をこれ見よがしにゴットバードでラムゼン・ピントを掴んで飛び去れば……。


「行けるな」


 依頼達成のめどが立った。


「長老、我々冒険者は、直接依頼を受けることを禁止されている。リコンの街の冒険者ギルドに依頼をしてもらっていいですか?」


「分かったわ」


「それで、依頼ですが、金貨三十枚なら受けよう」


 フラーノの街からこのリコンまで、馬車代と途中の宿代で金貨十枚かかった。


 今度は逆にリコンの街からフラーノまで移動するので、同じ枚数の金貨が必要になる。


 そして、それに報酬を加えて、この金額を算出した。


「いいだろう」


 エルフの長老は快諾した。


 まあ、これほどの規模の集落であれば、この程度の出費など痛くもかゆくもないだろう。


「とりあえず、リコン領を敵軍から守ってくれと言われるよりはましだな」


「いくら何でも、そんな無茶は言わないわよ」


 もし真一が例の世紀末兵器を魔術で再現すれば、それも不可能ではないだろう。


 しかし、その後、この世界のパワーバランスは完全に崩壊する。


 それこそ、最強の生物であるマスタードラゴンですら、核の炎には耐えられない。


 そして、何よりも問題なのは、精霊魔術と違い、魔術は魔力を使った化学だということだ。


 手段が確立されれば、真一のように一人では不可能でも、レベルの高い魔術師達が力を合わせれば再現できるということになる。


 どのようなことがあっても、この世界の人間達にそのことを気づかせてはならない。





 そんなことを考えていると、阿左美が何かを思い出し、長老に話しかけた。


「そういえば、マツコ長老」


「誰よ、そのマツコって」


「じゃあ、何ていう名前なんですか?」


「そんなの、人に会うたびに適当に名乗ってばかりいたから、どれが本当の名前か忘れたわよ」


「え~」


「ついでに年齢も一緒ね。相手に合わせて適当に答えていたら、本当の年齢を忘れちゃったわ」


 どうやら、エルフの長老は超いい加減な性格をしているようだ。


 とりあえず、そのあたりはあまり気にせず、質問を続ける。


「長老は、千年前に勇者と一緒に魔族と戦ったんですよね?」


「そうだけど、それがどうかしたの?」


 何だか、長老はその話題に触れてほしくないようだった。


「勇者って、どういう人だったのですか?」


 うわっ、やっぱりその質問か! とでも言いたげに、長老の表情が分かりやすく歪んだ。


 確かに、先代勇者は人界の救世主にして、最も有名な英雄である。


 魔界からの侵攻を受けて危うく滅びかけたとき、異世界から召喚された彼の活躍により、魔王を倒すことができたのだ。


 特に、大きな国家同士の戦争がなくなった人界においては、彼以降、英雄と呼ばれる人物は誕生していない。


 人界の各地には、今でも勇者を崇める歌や踊りがあったり、彼の活躍を称える英雄譚を綴った本が残されていたりする。


 その千年前の超有名人と一緒に戦っていた人間は、間違いなく一人も生き残ってはいない。


 しかし、長命な森のエルフは別である。


「どうしても知りたいの?」


「はい、ぜひ!!」


 そう答えたのはミントだった。


 勇者神殿の神官である彼女にとって、勇者とはほぼ神のような存在である。


 このたび召喚された異世界勇者が、あまりにもアレなため、時々、自分達の存在意義について疑いそうになっていた。


 しかし、ここで偉大な先代勇者の逸話を聞くことができれば、心の中の不安や不信を一気に払拭できるかもしれない。


 阿左美とミントの二人に熱い視線で見つめられ、エルフの長老がついに両手を上げた。





「分かったわよ」


 そして、足と腕を組み、咳払いをしてから話し始める。


 彼女は壁画のとおり、千年前にはエルフのお手本のような美しい外見をしていた。


 さらに、使える精霊魔術も強力で、彼女がいたからこそ、エルフの森は魔族によって燃やされてしまったものの、最後の砦であるリコンの街は生き残ることができたのだ。


 そして、そこへ勇者が率いる人界軍がやって来た。


 彼らは大陸の南の方から順番に魔族軍を打ち破り、ついにここまでたどり着いたのだ。


 そのとき、街の周囲はエルフの長老たちが倒した魔族たちの屍で埋め尽くされていた。


 それを見た勇者が、エルフの長老に、ぜひ自分達と一緒に戦ってほしいと頼んだのだった。


 そして、彼女はそれを承諾した。


 人類が石斧や石弓で狩りをしていた時代から生き続けていた彼女にとって、人間とは、自分達に外見は似ているというのに、非力で無能なくせして、どんどん数だけは増えていく生き物でしかなかった。


 しかし、勇者は違った。


 上級魔族が相手でも臆することなく立ち向かっていき、殴る、蹴る、投げ飛ばすなど、互角以上の戦いを繰り広げる。


 彼女は、ドラゴンの吐き出す灼熱の炎をまともに受けているのに、笑いながら飛びかかっていく彼を見て、


「こいつ、まともじゃない」


 と驚いた。


 だからこそ、一緒に戦おうという彼の誘いに乗ったのだ。


 勇者軍はこのリコン領から西に進路を変えると、今でいうところのトルタロス王国方面へ進軍し、そこで魔界軍を相手に戦い続けた。


 人界軍は人間、エルフ、ドワーフによる連合軍だったが、彼らが勝ち続けることができた最大の要因は、勇者の桁外れの強さによるところが大きい。


 彼は魔族が放つ強力な魔術を跳ね返し、魔界軍のど真ん中を無双状態で突き進んでいく。


 その強さに敵は押され、味方は引きずられていったのだ。


 そして、いよいよ魔界軍は、スタート地点である死の谷へと追い返され、そこで勇者対魔王の最終決戦が行われることになった。


 その頃には、エルフの長老は年甲斐もなく、勇者に種族を越えた愛情を抱いていた。


 なんせ、半端ではない歳の差である。


 実を言うと、彼女がこれまで付き合ってきた異性の数は、軽く四桁を超えていた。


 相手はエルフであったり、人間であったり、少数だが魔族だったりと、まさに多種多様である。


 しかし、今までの彼女は、退屈な人生に適度な刺激を与えるぐらいの感覚で恋愛をしていた。


 ところが、このときの勇者に対する感情は、まさに一生に一度の本気の恋だった。


 そして、彼女は勇者対魔王の最終決戦前夜に、彼に想いを伝えるために会いに行った。


「そ、それでどうしたんですか?」


 エルフの長老の話を聞いていた女性陣が、一斉にゴクリと唾を飲む。


 世界や時代は違えど、皆こういう話が大好物なようだ。


「勇者のテントにこっそりと忍び込んだら」


「うんうん」


「勇者が、私のパンツを被ってニヤニヤ笑っていた」


「…………」


 何かが砕け散る音が聞こえたような気がした。


「も、もしかして、勇者って……ただのスケベな馬鹿?」


「そのとおり。勇者は馬鹿だから怖いもの知らずで、強かったのよ」


「なるほど、勇者は馬鹿でなければ務まらないわけだな。納得した」


「先生、そんなこと納得しないで!!」


「だって、まさに男版の早瀬じゃないか」


「私、パンツなんか被らないから!!」


 何にせよ、人間にとっては永遠に感じられる寿命を持ったエルフの長老は、一生に一度の大失恋のせいで、ここに引きこもり、今の姿になってしまったというわけだ。


「さすがはエルフだ。失恋の引きずり方も半端じゃないな」


 千年たっても、いまだに心の傷が癒えていないのだ。


 まあ、あと何百年かすれば立ち直って、元の美しい姿に戻るのかもしれないが。

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