第9話 2件目の依頼
勇者として魔王が復活する直前の世界に召喚された女子高生勇者 阿左美と、その巻き添えとなった教師 真一、そして二人の付き添いとして勇者神殿から派遣さることになった神官ミントと、新たに仲間となったマッチョエルフのエリチン。
彼等は、阿左美に経験値を積ませ、あと生活費を稼ぐために冒険者ギルドで依頼を受けるのだった。
真一達は、エチリンを仲間にした翌日の昼頃、冒険者ギルド勇者神殿支部へと戻って来た。
「移動が全部徒歩というのは、疲れるし時間がかかるな」
勇者土産店がズラリと並ぶ大通りを歩きながら、真一がそう言った。
この道は勇者神殿への参道にもなっているため、人通りがかなり多い。
「そうですね。お金があれば、町や村を結ぶ馬車に乗ってもいいのですけど」
そう答えたのはミントだ。
「金がかかるか……」
なんせ、初心者パーティーである彼らは金がないのだ。
冒険者ギルドが経営している格安宿屋を利用しても、一晩で一人銀貨三枚かかる。
つまり、真一達は四人パーティーなので、一泊するだけで銀貨十二枚かかるということだ。
現在の残金は銀貨三十三枚、銅貨二十一枚。宿屋に泊まれるのは二日が限度である。
「ギルドに着いたら、すぐに次の依頼を探すぞ」
「ええ~っ?! ちょっとは休もうよ、先生」
「駄目だ」
そう即答する。
「ただし、こちらは初めてのクエストで、戦力が一気に増強されたからな。次は、もう少し報酬の良い依頼を受けられるだろう」
どこの世界でも同じだが、荒事ほど報酬は高くなる。
「住み込みの用心棒などであれば、食事と宿代が無料で、さらに報酬まで貰えるから理想的だな」
「世知辛いなぁ~」
ゲームの世界なら、魔物退治や宝探しのためにダンジョンへ入って行くところだが……。
「そう言えば、ミントさん」
「はい、なんでしょうか?」
「この世界には、古代の遺跡や魔物が住む洞窟とかあるのか?」
「ありますよ。千年前に魔王軍に破壊された神殿や城塞、あとドワーフの地下都市とか」
「おおっ?! そこではドラゴンが財宝を守っていたり、宝箱があったりするの?」
阿左美が話題に食いついてくる。
「もう、そういった物は回収され尽くしていると思います」
「まあ、千年もあればそうなるだろうな」
「じゃあ、ダンジョンに入るクエストはないの?」
「いいえ。そういうところは盗賊がアジトにしたり、魔物が住み着いたりしますので、討伐依頼はよくあります」
「やっぱりボスキャラとかいるのかな?」
そうこうするうちに、冒険者ギルドに到着した。
扉を開けて中に入ると、時間が早いため、食堂にはほとんど客がいない。
四人はそこを素通りして、受付へと向かった。
二日前に真一と阿左美の登録手続きをしてくれたジュレ・マリーゼが、退屈そうにしていたが、四人に――いや、主に巨漢のエチリンに気付くと、姿勢を正した。
「どうも」
真一が軽く挨拶をすると、
「あっ、ああ、皆さん、初依頼達成おめでとうございます」
と、慌てて引きつった笑顔になる。
「えっと、そちらの方は?」
「新しくパーティーに加わった、エルフのエチリン・ボデーだ」
「もしかして、トリア村の森に住んでいた?」
「ああ、そうだ」
「……エルフ、本当に?」
「エチリン、フードを取って見せてやってくれ」
「うむ」
そう言うと、外套の下から太い腕が現れ、フードを後ろにずらす。
確かに、顔だけ見ればエルフだった。
「た、確かにエルフの耳ですね」
「疑いは晴れたか?」
「は、はい。ところで、今後はこの方も真一様達と行動を共にされるのですか?」
「ああ、そうだ」
「では、冒険者ギルドへの登録をお願いします」
「うっ……やっぱりやらないと駄目なのか?」
「はい、規則ですから」
こうして、銀貨十枚が消えた。
申請手続き後、登録が終わるまで昼食をとり、依頼書が貼られている壁へと向かう。
ちなみに、エチリンは水晶を使った魔力適性テストを受けていない。
エルフは人間とは違い、魔力による魔術を使わないためだ。
「短期で報酬が良い依頼を探せ」
ガバッと壁に張り付きながら、真一がそう言った。
「本当に世知辛いなぁ」
四人で片っ端から依頼書に目を通していく。
「狼狩り、一匹につき銀貨十枚? 駄目だ。野生動物はこちらの都合など考えないから、空振りに終わる可能性が高い」
「子供達がピクニックに行くから、その護衛? 駄目だ、報酬が安すぎる。銀貨二十枚じゃ、四人で割ったら一人五枚だぞ」
「女性限定で、一日恋人のふりをしてほしい? よし、阿左美、行ってこい」
「ち、ちょっと先生、現役女子高生になんてバイトを斡旋するの?!」
入れ替わり立ち替わり、阿左美達が真一に依頼書を見せるが、そのことごとくが駄目出しされる。
実は、冒険者ギルドでは毎朝八時に最新の依頼書が貼り出されている。
そのため、仕事がない冒険者達は、その時間に合わせてここに集まり、条件の良い依頼はあっという間に持って行かれるのだった。
ただし、朝の貼り出しに間に合わなかった依頼で、至急のものは、その都度追加されることがある。
この時も、その飛び込みの依頼がやってきたようだった。
ギルドの職員が新しい依頼書を持って出てくると、壁の一番端に貼り付ける。
「ん?」
真一がそれを手に取り、内容を確認する。
「隊商の護衛……ここから百キロ離れた町まで。期間は三日……報酬は一人銀貨三十枚で、無事に隊商が目的地に着けば、さらに二十枚……一人五十枚か」
さらに、移動中の食事は依頼者持ちで、寝る場所も準備してくれる。
「これだ!!」
「えっ、何?」
「良い依頼がありましたか?」
「私の筋肉美を披露できるか?」
「ああ、筋肉美披露以外は、好条件だ」
彼がそう言ったとき、ジュレが受付に戻って来た。
「エチリン様の登録手続きが終わりました」
「そうか、すまんな。ところで、この依頼を受けたいのだが」
彼女が差し出した身分証明プレートを受け取りつつ、依頼書を突き出す。
「えっと、これは……ああ、さっき届いた依頼ですね。シンインの街まで隊商の護衛ですか……」
彼女が少し眉を寄せて口ごもった。
「何か問題でも?」
もしかしたら、依頼にもランクがあり、新人冒険者では受けられないのかもしれない。
確かに、実力のない冒険者を派遣した結果、クエストに失敗などしたら冒険者ギルドの評判が下がるし、最悪の場合、その冒険者達が命を落とすことにもなる。
まさに責任問題だ。
そう考えれば、確かに依頼内容と、それを受ける冒険者には、それなりのフィルターが必要だろう。
「問題というか、実はこの目的地のシンイン周辺は、最近とても治安が悪いのです。この依頼も、予定していた護衛が断ったので、慌てて追加の募集がかかりました」
「治安が悪い? 野盗でも出るのか?」
「はい。それも、かなり組織だった盗賊団がいるらしいのです。冒険者ギルドからも何人か護衛の依頼を受けた人がいますが、残念ながら亡くなった人もいます」
「命がけの依頼か……」
確かに、それは初心者パーティーには荷が重すぎるだろう。
しかし、これ以外に現在の窮地を脱することができる依頼はない。
「ちょっと、内密のお話が」
真一がそう言って手招きすると、ジュレがカウンター越しに顔を寄せてきた。
「これは、極秘事項なので、他言無用でお願いする」
「極秘ですか……」
「そう。あなたは阿左美の恰好を見て、違和感を感じなかったか?」
「ハヤセ様だけではなく、シンイチ様も、あと今日はそちらのエルフさんも、違和感しか感じません」
「ま、まあ、そうだろうな。ちなみに、エチリンは正真正銘、この世界の住民だ」
「この世界?」
「そう。実は私と早瀬は、異世界から召喚をされたのだよ」
「…………」
「あ~、そういう目で見たくなる気持ちは分かるが、これは真実だ。二日前に勇者神殿で異世界召喚をされたのだ」
「異世界召喚……もしそれが本当なら、まさか勇者様?!」
思わず大声を上げそうになった彼女の口を、真一が慌てて手で塞ぐ。
「その通り。あの見た目は可愛いが、中身は可哀想な早瀬阿左美は、召喚された勇者だ」
「そ、そんな。で、ですが、勇者様の召喚は千年前の魔王の人界侵攻以来、一度も行われていないはず……まさか」
「そうだ。神殿の大神官が、魔王復活について、今後三十年以内に七十パーセントの確率で起こると予言したらしい。そして、それに対抗するために勇者を召喚し、その日に備えて冒険者として経験を積んでいるのだ」
「……そ、それを信じろと?」
急にジュレが半眼になりつつ、そう言う。
そりゃそうだよなと思うが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「考えてもみろ。なぜ俺達に勇者神殿の神官がついて来ていると思う?」
「うっ、それは……」
「それに、二日前の水晶での魔力検査を覚えているだろう?」
「確かに……物凄い反応がありました」
「まあ、これだけで信じろと言うのも難しいが、只者ではないことは分かってくれただろう」
「ま、まあ、それぐらいは」
「というわけで、只者ではない我々に、ぜひこの依頼を受けさせてほしい」
「ううっ……」
こうして、反則ギリギリ――いや、完全に反則の説得により、真一達は隊商護衛の依頼を受けることに成功したのだった。
勇者神殿の街は、参道沿いを中心に広がっている。
そして、街の入口には隊商の馬車達が待機していた。
二頭立てもしくは四頭立ての馬車が全部で八台。
人員輸送用が三台で、残り五台は貨物馬車だ。
「シンインの街に行く隊商はこれか?」
「ん? そうだが、あんた達は?」
先頭の馬車の車輪を点検していた男に、真一が声をかけた。
「冒険者ギルドに護衛の依頼を出していただろう?」
「ああっ。急に雇っていた護衛が、割に合わないから報酬を倍にしろとか言い出しやがったから、クビにしたんだ」
どうやら、この男は隊商のリーダーだったようだ。
「それを受けたのが俺達だ」
「ええ~っ」
隊商のリーダーが真一と、その後ろにいるパーティーメンバーを見て、明らかに落胆した。
「おいおい、この街のギルドはどうなっているんだよ」
「まあ、不安に思うのは当然だ。しかし、これを見ろ」
そう言って真一が依頼書を取り出すと、そこには勇者神殿支部の承認スタンプが押されている。
「あと、万が一にも、この隊商の馬車が一台でも、野盗の襲撃などで目的地に到着できなければ、報酬は受け取らない」
「何だと?」
「もちろん、崖崩れに巻き込まれたとか、馬車が故障したなどといった場合は別だが」
「それって、前金は?」
「成功報酬として、目的地で一括で受け取る」
「それだけ自信があるってことだな?」
「ああ、ある」
ここまで言われたら、隊商のリーダーも納得しないわけにはいかない。
「先に言っておくが、シンインの街の周辺にはかなりの数の盗賊団がいるぞ。俺達だって、契約でなければ、あんな場所には行きたくないぐらいだ」
「分かっている」
「それなら、良いだろう。よろしく頼むぞ」
こうして、勇者パーティーの二回目のクエストが開始されたのだった。




