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召喚女子高生勇者が思いのほかポンコツでした  作者: よしぞう
第4章 エリチンの里帰り

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第83話 フレディー

【これまでのあらすじ】

 魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。

 しかし、実はその復活した魔王とは真一の事だった。

 フラーノの街で吹雪によって身動きが取れなくなっていた真一達の元に、サキュバスによって毎夜、兵士たちの生気が吸い取られているとフラーノ城塞の城兵から依頼が来る。

 それを受け、城内でサキュバスを見つけるための魔方陣を作り、城兵達を全員調べるのだった。

「いなかったな」


 残りの守備隊兵士たちと、まだ調べていなかった下働きや厨房の男たちも、魔法陣によるチェックを終えていた。


 しかし、結局、誰も魔法陣の中で笑い転げることはなかった。


「面倒なことになったな」


 案内役の兵士が、真一の隣で腕を組みながらそう唸る。


「もしかしたら、どこかに身を隠しているのかもしれないな」


「それはないよ」


 彼の考えを、シラクサが一蹴した。


「な、なぜ、そう言い切れるのだ?」


「私が隅から隅まで調べて回ったからね。誰かが身を潜めているような痕跡はなかった」


 シーフである彼女は、身を隠すのが上手い代わりに、隠れている相手を見つけることも得意なのだ。


「そうなると、もう城塞内にはいないのか?」


「その可能性はあるが……」


 真一はそう言ってから、案内役の兵士の顔を凝視した。


「な、なんだ?」


「いや、あんたを調べていないと思ってな」


「何を言っているんだ? 俺なわけがないだろう」


「俺もそう思うが、全員を調べないと、城主に『守備隊は全員人間でした』と報告できないからな」


「そ、それは……」


 そう言って案内役の兵士が周囲を見回すと、いつの間にか真一のパーティーメンバーに囲まれていた。


「さあ、遠慮せずにどうぞ」


 真一はそう言って、魔法陣を指さした。


「じ、実は俺、魔法陣アレルギーなんだ」


「そうか。じゃあ……」


 真一がそう言って、右手の人差し指と親指でパチンと音を鳴らした。


 直後、音も気配もなく兵士の背後に忍び寄ったエリチンが、彼を持ち上げ、ポイッと魔法陣の中に放り込んだ。


「やめろぉおおおお! ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 すると、兵士は分かりやすく爆笑しながら転げ回った。


「何となく胡散臭い奴だと思っていたが、まさかな」


「な、なんなの、あの中って面白いの?!」


 阿左美が驚いてそう言う。


「お前は何を聞いていたんだ? あの魔法陣は、魔族が入ると笑い転げるようになっているんだよ」


 腹を抱えて笑い転げている案内役の兵士を見つめながら、真一がそう説明した。


「あの笑い方からして、やはり淫魔で間違いないですね」


「えっ? ミントちゃん、笑い方で正体が分かるの?」


「しかし、あれはどこからどう見ても男だぞ」


 男の淫魔、つまりインキュバスは、女性にエロい夢を見せて精気を吸い取るはずだ。


「よし、剥こう」


 そう言うと、阿左美がズンズンと魔法陣へ近づいていき、兵士に襲いかかった。


「ヒャ~ッ、や、やめてぇ~! ヒィ、ヒッヒッヒッ!!」


「おらおら、大人しくしろ。脱がしにくいだろうが!」


 ブレザーにスカート姿の女子高生が、笑い転げているゴツい体の兵士から服やズボンを剥ぎ取っていく。


 さらに言うと、その兵士の正体は魔族の淫魔だ。


 ちなみに、勇者装備の効果で魔法陣が無効化されることはなかった。


 どうやら、彼女にとって無害なものには、防御機能が反応しないようだ。


「なかなか酷いわね、これ」


 目を細め、眉をしかめているシラクサ。


「一応、魔族の正体を確かめようとしているはずなんだが……とてもそうは見えないな」


「ふぅ、苦労をかけやがって」


 おっさんを半裸に剥いた阿左美が、すがすがしい笑顔で魔法陣から出てきた。


 その背後では、パンツ一枚になったおっさんが、泣きながら笑い転げている。


「転生や召喚勇者もののアニメやゲームは腐るほどあるけど、学生服姿の女子高生が魔族のおっさんに襲いかかって、裸に剥くなんていうのは、ほかに類を見ないな」


「フッフッフッ、斬新でしょ」


「斬新の一言で片付けていいのか、このシチュエーションを……。ところでミントさん、魔法陣を止めてくれ」


「わ、分かりました」


 パンツ一枚になった兵士を見ないようにしつつ、ミントが愛用の杖を掲げ、精神を集中した。


 すると、魔法陣がかすかに光り、それが収まると、笑い声も止まった。


「ヒィ~、ヒィ~、く、苦しい……」


「あ~、とりあえず大丈夫?」


「ゼェゼェ、な、何とかな……」


「ところで、あんた、どこからどう見ても立派な男だよな」


 一番肝心な部位はパンツで隠れているが、厚い胸板には胸毛がびっしりと生えており、イメージ的にはフレ〇ィー・マーキ〇リーだ。


「そうだ、俺はインキュバスだ」


「インキュバスって、女をターゲットにするんじゃなかったのか?」


「冗談じゃない! 女みたいな気持ち悪い生物から精気なんか吸うわけないだろ!!」


「え~……」


 どうやら、淫魔にも性癖というか、好みがあるようだ。


「異世界の魔族にもジェンダーフリーの波が……」


「な、何、そのジェンダーなんとかって?」


 聞いたことのない単語に、シラクサが首を傾げる。


「何にせよ、阿左美に服を脱がされている間、笑いながら苦しんでいたから、おかしいと思ったんだ」


「まあ、あんな状態で服を脱がされて喜ぶ奴もいないと思うがな」


 そう言ったのはヴァレリアンだ。


 本来であれば、武器であるレイピアを抜き、切っ先をインキュバスに向けるべきなのだろうが、とてもそのような気分にはなれなかった。


「あ、あの、シンイチ様」


「何です、ミントさん?」


「もう、それを浄化していいですか?」


 いろいろなものが限界に達しつつあるミントが、プルプルと杖を震わせながらそう言った。


 ちなみに、アンデッドやゴーストであれば、彼女の魔術で浄化、つまり成仏させたり、消滅させたり、滅ぼしたりすることができる。しかし、インキュバスを倒すには、剣の方が有効である。


「いいけど、あれを倒そうと思ったら攻撃魔術が必要だと思うけど、そんなの使えるのか?」


「いいえ、ですが、これがあります」


 そう言って、杖を振りかぶる。


「わぁ~、止めろ! 神官の杖なんかで殴られたら、魂が削られる!!」


「俺も止めておいた方がいいと思うぞ。杖に縮れた毛が絡みつきそうだし」


「そ、それは嫌ですね」


 皆が少しずつ冷静さを取り戻してきたので、真一がインキュバスの正面に立った。


「おい、フレディー」


「誰だ、それ?」


「お前がここの騎士や兵士から精気を吸い取っていたんだな?」


「ああ、そうだ」


「おかしいと思ったんだ。淫魔はエロい夢を見せて精気を吸い取り、吸われた方も、その快感が忘れられずに中毒になるはずなのに、誰もそのことを覚えていなかったからな」


「そうか、インキュバスが同性の男から精気を吸い取ったから、おかしな負荷がかかっていたのだな」


 要するに、記憶に残したくないような悪夢だったということだ。


 ヴァレリアンが納得したとばかりに手を叩いてそう言う。


「エロい夢じゃなくて、エグい夢だったわけね」


 そう言ったのはシラクサだ。


「ねえ、フレディー」


 阿左美が腕を組み、右手で口元を隠しながら彼を呼ぶ。


「だから、誰がフレディーだ」


「見苦しいから服を着たら?」


「お前が脱がせたんだろうが!!」


「変身できるなら、美形に化けてよ」


「ふざけるな! この男らしい体をよく見ろ!!」


 そう言って立ち上がり、胸毛の生い茂る胸板を強調する。


「うわぁ~、むさ苦しい」


 阿左美とインキュバスが、不毛としか表現できない会話を続けているのを横目で見つつ、


「シンイチ、どうするの、あれ?」


 シラクサが彼に小声で尋ねた。


「う~む」


 彼らが請け負った依頼は、淫魔の退治だ。


 まさか、依頼を受けてやって来た先で、案内役の兵士本人がインキュバスだとは思わなかった。


 しかし、報酬を受け取るためには、彼を殺さなければならない。


「あの、こちらの人達に身柄を引き渡したら駄目なのですか?」


 ミントがそう言った。


 確かに、逃げられないように拘束して城塞側に引き渡し、どこかに閉じ込めるか、封印するか、あるいは処刑するかを任せるというのも、ありだと思う。


「しかし、その場合、退治未達成で報酬を減らされるか、最悪の場合、もらえなくなるかもよ」


 過去にそういう経験をしたか、あるいは誰かから聞いたことがあるのだろう。冒険者として最もキャリアが長いシラクサが、そう言った。


「正直言って、たいしたことはしていないから、これで報酬を満額もらうのは少し気が引けるが、冒険者としての経歴に傷がつくのは避けたいな」


 今のところ、真一たちのパーティーは依頼達成率100%である。


 そのおかげで、冒険者ギルドで受けられる依頼も、少しずつ難易度が高いものの、報酬の良いものが増えてきた。


 それでも、まだまだ新人パーティーには違いないが。


 ここで経歴に傷がつけば、春になって本格的に依頼を受け始めた時に、希望する内容の依頼を受けられない可能性があった。


「じゃあ、殺すか」


 インキュバスと言い合いをしていた阿左美が、そう言うと、クックックッと笑いながら愛用のショートソードを抜いた。


「ずっと練習ばかりだったから、そろそろ一度、生身の相手を斬ってみたかったのよね」


「お前って、本当に発想が悪人だよな」


「でも、勇者ってモンスターや悪人を殺さないと、経験値を稼いでレベルが上がらないでしょ」


「確かに、そう言われると罪深い職業だな」


「と、いうわけで、一思いに……」


「ヒィ~!! 止めろ、助けてくれぇ!!」


 インキュバスがそう叫びつつ、腰を抜かして後ずさる。


「ここで見逃したら、どうせまた違う場所で精気を吸うんでしょ。そうなったら、今度は逃がした私たちが責任を問われることになるのよ」


「さすがは早瀬だ。そういうところだけは、よく知恵が回る」


 淫魔は、寝ている相手に夢を見せるだけではなく、起きている人間を強引に眠らせることもできる。


 しかし、これだけの人数を同時に眠らせることはできない。


 そして、一人や二人を眠らせても、残りのメンバーに反撃されては意味がなかった。


 魔族である以上、攻撃魔術なども多少は使えるし、人の姿をしているため、武器を使った戦闘もできる。だが、それでも、これだけの人数を同時に相手にできるほど強力ではない。


「確かに、こいつは魔族だが……」


 実は、その魔族のトップの転生者である真一が考え込んだ。


 魔王時代の記憶がないので、別に人族を恨んではいないし、魔族に愛着も持っていない。しかし、だからといって、むやみに命を奪いたいわけでもなかった。


 逆に冷静に考えれば、この男臭いインキュバスは、城塞の騎士や兵士たちから精気を奪いはしたものの、誰も殺してはいない。


 せいぜい、数日寝込む程度だ。


 その代償が命というのは、少し厳しすぎるような気がした。


「おい、フレディー」


「だから、フレディーって誰だよ?」


「死にたくなければ、魔界へ帰れ」


「えっ?!」


 真一の提案に、フレディーも含めた全員が驚いた。


「確かに、お前はここの連中の精気を吸いはしたが、誰も殺してはいない」


「そういえば、そうよね」


「確かに、皆さん、数日寝込む程度でした」


「それで、いきなり命を奪うというのは、少し厳しすぎないか?」


 彼がそう言うと、皆がお互いに顔を見合わせ、微妙な表情になった。


 魔族は見つけたら即「KILL」というのが、人界のお約束だったからだ。


「先生、何を甘いこと言ってるの。さっさとやっちまおうよ」


「何で異世界人のお前が、当たり前のようにそんなことを言うんだよ」


「だって、経験値が欲しいし」


「フレディーを斬っても、1ポイントも手に入らないって」


 そこまで言って、真一はあることに気づいた。


「そういえば、フレディー。お前はどうやってこの城塞に潜り込んで、兵士に成りすましたんだ?」


 もし、兵士を一人殺して入れ替わったのであれば、話が変わってくる。


「だから誰が……もういい。実は、俺はもっと南の街で男たちの精気を吸っていたんだが、ここでと同じように騒ぎになってな」





 その街でも、男たちが次々と精気を吸われて倒れていったため、サキュバスの仕業だということになり、女性たちが片っ端から疑われた。


 その街には神殿と冒険者ギルドがあったので、総出で魔族の正体を暴く魔法陣が作られ、正体が判明し次第、冒険者たちが退治できるように準備が進められた。


 このまま女性たちが全員人間だと判明すれば、今回と同じように、サキュバスが男装している可能性を疑われ、男たちも魔法陣の上に立たされるだろう。


 そうなる前に街から逃げ出さなければならないが、住民たちは全員、疑心暗鬼に陥っており、逃げ出すそぶりを見せるだけで捕まりそうな雰囲気だった。


 どうやって逃げようかと隙をうかがっていた時、ちょうどフラーノ城塞に向かう兵士たちの隊列が街を通りかかった。


 城塞で警備に当たる騎士も兵士も、二、三年単位で交代していた。ただし、全員が一斉に入れ替わると警備に隙ができるため、毎年一回、順番に交代していたのだ。


 その兵士の一人が、城塞への赴任を嫌がっていた。


 なんでも、彼には病弱な妻がおり、さらに妊娠中だったらしい。


 彼が住んでいた領地では、税を納めるのと同様に兵役も義務化されており、本人が重病でもない限り、拒否することはできない。


 もし兵役を拒めば、ほかの者たちへの見せしめという意味も込めて、死罪になることさえある。


 その兵士は、妻と二度と会えないのではないか、村に戻った時には病気で亡くなっているのではないかと、心配でたまらない様子だった。


 それを知ったインキュバスは、チャンスとばかりに、その兵士と入れ替わったのだった。


 兵士は夜の間にこっそりと隊列を離れ、故郷を目指した。そして、インキュバスはその兵士に化け、フラーノ城塞へ向かう隊列に紛れ込むことに成功したというわけだ。


「なるほど。その故郷に帰った兵士が、フレディーだったわけだ」


「だから、誰なんだよ、そのフレディーって?」


 とりあえず、インキュバスが人を殺していないということは分かった。


「ちょっと、皆、聞いてくれ」


 真一は仲間たちに向かって、そう切り出した。





「というわけで、城塞内に入り込んでいた淫魔を退治しました」


 真一は、城主の部屋でドーセットシャーに報告していた。


「そうか。まさか、男好きな男の淫魔の仕業だったとはな」


 ツインテールにミニのワンピース姿のごついおっさんが、渋い声でそう言う。


「それで、その淫魔は?」


「なんせ魔族なので、命を奪った後で棺桶に入れて封印しています。もちろん、その前に何人かの守備隊長や騎士に確認してもらいました」


 そう言う真一の背後には、その場に居合わせた守備隊長がおり、確かに、と頷いていた。


「確かに、棺の中に入っていたのは、三番隊の兵士でボリスでした」


 この時、真一はフレディーの本名を初めて知った。


 いや、正確には、インキュバスが化けていた兵士の名前だが。


「亡骸はなぜ棺桶へ?」


「相手が魔族でしたので、地面に埋めた後で生き返ったり、燃やした後の灰がゴーストになったりしたら面倒だと思いまして。棺桶に入れて封をし、魔界へ投棄しようと思っています」


「魔界へ、どうやって?」


 ドーセットシャーが驚いてそう尋ねた。


 確かに、人界から魔界へ入るには、このフラーノ城塞の北側の門を開け、死の谷を通り抜けなければならない。


 そして、その死の谷の北側には、魔界側の門、つまり城塞がある。


 フラーノ城塞の南側、つまり人界側の門は、普段から人の出入りがあるたびに開閉されている。しかし、北側の門を開けるには、人界にある七つの王国すべての国王の承認を得なければならなかった。


 そして、この千年の間に、その門が開かれたことは一度もない。


 死の谷を通らずに魔界へ入るには、城壁山脈を越えなければならないが、それこそ翼のない者が越えることは不可能だ。


「実は、パーティーメンバーの中に召喚魔術師がおりまして」


 そう言うと、真一は不敵にニヤッと笑った。

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