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召喚女子高生勇者が思いのほかポンコツでした  作者: よしぞう
第4章 エリチンの里帰り

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第79話 ツインテールの竜殺し

【これまでのあらすじ】

 魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。

 しかし、実はその復活した魔王とは真一の事だった。

 フラーノの街で吹雪によって身動きが取れなくなっていた真一達の元に、サキュバスによって毎夜、兵士たちの生気が吸い取られているとフラーノ城塞の城兵から依頼が来る。 

 真一たちはその討伐依頼を受け城塞に向かうのだった。

12月15日


 真一達は、猛吹雪の中を400m移動し、フラーノの街の北側にある城塞へとたどり着いた。


 こういう時は、筋肉の盾であるエリチンが役に立つ。


 彼を先頭にして、風除け兼除雪車代わりに前進してきたのだ。


「あんた、すごいな」


 冒険者ギルドに依頼に来た兵士が、驚いてそう言った。


 彼は猛吹雪の中、吹き飛ばされそうになるのを必死に耐えながら、冒険者ギルドまでやって来たのだが、帰りは向かい風だというのに、普通に歩くことができた。


「筋肉に進めぬ道はない」


「そ、そうなのか?」





 城塞の門から中へ入ると、そのままサキュバスに精気を吸われた者達が寝かされている部屋へと案内された。


 そこは普段、練兵場として利用されているが、戦闘時には負傷者を収容する広い部屋だった。


 ベッドが50個ほど並べられ、顔色の悪い兵士達がそこでうなされている。


「き、君達が来てくれたのか」


 ほとんどの者は名前も顔も知らなかったが、一人だけ顔なじみの男がいた。いや、正確には、ヴァレリアンとシラクサだけが会ったことのある男だった。


 フラーノ城塞にいる10人の守備隊長の一人、ガウスだ。


 暑苦しい顔と性格の彼だが、今は腹を下した病人のような顔色で、ベッドに寝かされている。


「ガウス殿まで、やられていたのか?」


 ヴァレリアンが驚いてそう言うと、ガウスは面目ないと言ってうなだれた。


 その隣のベットには、戦の神殿の神官が寝かされている。


 こちらは、ミントとシラクサだけが面識のある人物だった。


「ううっ、情けない」


 以前、神殿で会った時は自信に満ちあふれ、上から目線だった彼が、今はいい歳をしておねしょをしたおっさんのように、しょぼくれている。


「ガウス殿もサキュバスに精気を奪われたのですか?」


 ベッドのそばで身をかがめたヴァレリアンが、守備隊長に小さな声で質問した。


 一応、ここは病室であり、周囲にはうなされながら寝ている兵士達がいるため、遠慮したのだ。


「それが……覚えていないのだよ」


「覚えていない?」


「朝起きたら、熱もないのに身体がだるくて重かったのだ。そして、何か夢を見ていたようなのだが、内容はさっぱり分からん」


 それを聞いて、ヴァレリアンが仲間達の方を振り返った。


 淫魔、サキュバスは、人間の男性に夢を見せて精気を吸い取る。


 それは主に、相手の望む姿で、さらに興奮するようなシチュエーションで、夢の中でエロい行為をするというものだ。


 おまけに、それがとても気持ちいいため、一度サキュバスに狙われると、このままでは命そのものを失うと分かっていても、抗えなくなる。


 つまり、朝、目が覚めて身体がヘロヘロになっていても、もう一度あの体験をしたいと、自分から望むようになるのだった。


 当然、自分がサキュバスに狙われているなどと言えば大騒ぎになるので、被害者達は自分からなかなか申し出ないし、問い詰められても必死でとぼけるのだ。


 そして、病気でもないのにどんどんやつれていくその姿を見た周囲の者達が、


「お前、淫魔に取り憑かれているだろう?!」


 と言って詰め寄っても、そんなことはないなどと言って、必死になってごまかしたりする。


 もしかしたら、ガウス隊長達もそうなのかと思ったが、少し様子がおかしい。


「他の者達も皆同じだ。誰も、寝ている間にどのような夢を見ていたか覚えていない」


 冒険者ギルドまで依頼に来た兵士が、腕を組んでそう言った。


「これって、本当に淫魔が原因なのでしょうか?」


 ミントが自分の顎に右手を軽く当てつつ、そう言った。


「そうだね。私も、直接サキュバスやインキュバスに精気を吸われた人間と会ったことはないけど、聞いた話だと、麻薬みたいな効果があるって」


 そう言ったのはシラクサだ。


「なるほど、中毒性があるわけだな」


 しかし、夢を覚えていないのでは意味がない。


「これで、なんで淫魔の仕業だって分かったんだ?」


 真一が兵士に向かってそう聞いた。


「他に考えられないからだ。人間の精気を吸う魔族や魔物は他にもいるが、血を吸ったり、直接触れたりする必要がある。しかし、見てのとおり、この城塞の兵士達には外傷がないうえに、皆、夜寝ている間に精気を吸われている」


「他にそれが可能な魔族や魔物はいないのか?」


 以前、鉱山で退治したポイズンガストも、生物の生命力(精気)を吸う魔物だった。


 あれと同じような奴が、この城塞内に侵入しているのかもしれないと考えたのだろう。


「この城塞は、人界の最前線だ。当然だが、侵入者に対する備えは万全で、透明な魔物が侵入しても、すぐに発見できるようになっている」


「だとしたら、伝染病や食中毒ということはないか?」


「もちろん、その可能性も考え、いろいろと調べたが、何も異常はなかった」


「……」


「淫魔には変身能力があるんだったな?」


「はい。それで、相手の理想の異性に変身して近づきます」


 真一にミントがそう答える。


「この城塞で一番目立たないのは、やはり兵士だ。性別は変えられないみたいだが、筋肉質のゴリラ女に化ければ、男に紛れ込んでもごまかせるだろう」


 筋肉という単語を聞いて、エリチンがハッとなり、周囲を見回す。


「どちらかと言うと、色白の中性的な美形の方が好みだけど」


 そう言ったのはシラクサだ。


 どちらにせよ、ムキムキの女性も中性的な美形も、ここにはいない。


「先生、どうするの?」


 阿左美が退屈そうにそう言った。


「ここには、魔族を判別する魔法陣があるんだったな?」


「ああ、人間にそっくりに化ける魔族はけっこういるからな」


「では、話は簡単だ。この城塞にいる兵士達全員を、それでチェックすればいい」


「この城塞には3千人の兵士がいるんだぞ?」


「このまま被害が広がれば、いずれ王都にも知られるぞ。精鋭が守る人界の砦が、スケベな魔族に精気を吸われて使い物にならなくなった、なんて言われてもいいのか?」


「そ、それは困る……」


 そう言ったのは、ベッドに横になっているガウス隊長だ。


 彼は先日、投獄した偽勇者パーティーを逃がした罪で、任期が半年延びていた。


 これ以上失態を重ねたりしたら、死ぬまでこの寒い城塞で暮らすことになるかもしれない。


 ちなみに、その偽勇者パーティーを逃がしたのは、シラクサだったのだが。


「城塞の守りは交代でやっているんだろ? 非番になった者を順番にその魔法陣で調べよう。もちろん、抜けがないように名簿でチェックしてな」


 真一がそう言うと、兵士が少し考え込んだ。


「分かった。しかし、城主の許可を得ないと……」





 人界の北の守りの要、フラーノ城塞。


 それは死の谷の南側を塞ぐように築かれているため、一般には「門」と呼ばれていた。


 その最重要軍事拠点の指揮を任されているのは、ドーセットシャーという50代の男だった。


 いかにも歴戦の騎士といった感じの外見をしており、過去にドラゴンを退治したことで、王国中にその名が知れ渡っている。


 そのドラゴンとの戦いで右目を失い、右の頬から額にかけて大きな傷跡が残っていた。


 その城主の部屋に、真一達が案内されていく。


「ドラゴンスレイヤー、格好いい!!」


 城塞内を移動しながら、兵士から城主の簡単なプロフィールを聞いていた阿左美が、瞳を輝かせつつそう言った。


 確かに、竜殺しはファンタジー世界では誰もが憧れる称号の一つである。


 最近はゴブ〇ン殺しやス〇イムが活躍するアニメやライトノベルが人気だが、やはり人気、知名度ともにドラゴンに勝る魔物はいない。


「ドーセットシャー将軍は、王国でも屈指の猛将で、私達騎士の憧れだ」


 そう言いつつ、ヴァレリアンはソワソワとしていた。


 まさに、生きた伝説のような存在なのだろう。


「でも、ドラゴンは倒せても、サキュバスは無理なのよね」


「だ、駄目ですよ、シラクサさん。そのようなことを言っては。誰しも得手不得手があるのですから」


 ミントが慌ててそう言う。


「まあ、そうだけど、これだけ大きな城塞があって、3千人もの兵隊がいるのに、淫魔一人倒せないなんて」


 確かに、そう言われたらそのとおりだ。


「なあ、この城塞には魔術師も大勢いるんだろ?」


「もちろんだ。しかし、いまだに淫魔の正体を見破れていないし、逆に何人か精気を吸われて、ベッドで寝込んでいる」


「実は淫魔って、ボスキャラ並みに手強いのか?」


「確かに見つけにくいことは確かですが、そこまで強くはないはずです」


 勇者神殿でも過去に何度か、淫魔討伐をしたことがあるらしい。


 ミントもそれに参加したことがあるのだが、正体を見破るまでは大変でも、見つけてしまえば、倒すこと自体はそれほど難しくなかった。





「着いたぞ、ここだ」


 兵士がひときわ立派な扉の前で立ち止まると、そう言った。


 その前には、見張りの騎士が二人立っている。


 普通の見張りは槍を持った一般兵士なのだが、さすがは城主の部屋と言うべきだろう。ここでは若い騎士が常時見張りについていた。


「ドーセットシャー将軍に、冒険者殿達をお連れしたと伝えてもらいたい」


 兵士より騎士の方が身分が高いはずなのだが、彼は堂々とそう言った。


 ちなみに、騎士は基本的に全員貴族である。


 もちろん、騎士の中にもランクがあり、一番下っ端は平民とそれほど変わらない扱いだが。


「あんた、実は偉いのか?」


 吹雪の中を冒険者ギルドまで依頼に来たり、フラーノ城塞に着いてからは真一達の案内をしたりと、雑用ばかりさせられているように感じるが。


 真一達の世界にある軍隊で例えるなら、騎士が士官で、彼は兵士達を束ねる下士官のような位置づけなのだろう。


 そして、ベテラン下士官は若い士官達から一目置かれ、頼りにされる。


 ある程度まとまった人数の軍勢を指揮する時は、騎士が大まかな指示を出し、それをベテラン兵士が全員に徹底させているからだ。


 要するに、優秀なベテラン兵士がいれば、騎士の仕事は楽になるし、逆にいなければまともに戦えない。


 威厳は必要だが、威張るだけでは軍勢は動かせないということだ。


 見張りの騎士達は、真一達を失礼にならない程度に見回し、そしてヴァレリアンで視線を止めた。


 現在休職中とはいえ、王国騎士団の一員である彼女は、騎士の中でも一つランクが高いのだ。





「どうぞ、お入りください」


 そう言うと、二人の騎士が扉の前から左右に移動した。


 軽く頭を下げて、真一達が室内へと入っていくと、そこには城塞の中とは思えないほど豪華な家具が並べられていた。


 王国の旗と、おそらく城主の家紋と思われる旗が壁に飾られ、鏡のように表面を磨き上げられたフルプレートアーマー(甲冑)と、普通の人間では持ち上げることも難しそうな大きな斧と大剣が並べられている。


 そして、部屋の正面奥には立派な執務机と、それに似合う椅子が置かれ、さらに四隅には魔石を使った暖房器具が設置されていた。


 部屋の主にしてフラーノ城塞の城主であるドーセットシャーは、そのいかにも武人らしい部屋の窓際に立ち、北の方向、つまり死の谷の方を見つめていた。


 もっとも、谷を吹き抜けてくる吹雪のため、外の景色などまったく見えなかったが。


「お前達が、冒険者か?」


 鍛え上げられた肩幅の広い背中越しに、低く渋い声でそう聞いてきた。


 しかし、真一達は返事をすることができなかった。


「どうした? 楽にしろ」


 そう言うと、ドーセットシャーが振り返った。


 事前の説明で聞いたとおり、岩山から切り出してきたようなゴツゴツとした顔の右半分には大きな傷があり、右目には黒い眼帯がはめられていた。


 ドラゴンと戦った時の武勲の証だ。


 その傷はあまりに深すぎて、神官の治癒魔術でも治すことができなかったとか、本人がドラゴンを倒した勲章として、わざとそのままにしているとか、いろいろな噂がある。


「冒険者とは、もっと豪放な連中だと思っていたのだがな」


 そう言うと、顔の左側だけで引きつったような笑みを浮かべた。


「私が、このフラーノ城塞の城主、ドーセットシャーだ」


 自己紹介は自分から、というセオリーどおりに彼が名乗る。


「わ、我々は冒険者ギルドで依頼を受けた者です。依頼書はこちらに」


 真一が絞り出すような声でそう言うと、ギルドの依頼書を取り出し、彼に見せようとした。


 しかし、ドーセットシャーは右手を軽く上げて、それを制した。


「無用だ」


「そ、そうですか」


 ドラゴンスレイヤーにして、王国、いや、人界を守護する城塞の城主。


 ドーセットシャーは50代だが、その肉体は歴戦の武人と呼ぶにふさわしく、さらに無言で周囲を威圧するプレッシャーを放っていた。


 そんな彼が、長く伸ばした黒髪をツインテールにし、フリルやリボンがたくさんつけられたミニスカートのドレスを着ていた。

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