第73話 フラーノ城塞脱獄
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから魔導書探索の依頼を受けた勇者パーティーは、依頼主を連れて魔導書が封印されている遺跡を探索し、ついに目的の魔導書を発見した。
しかしそれは魔道エロ本で、おまけにそれを奪うべく待ち伏せしていた偽勇者パーティーと戦闘になり
勇者パーティーは偽勇者パーティーに圧勝する。
一方、魔界では、魔王召喚の儀式が行われ真一が黒い空間に飲み込まれた。彼が転生魔王だったのだ。
阿左美達は、彼を呼び戻すために、その方法を探し、召喚を無効化できる儀式とナーデヤネーという呪文でそれが可能だと知る。
12月7日
シンイチを呼び戻すための作戦会議は深夜にまで及んだ。
大筋はシラクサが思いついたのだが、それを実行するにあたって細々とした問題があり、それをどうやって対処するかで揉めに揉めまくったのだ。
「それじゃあ、まとめるわよ」
いつの間にかシラクサが指揮官のようになっている。
「まずエリチンとビーデさんは、一昨日シンイチが消えた位置へ行って、帰還の魔術を唱える」
「任せろ」
「まあ、私のウッドゴーレムも回収する必要があったからな」
二人が納得して頷いた。
「次に、私とヴァレリアンは、ライディーン達を連行するふりをして城塞へ向かう」
「本当にフリなんじゃろうな?」
「言ったでしょ。シンイチの帰還に協力したら、あんた達は見逃してあげるって」
「し、しかし、もし牢屋に入れられて、そのまま放置されたら、儂等は逃げられん」
「大丈夫だって。あんた達は街の近くの森に装備を隠して、大人しく捕まっていればいいの。その後に私がカギを開けにいくから、ミントが言っていた戦の神殿と城塞を繋いだ秘密の通路から脱出して、そのまま好きなところに行きなさいよ」
「……」
「ただし、村人から脅し取ったお金は返すのよ」
「わ、分かっておる。そう言えば、一つ確認なんじゃが、あんたの魔導書の在処を漏らした猟師から奪った金は、あんたに返すべきか?」
「それは、別に構わない。約束を破った猟師の責任だからな」
「そうか……ところで、あの魔導書は一体何だったのじゃ?」
「気にするな。忘れろ」
ビーデ シヨが気まずそうに横を向いてそう答える。
「最後に、アザミとミントが死の谷にある魔王の最期の場所に行って、『ナーデヤネー』の呪文を唱える」
「分かりました」
「任せてよ」
「上手くいけば、シンイチはビーデさんとエリチンのいるところへ帰って来る」
最後にシラクサがそう言うと、全員が頷いた。
「先生と財布のために!!」
昼頃まで準備をし、さらに休養をとると、それぞれ行動を開始した。
ビーデ シヨとエリチンは、2日前に真一が黒い空間に飲み込まれた場所へ向かう。
次にミントと阿左美以外の全員が屋敷を出て、まずフラーノの街の側に移動し、そこにライディーン達の武器や装備を隠した。
街道沿いの林の中で、特に目立つ大木が目印だ。
その後、南門からフラーノの街へ入り、北の端にある城塞へと向かう。
「おや、あなたは先日の騎士様」
そこには見覚えのある見張りの兵士がいた。
「本日はどうされました?」
「うむ、近傍の村人を騙し、金銭を巻き上げていた無法者共を捕まえたので、引き渡しに来た」
「なんと、さすがは騎士様。それはお手柄でしたね。少しお待ちください」
見張りはそう言うと、城塞の中に駆け込んで行った。
少しして、フラーノ城塞の守備隊長の一人であるガウスを連れて戻って来る。
「騎士ヴァレリアン、さすがだな」
彼は満面の笑顔でそう言うと、ガーゼット達の方を見た。
「なるほど、いかにも見るからに悪党そうだ」
そして、その視線がライディーンで止まる。
「あとで、私自らじっくりと取り調べをしてやろう」
若い女性を見つめながらそのような台詞を口にするのは、悪役のお約束だという自覚はないようだ。
「おい、そいつらは牢へ閉じ込めておけ。さあ、さあ、ヴァレリアン殿はこちらへ。あなたの手柄を称え、乾杯をしよう」
「い、いや、私だけの手柄という訳では」
「ハハハ、遠慮など無用だ。さあ、さあ」
肩を抱かれるように強引に城塞内に連れ込まれるヴァレリアン。
その後に続くように、ライディーン達が連行され、シラクサもそれについて行った。
「思ったより、単純な構造ね」
シラクサが、城塞の内部を見回しつつそう呟いた。
死の谷の南側出口を塞ぐように、三重の城壁が築かれている。
一番北側と二番目の城壁はひたすら頑丈で高さがあり、大型魔獣が体当たりをしてもびくともせず、さらに乗り越えることもできないようになっていた。
そして、その上にはドラゴンなど、空を飛ぶことができる魔獣に備えて、大型の弩などが設置されており、まさに鉄壁の守りを具現化している。
最後の一番内側の城壁は、守備兵の宿舎や武器・兵糧庫などを兼ねており、城壁というより長くて頑丈な兵舎といった感じになっていた。
ライディーン達が連れて行かれた牢屋は、この一番内側の城壁の地下にある。
「ここの守備兵達は、死の谷の方はしっかり見張っているけど、内側はかなり適当ね」
そのおかげで、彼女は誰にも見つかることなく城壁内を歩き回ることができた。
「まずは……」
牢屋の位置はだいたい把握できている。
問題は、ライディーン達を逃がすための秘密の抜け道だ。
ミントが戦の神殿の神官から、いざという時には神官達も秘密の通路を使って城壁の増援に向かうと聞いただけで、最悪の場合、嘘という可能性もある。
しかし、十分にあり得る話だとは思っていた。
「構造的には、戦の神殿の近くで、地下よね」
頭の中でフラーノの街と城塞の地図を重ね合わせる。
「と、なれば、この辺りか……」
通路の突き当たりに地下への階段があり、そこを下ると武器庫になっていた。
鍵がかかっているが、彼女なら簡単に開けることができる。
もし魔術的な措置が施されていたらお手上げだったが、それは頑丈だが単純な構造だった。
ハッキリ言って、シラクサにとってライディーン達との約束はかなり優先度が低い。
正直言って、少しでもリスクが高いと判断をすれば、彼女達は牢屋に放置をして、自分とヴァレリアンだけで脱出をするつもりでいたのだ。
しかし、運が良いのか悪いのか、秘密の通路は簡単に見つかった。
武器庫の中に入ると、部屋の突き当たりに頑丈な扉があり、こちらは鍵すらかかっていない。
そこを開けて、暗くて狭い通路を50m程進むと、上り階段がありその先に再びドアがあった。
耳を当てて外の様子を探ってから、音を立てないようにゆっくりと開けると、そこは戦の神殿の裏にある物置だった。
普段は使用されない祭事用の飾りつけや、何が入っているのか見ただけでは分からない木箱などが雑に積み上げられている。
「これは人目につかないから助かるわ」
もし聖堂に秘密の通路が繋がっていたりしたら、目立って仕方がない。
とりあえず、外の様子を探ろうとした時、いきなり倉庫のドアが開いた。
いかにも荒くれ者っぽい雰囲気で左腰に剣をぶら下げた神官が、「誰かいるのか?」と言いつつ入って来る。
どうやら近くを偶然通りかかり、人の気配がしたので、中を覗いたようだ。
シラクサは腰の道具袋から眠り薬の小瓶を取り出したが、とても飲ませたり、臭いを嗅がせたりする余裕はない。仕方がないので、咄嗟に側にあった木箱の影に隠れると、周囲を見回して投げるのに手ごろな物を探す。
そして金槌があってので、それを相手の顔目がけて投げつけた。
投擲もシーフの特技の一つだ。
硬い物がぶつかる音と、「フギャ!!」という悲鳴が同時に聞こえて、男が倒れたのが分かった。
彼女が念のためにダガーを抜きつつ、そっと顔を出すと、鼻血を出した神官が顔面を押さえて転げ回っている。
「戦の神殿の神官のくせに……弱っ」
そんな彼に近づくと、眠り薬の瓶を手に持って、「はいはい、すぐに痛くなくなるからねぇ~」と言って栓を抜いた。
戦の神殿の神官が熟睡したのを確認してから縄で縛り上げ、再び秘密の通路を使って城塞へと戻り、今度は地下牢を目指した。
ここには見張りがいたが、椅子に座り、退屈そうに鼻歌を歌っている。
シラクサは足音を殺して背後からそっと近づいて行くと、腰にぶら下げている道具袋から先ほど戦の神殿で神官に使った眠り薬の小瓶を取り出した。
自分は呼吸を止めてから蓋を開け、背後から見張りへと近づける。
すると、鼻歌が止まり、すぐに鼾をかき始めた。
小瓶の蓋を閉じると袋へと戻し、通路を進んで行く。
そこは薄暗く、どこからか湧き出してくる地下水がチョロチョロと流れていた。
ただ、今の季節だと地上よりも地下の方が暖かかったりする。
ライディーン達が閉じ込められている牢屋はすぐに分かった。
有難いことに、4人まとめて同じ牢に入れられていたのだ。
「助けに来たわよ」
のぞき窓を開けて、小声でそう言うと、
「た、助かった~」
「信じておったぞ」
「見捨てられたのではないかと思ったぞ」
「フンッ、俺様ならこの程度の牢など簡単に脱出できたがな」
口々にそう言ってはいるが、皆、シラクサが本当に助けに来てくれるかどうか、かなり不安だったようだ。
まあ、いざという時は見捨てるつもりだったので、あながち見当違いという訳でもなかったが。
ここの鍵も簡単に開けることができた。
「脱出路へ案内するから、ついて来て」
4人が無事なことを確認すると、シラクサがそう言って先導しはじめた。
「まあ、まあ、好きなだけ飲んでくれ」
ヴァレリアンは、ガウス守備隊長の部屋で歓待を受けていた。
それなりに美味しそうな料理と酒が大量にテーブルの上に並べられている。
「い、いや、このような御馳走をしていただかなくても」
「何を言う。あのような悪党どもを捕らえてくるなど大手柄ではないか。これはその功績に対する褒美だよ」
「これは私だけの手柄ではないし」
「ハハハ、騎士ヴァレリアンは本当に謙虚だな。まさに騎士の鏡だ。しかし、時には羽目を外すことも重要だぞ。特にこのような場所では常に緊張を強いられるからな。適度に息抜きをしなければ身がもたない」
つまり私は、息抜きの口実ということか。
本当なら、今すぐに席を立って帰りたいところだが、まだシラクサから合図が来ない。
「で、では遠慮なく頂こう」
「おおっ、そう来なくては」
酒は臭いを嗅いだだけでかなり度数が高いことが分かる。
若い女騎士を酔い潰させて、一体何をするつもりだ、この男は。
料理を手に取り口に運び、礼儀として「これは美味しい」と答える。
その時、ドアが開いてシラクサが入って来た。
「あ~ごめんごめん、トイレに行ったら道に迷っちゃって。うわぁ~、凄い御馳走」
「うんっ、ああ、君は騎士ヴァレリアンの友人だな」
今の今まで彼女のことなど忘れていたガウスが慌てて、シラクサにも酒や料理を勧める。
ヴァレリアンが隣に座った彼女に目配せをすると、微かに頷いた。
それはライディーン達を無事に脱出させたという合図だ。
さらに、この後。
ドン、ドンと隊長室のドアが激しくノックされた。
「た、大変です、ガウス守備隊長!!」
「何だ、私は今、来客の対応中だぞ」
入室の許可を待たずにドアを開けて入って来た部下を、ガウスが不機嫌そうに叱る。
「も、申し訳ありません。その客人が連行してきた罪人共が逃げ出しました」
「何だと!!」
これには、さすがのガウスも焦った。
それまでの豪快なイケメン騎士という仮面が剥がれ、顔色が一気に青ざめる。
確かに、一度牢に入れた罪人に逃げられたりしたら、隊長として責任問題は免れない。
ここでは失敗をすると、城塞での勤務日数が延長されるのだった。
「砦の外には出ていないはずだ。探せ!!」
そう怒鳴ると、部屋から駆け出していく。
「これで、見張りの注目が砦内へと向く」
「ああ、大成功だ」
そう言うと、ヴァレリアンとシラクサはテーブルの上に放置されているグラスを手に取り、チンッと軽く乾杯をした。




