第72話 ナーデヤネーの呪文と一発ギャグ
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから魔導書探索の依頼を受けた勇者パーティーは、依頼主を連れて魔導書が封印されている遺跡を探索し、ついに目的の魔導書を発見した。
しかしそれは魔道エロ本で、おまけにそれを奪うべく待ち伏せしていた偽勇者パーティーと戦闘になり
勇者パーティーは偽勇者パーティーに圧勝する。
一方、魔界では、魔王召喚の儀式が行われ真一が黒い空間に飲み込まれた。彼が転生魔王だったのだ。
阿左美達は、彼を呼び戻すために、その方法を探すのだった。
第72話「ナーデヤネーの呪文と一発ギャグ」
12月6日
ビーデ シヨの屋敷に無事到着すると、彼はすぐに依頼達成を認めて依頼書を燃やしてくれた。
これで、フラーノの街の冒険者ギルドに直接報告に行かなくても、依頼が達成されたと分かるようになっている。
とりあえず凍える身体を温めつつ食事をとると、ビーデ シヨは自分の部屋に籠ってしまった。
「少し調べ物をする。お前達は休んでいろ」
彼がそう言ったので、老執事が全員を客間へ案内し、着替えなどを準備してくれた。
何も言われなかったので、ライディーン達も、すっかりくつろいでいる。
「どうするの? あの子達を街の兵隊に引き渡すんじゃなかったの?」
シラクサがそう言ったが、
「万が一の時、人手が必要になるかもしれない。少し様子を見よう」
と、ヴァレリアンが答えた。
万が一の時というのは、どこかへ召喚されてしまった真一を呼び戻す方法が見つかった時という意味だ。
ビーデ シヨも、真一本人というより召喚魔術に興味が湧いたらしく、色々と調べてくれているようだし。
「アザミ様、大丈夫ですよ。きっとシンイチ様を見付けることはできます」
不安そうにソファーに座り、項垂れている阿左美の隣にミントが座り、優しく慰めている。
「でも、このまま財布、じゃなくて先生が帰ってこないと、私達、大変なことになるんだよ」
彼女が言う大変なこととは、御飯が食べられなくなるということだ。
「いざとなれば、阿左美の瞬間移動を利用して、財布をすったり、店先の料理をかすめ取ったりすれば大丈夫だ」
「シラクサ殿、そ、それはさすがに……」
「そうか。じゃあ、成功率を上げるために練習しないとね」
「アザミ殿も真に受けるな!!」
「それにしても、異世界人が本当に実在したとは驚きじゃ」
すっかり仲間気取りで、ホットワインを飲みつつくつろぐガーゼット。
「召喚でできるということは、こちらからも行くことができるのか?」
そう言ったのはライディーンだ。
「何でも勇者召喚の方法が書かれた石板には、召喚する方法と送り返す方法が書かれていたらしいんだけど、割れちゃって、戻し方が分からないんだって」
「それで、千年前の勇者は魔王を倒した後も、この世界に留まったのか」
「てっきり自分の意志で残ったのかと思っておったぞ」
そして、この世界に残った勇者は、その知名度をフルに活かして豪勢な余生を送り、大陸中に血脈を残すことになったわけだ。
この後、とりあえず今日は休もうということになり、それぞれあてがわれた自分の部屋で眠りについた。
明けて翌日。
特にすることがないので、昼頃までのんびりとしていると、ビーデ シヨが部屋から出てきた。
「分かったぞ」
開口一番にそう言った彼に、皆の頭の上に「?」が飛び出す。
「何が?」
老執事が出してくれたお菓子を食べていた阿左美がそう聞く。
「召喚魔術の発動に一発ギャグをやり、それがスベらなければならない理由がだ」
それを聞いてミントがブゥーッ!! と飲みかけのお茶を吹き出した。
「えっ? 理由なんかあったの? 退屈な儀式のオチだと思っていたのに」
「違う」
そう言うと、居間の中央に移動し、全員の顔を見回した。
「召喚魔術に限らず、魔術は必ず成功するというものではない」
「確かに、アザミは一度も成功したことがないな」
「ヴァレリアン、ひっど~い。あれはあれで成功で良いじゃない!!」
「黙れ!! いいか、そして召喚魔術を失敗すると、最悪の場合、異世界の化物が呼び出される可能性があった。その時に備えて安全策があったのだ」
「それが一発ギャグ?」
「正確には違う。一発ギャグをやり、望んでいない者が召喚された時、素早く『ナーデヤネー』と呪文を唱えると、魔術の効果が打ち消されるのだ」
「それで、呼ばれた者は元の世界に強制的に送り返されるというのか?」
ガーゼットが興味深いとばかりに身を乗り出してそう言った。
「そうだ。そして、この効果は召喚後3日間継続される。逆に言えば、それを過ぎるとこの世界に固着され、『ナーデヤネー』の呪文では送り返せなくなる」
「つまり、それを唱えれば先生がまた戻って来るってこと?!」
阿左美が立ち上がってそう聞いた。
「その通りだ」
「で、ですが、どこに召喚の儀式の魔法陣があるのか分かりません」
その召喚の魔法陣を作る苦労をよく知っているミントがそう言った。
「それなんだが、魔法陣でなくても、縁のある場所であれば、成功する可能性がある」
ビーデ シヨは、徹夜で過去の召喚魔術について調べていたのだが、そのほとんどは失敗に終わっていた。
予定外の者が出現する、それ以前に何も出ないなどなど、要は不発がほとんどで、正確な魔法陣と強力な魔力が必要不可欠なのだった。
そして、成功率を上げるための研究も続けられていた。
「過去に偉大な大魔導士が、異世界について調べるために、異世界に弟子を送り込んだことがあった」
「自分で行かずに?」
「本人はそれを望んだそうだが、許可が下りなかったそうだ。あと、問題が発生した時に対処できるのは彼しかいなかったからな。それで、召喚の魔法陣によく似た魔法陣を作り、弟子を送り出した」
「それでどうなったんじゃ?」
「異世界に送り出した弟子を、時間を空けて呼び戻したところ、異形の姿に成り果てていた。慌てた大魔導士は、先ほど話した『ナーデヤネー』に近い呪文で、大慌てで儀式を中断して再び異世界に送り返したそうだ」
「酷い話」
「そうだな。その弟子のことを哀れんだ大魔導士達は、葬儀をし、弟子の家の庭に墓を作ったのだが、そこで試しに帰還の魔術の一部を詠唱したところ、その弟子が戻って来たらしいのだ」
「へっ? どういうこと?」
「後で確認をしたら、異世界でその弟子は、その世界にいた異形の化物と戦っていたらしい。そして、何かの手違いで、その化物の方が呼び戻されたのだ。その後、弔いの代わりに帰還の呪文を唱えたところ、今度は弟子の方が無事に帰って来ることができた。そこに魔法陣はなかったが、本人にとって縁の深い場所だったから成功したのではないかと言われている。つまり、帰還の魔法陣が起動した時点で、この世界と異世界は繋がるのだ。そして、帰還場所は、その人間にとって思い入れ、要は縁がある場所であれば変更ができる」
「つまり……え~っと、それでどうなるの?」
阿左美が言いたいことは分かったけど、だから? と問い返した。
「分からんか?」
「うん、全然」
するとガーゼットが立ち上がって、ビーデ シヨへと近付いた。
「つまり、異世界に召喚をされて3日の間は、まだお互いの世界の通路は繋がっておるということじゃ。それならば、大規模な儀式をしなくても、呼び戻せる可能性がある」
「その通り」
「でも、どうやって?」
「シンイチにとって縁がある場所は分からないが、この近くに、特異点とも言えるすさまじい魔力スポットがある。そこで『ナーデヤネー』の呪文を使い、彼が消えた場所で帰還の呪文を唱えれば」
「せ、先生が帰って来るの?!」
「確率はかなり低いが、ゼロではない」
それを聞いて、阿左美達の表情が一気に明るくなった。
「是非、やろう」(エリチン)
「はい、やりましょう」(ミント)
「面白そうじゃない」(シラクサ)
「私はまだまだ彼と共に旅をしたい」(ヴァレリアン)
「これで御飯の心配をしなくて済む」(阿左美)
口々にそう言う彼女達。しかし、
「しかし、簡単なことではない」
「へっ? 何で?」
「今言った強力な魔力スポットだが……」
ビーデ シヨがそう言うと、ガーゼット達もハッとなった。
どうやら、彼が言う場所について心当たりがあるようだ。
「まさか、あそこか?」
「その通り」
「どこ、どこなの、もったいぶらずに教えてよ」
「魔王と勇者の決闘の地、そして魔王が息絶えた場所、つまり死の谷だ」
それはフラーノの街の北にある城壁山脈の裂け目にして、人界と魔界の境界。
まさに最前線だ。
「そ……それは……」
ヴァレリアンがムムムと唸った。
「えっ、何で、ラッキーだよね、すぐそこなんだよ」
「アザミ、距離の問題ではない。死の谷には誰も入れないのだ。谷を塞ぐ城塞の北側の門は、大陸全ての王の同意がなければ開くことができない」
「ええ~っ、お願いしたら何とかならないの?」
「ならない」
「どうしても?」
「どうしてもだ」
「だったら、門を開かずに死の谷に入るしかないわね」
そう言ったのはシラクサだった。
「それは不可能だ。あの城塞には三重の高い城壁があるんだぞ」
その城塞を自分の目で見学してきたヴァレリアンがそう言う。
「ここにいる全員の力を合わせれば、何とかなるって言ってるの」
シラクサはそう言うと、自分の仲間はもちろん、ビーデ シヨやライディーン達の顔まで見回した。




