第7話 マッチョエルフ エリチン ボデー
【これまでのあらすじ】
勇者として魔王が復活する直前の世界に召喚された女子高生勇者 早瀬阿左美と、その巻き添えとなった教師 眞壁真一、そして二人の付き添いとして勇者神殿から派遣さることになった神官ミント・アンジー。
3人の冒険の旅の最大の障害は金欠だった。
生きていくために3人は冒険者ギルドで、引きこもりのエルフを森から追い出す依頼を受ける。
「あそこか?」
草むらの影からそっと顔を出しつつ、勇者様のパーティーが丘の様子をうかがう。
丘と言っても、ここも鬱蒼とした森の中で、南側の一部だけ大きな岩があり、そこだけ少し開けている。
二枚の大きな岩が「人」という文字のように支え合い、その下の空間がそのまま洞窟の入口になっていた。
「人が暮らしている気配があります」
ミントが、いつでも魔術が使えるように杖を両手で握りしめつつ、そう言った。
確かに、洞窟の入口の周囲には、石を積み上げて作った竈や、洗濯物の物干し場などがある。
さらに、その周辺は草が刈られており、薪が積まれていた。
「そうか、少なくともエルフが暮らしているのは間違いないようだな」
「先生、やっちゃう?」
「何をやるんだ。村長の言うことが正しいなら、相手は千歳のエルフだぞ。もしかしたら、結界を突破して俺たちがここまで来ていることもバレているかもしれん」
「つまり、待ち伏せをされている可能性もあるということですね」
緊張した面持ちのミントがそう言うと、真一がクッと唇を噛み締め、
「あ~、早瀬、お前にミントさんの十分の一でも脳細胞があったら……」
と、心の底から悔しそうにそう言った。
「何気に酷いことを平気で言うよね、先生」
「すまん、嘘偽りのない本音だ」
「さらに、とどめまで刺すし」
「なんにせよ、俺たちは話し合いに来たんだ。コソコソしていたら、襲撃に来たと疑われるかもしれない」
そう言うと、真一が立ち上がった。
そして、堂々と洞窟の入口を目指して歩いていく。
その後ろに隠れるように、ミントと阿左美が続いた。
「先生、エルフって弓が得意なんでしょ? いきなりプスッて矢が飛んできたら大変だよ。刺さったら痛いよ」
「そうだな。では、お前が先頭だ」
「な、なんで?!」
「だって、早瀬は弓道部じゃないか。矢を避けるぐらい簡単にできるだろう」
「どこの学校の弓道部でも、そんな練習してないから!!」
「あ、あのお二人とも、いくら堂々とすると言っても、もう少し静かに……」
ミントが一人でハラハラとしている。
警戒をしながら、それでいながら緊張感皆無の状態で、三人は洞窟の前で立ち止まった。
確かに、誰か、もしくは何かがいるのは間違いない。
というのも、洞窟の中が微かに明るく、そこに不気味な影が映っていたからだ。
さらに、低い呻き声が聞こえてくる。
「これ……エルフ?」
阿左美が洞窟の奥を指差しつつ、そう言う。
確かにミントから聞いた話では、この世界のエルフとは、真一や阿左美が知っているファンタジー世界のそれと、イメージ的には合致している。
外見は細身で美形。耳が笹の葉のように先端が尖っており、長命。
森の中で暮らしている者と、千年前の魔王の侵攻によって住む場所を失ったため、人間を真似て平野部に町や村を築いて暮らしている者がおり、特に森を捨てたエルフたちは寿命が短くなり、人間に近い存在になったらしい。
しかし、森で昔ながらの暮らしをしている者たちは、いまだに神秘の存在として、人間たちから畏怖の念をもって接せられていた。
はずなのだが、今、三人の前にいる何者かは、そのエルフのどのイメージにも該当しない。
グゥオオオオオ!!
と、一際大きな呻き声が聞こえ、ミントと阿左美が小さな悲鳴を上げて真一の両腕にしがみついた。
「ね、ねえ、先生。きっとこれ、ドラゴンの巣だよ」
「そ、そうですね。子供の頃、動物園で見たドラゴンもこのような声で鳴いていました」
「ドラゴンが洗濯物を干したり、竈で料理なんかしないだろう」
「きっと、手先が器用なドラゴンなんだよ」
「まあ、現物のドラゴンを見たことがないから、そんな奴は絶対にいないとは断言できんが」
「先生、ここは一旦出直そう。ドラゴン退治なら、それなりの装備を揃えないと、ブレスの一撃で全滅だよ」
「残念だが、手遅れっぽいぞ」
「ええ~っ?!」
そう、洞窟の前で三人がグズグズしている間に、不気味な影が出口へと近づいてきたのだ。
「シンイチ様、アザミ様、ここは私が食い止めます。その間に逃げてください」
ミントが一人で悲壮な覚悟を決めて、そう言った。
杖を両手で掲げつつ、二人の前に出る。
「何を言うんだ、ミントさん」
そんな彼女を真一が制止する。
「ドラゴン退治は勇者の専売特許だろ」
「へっ?」
そして、ミントの肩を掴んで後ろに下げると、反対に阿左美を前に押し出す。
「ち、ちょっと待って待って! こういうのは教師の仕事でしょ!!」
「断じて教師の仕事ではない」
「私、女子高生!!」
「お前は、女子高生勇者だろ」
「ああ~、何だかひと昔前のライトノベルの題名みたい!!」
そのようなことを言っているうちに、ついに巨大な影が洞窟から姿を現した。
「誰だ、騒がしいな」
低いが、人間の言葉が聞こえてくる。
「ヒィ?!」
再びミントと阿左美が真一に抱き着いた。
「ゴリラか?」
対して、彼は冷静だった。
ファンタジー世界には、オーガやミノタウロスのような人型の巨漢モンスターがよく出てくる。
アニメやゲームでは知能が低い上に凶暴というのがお約束だが、知能が脳の大きさに比例するなら、それほど馬鹿なわけはない。
三人の目の前に出現したのは、まさにその人型の何かだった。
まず、身長は二メートルほどで、ギリギリ人間サイズと言える。
全身が筋肉の塊で、それも漫画に出てくるような、現実にはあり得ない無茶苦茶なムキムキぶりだ。
衣類は、どうやって作ったのか分からないが、動物の革製のブーメランパンツのみ。
その上に、綺麗な金髪のエルフの顔が乗っている。
「…………」
「…………」
「とりあえず、ドラゴンではなかったようだな」
どう反応していいか分からず固まってしまった二人に代わって、真一がそう言った。
「驚いたな。何度か結界に反応があったが、諦めて帰ったと思っていたのに」
マッチョボディーのエルフがそう言いつつ三人の前を横切ると、近くの岩場から湧き出していた水で顔を洗う。
「顔だけ見れば、確かにエルフですね」
「体だけ見たらケン〇ロウだけど」
「あ、あの、突然お邪魔して申し訳ありません」
怯えた表情でジリジリと後ずさっていくミントと阿左美に対して、真一だけは彼に近づいていった。
「先生、危ない! 食べられる!!」
「いや、人間なんか食べないし」
筋肉エルフがそう言いつつブーメランパンツに手を突っ込むと、そこから手拭いを取り出して顔の汗を拭き出した。
「い、一体、あの小さな布の中からどうやって?」
とても興味があるが、直に中を覗いてみたいとは死んでも思わない。
「そうだ、ここを訪ねるときには、合図を決めてあったはずだが」
汗を拭き終わると、手拭いを湧き水で洗いそのまま物干しに掛けつつ、彼がそう言った。
「らしいですね。ただ、村人も誰もその方法は知らなかったようです」
「……そう言えば、最後に村人が訪ねてきたのは、もう三百年も前だったな。人間の寿命では、何世代も代替わりをしているか」
では、仕方がない。
「ちなみに、合図は森に入る前に腕立て百回、腹筋百回、スクワット百回やりながら、“筋肉最高!!”と叫び続けることだ」
「それは肉体的にも精神的にもかなり厳しいな」
「あと、森の中を兎跳びで移動すれば、結界は発動しないようになっている」
「これは、誰も森に入らなくなるはずだ」
真一が呆れながらそう言った。
「何にせよ、森の動物以外と顔を合わせるのは数百年ぶりだ。歓迎するぞ。私の名前はエリチン・ボデーだ」
「これはどうも。私は眞壁真一。あの神官はミント・アンジーで、その隣の頭が悪そうなのは早瀬阿左美だ」
「先生、私の紹介の仕方が酷すぎ!!」
「フム、マカベ殿にミント殿、あと頭の悪いハヤセ殿だな」
「ほらぁ~、嘘を信じちゃったじゃないですか?!」
「真実だろうが」
その会話を聞いていた筋肉エルフ、エリチンがハハハハと笑った。
どれだけ爽やかに笑っても、不気味なだけだが。
「まあ、狭いが中へどうぞ」
そして、そう言いながら洞窟の中へと入っていく。
洞窟の中は狭いどころか、一軒家がそのまま建てられるほど広かった。
そこでは、中央で焚き火が燃やされ、周囲にベッドなどの家財道具が配置されている。
「さあ、どうぞ」
そう言うと、エリチンは獣の毛皮を焚き火の周囲に敷き、そこに座るように勧めてきた。
真一、阿左美、ミントが周囲を警戒しつつ、そこへ並んで腰を下ろす。
洞窟内には、石や丸太を組み合わせて作ったダンベルやバーベルがゴロゴロ転がっている。
「すまんな、客など来ないから、椅子が一つしかないんだ」
そう言うと、エリチンは岩の上に腰を下ろした。
どうやら、それが彼専用の椅子らしい。
「汗臭い」
ボソッと阿左美が呟く。
確かにその通りだったので、真一もミントも彼女を咎めたりしない。
「ハハハ、男の一人暮らしだからな」
それも千年間も。
「あ、あの、エリチンさん」
「何かな、マカベ殿?」
「不躾な質問で申し訳ない。あなたは世間一般で言うところのエルフとは、少々イメージが違うような気がするのだが」
「ん? そうだろうな」
そう言いつつ、右手を伸ばして足下に転がっていたダンベルを持ち上げ、軽々と振り回す。
そのダンベルには鉄のウェイトの代わりに石が嵌められており、それが阿左美の頭と同じぐらいの大きさがある。
「そ、そうよ。エルフって細身の美形なんじゃないの?!」
憧れていたファンタジー世界にやって来たというのに、いきなり金欠で苦しみ、ゲームならあっという間に移動できる隣村まで徹夜で歩き詰め(彼女はほとんど真一の背中で寝ていたが)、挙句の果てにマッチョエルフである。
阿左美が怒りながらそう言った。
「フム、確かに、私は同族の中ではかなり異色ではあるな」
それに対して特に怒った様子もなく、エリチンはそう答えた。
「やはり、そうなのか?」
「ああ、私だって生まれた時から、このような肉体だったわけではない」
「そりゃそうだろう」
「現に千年前までは、ハヤセ殿が言う、細身のエルフだった」
「じ、じゃあ、何がきっかけで?」
「魔王との戦いだ」
それを聞いて、三人がハッとなった。
時期的に関係しているのではないかと疑っていたからだ。
「あなたも、それに参加を?」
「ああ、酷い戦いだった。大陸中の野山が死体で埋め尽くされ、人間もエルフもドワーフもどんどん死んでいった。私はまだ幼かったので、最前線では戦わなかったが、それでもその時住んでいた森が魔族に焼かれ、人間の街に避難をしたのだ」
当時の彼は母親と(父親は戦場に出ていた)一緒に暮らしていたが、森の中で自然と共に暮らしていた者にとって、石造りの街はとても住み心地が悪かった。
人間たちと少ない食料を取り合い、魔族以上に憎んだこともある。
しかし、そんな中、少年だったエリチンは一人の人間の男と出会った。
それは、後に人界の救世主となる勇者で、彼は筋骨隆々とした大柄な人間だった。
たまたま戦場に向かう途中で休憩していた彼は、エルフの子供であるエリチンにも優しく話しかけてくれた。
「もう少し待っていろ。悪い魔王を退治してやるから」
それは、故郷を追われ、いつ殺されてもおかしくない生活を送っていた彼に、生きる希望を与えてくれた。
そう、この人ならきっとやってくれる。
そう思わせるオーラを、彼は放っていたのだ。
現に彼は、その数年後に死の谷における決戦で魔王を倒すのだが。
なんにせよ、エリチンは勇者に憧れ、彼に少しでも近づきたくて体を鍛え始めた。
エルフは人間よりも精霊に近い存在である。
そのため、必要以上に肉体を鍛える者などおらず、どちらかというと自然に溶け込むための精神修練の方を重視していた。
当然、筋トレを始めた彼は同族から浮きまくり、異端扱いされるようになった。
勇者によって魔王が倒され、戦いが終わると、一人でこの森に移り住んだのは、周囲の目を気にせずに思う存分筋トレをするためだったのだ。
「ち、ちょっと待て……ということは……」
「千年ずっとここで一人で筋トレしていたの?」
真一に続いて阿左美がそう言った。
「ああ、もちろんだ。最初は森の管理もしていたのだがな。三百年ほど前からはそれも止めて、筋トレ一本に集中している」
「なるほど、そこまでやれば、こんな出鱈目な身体になったのも頷ける」
人間では決して真似できない所業だ。
なんせ、どんなに頑張っても、この時代(この世界)の人間は百歳まで生きることができなかったのだ。
その十倍以上の期間、ひたすら体を鍛え続けることなど、もう想像すらできない。
ちなみに、エルフは人間と違って寿命がとても長い。
その反面、出生率が低いため、子供は一族で大切に育てられた。
といっても、何事も慌てて身に着ける必要はない。
エルフの子供たちは、読み書きも狩りの仕方も楽器の弾き方も、数十年、数百年かけて超マイペースでゆっくりと身に着けていくのだ。
そのような中で、毎日寸暇を惜しんでダンベルやバーベルを持ち上げている者がいれば、当然異様に感じられたことだろう。
ある意味、何事ものんびりとやるエルフにとっても、筋トレは最も苦手とする分野と言える。
「あ、あの、シンイチ様」
どこをどう感心していいか分からず途方に暮れている彼の肩を、チョンチョンと指で突きつつ、ミントが小声で話しかけてきた。
「ん? どうした?」
「そろそろ依頼の話を」
「ああ、そうだった」
あまりに驚きすぎて、一番肝心なことを忘れていた。
「実はエリチン殿、我々はトリア村の村長から依頼を受けて、ここへやって来たのだ」
「トリア村? ああ、森の南側の村のことだな」
そんな名前だったっけ、とばかりにエリチンがポンと手を叩く。
「トリア村の人たちは、この森の管理を自分たちでやりたいと言っているのだ」
「森の?」
「三百年間放置され、すっかり原始の森に戻っているからな。どうだろう、全部とは言わないまでも、村の近くの森だけでも彼らに管理を任せてはもらえないだろうか?」
「…………」
これは真一なりの交渉だった。
いきなり森から出ていけなどと言ったら、激怒され、ダンベルの代わりに振り回されるかもしれない。
それを避けるために、まずは話し合いのテーブルに相手を座らせる必要があったのだ。
「フム……ところで、マカベ殿たちは村で暮らしているのか?」
「いいや、実は……」
ここで真一は、阿左美の方をチラッと見た。
彼女は、ひたすらエリチンを不気味がっている。
「この早瀬阿左美は、召喚された勇者なのだ」
「ブゥッー!!!」
完全に油断していた彼女が、力一杯吹き出した。
「勇者?」
「せ、先生、何もこのタイミングでそんなこと言わなくても!!」
先代勇者に憧れて千年も一人で筋トレをしていたエルフが目の前にいるのだ。
下手をしたら、「こんな頭の悪い女が勇者なはずがない!!」などとマジ切れされるかもしれない。
「それは、本当なのか?」
エリチンがミントに向かってそう聞いた。
「はい、私は勇者神殿の神官ですが、確かに私たちがこのお二方を召喚いたしました」
「ほぅ……」
そう言いつつ、彼は目を細めてミントの瞳を凝視する。
「その神官服と杖は確かに本物だ。ということは、召喚の儀式をやったのだな?」
「はい、神殿の神官総出で執り行いました」
「召喚の儀式の最後には、一発ギャグをやると聞いていたが、それも?」
「…………はい、やりました」
俯いて半泣きになりながら、彼女がそう答える。
「なるほど、どうりで二人は変わった服装をしていると思ったのだ」
「これは、我々の元の世界の物だ」
今度は真一がそう答える。
「しかし、魔王が復活したとか、魔族や魔物が城壁山脈を越えて攻めてきたなどという話は聞いていないが」
「こんな森の中で、ひき……独り暮らしをしているのに、外の情報が入って来るのか?」
「うむ、両親が定期的に手紙を送ってくれているのだ。ところで今、何か言いかけたか?」
どうやら、魔王軍との戦いに参加していた彼の父親も無事に生き残っていたようだ。
「そ、そうか、ご両親もエルフだから……」
何となく、勝手にすでに亡くなっているようなイメージを持っていたが、寿命的にはまだまだ余裕だ。
「実は、勇者神殿の大神官が魔王復活の予言をしたそうなのだ。だから、まだこの世界のどこにも魔王はいない」
「なるほど、魔王復活前に勇者を呼び出しておいて、その日に備えたわけだな」
そう言うと、エリチンがパァン! と両膝を叩いて立ち上がった。
阿左美とミントが驚いて、真一の後ろに慌てて隠れる。
「勇者よ、私もあなたの仲間に加えてもらえないだろうか?」
「嫌っ!!」
即答する阿左美の頭を、真一が右腕で抱え込んでヘッドロックする。
「イダダダダ!! 痛い、先生、ギブ! ギブ!!」
「黙れ、この馬鹿!!」
そう怒鳴ってから、彼はエリチンの方に顔を向けた。
「それは、この森を離れて我々と一緒に旅をすると言うことでよいのか?」
「無論だ。千年前は何もできなかったが、今は違う。この筋肉を、是非勇者のために役立てたい」
「せめて、『この力を』と言って欲しい」
頭を真一にガッチリと極められたまま、阿左美がそう言う。
「おい、早瀬。これは願ってもないチャンスだぞ」
「まさか先生、オッケーする気じゃないでしょうね?」
「このエルフは戦力になるぞ。俺たちのレベルが上がるまで我慢しろ」
「先生は耐えられるの? この人、絶対面倒くさいわよ」
「面倒くさいのは、お前で十分慣れてる」
「ひっど~い」
「我慢しろ。大丈夫、じきに慣れる」
「ええ~っ?!」
まだブツブツ文句を言っている彼女を無視して、真一はミントの方に顔を向けた。
「ミントさんはどう思う?」
「私は…………が、我慢します」
そう答えた彼女の表情からは、心の中の葛藤が垣間見えた。
本音を言えば、絶対に嫌だが、真一の判断を論理的に否定できない、といったところか。
「では、エリチン殿、よろしくお願いする」
「おお~っ、ありがたい」
「ただし、一つ条件がある」
「なんなりと」
「この早瀬が勇者だということは、しばらくの間、秘密にして欲しいのだ」
「理由は?」
勇者と言えば、いつでもどこでも堂々としており、人々の希望となるべき存在だ。
なぜそうしないのか、と彼は疑問を感じているようだった。
「理由は二つある。まず一つは、この世界は今のところ平和そのものだ。そのような状態で勇者が召喚されたと知れば、当然、魔王復活を連想し、パニック状態になるだろう」
「なるほど、人々の不安を不必要に煽るというのだな?」
「その通り。そして二つ目だが、この馬鹿……じゃなくて、勇者は昨日こちらの世界に来たばかりで、全てにおいて未熟(レベルが低いの)だ。そのような状態で、勇者召喚の噂だけが広まっても、皆を落胆させるだけだろう。あと、魔界サイドに情報が伝われば、命を狙われるかもしれない」
「これも納得だ」
エリチンはそう言うと、少し考え込み、
「では、ハヤセ殿とマカベ殿は、遠い異国から来たということで、良いか?」
「ああ、それで結構だ」
こうして、勇者のパーティーに新たなメンバーが加わったのだった。




