第69話 黒い壁再び
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから魔導書探索の依頼を受けた勇者パーティーは、依頼主を連れて魔導書が封印されている遺跡を探索し、ついに目的の魔導書を発見した。
しかしそれは魔道エロ本で、おまけにそれを奪うべく待ち伏せしていた偽勇者パーティーと戦闘になり
勇者パーティーは偽勇者パーティーに圧勝する。
一方魔界では、魔王召喚の儀式の準備が進められていた。
12月5日
真一達は、朝になると宿屋を出て、フラーノの街、正確にはそのそばにあるビーデ シヨの屋敷を目指して出発した。
昨日までは天候に恵まれていたが、今日は雪が降っており、時間が経つにつれて、風も強くなってきた。
「う~っ、寒い、遭難する」
やはり真っ先に阿左美がそのようなことを言い出した。
「まだ大丈夫だが、あまり酷くなるようなら、雪濠などを掘って退避をする必要があるかもな」
吹雪などになれば視界が利かなくなり、道を間違ったり、パーティーからはぐれて遭難する者が出るかもしれない。
そうなる前に見極めることが大切で、あと少し、あと少しと進むうちに引き返せない最悪の事態になる可能性がある。
何より問題なのは、このパーティーの中に雪山に詳しい者がいないということだ。
旅慣れているシラクサですら、それは同じだ。
「先生、この雪を何とかしてよ」
「無理を言うな」
そうこうするうちに、初日に昼食をとった森の中の広場に着いた。
「あの時の牛オッサンはどこに行ったんだろう?」
「きっとお前を探してさ迷っているよ」
「う~、なんだか嫌だな、それ」
その時、ビーデ シヨがムゥッと呻いた。
「どうしました?」
側にいたミントが、慌てて駆け寄る。
その時、それまで彼の前を風よけ代わりに歩いていたウッドゴーレムがクルッと振り返って、ビーデ シヨをガシッと捕まえた。
最初、それは彼を守ろうとしているのかと思ったが、違った。
重たい荷物をその場に捨てると、ビーデ シヨを担いで、そのまま全力でダッシュをする。
「な、何事?」
「何者かに、こいつを乗っ取られた」
そう叫ぶビーデ シヨ
「えっ?!」
真一が知る限り、この場でそのような真似ができる人間は一人しかいない。
「ホッホッホッ、動くなよ、若造ども」
それまで大人しく従っていたガーゼットが勝ち誇ったように笑いながらそう言うと、彼の傍らにウッドゴーレムが駆け寄って止まった。
彼らは誰も手枷や縄で拘束などはされていない。
雪道を歩くのに、そのようなことをしたら危なかったからだ。
特に、年寄りのガーゼットとアフロダイアは、転んだら骨折する可能性すらあった。
「武器を捨てろなどとは言わん。お前は魔術師のくせに杖すら持っておらんしな」
「なるほど、あんたは元王宮魔術師だったな」
豊富な経験と知識、そして老いたとはいえ強い魔力を持っている。
格下のビーデ シヨが作ったウッドゴーレムなど、時間さえかければ乗っ取れるということだ。
「ビーデ シヨ氏の命が惜しければ、追って来んことじゃ」
「どこに逃げるつもりだ?」
「さあのぅ、とりあえず年寄りにこの寒さは酷じゃ、南の温かい地方に行こうかのう」
彼がそう言ってアフロダイアの方を見ると、ナイスアイデアじゃ、と頷き合った。
「あと、安心するが良い。安全な場所まで逃げたらビーデ氏は解放する。もちろん、お主達が追って来なければという条件付きじゃが。あと、魔導書はもちろんいただく。あと、シンイチには儂等の財布を返してもらおうかのう」
とことん悪役顔になったガーゼットが、ビーデ シヨに杖を突きつけつつそう言った。
「ライディーン、勇者の末裔たるものが、これ以上、罪を重ねるな!!」
ヴァレリアンが彼女に向かってそう言う。
しかしライディーンは、辛そうに視線を逸らすと絞り出すような声でこう答えた。
「もう、貧乏は嫌なのだ」
何とも、切実で重みのある返事が返ってくる。
「この鎧のローンも残っているし」
「くっ……そんな高そうな物を買うから」
確かに彼女が身に着けている金色の鎧は細工も凝っているし、いかにも勇者らしい。
「フッ、エルフの兄ちゃん、次会った時は負けねえからな」
ダイモスがエリチンに向かって拳を突き出しつつそう言う。
するとマッチョエルフは顔色一つ変えずに、微かに目を細めた。
直後に、ビーデ シヨを抱えていたウッドゴーレムの体中からニョキニョキと新芽が吹き出し、そのまま全身が蔦に覆われていく。
「おおっ?! しまった、お前はエルフだったんじゃな!!」
どうしても外見だけを見ていると忘れてしまいそうだが、エリチンは立派な森の住民にして守り人であるエルフだ。
「とぅ!!」
掛け声とともに阿左美が瞬間移動をして、木の枝に埋もれかかっていたビーデ シヨを救出する。
突然強烈なGに襲われて失神をしたビーデ シヨを抱えて彼女が帰ってくると、昨日の再戦とばかりに二つのパーティーが睨み合った。
「さて、どうする?」
「ま、まて、話し合おう!!」
「いきなり実力行使に訴えてきたのは、そっちなんだが」
「こ、これは、まあ、その何じゃ……すまなんだぁ!!」
ついに恥も外聞も遠い世界に放り投げて、ガーゼットが雪の上に土下座をした。
「この歳で、牢獄生活などしたら、3日で肺炎を起こして死んでしまう。わ、儂だけならいざ知らず、アフロダイアも同じじゃ!!」
「そ、そうじゃ。儂等は他人の金を奪って、のうのうと贅沢な暮らしをしてきたから、もう粗末な生活には戻れんのじゃ!!」
「最低だな」
するとライディーンが、雪に顔を擦り付けている二人の前に進み出た。
「もう本当に抵抗はしない、素直に罪を認め罰を受けよう。しかし、どうかお願いだ」
「自分が全ての罪を背負うって言うのか?」
「いいや、罪は老い先短いこの二人が全部背負うので、未来ある若者である私は見逃して欲しい」
「お前、本当に勇者の子孫か?!」
「まあ、勇者ワルダスカー様も色々と性格には問題があったようですし」
勇者神殿の神官が冷や汗を垂らしつつそう言う。
「ラ、ライディーン、お前という奴は、これまでさんざん面倒をみてやった恩を忘れおって!!」
「そもそも私がいなかったら、お金は手に入らなかったはずだ。恩と言うなら、こちらの方こそだな」
「おい、俺も見逃してくれよ。何ならあんた達のパーティーに入ってやっても良いぜ。格闘家はいないみたいだし」
「うちにはエリチンがいるから、もう筋肉担当はいらん」
「では、私を入れてくれ。前衛が騎士だけでは心もとないだろう。私が加われば戦いがもっと楽になるぞ」
「別に戦闘が目的のパーティーじゃないし」
どんどん、相手パーティーの人間としてのランクが下がっていく。
「どうする、シンイチ?」
シラクサが呆れながらそう言った。
「これ以上の面倒は御免だ。さっさとフラーノの街を目指そう」
「先生、木の人形が動けなくなったけど、荷物どうするの?」
「エリチン、運べるか?」
「筋トレにはちょうど良い」
そう答えるとエリチンが、全身、緑の葉と蔦に覆われたゴーレムから荷物を取り出して担ぐ。
「じゃあ頼む。それじゃあ、ビーデ シヨを起こせ。出発するぞ」
どんどん降雪が激しくなってきている。
急がなければ、最悪の場合、雪の森で一泊することになるだろう。
先頭をエリチン、その後ろにライディーン達、そして真一達の順で進んでいく。
正気に戻ったビーデ シヨは、最初は怒っていたが、自分のウッドゴーレムが乗っ取られたせいでこうなったのだから、あまり強く文句は言えないようだった。
その時、真っ白な風景の中に黒い染みのような物が現れた。
「何だ?」
それは真一の目の前に黒い壁のように広がる。
サイズ的にはちょうど扉一枚分程度で、どこかで見覚えがあった。
「先生、それって!?」
後ろにいた阿左美が驚いてそう叫んだ。
直後に、真一だけがその黒い空間に引きずり込まれたのだった。




