第68話 異世界魔王召喚儀式
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから魔導書探索の依頼を受けた勇者パーティーは、依頼主を連れて魔導書が封印されている遺跡を探索し、ついに目的の魔導書を発見した。
しかしそれは魔道エロ本で、おまけにそれを奪うべく待ち伏せしていた偽勇者パーティーと戦闘になり
勇者パーティーは偽勇者パーティーに圧勝する。
一方魔界では、魔王召喚の儀式の準備が進められていた。
12月4日
王宮魔術師をクビになったガーゼットの生活は荒れた。
大きな屋敷と山ほどの貯えがあったので、もう働かなくても余生を悠々自適に暮らせたのだが、彼は人一倍社会的地位に固執する、承認欲求がモンスターだったのだ。
何とかグレートを失脚させ、再び王宮魔術師の地位に復帰したいと考え、陰謀や策謀を巡らせる。
しかし、落ち目の時こそ、人望が物を言う。
彼にはそれが全くなかったため、何をやっても上手くいかず、信じた者に裏切られ、逆にどんどん立場が悪くなっていった。
気が付くと、周囲に自慢をするために大金を払って囲っていた愛人達が逃げ出し、さらに数少ない友人達も皆、離れて行った。
そして、とどめは、
「ガーゼット殿、あなたを反逆罪で逮捕する」
ある日、自棄酒をあおり、街の高級酒場でくだを巻いていた時、彼のところにやって来た騎士団長がそう言った。
その時の、彼の勝ち誇った「ざまあみろ」と言いたげな表情は、今でもハッキリと覚えている。
「儂が反逆罪だと、ふざけるな!!」
「ふざけるのはあなただ。王宮魔術師グレート殿への誹謗中傷、それは彼を任命した国王陛下への不敬にあたる」
「フンッ、いつからあの若造と国王陛下の威信が同一になったのじゃ。儂の陛下への忠誠は今も昔も全く変わっておらんわ!!」
「そうか……おい、貴様!!」
騎士団長が、酒場のマスターを乱暴に呼びつけた。
「は、はい、何でございましょう?」
「貴様は、このガーゼットが国王陛下に対する不平不満を口にしたのを聞いたことがないか?」
「み、店での会話は、決して他者に漏らさないというのがルールでして」
「これは国王の命による正式な捜査だ。包み隠さず申せ!!」
「は、はい。では、ガーゼット様は、『儂のような優秀な魔導士をクビにするなど、国王の目は節穴で、頭は腐ったスライムだ』と仰っていました」
「な、何を馬鹿な?!」
「何と、恐れ多い」
「儂がそのようなことを言うわけがない!!」
「他に証人はいるか?」
「店の従業員は皆、聞いておりました」
「貴様らぁ~、皆グルだな!!」
こうして、ガーゼットの復権の道は完全に閉ざされたのだった。
「で、本当に言っていなかったのか?」
「……まあ、少しぐらいは……仕方がないじゃろう、ムシャクシャしていたんじゃから!!」
「この爺さん、どこまで我儘なんだ」
魔人――これも元だが――ガーゼットの転落人生については、よく分かった。
彼は国王の前で裁かれ、長年の王国への忠節に免じて、命だけは助けられた。
その代わり、全財産を没収され、国外追放にされたのだった。
「そして、放浪の旅の途中で、偶然立ち寄った村で、ライディーンと出会った」
酒場で自分は偉大なる魔術師だと自慢話をしていた時、そこで働いていたのが彼女だったのだ。
当時のライディーンは、自分が勇者の子孫だということは知っていたが、ただそれだけだった。
口に出して言っても、誰も信じてくれないし、逆に危ない奴扱いをされるからだ。
ただ、村の若者が義務として参加をさせられる剣の練習では、ずば抜けた才能を発揮しており、それなりに信頼はされていたが。
彼女が身に着けていた指輪に気付いたガーゼットが、
「それは勇者の紋章、どこで手に入れた?」
「これは、我が家に代々伝わる家宝だ」
彼の質問にそう答えた時、ガーゼットが何かひらめいた。
「お主は勇者の子孫か?」
「そうだ。私は魔王を倒した勇者ワルダスカーの子孫だ」
「ならば、儂と共に大陸を旅して、魔族や魔獣に苦しめられている民草を救おう!!」
こうして、二人は一緒に旅をすることになったのだった。
その後、用心棒をしたり、隊商の護衛をしながら大陸を旅して、途中で治癒魔術師のアフロダイアや格闘家のダイモス達と出会って行った。
アフロダイアは神官ではない。
そして、治癒魔術は神の奇跡と呼ばれ、主に神官達が使用していた。
彼女は、世にいう闇医者のような存在で、金はあっても神殿に行けない罪人達などを治療していたのだった。
そしてダイモスは、それなりに有名な格闘家の弟子であったが、金を稼ぐために禁止されていた闇試合に参加をして破門され、ゴロツキのような状態になっていた。
彼が自己紹介で毎回言っている王都での武術大会優勝とは、この闇試合のことだった。
「これじゃあ、冒険者ギルドに登録はできないよな」
一通り話を聞き終わった真一がそう言った。
国を追放された魔術師、犯罪者を治療してきた治癒魔術師、そしてゴロツキである。
唯一問題がないのはライディーンだけだった。
「それで、お金を稼ぐために、詐欺師まがいのことをしていたのか」
ヴァレリアンがそう言うと、ライディーンがバツが悪そうに目線を逸らした。
彼女も最初から、そのようなことをしたかったわけではないだろう。
ただ、仲間と共に旅を続けるためにはお金が必要で、それを手っ取り早く手に入れるには、他に方法がなかったのだ。
「実際に、盗賊や獣を退治したこともあったのだが、そういう仕事は、基本的に冒険者ギルドに握られているからな。はぐれ者である私達には、報酬が安いか、依頼主が怪しいかのどちらかしかなかった」
だから、自作自演の魔獣騒ぎを起こして、近隣の村から報酬を脅し取っていたというわけか。
「まったく」
とりあえず、彼らは立派な犯罪者で、同情の余地がないということだけは分かった。
「フラーノに連れて行って、街の衛兵に引き渡そう」
当然、そういう結論になる。
「金を村人達に返せば、それほど重たい罪には問われないだろう。幸い、誰も傷つけていないみたいだしな」
真一がそう言うと、一同が頷いた。
12月5日
出発が遅れたため、昨日の宿屋に到着する頃には、完全に日が落ちていた。
今日はガーゼット達を大部屋にまとめて閉じ込め、真一達は個室に泊まることができた。
当然、ドアと窓は全てエリチンに封をさせている。
「これは、精霊魔術か……」
窓が開かないことを確認したガーゼットが、ベッドに腰掛けつつそう言った。
ここに連れて来られるまで、何とか逃げ出せないかと隙を伺っていたが、全くなかった。
「ずっと考えていたんじゃが、あいつらは何者じゃ?」
とんでもない魔力を持つ魔術師、眞壁 真一。
彼は、この世界にある魔術形態を無視して、独自の魔術を使っていた。
それも恐ろしく短時間で構成をして、とてつもない威力がある。
「本物の雷を起こせる魔術師など聞いたことがない。そんな奴がいたら、大陸中に名が知れ渡っているはずじゃ」
「俺は、あのエルフだ」
ダイモスが、思い出しただけでも恐ろしいと言いたげに身を震わせる。
「あんな化物みたいな体をして、精霊魔術を使う。俺の全力の突きを受けて、微動だにしないなんて」
彼は、その気になれば素手で家の壁を破壊できる。
「何よりも恐ろしいのは、あの訳の分からない格好のアザミとかいう女じゃよ」
アフロダイアがそう言った。
「あんな恐ろしい召喚獣、見たことも聞いたこともないわ」
馬の顔をした鹿。
間抜けな外見のくせして、ゴッドバードを瞬殺したのだ。
「そう言えば、あれはあのままにして来て良かったのか?」
「すぐに消えるとは言っていたのう」
馬顔の鹿は、あの遺跡に残してきたのだった。
「彼らは、アザミのことを何度か勇者と呼んでいた」
ライディーンがそう言った。
確かに、何度か真一が彼女のことをそう呼んでいたのを思い出す。
「あと、勇者神殿の女神官がいたな」
それはミントのことだ。
「まさか……本当に?」
「いやいや、勇者と言えば、筋骨逞しい男だろう」
「しかし、勇者の子孫のライディーンは女じゃぞ」
「じゃあ、あのアザミも、勇者の子孫か?」
「それは断じてない!!」
ライディーンが心底ムカッとしたとばかりにそう言った。
「しかし、あの女は儂の電撃の魔術を受けて平然としておったぞ」
「それは、あの不思議な服のせいじゃないか?」
「勇者の鎧には、魔術を無効化できる効果があったそうじゃぞ」
「……」
思わずそう言って黙り込んだ時。
「早瀬、お前、いい加減にしろ!!」
「でも先生、今日はお肉食べ放題だって言ったじゃない!!」
「物には限度ってもんがあるんだよ!!」
という賑やかな声が階下から聞こえてきた。
「うるさい、私はもう寝るぞ」
ビーデ シヨのそう言う声が聞こえると、彼と思われる足音が二階に上がってきて、自分の部屋へと入った。
「そう言えば……」
ガーゼットが何かに気付いた。
「ビーデが荷物を運ばせているウッドゴーレムは、どこに行ったんじゃ?」
「村人を驚かすといけないから、村の外に残していたね」
アフロダイアが、村に入る時のことを思い出してそう答える。
「ほほぅ」
ニヤッと悪い顔で笑うガーゼット。
12月5日
魔王城では、魔王召喚の儀式が進められていた。
広間にはドラゴンの血と溶かした金で書かれた魔法陣が描かれており、ダークエルフのデォマヌスが召喚魔術を唱えている。
「あのデォマヌスが、これだけ長い詠唱を行うなんて」
「魔王様を召喚するのは大変なんだな」
周囲には上級魔族達が集まっており、大人しく儀式を見守っていた。
「そう言えば、最近景気はどうだ?」
「さっぱりだよ。東の毒沼をリゾート地にしようと思って土地を買い占めたんだけど、絶滅保護品種の虹色マンドラゴラの群生地があってさ、許可が下りないんだ」
「だから言っただろう。土地を買い占める前には、しっかり下調べをしないと駄目だって」
「昔だったら、マンドラゴラごときで開発中止なんてありえなかったけどな」
「あと、今年は爆発岩が不作らしい。値段が跳ね上がって、洞窟の掘削コストが洒落にならないレベルだって言ってた」
「ほら見たことか。あんまり取り過ぎると、絶対将来不足するって。分かり切っていたことだ」
どうやら彼らは、かなり退屈をしているようだ。
居眠りをしたり、魔王召喚とは全然関係ない雑談をしている者達が散見された。
その時、
「フゥ、詠唱が終わりましたよ」
デォマヌスがそう言った。
【これで、魔王様が召喚されるのか?】
この広間の床面積の3分の1ほどを占有しているシャドードラゴンが静かにそう聞いた。
「いいえ、まだ重要なプロセスが残っています」
【それは?】
「最後に一発ギャグをする必要があります」
【……】
「……」
水を打ったように静まり返る広間。
ドォ~ンとヴォルノー火山が噴火する音が不気味に響く。
【で、では、デォマヌス、とっておきの奴を頼む】
「キャラ的に私には無理です」
【1万年生きているのなら、大爆笑間違いなしのネタの一つや二つあるだろう】
「ただの一発ギャグでは駄目なのです」
【何だと?】
「全然面白くない、要は寒いギャグでなければならないのです」
【な、何で?】
「さあ、分かりません」
【……】
シャドードラゴンがゆっくりと顔を上げると、広間内を見回した。
彼が顔を向けると、上級魔族達が、慌てて、もしくはさりげなく顔を逸らす。
【これだけの魔族が集まりながら、一発ギャグができる者がおらんのか?】
「いやぁ~、さすがにこの面子の中で、それをやるのはちょっと」
「きっと、顔を合わすたびにからかわれるでしょうし」
「儂など、勇者にジャンケンで負けたこと、未だにからかわれていますぞ」
魔族達による魔王召喚は、ここにきて完全に手詰まりになってしまったのだった。




