第66話 真の勇者誕生WWW
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから魔導書探索の依頼を受けた勇者パーティーは、依頼主を連れて魔導書が封印されている遺跡を探索し、ついに目的の魔導書を発見した。
しかしそれは魔道エロ本で、おまけにそれを奪うべく待ち伏せしていた偽勇者パーティーと戦闘になる。慎一と魔人ガーゼットによる激しい魔術戦が始まった。
「いやぁ~、凄まじいわね。」
魔術戦というのは、破壊力が大きいため、規模が大きくなると街や森が更地になることがある。
まさに、今がそれだった。
辺り一面、雪原だったはずなのだが、今は雪は無くなり、地面が焼け焦げている。
その中心に、ガタガタと震えながら抱き合っているガーゼットとアフロダイアがいた。
二人の周囲には、砲弾が落下した後のようなクレーターがいくつもできており、焦げ臭い匂いが立ち込めている。
「雷はわざと外すのが難しいな、危うく当てるところだった。」
「う~、耳がガンガン鳴ってる。」
平然としている真一の隣で、阿左美が耳を両手で軽く叩いている。
「落雷の電圧は200万から1億ボルトっていうから、ピ〇チュウなんか目じゃないぞ。」
「〇カチュウがこんな技使ったら、クレーム殺到だよ。」
確かに、ライバルのポ〇モンが黒焦げになって感電死をしたら、別作品になってしまう。
「さて、今のでコツを掴んだから、もう一発いってみようか?」
真一がそう言うと、ガーゼットとアフロダイアが必死に首を横に振る。
「お、お前は、あんな大魔術を何度も使えるのか?」
「何を言ってるんだよ、俺がやったことは、上空の気圧を操作しただけだ。」
「神の偉業か? 奇跡か?」
「大自然の法則だ。」
なんにせよ、あんなものをもう一度受けたら、本当に死んでしまう。
魔術師は対魔力用のバリアーというべき障壁を張ることができるのだが、さすがに本物の雷には通用しない。
そこへ、ライディーンが駆け寄って来た。
その後ろから、ヴァレリアンも追いかけてきている。
どうやら、二人の危機を助けるために戦闘を中断して駆けつけてきたようだ。
片手剣と盾を構えて、真一達の方に対峙する。
「大丈夫か?!」
「だ、駄目じゃ、こいつら化物だ……勝てる気がせん。」
「この歳で漏らした……。」
もうガーゼットとアフロダイアは完全に戦意を喪失している。
「よくも、仲間を許さんぞ!!」
「先に仕掛けて来たのはそっちだ。」
ヴァレリアンも合流した真一が、平然とそう言い放つ。
「王国騎士。」
ライディーンがヴァレリアンに話しかける。
「何だ?」
「先ほど、私の本気が見たいと言っていたな。良いだろう、見せてやる。勇者の究極魔術を。」
「な、なにそれ、恰好良い。」
「黙れ、なんちゃって勇者。」
せっかく盛り上がってきた雰囲気を台無しにしそうになる阿左美を、真一がそう言って黙らせる。
「ラ、ライディーン、まさかあれを召喚する気か?!」
ガーゼットが驚いている。
どうやら、かなり彼女の言う「本気」は危険なようだ。
彼女は右手の手甲を外し、手袋を脱ぐと、以前、自分が勇者の末裔である証拠として村人達に見せた指輪を掲げた。
そこには確かに、勇者の紋章が細工されている。
「勇者のみ召喚が可能な、神鳥ゴッドバード。」
「召喚獣?!すごい、やっぱり格好いい!!」
阿左美が瞳を輝かせて、その指輪に注目している。
「よせ、ライディーン、あれは危険じゃ!!」
「そうじゃ、前回召喚した時、頭を嘴で突かれて大怪我をしたのを忘れたか?!」
どうやら、かなり扱いが難しい神獣のようだ。
「大丈夫だ、もう突かれるのには慣れた。」
「慣れるなよ。」
「我が召喚に応えよ、神代より空を守護する神聖なる鳳よ!!」
ライディーンがそう唱えると、勇者の指輪が輝き出した。
「どうやら本物っぽいな。」
それを見て真一がそう言う。
そして、勇者神殿の神官であるミントの方に顔を向けた。
「ミントさん、そのゴッドバードって何だ?」
「神の鳥と呼ばれる勇者の従者で、鳴き声が可愛くて、戦いで荒んだ勇者の心を和ませたとか、卵を調理するととても美味しかったとか、色々な逸話が残されています。」
「あんまり、戦闘には向いていないようだけど。」
「ただし、とても嘴が鋭くて、時々勇者ワルダスカーが突かれて怪我をしています。」
「ただの躾のなっていないペットだな。」
「先生、先生、今度は私が戦いたい。」
阿左美が自分の顔を指さしつつ、そう言った。
「早瀬が?」
「そう、私も召喚魔術が使えるでしょ。」
「お前のは、着火の魔術だろ。それが失敗して毎回、UMA(未確認動物)が出現しているだけで。」
「あれは、あれで凄い才能なような気がするが。」
ヴァレリアンがそう言うと、ミントとシラクサが頷いた。
「まあ、良いだろう。偽勇者対なんちゃって勇者、どちらがよりキワモノか、決着をつけてこい。」
「勝っても負けてもキワモノなのね。」
なんにせよ、真一の許しを得た阿左美が前に出た。
そして右手で右目を隠し、クックックッと笑い出す。
「あなた達に本当の恐怖を教えてあげる。」
お得意の厨二的な台詞を口にしだした。
「あれは、また失敗するパターンだな。」
「次は、どんな珍獣が出てくるか。」
「そういえば、この間の牛男ってどこに行ったのでしょうか?」
「また冒険者ギルドに魔獣退治の依頼が来ているかもな。」
彼女以外の4人は、後ろで雑談を始めた。
「そういえば、昨日の宿で出たパン、美味しかったよな。」
「私もそう思いました。柔らかくて、あと砕いた胡桃が混ぜられていて。」
「うむ、あれはなかなか美味だったな。」
「私は、ミルク酒の方が美味しかったけど。」
「あ~、あれも良かったけど、ちょっと濃すぎて胸やけがしそうになった。」
「寒い地方特有ですよね。」
「ねえ、少しで良いから、私の見せ場を盛り上げてよ!!」
あまりに普段通りな仲間達に、阿左美がそう抗議する。
「いいから、人面犬でも犬面人でも好きなのを出せよ。」
「そんなありきたりなのは出さないよ!!」
「……結局出すんじゃないか。」
その時、ライディーンの召喚が終わった。
突然、空に金色の光が走り、そこから大鷲のようなシルエットの大型の鳥が姿を現す。
炎をまとっているように見えるが、それは羽毛の色のせいだろう。
またサイズはかなり大きく、翼を広げたら5メートルぐらいありそうだ。
それがバサッ、バサッと翼を羽ばたかせ、降りて来てライディーンの隣に着地する。
「……向こうの勝ちだな。」
「まだ、こっちは何もやってないじゃない!!」
「いや、どう考えても、あれより凄いのを早瀬が出せるはずがない、不気味なのは出せるだろうけど。」
「出すもん、絶対出すもん!!」
「でも、やっていることは発火の魔術なんですよね。」
そう言うミントを無視して、阿左美が改めてライディーンの方に向き直った。
「た、確かに、あの鳥は恰好良いわね。」
ゴッドバードの名は伊達ではないということだろう。
とりあえず、頭の中で魔術の構成をして、魔力を注ぎ込み、そして発動させる。
「これで、指先にポッと火が付いたら爆笑だな。」
「アザミならあり得る。」
「他人の期待を裏切ることに関しては天才だからな。」
「皆、ひっどぉ~い!!」
その時、阿左美とライディーンの中央付近に何かが出現した。
どうやら発火の魔術は失敗したが、何かを呼び出すことには成功したようだ。
「あ、あれは?!」
最初、それは大きな鹿に見えた。
しかし、よく見ると顔が――。
「馬だ。」
そう、馬だった。
馬の頭が鹿の身体についているのだ。
「早瀬、お前……これは自虐ネタか?」
「違う!!」
「馬と鹿か……。」
「確かにアザミらしい組み合わせだ。」
「シラクサさん、それは言い過ぎですよ……プッ。」
思いっきり馬鹿にされた。
すると、阿左美以上に馬鹿にされたと感じている人が、もう一人いた。
「ば、ば、ば、馬鹿にしてぇ~。」
それは対戦相手であるライディーンだった。
どうやら彼女は、阿左美がふざけて自分のことをからかっていると考えたようだ。
「いけ、ゴッドバード!!」
彼女がそう命じると、美しくて巨大な猛禽類が翼を広げて舞い上がった。
そして、上空から加速をつけて、まるで鷹が獲物の小動物に襲い掛かるように、急降下してくる。
目標は阿左美が召喚?した馬顔の鹿だ。
こちらは、のんびりと雪が解けた地面に鼻を寄せて、匂いを嗅いだりしている。
「危ない!!」
阿左美がそう叫ぶ。
その時、馬顔の鹿が消えた。
すぐ側に迫っていたゴッドバードの鋭い爪が獲物を捕まえ損ねて空振りする。
直後に、その大きな体が地面に叩きつけられた。
「?!」
それには、ライディーンはもちろん、阿左美や真一達まで驚いた。
地面の上で悶え苦しむゴッドバードのすぐそばに、馬顔の鹿がスチャッと着地をする。
彼(?)は爪に引き裂かれる直前にジャンプをし、ゴッドバードを真上から踏みつけたのだ。
「ゴッドバード!!」
ライディーンがそう叫ぶと、ハッと正気に戻ったゴッドバードが身構えた。
バッと翼を広げて威嚇をする。
すると、馬顔の鹿が後ろ足だけで直立をする。
そして、トン、トンと半身になりながらステップを踏む。
「あ、あの足運びは……できる。」
ヴァレリアンがそう呟く。
キィエエエエエ!! ゴッドバードが甲高い声で鳴き、飛び上がろうとするが、それより先に馬顔の鹿が動いた。
身軽に飛び上がると、空中で身体を回転させ、そのまま回し蹴りを放ったのだ。
鳥は空を飛んでこそ長所を生かせる。
頭部を真横から蹴り飛ばされたゴッドバードの巨体が吹き飛び、木の幹に叩きつけられた。
「あ、あいつ……早瀬より使える。」
「ひ、否定できないのが悔しい。」
ゴッドバードがカッと嘴を開くと、先ほどとは違う奇声をあげた。
どうやら、それは空気を激しく振動させる超音波のような攻撃だったようだ。
スッと避けた馬顔の鹿の背後で、かなり太い杉の木が真っ二つに裂ける。
そして、自分に向けて嘴を向けようとするゴッドバードの懐に飛び込むと、真下から全身のバネを使ったアッパーを放つ。
「ああっ、ゴッドバード!!」
ライディーンの悲痛な叫び声が響き渡った。
その彼女の視線の先で、神獣にして神の鳥の姿が光の粒子になって消えた。
「死んだのか?」
さすがにそれはやり過ぎだろうと真一が聞くと、ミントが、
「ゴッドバードは異世界から召喚をされ、役目を果たすと、また元の世界に戻っているはずです。」
と、答えた。
「つまり、この世界から叩き出されたわけだ。」
「そういうことです。」
「凄い、最高だよ、お前!!」
阿左美がそう叫びつつ、馬顔の鹿に駆け寄って行く。
すると、振り向きざまに蹴り飛ばされた。
ヒョエエエエエ!! という間抜けな悲鳴をあげつつ、彼女の身体が宙を舞い、ライディーンに激突した。
二人が重なるように倒れ、目を回している。
ブルルと鼻を鳴らしてドヤ顔をする馬顔の鹿。
「真の勇者の誕生だ。」
真顔でそう言う真一に、阿左美とライディーンが声を揃えて、
「それだけは嫌ぁああ!!」
と叫んだ。




