第65話 魔法戦
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから魔導書探索の依頼を受けた勇者パーティーは、依頼主を連れて魔導書が封印されている遺跡を探索し、ついに目的の魔導書を発見した。
しかしそれは魔道エロ本で、おまけにそれを奪うべく待ち伏せしていた偽勇者パーティーと戦闘になる。
第65話「魔法戦」
魔人ガーゼットの電撃攻撃は、阿左美の制服で防がれた。
と、いうか、通用しなかった。
「ならば、もう手加減はせんぞ」
彼は治癒魔術師のアフロダイアに目で合図を送ると、魔術の構成にかかった。
この状態の魔術師は、とても無防備だ。
そのため、アフロダイアが防御用の魔術を発動する。
ようは、バリアーのような物を彼の周囲に張ったのだ。
シラクサが矢を放ったが、ガーゼットに近づくと見えない壁にぶつかって逸れてしまった。
「じゃあ私が!!」
阿左美が瞬間移動、正確には超高速移動攻撃を行おうと身構えるが、それを真一が止める。
「止めておけ」
「でも」
「相手の手持ちカードが何枚あるか分からないうちは、慎重に動くべきだ。お前もゲーマーなら分かるだろ」
「た、確かに、ボス戦の時は、他のプレイヤーがボスにボコボコにされるのを見て、対策を考えるけど」
「来るぞ」
その時、魔人ガーゼットの魔術の構成が終わった。
「今だ、胸の炎!!」
それが発動の合図だった。
ガーゼットが胸を張るとガッツポーズを取り、その胸の前に炎の塊が出現する。
「火炎系の攻撃魔術か」
「私を盾にするのは止めてよ」
「それは奥の手だ」
そう言うと、真一が自分達とガーゼット達のちょうど中間付近の気圧を一気に下げ、真空の壁を作った。
そこへ、ガーゼットの胸の炎が発射される。
それは、炎というより熱線だった。
鉄をも溶かす超高温のビームが真一達目がけて照射され、周囲の雪が一気に解けた。
「あちちちちちちっ!!」
阿左美とミント、そしてシラクサが炎に背中を向けて蹲る。
もし直撃していれば、その程度で防げるはずがない。
ガーゼットの攻撃は、真一が作り出した真空の壁で止まっていた。
「熱が伝わる方法は二つ、伝導と放射だ。伝導とは、直接触れることによって熱が伝わること。鉄板の一部を加熱すると、全体にそれが伝わっていくやつだ。そして放射とは、熱が電磁波によって離れた相手に伝わる方法。今、熱いのはまさにそれだ」
真一が激しく発光する真空の壁を、目を細めて睨みつけつつそう説明をする。
ガーゼットの攻撃は数秒で終わった。
そして、自分の必殺技が防がれたことに驚く。
「な、何じゃ今のは?! 魔術の障壁? いや、空気そのものが壁になったように見えたが?!」
「一気に気温が上がったな」
「あ~っ、暖かい」
彼らの周囲の雪が解け、一時的ではあるが気温が上がっている。
「では、これならどうじゃ、雷を止められるか?」
今ので相当疲れたのだろう。
肩で息をしつつ、魔人ガーゼットが再び魔術の構成に入る。
「先生、あの真空の壁は雷も止められるの?」
「完全に止めることは難しいな」
つまり、防ぎきれない可能性が高いということだ。
「じゃあ、どうするの? このままだと、10万ボルトが来るよ」
まるで黄色いネズミの必殺技のようだ。
「いいか、実は空気は電気を通しづらいんだ」
「えっ?」
再び真一が、化学の教師らしいことを言い出した。
「一般に稲妻と呼ばれる物は、空から地面に落ちているだけに見えるが、そうじゃないってことだ」
「ええっ? どういうこと?!」
その時、再び魔人ガーゼットの準備が終わった。
「喰らえ、若造!!」
魔人ガーゼットが杖を頭上に振りかざすと、空が光ったように見えた。
直後に稲光が走る。
それは真一に向けてジグザグに屈折しつつ落下した。
いや、そう見えただけで、直撃する寸前にそれて地面に突き刺さった。
「な、何じゃと?! そんな馬鹿なことがあるか?!」
よほど自信があったのだろう。
必殺の一撃が外れたことに、ガーゼットが驚いている。
「雷にはいくつか種類がある。まず、目に見えないいくつもの放電が走り、大気中に道を作る。さらに地上からも放電が伸び、そこに本命の稲妻がドーンと落下する」
「えっ、雷って、ビカビカって光って落ちるだけじゃないの?」
「違うんだよ。そして、あの爺さんが作ったちゃちい電撃もどき程度なら、俺は地上から小さな放電を起こして、簡単にそっちへ誘導することができる」
「ち、ちゃっちい?!」
「ああ、そうだ。あんたのは所詮、魔力で周囲の静電気をかき集めているだけだ。あんなもの、雷撃とは言わない」
「じゃあ、先生はできるの?」
「見たいか?」
真一がそう言うと、空を見上げた。
「爺さんもいい加減疲れたみたいだし、今度はこっちのターンだ」
確かに、魔人ガーゼットはかなり魔力を消費し、しばらくは大技を出せそうにない。
「アフロダイア、儂に魔力を補充してくれ」
「しょうがないね」
そう言うと、二人が杖を重ねている。
どうやら、そうすることによって魔力を交換できるようだ。
その時、急に周囲が暗くなった。
「ん、何じゃ?」
驚いて頭上を見上げると、白い雪雲が見る見るうちに暗雲へと変わっていく。
「風が……」
その雲に吸い寄せられるように周囲から風が集まり、渦巻きだした。
「ま、まさか、これをあの若造がやっておるのか?」
恐る恐る視線を向けると、真一は腕を組んで空を見つめていた。
端から見ると、とても魔術を構成しているようには見えない。
ゴロゴロと地鳴りのような音が響きだした。
「こ、これは……雷撃の呪文などではない」
ガーゼットの呟きを聞いて、アフロダイアが怪訝そうな表情になる。
「何を言っておるのじゃ?」
「あの若造は、本物の雷を起こそうとしている」
「そんな馬鹿な、できるわけがない」
「そう、そんなことができるわけがない。しかし、現に儂らの頭の上にそれがある」
「雷雲っていうのは、地表の湿った空気が温められて上昇気流となり、上空で冷やされて、今度は雲の中の水蒸気が氷の粒になる。そして、重たくなった氷が今度は落下をして、その際に氷の粒同士がぶつかり合って、プラスの電荷とマイナスの電荷が発生する。そして、空気がその電荷に耐えられなくなると、地上に向けて一気に放電される。これが雷だ」
「な、何を言っておるのじゃ?」
「そうだよ、先生。意味不明だよ」
「あの爺さんたちは別にして、お前は分かれよ、早瀬」
ようは、真一は得意の気圧を操る魔術で、頭上の気圧を急激に下げたわけだ。
その結果、周辺の空気がそこへ集まり、上昇気流が発生して、人工の雷雲を発生させた。
「行くぞ、覚悟しろ」
準備が整ったと判断した真一が、ニヤッと笑ってそう言った。
直後に周囲が閃光に包まれた。
同時に、鼓膜が破れそうになるほどの大音響で雷鳴が鳴り響き、驚いて抱き合っているガーゼットとアフロダイアが吹き飛んだ。




