第64話 こんなに真面目に戦ったの初めて
これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから魔導書探索の依頼を受けた勇者パーティーは、依頼主を連れて魔導書が封印されている遺跡を探索し、ついに目的の魔導書を発見した。
しかしそれは魔道エロ本で、おまけにそれを奪うべく待ち伏せしていた偽勇者パーティーと戦闘になる。
本性を現した偽勇者パーティーの待ち伏せを受けたなんちゃって勇者パーティー
「ビーデさん、下がっていて下さい」
真一がそう言うと、彼はフンッと鼻を鳴らして、そうさせてもらおうと答えた。
そして、自分のウッドゴーレムと共に、遺跡の入口まで下がる。
確かに真一達は若い低レベルな冒険者だ。
しかし、彼らの魔術が常識では測ることができないことも分かっている。
ビーデ シヨは魔術師としてもそれなりの実力を持っていたため、いざとなったら真一達を助けるつもりだったが、金を払っているのだから、一応は護衛らしい仕事をしてもらおうと考えていた。
真一の右にはミントが、左には阿左美が、そして背後にはショートボウを構えたシラクサが立った。
「おうおう、可愛いのう。若い娘の顔に傷などつけては大変じゃ。しかし、お前には遠慮せんぞ」
魔人ガーゼットが真一を杖で指しつつ、そう言った。
彼の背後には、治癒魔術師のアフロダイアが立っている。
「では、行くぞ」
そう言うと、ガーゼットが杖を構えて魔術の構成を始めた。
「クックックッ、ここは寒いからのぅ。少し温めてやろう」
どうやら、炎系の攻撃魔術を使うようだ。
そんな彼を見て、真一が阿左美に、
「よし、行け」
と、短く命じた。
「押忍!!」
気合一閃。
直後に阿左美の姿が消え、さらにその直後、ガーゼットに体当たりをしていた。
グゥォオオオオオオ!!という悲鳴を上げて彼の身体が吹き飛び、背後に立っていたアフロダイアを巻き込んで雪の上を転がる。
「ゲホゲホ、な、何じゃ今のは?! なんの詠唱もせずに瞬間移動じゃと?!!」
一撃でボロボロになったガーゼットが、雪に半ば埋もれたままそう抗議する。
「まあ、今のは魔術じゃないからな」
「そういうことよ」
何故かドヤ顔の阿左美が、腕を組みつつそう言う。
「そ、その見たことのない服のせいか?!」
「おおっ、さすがだな。大正解だ。こいつはただの頭の悪い女子高生だが、身に着けている服は凄いぞ」
「せ、先生、それはちょっと酷すぎる!!」
そう言いつつ、真一達の側へと戻る阿左美。
「いたたた、こ、腰が……」
と言いつつ、自分に治癒魔術をかけるアフロダイア。
「距離にして30mほど離れていたというのに、これでは防ぎようがない。しかし、これ以上離れたら、こちらの攻撃魔術の効果が……」
攻撃魔術には射程距離のようなものがあり、さらに相手が直接見えなければ命中させる事ができない。
広範囲を焼き尽くすような魔術もあるが、万が一にもビーデ シヨが巻き込まれたら、彼の持っている魔導書も燃えてしまうため使えない。
「先生、いつもの空気を薄くする魔術で気を失わせたら?」
阿左美がそう言うと、真一が首を左右に振った。
「あれは範囲が狭すぎる。もし発動するまでに移動をされたら意味がない。それに相手は魔術師だ。盗賊相手の時のようにはいかないだろう」
阿左美が言ったのは、一部の空間の気圧を一気に下げるという、真一の得意な魔術だ。
そう言っている間に、魔人ガーゼットが再び魔術の構成を始めた。
今度は威力は弱いが、素早く魔力を流し込み、発動させる。
それは雷撃……いや、感電の魔術だった。
相手に命中しても命を奪うほどの威力はないが、しばらくは体が痺れて身動きが取れなくなる。
それは、阿左美に向けられて放たれたものだった。
目的は、彼女の瞬間移動攻撃を封じるためだ。
そして、それは彼らに背中を向けて真一と話をしていた阿左美の背中に命中した。
しかし――
「あれ? 何か当たった?」
彼女には、雪玉をぶつけられた程度の衝撃しか与えられなかった。
「な、何じゃと?!!」
「言っておくが、こいつの着ている服には半端な攻撃は通用しないぞ。本人は全く凄くはないが、服だけは凄いからな。服だけは」
「服だけ服だけって、しつこいよ!!」
なにせ彼女の制服には、千年前、魔王と一騎打ちをした勇者装備の特殊効果が、そのまま移されているのだ。
「お前達、本当に新人パーティーか?」
「それは間違いない」
ウォリャアアアアア!!
渾身の気合を込めた突きが、エリチン目がけて放たれる。
鍛え上げられた格闘家の拳は、剣のような切れ味はないが、衝撃力は半端ではない。
標的に当たれば、そのエネルギーは筋肉や骨を貫通し、内臓をズタズタに破壊する。
ダイモスの拳は見事にエリチンの腹部に命中した。
彼は避けることも、防ぐことも一切しない。
「フンッ!!」
ただ、気合でそれを跳ね返す。
「ウワァアアアア!!」
攻撃をした側の身体が吹き飛び、雪の中に頭から突っ込んだ。
「無駄だ。我が障壁の前に、その程度の攻撃は効かん」
「い、いや、障壁じゃないだろう、これ?」
ズボッと雪の中から起き上がったダイモスが、そう突っ込む。
「な、何て硬い体をしていやがる。おまけに拳が当たった瞬間に収縮して、衝撃が跳ね返ってくる」
先ほどから、ダイモスが攻撃し、跳ね返されるということを何度も繰り返していた。
エリチンは戦闘開始から一度も反撃をせず、ただゆっくりと移動しているだけだ。
「蹴りも突きも駄目か……なら」
ダイモスが雪を巻き上げつつ、猛ダッシュでエリチンへ近づく。
やはり彼は、反撃どころか避けようとすらしない。
「その余裕が……命取りだ!!」
ダイモスはエリチンの顔面に殴りかかるふりをして、重心を低くすると、そのまま左腕に飛びついた。
肘の関節をガッシリと掴むと、そのまま引きずり倒して関節技に持ち込もうとしたのだ。
しかし……。
「う、嘘だろ?」
身長が190cmあるダイモスの身体が宙にぶら下がっている。
エリチンは倒れるどころか、微動だにしていない。
「ば、化け物?」
「筋肉の化物……ウム、良い響きだ」
そう言うとエリチンが、女性が見たら一撃で骨抜きになるような笑顔を、自分の左腕にぶら下がっているダイモスへと向けた。
そして、
「そろそろ、こちらも反撃をするぞ」
と言う。
「ま、待て……ちょっと待て。いや、待って下さい」
「最後はエルフらしく、精霊魔術を見せてやろう」
「い、今更、精霊魔術なんて言われても」
「我が身体に宿れ、炎の魔人イフリートよ!!」
イフリートとは炎の最上位精霊だ。
「じ、冗談だろ!!」
咄嗟にエリチンの腕を離し、飛びのく。
すると、マッチョエルフの身体が急激に熱を持ち始めた。
周囲の雪が見る見るうちに溶けていく。
「さあ、行くぞ!!」
気合を入れると、エリチンがダイモスに飛びかかった。
「ひぃいいいいい!!」
間一髪、その体当たりをかわして逃げる彼の背後で、勢い余ったエリチンが岩に抱き着いていた。
直径が2m近くある岩が一瞬で砕け散り、さらにその後、高熱で熱せられて真っ赤になる。
「さあ、イフリートの炎で焼け死ぬがいい」
「焼け死ぬ前に、全身の骨を砕かれるわ!!」
ダイモスが泣き叫びながら、そう突っ込みを入れる。
するとエリチンがキョトンとした表情になり、首を傾げる。
「ちょっと何言っているのか分からない」
「あんたは頭の中まで筋肉か!!」
「当たり前だ」
「認めるなよ!!」
その時、自らの高温によってエリチンが唯一身に着けているブーメランパンツに火が付いた。
少ない布地があっという間に燃え尽きてしまう。
「構えろ。そして、正々堂々と戦え」
「ええ~っ……全裸の筋肉エルフに全身の骨を砕かれて焼け死ぬ……格闘家にとって嫌な死に方ワースト1、間違いなしだな」
この時点で、ダイモスは完全に戦意を喪失したのだった。
キィン、カィン!! と、いう甲高い金属音が響き渡っている。
他のメンバー達と違い、ライディーンとヴァレリアンは真面目に戦っているのだ。
剣と剣、そして剣と盾がぶつかる度に火花が散っている。
「さすが王国騎士、その細身の剣でよくかわす」
「そちらこそ、片手剣とは思えない、重い一撃だ」
ヴァレリアンの持っている細身の剣、レイピアは、突くことによって敵にダメージを与える。
そのため刀身は細く、そして先端は鋭くなっていた。
しかし、その反面、敵の攻撃を剣で防ぐことは難しい。
下手に受けたりしたら、刀身が曲がったり折れたりしてしまうからだ。
そのためヴァレリアンは、ライディーンの攻撃を斜めに受け、刀身の上を滑らせるようにして勢いを受け流していた。
対するライディーンだが。
片手用の剣は、その名の通り片手で振り回せるように、小さく軽く作られている。
それでも、女性の細腕で使うには重すぎるが。
その反面、左腕には小型の円形盾を付けており、敵の攻撃はそれで防ぎ、片手剣でカウンター攻撃を仕掛けるという戦い方をすれば、体力を温存しつつ長時間戦うことができた。
「さすがは勇者の子孫を名乗るだけのことはあるな」
「大陸には、大勢自称勇者の血族がいるからな。本物だと証明するには、実力を示すしかない」
そう言葉を交わしながらも、相互に攻撃を続けている。
「そういえば、勇者は魔術も使えると聞いたが」
「もちろん私も使える。ただし、こういう戦いで魔術は無粋だろう」
「手心を加えられているようで、気分が悪いな」
「ならば、剣で私を凌駕して奥の手を出させてみろ」
そう言いつつ、ライディーンが剣を振り下ろした。
ヴァレリアンがそれを剣で受け止めれば、間違いなく折れてしまうだろう。
仕方なく彼女は後ろに飛んで攻撃をかわした。
しかし、ライディーンは攻撃の手を緩めない。
振り下ろした剣を今度は下から上に切り上げ、ヴァレリアンがそれをかわすと、鋭い突きを放つ。
「本当にどれだけタフなんだ?」
間合いを切りたいが、相手がそれを許してくれない。
その時、突然、突風が巻き起こった。
「な、なんだ?」
驚いて周囲を見ると、いつの間にか頭上が黒い雲に覆われていた。
さらに言うと、その雲に向かって風が巻き上がっている。
「まさか、シンイチ殿か?!」
これは自然現象ではない。
ならば、誰かがやっているのだ。
そして、それができる人間は、この場に一人しかいない。




