第63話 待ち伏せ?!偽勇者パーティー
これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから魔導書探索の依頼を受けた勇者パーティーは、依頼主を連れて魔導書が封印されている遺跡を探索し、ついに目的の魔導書を発見した。
しかしそれは魔道エロ本で、おまけにそれを奪うべく偽勇者パーティーが待ち伏せをしていた。
第63話「待ち伏せ?!偽勇者パーティー」
遺跡を奥へ進むときは、あれほど意気揚々としていたのに、帰りはまるで葬列のような雰囲気になっていた。
ビーデ シヨが2冊の魔導書を抱えているが、何となく扱いが雑になっているような気がする。
「何て声をかけたらいいんだろ……」
「今はそっとしておいてあげよう」
阿左美と真一が小声でそう囁き合っている。
「それにしても、昔の領主様は何を考えて、あんな魔導書をこんな遺跡に隠したんだろ」
「煩悩の赴くままに思わず勢いで作ったが、冷静に考えたら恥ずかしかったので隠したとか」
「領地没収になるわけですね」
シラクサ、ヴァレリアン、ミントも容赦がない。
一応、声のボリュームは落としているが、それは全てビーデ シヨの耳に届いていた。
まあ、彼は何も悪くない。
ただ間抜けなだけだ。
「まあ、あれはあれで貴重だ。他人に自慢をしたり、見せびらかしたりはできないがな」
「そうだよねぇ~、友達なくしそう」
「うるさい!!」
ついに我慢ができなくなったビーデ シヨが、そう怒鳴る。
「安心してください。依頼に関しては守秘義務がありますから、大金をはたいて情報を集め、わざわざ雪の中を自ら歩いて探索して、エロ本を入手したなんて、誰にも言いませんから」
「ウギャアアアアアア!!」
「先生、先生、そっとしておいてあげるんじゃなかったの?」
「いや、つい」
そうこうするうちに、入り口の広間へと到着した。
岩の裂け目の出入り口を塞いでいる蔦は無事だ。
「エリチン、もういいぞ」
真一がそう言うと、エリチンが魔術を解いて、入り口の蔦を種へ戻した。
「今からなら、夕方までに昨日の村へ戻れますが、どうしますか?」
予定では、ここで一泊する可能性もあったので、そのための装備も持ってきている。
「村へ帰る。今夜はやけ酒だ」
しかし、心身ともに疲労困憊しているにもかかわらず、ビーデ シヨはそう言い切った。
むろん、真一達に異論などない。
とりあえず、魔導書の探索は無事に終了した。
あとは、彼を屋敷に送り届ければ依頼達成となり、報酬を受け取ることができる。
昼食がまだだったが、とても食べる気にはなれず、彼らは遺跡から外へと出た。
すると――。
「これは、これは、奇遇ですね、ビーデ氏」
そこに4人の男女が待ち構えていた。
「何が、奇遇だ」
わざとらしい魔術師、魔人ガーゼットの声に、真一が毒づく。
「すまない、気付かなかった」
エリチンがそう詫びたが、これは仕方がないだろう。
彼が探知できるのは、植物に接している者だけなのだ。
雪が降り積もっている現状では、彼らが木の幹や枝に直接触れない限り、分からない。
「あんた達は一体何者だ? この遺跡にも一度入っていただろう?」
真一がそう言うと、ガーゼットが少し驚いた表情になった。
「なかなか勘の良い若造じゃな」
「狙いは魔導書か?」
「いかにも。魔導書はとても危険な代物じゃ。魔族が封じられていたり、街や村を丸ごと焼き払う魔術が発動する危険な物もある。そうなる前に、儂らが回収をしてやろうと言っているのじゃ」
「ちょっと待て」
ビーデ シヨが右手を前に突き出して、二人の会話を止めた。
「何じゃ?」
「あんた達は、この遺跡の魔導書の情報を誰から聞いたんだ?」
「ホッホッホッ、親切な猟師が教えてくれたわい」
「そうか」
そう答えると、ビーデ シヨは外套の内側から、エロ魔導書とは違う別の魔導書を取り出した。
思わずガーゼット達が身構えると、彼らのことなど無視してページを捲り、その表面を指でなぞる。
それは空耳だったが、真一達はどこか遠くから、股間を押さえて絶叫を上げる男の声が聞こえたような気がした。
「フンッ、愚か者め」
契約を破った者に対して、約束通りペナルティーを与えたわけだが、弁明する暇すら与えられなかったのには少しだけ同情する。
「改めて、自己紹介をしてもらおうか?」
「いいじゃろう」
老魔術師がそう言うと、魔石が埋め込まれた杖を雪に突き立てる。
「儂の名はガーゼット。魔人並みの魔力を持つ大魔術師じゃ。人はワシのことを魔人ガーゼットと呼ぶ」
その隣に老婆が進み出て、
「私はアフロダイア、見ての通り治癒術師じゃよ。ちなみに、神の奇跡などという怪しげな魔術と一緒にするでないぞ」
と言い、さらに続いてバシッと拳を打ち鳴らしつつ格闘家が、
「俺様はダイモス。こう見えても王都で開催された格闘大会で優勝したことがある。俺の拳は、なまくらな剣や槍よりもよほど恐ろしい凶器だぞ」
最後に、金色の豪華な鎧を身に着け、片手剣と小型盾を装備した銀髪の剣士が、
「我が名はライディーン。千年前に魔王ボルテッカーを葬った勇者ワルダスカーの子孫だ」
と、名乗った。
「先生、先生、やっぱりこれ偽勇者イベントだよ!!」
「誰が偽勇者だ!!」
はしゃぐ阿左美に、ライディーンがそう怒鳴る。
「何が勇者ですか。千年も経っているのですから、その子孫は大陸中にいますよ!!」
特に初代勇者ワルダスカーは大の女好きで、何人もの女性と関係を持ち、子供を作りまくっている。
今となっては、勇者の直系の子孫を名乗る者だけで数百人もいるのだった。
そして、自称を含めればその数は何万人にも膨れ上がる。
「儂等を、そんな成りすまし共と一緒にするでない。ライディーン様は人界の平和を守るため、世直しの旅をしておいでなのじゃ」
「そのついでに、詐欺まがいなことをして村人達から金を巻き上げているのだろう」
「失礼な、正当な報酬じゃ!!」
「それで今度は、魔導書強盗か。落ちるところまで落ちたな」
「黙れ!! さっきも言ったが、魔導書は危険なんじゃ。ビーデ氏なら分かるじゃろう。あんたは魔導書研究の第一人者なんじゃからな。だから儂等が預かってやろうと言っているんじゃ」
「魔導書って高く売れるらしいからね。物によっては屋敷や城が領地ごと買えるとか」
シラクサがそう言った。
「シーフごときが何を言うか。お前達は金でしか物事の価値を計れんのか?!」
「フンッ、安心しろ。魔導書に関して言えば、私はお前達より遥かに詳しい。これはそのような危険な・・・クッ・・・・・代物ではない」
ビーデ シヨが、途中で唇を噛み締め少し涙ぐみつつそう言った。
それを見て、真一達が思わず吹き出しそうになったが、慌てて表情を引き締める。
「ならば、それは王都の魔道院へ納めるべき代物だ。どれ、儂等が運んでやろう」
「何が何でも、自分達の物にしたいようですね」
ミントが呆れながらそう言う。
「ねえ、ビーデさん。いっそのこと、それあげちゃったらどうです?」
突然、阿左美がそう言った。
「何だと?」
「どうせ、ビーデさんが考えていたような魔導書とは違ったんでしょ。それなら、欲しいって言う人にあげてもいいんじゃないかな~って」
「おおっ?!その見た目は可愛いが、頭の悪そうな娘は話が分かるな」
「えへへ、可愛いだって」
「頭の悪そうなとも言ってたがな」
「断る。誰が何と言おうが、これは私の物だ」
ビーデ シヨがそう断言すると、阿左美達が、え~っと言いつつ彼を軽蔑したような眼差しで見つめた。
「そんな魔導書にそこまで固執するとは」(ヴァレリアン)
「これだから男って」(シラクサ)
「不潔です」(ミント)
「本当、先生のスケベ」(阿左美)
「こら待て、早瀬。どさくさに紛れて、俺を巻き込むな」(真一)
それらの声を聞き、ビーデ シヨの顔が怒りか羞恥か分からないが、真っ赤になる。
「い、一体、どんな魔導書なんじゃ?」
許容範囲内ではあるが、少し予想とは違う彼らの反応に、魔人ガーゼットが少し不安そうな表情になる。
「うるさい、誰が何と言おうが、この魔導書は渡さん!!」
ついにブチ切れたビーデ シヨが、そう怒鳴った。
「ここまで親切に説明をしても理解されんとは、もしや呪いの魔導書か?」
治癒魔術師のアフロダイアがそう言った。
「それはいけない。早く彼から魔導書を取り上げないと」
ライディーンがそう言うと、右手に片手剣を、左手に小型盾を構えた。
それを合図にして、全員が一斉に戦闘態勢を取る。
「悪いことは言わねぇ。俺達は相当強いぜ、新人冒険者さんよ」
格闘家ダイモスは防寒用の外套を脱ぎ、袖なしの格闘着姿になった。
確かに、魔人ガーゼットと治癒魔術師アフロダイアは、年齢的にかなりの高レベルだろう。
ダイモスも、よく鍛えられた肉体は傷跡だらけで、相当な実戦を積んでいることが一目で分かる。
唯一、勇者の子孫ライディーンだけは、20歳そこそこと若そうだが、それでもヴァレリアンと同年齢か、少し上ぐらいだ。
「まさか、エロ本を巡って戦うことになるとは」
本当に、何と表現をすれば良いのか分からない戦いだ。
阿左美が外套を脱いで、女子高生のブレザーとチェック柄のプリーツスカート姿になる。
「何じゃ、見たことがない服じゃな」
「まさか、これも寄こせとか言わないでしょうね?」
「い、いや、ま、まあ、うむ」
そんな彼女の前に進み出ると、エリチンがバッと外套を脱いだ。
千年間筋トレし続けた超絶マッチョボディーのエルフを見て、ガーゼット達が思わず後ずさる。
いや、驚いたのは、その人間では到達不可能な筋肉のためか、それとも、その体に似合わない美青年のエルフ顔か、はたまた外套の下がブーメランパンツ1枚だったことか。
「ま、まさか、エルフだったとは……」
ライディーンが思わずそう呟いた。
通常、エルフは精霊魔術を使い、弓の名人として有名である。
その特性から、ハンター(狩人)やシャーマン(精霊使い)という職業に就くことが多い。
その身軽さから森の中では無敵を誇るため、レンジャー(シーフの森限定バージョン)になったりする者もいるが、少なくともボディービルダー(マッチョボディー)のエルフだけは、見たことも聞いたこともなかった。
バシッと右掌に左の拳を叩きつけつつ、
「我が精霊魔術を受けるがいい」
と言うエリチン。
「ええ~っ……」
台詞以外は、エルフらしさの欠片も感じられない。
エリチンの相手をするのは格闘家ダイモスだったが、滅茶苦茶やりにくそうだ。
「あ、あんた、本当にエルフか?」
「この耳を見て分からないか?」
「その耳が一番疑わしいんだけど」
ライディーンの前に進み出たのは、王国騎士(休職中)のヴァレリアンだった。
彼女も外套を脱ぎ、細身の剣を抜いている。
防具は全身を覆うフルプレートアーマーではなく、胸と胴、あとは腕や脛などの急所のみを鎧で覆い、さらにその下には細かい鎖で編んだ鎖帷子を身に着けている。
金髪のヴァレリアンと銀髪のライディーンが向かい合うと、まるで演劇の決闘シーンのように絵面になった。
「その鎧の紋章は王国騎士?」
ヴァレリアンの胸当てには、所属する騎士団の紋章が着けられている。
ライディーンがそれに気付いたのだ。
「いかにも。今は冒険者として修業中の身だがな」
お互いに剣を構えると、持っている武器は違うが、二人とも正統派なのがよく分かる。
要するに、我流で武術を学んだのではなく、きちんと道場や訓練場などで基礎から鍛えられているということだ。
「このような辺境で、騎士と一騎打ちができるとは、まさに僥倖」
「私も同感だ」
正直言って、ヴァレリアンは修行のために真一達のパーティーに加わったが、剣を抜いて戦ったのは、知り合った時の野盗の砦襲撃時のみだった。
それ以降、魔物退治や怪しい儀式の阻止などをしたが、どちらも一度も剣を抜いていない。
その他の細々とした依頼でも、戦闘などは一度も発生していなかった。
真一達と一緒に旅をするのは楽しいが、このままではまずいと焦っていたので、今回はちょっとホッとしている。
そう、これこそが私が望んだ冒険だ。
二人の間合いが、ジリジリと狭まっていく。




