第60話 遺跡探索
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから依頼内容の説明を受けた彼等は、魔導書が封印されている遺跡を目指す。その途中の宿屋で偶然偽勇者パーティーと遭遇したのだった。
距離的には大したことがないはずだが、道程は険しかった。
なんせ、目的の遺跡は山の斜面にあるのだ。
つまり、ひたすら坂道を登って行かなければならない。
「先生~、疲れたぁ~」
お約束として阿左美がぼやいている。
ちなみに彼女は、勇者特性が付与されたブレザーを着ているおかげで、他のメンバーよりかなり肉体疲労が軽減されているはずである。
ちなみに高齢なビーデ シヨは、背後からウッドゴーレムに押してもらいながら進んでいるが、それでもかなり辛そうだ。
「……すまないが、エリチン。早瀬の荷物を持ってやってくれ」
「分かった」
そう言うと、ただでさえパーティーの中で一番大きな荷物を背負っているエリチンが、阿左美の荷物を持ち上げた。
「わぁ~、ありがとう」
「これも筋トレだ」
すでに街道から離れ、雪に覆われた山の斜面を延々と歩き続けている。
普通の人間だと腰まで雪に埋もれてしまうが、ここでもエリチンが大活躍をしている。
彼が人間除雪車として先頭を歩き、雪をかき分けて踏み固めてくれるおかげで、それに続く真一達はかなり歩きやすくなっているのだ。
「シンイチ」
シラクサが彼に近づくと、小声で話しかけた。
「どうした?」
「ここ、少し前に誰か通ってる」
「……」
そう言われて真一は周囲を見回したが、どちらを見ても一面の雪景色である。
「雪が降っているから、人数とかは分からないけど、ところどころに不自然な窪みがある」
「動物の足跡とかじゃないのか?」
「だったら、まっすぐにはならない。クネクネと蛇行しているはず」
「なるほど」
この先の遺跡は、猟師などが休憩場所として利用していたぐらいだ。絶対に人が通らないとは言い切れない。
「しかし、これで納得がいったな」
「そうね」
シラクサには、真一の考えが分かったようだ。
「あの偽勇者共は、魔導書の封印の場所を知っていたんだ。だから俺達を尾行する必要がなかった」
「ってことは、ビーデさんが魔導書の封印を解いたら、仕掛けてくるわね」
「ああ。それにしても、あいつらはどうやって魔導書のある遺跡の位置を知ったんだ? 偶然か?」
「ビーデさんに情報を伝えた猟師が、他にも言いふらしていたのかも」
「もしそれが本当なら、呪いをかけられるぞ」
異性に近づくと股間に激痛が走るという、男にとって悪夢のような呪いだ。
ビーデ シヨの魔導書コレクションの一つで、彼がそれを使えば、猟師は一生人里へ近づけなくなる。
「そんなリスクを負ってまで言いふらすか? それなら、猟師以外の人間が偶然魔導書を見つけた可能性の方が高い気がするが」
魔導書の封印された隠し部屋を見つけた猟師が、痕跡を残してしまったため、後から遺跡にやって来た誰かが、それを偶然発見してしまった。
そして、こちらは呪いのリスクが全くないため、あちらこちらで言いふらした。
どちらにせよ、偽勇者パーティーは、これから向かう遺跡に魔導書があることを知っていると考えるべきだろう。
「見えてきたぞ」
ビーデ シヨがそう言った。
彼の後ろには荷物を背負ったウッドゴーレムがおり、ビーデはそれに背中を押してもらいながら山を登っている。
真一達が彼の視線の先を見ると、山の岩肌に亀裂が走っているのが見えた。
「あそこが入口だ」
「一見すると洞窟みたいですね」
「雪で埋もれているが、この辺り一帯は、大昔は集落があったらしい。そして、あの断崖に穴を開けて祭壇を作ったわけだ」
「なるほど」
異世界には異世界なりの歴史があるということだ。
「では、我々が中を調べてきます」
真一がそう言って前へ出た。
「ヴァレリアンとシラクサ、あと早瀬は俺と一緒に中へ。ミントさんとエリチンは、ここでビーデさんを警護してくれ」
「ここは安全な遺跡のはずだが」
「獣や野盗などが、寒さをしのぐために中にいる可能性があります」
そう説明すると、ビーデは納得した。
ここにある魔導書の封印はかなり強いものだ。
真一達が横取りをしようとしても無理なことは分かっているのだ。
遺跡の入口周辺に足跡はなかった。
真一と阿左美が松明を持ち、ヴァレリアンとシラクサは武器を構えつつ、中へと入って行く。
遺跡の中に入ると、広い空間があった。
雪が吹き込んでいるのは入口付近だけで、奥は乾いている。
そして、あちらこちらに焚き火の跡や、ゴミが残されていた。
猟師が言っていた通り、ここは地元の人間が山に入った時の休憩場所として使われているのは間違いないようだ。
「ほとんどは数か月以上前の物だけど、これは結構新しいわね」
焚き火の跡を調べて回っていたシラクサがそう言った。
「足跡が、四人……軽装の大人が三人に、鎧を身に着けた女が一人」
「偶然にしては出来過ぎているな」
真一がそう言ってから、なるほどと納得した。
「やはり、偽勇者達は、すでにこの遺跡を知っていたんだ。おそらく魔導書も見つけているぞ」
「まさか、もう取られているのか?」
ヴァレリアンが驚いてそう言う。
「昨日の感じでは、まだのようだな」
とりあえず、奥の祭壇を調べてみよう。
真一がそう言うと、先へ進みだした。
聞いた話では、この遺跡には罠などはなく、危険な獣も住み着いていないようだ。
そうでなければ、休憩場所などには使えないが。
一応警戒をしつつ、奥へと進んで行くと、この遺跡がどうやって作られたのか分かった。
元々洞窟があったのだが、さらに床や壁を削り、人が通りやすい通路にしているのだ。
高低差がある場所は階段にし、一定間隔で松明を挿す穴が掘られている。
そして、ビーデ シヨから聞いていた祭壇へと通じる岩を見つけた。
長い年月、誰にも見つかっていなかっただけあって、確かに分かりづらい。
岩の影に隠れるように、石が積み上げられた場所があり、松明を近づけると、微かにその先端の炎が揺れた。
これは空気の流れがあるということだ。
真一は自分の松明をヴァレリアンに預けると、石を崩し始めた。
「ここだな」
すでに何度か崩されたり積み上げられたりしているため、組み合わせが雑になっており、簡単に隠し通路が姿を現す。
中に入ると、そこはそれまでの通路とは明らかに雰囲気が違った。
今までのように、自然の洞窟を削った手抜き製法ではなく、人間が掘り進み、さらに石を敷き詰めているのだ。
「まさに地下迷宮だな」
真一が元の世界でよくやっていたテレビゲームのダンジョンそのものである。
「まるでラスボスとの対決前みたい」
阿左美もそう感じたらしく、ショートソードを抜きつつそう言う。
聞いた話では、この奥にあるのは魔導書を封じた祭壇だけのはずだが、油断はできない。
もし真一の読み通り、偽勇者達がここを見つけていた場合、何か罠を仕掛けている可能性があるからだ。
慎重に進んで行くと、ついに行き止まりにたどり着いた。
そこには、こちらも情報通りの祭壇があり、その上に魔導書が埋め込まれている。
さらに言うと、その表面には女性の胸の装飾が施されていた。
「確かに、依頼人の魔導書と同じデザインだな」
「こんな場所で見ると、不気味だね」
阿左美が呆れながらそう呟く。
「早瀬、手を出してみろ」
「えっ、何で?」
「いいから」
真一にそう言われて阿左美が武器をしまって右手を前に出すと、彼がそれをガシッと掴んで魔導書の上に置いた。
「キャアアアアア、せ、先生、先生!!」
「ふむ、どうやら罠はないようだな」
「いつもながら確かめ方が酷い!!」
「いいから、その本を取ってみろ」
そう言われて阿左美が魔導書を掴むと、持ち上げようとする。
「……無理、びくともしない」
「そうか。よし、外に戻るぞ」
「先生、帰ったらお肉食べ放題ね」




