第59話 偽勇者パーティー本性を現す
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから依頼内容の説明を受けた彼等は、準備を整え、魔導書がある遺跡を目指して出発をする。そしてその途中の宿屋で偽勇者パーティーと遭遇するのだった。
宿屋の食堂でガーゼットが離れて行った後、食事と明日の打ち合わせを終えると、真一達は宿屋の二階の部屋へと戻って行った。
「では、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
雪道を丸一日歩いて疲れたのだろう、ビーデ シヨはすぐに自室へと入って行った。
ドアの内側からガチャッと鍵がかかる音がする。
それを確認してから、真一達は奥の大部屋へと移動した。
「エリチン」
ドアを閉めるなり、真一がマッチョエルフを呼んだ。
「何だ?」
「ビーデ(依頼主)の部屋のドアを開かないようにしてくれ」
「鍵をかけていたようだが」
「シーフや魔術師なら、時間さえかければ開錠できる。本当ならドアの前で交代で見張りをしたいところだが、目立つからな」
「シンイチ様は、あの老魔術師達を疑っておいでなのですか?」
ミントが小声でそう聞いてくると、彼はハッキリと頷いた。
「フラーノの街で、詐欺まがいな目に遭って金をむしり取られたと、ギルドに訴えに来ていた村人達がいたのを覚えているか?」
「ああ、その詐欺師集団のメンバーは若い女剣士と、老魔術師、あと老治癒術師と格闘家だったわね」
どうやら真一同様、シラクサも気付いていたようだ。
「えっ、なになに、それがどうかしたの?」
全く気付いていない阿左美が、キョロキョロとしつつそう言う。
「あのガーゼットという老魔術師のパーティーメンバーと、偽勇者パーティーの編成が一致しているということだ」
真一に代わってヴァレリアンがそう答えた。
「あっ、言われてみれば本当だ」
「分かった。ドアと窓が開かないようにする」
エリチンがそう言って、精霊魔術を使った。
ドアも窓枠も木でできているので、そこから芽を出させ蔦を絡みつかせて固定をするのだ。
当然、何者かが力ずくでそれを破れば大きな音がするし、触れただけでエリチンに分かるようになっている。
「こっちの部屋にも頼む。ビーデ シヨには手を出さずに、俺達の方を狙ってくるかもしれないからな」
「分かった」
同じ精霊魔術を使って、大部屋のドアと窓も固定をする。
「これで安心して寝られるな」
彼ら自身も慣れない雪道を歩いて疲れているのだ。野宿でないのなら、ゆっくりと休みたい。
真一が暖炉に薪を並べて火を点けると、全員がその周辺に集まった。
「先生の読みが当たっていた場合、あの銀髪の女剣士が偽勇者ってことになるの?」
「だろうな。外見だけなら早瀬の方がよほど偽物っぽいが」
「ひっどぉ~い」
プゥと阿左美が頬を膨らませて怒る。
「女剣士は分からないけど、ガーゼットと女治癒術士はかなりの高レベルみたいね」
シーフであるシラクサは、人物鑑定能力もそれなりに高い。
彼女は、雰囲気などからそう感じ取っていた。
「格闘家に関しては体はかなり鍛えられているみたいだけど、それだけで強いとは限らないし」
「偽勇者は私が殺るわ」
「殺るなんて言うな、なんちゃって勇者」
「ひっどぉ~い」
「ヴァレリアン、あの女剣士の腕前は分かるか?」
真一がそう聞くと、女騎士は首を左右に振った。
「防具は身に着けていなかったし、剣も鞘に納められたままだった。ハッキリ言って、実力の程は分からない」
年齢や外見だけで実力を測るなら、ヴァレリアンの方が相手より若い。
「戦って勝てないとは思わないが、俺達は依頼主を守らなければならない。あと、こちらから先に手を出せば冒険者ギルドからペナルティーを受ける」
相手から攻撃をしてくるのであれば、当然反撃はできる。
その戦いで相手に死傷者が出ても、罪には問われない。
ただ、人間相手にこちらから先に手を出したり、降参した相手をさらに痛めつけたりすればアウトだ。
「あと、我々は依頼主と一緒に、彼が探している魔導書も守らなければならない」
そう言ったのは、こういう場では滅多に自分の意見を口にしないエリチンだった。
「面倒臭いから、今夜こっちから襲っちゃおうよ」
「相変わらず、勇者らしからぬことを考える奴だなお前は」
「でも、敵が同じ屋根の下にいたら落ち着いて眠れないよ」
「安心しろ。お前は朝まで熟睡する」
真一のその言葉に、全員がうんうんと頷いた。
「何にせよ、今夜襲撃してくる可能性は低いと思う。襲ってくるとすれば……」
「明日、魔導書を手に入れてからですね」
ミントがそう言うと、真一がその通りと答えた。
「だから、今夜は明日の準備ができたらゆっくり休もう。何かあればエリチンが気付くし」
「任せておけ」
こうして、真一達はそれぞれのベッドに移動をすると、いざという時にすぐに動けるように準備だけはして休んだのだった。
ちなみに、真っ先に寝息を立てたのは、やはり阿左美だったことは言うまでもない。
「う~ん、お前らなんか皆殺しだぁ~」
「せめて寝言ぐらい、勇者らしいことを言えよ」
12月4日
真一の読み通り、昨夜は何事も起きなかった。
皆、朝までゆっくり眠り、1階の食堂で朝食をとると、すぐに出発をする。
彼らが村を出るまで、あの偽勇者のパーティーは姿を現さなかった。
「もしかして、単なる偶然で、勘違いだったのか?」
あまりにのんびりとしているので、思わずそう考えてしまったほどだ。
「どうだ、尾行されていないか?」
真一がシラクサにそう聞くと、彼女はさりげなく振り返って、大丈夫と答えた。
時々、エリチンにも確認をしてもらったが、こちらも同じだ。
「俺達が魔導書を見つけるまで、コッソリ追って来て隙を見て奪いに来ると思っていたのに」
「雪に足跡が残るから、少しぐらい距離が空いても私達の跡を追うことはできると思う」
確かに、この辺りは人の往来が少ないので、これだけの人数で移動をすれば、かなり目立った痕跡が残る。
しかし、街道などに出れば、人や馬車などによって雪が踏み固められているため、見分けるのが困難になるはずだ。
「あと、考えられる可能性としては、俺達が魔導書を手に入れて、またあの村に戻った時を狙うことだな」
「それなら、楽だよね」
阿左美が楽しそうにそう言った。
「しかし、俺達が行きと帰りで経路を変えたら、完全な無駄骨になる」
ビーデ シヨはかなり慎重な性格だ。
いくら近場で危険度の少ない魔導書探索とはいえ、真一達のような新人冒険者パーティーを雇ったのは、魔導書の価値に目がくらんで奪われることを防ぐためだ。
彼は自分の魔術に自信を持っており、低レベルパーティーが相手なら、撃退はできないまでも、逃げ切ることはできると考えているようだ。
もちろん真一達はそのようなことは考えていないし、万が一にも欲に目がくらんで依頼主を襲ったりなどしたら、冒険者ギルドから指名手配をされてしまう。
そこまで分かっていても、念には念を入れているあたり、彼は他人を信用していないのだろう。
そのような彼が、あの偽勇者パーティーを怪しまないはずがない。
もちろん彼は、最近この周辺で詐欺まがいなことをして、村人達から金品を巻き上げている偽勇者達のことなど知らなかったが。
それでも、昨夜のガーゼットの言動はかなり怪しかった。
「なんにせよ、油断はしないことだ。シラクサとエリチンは引き続き、尾行を警戒してくれ」
真一がそう言うと、二人が頷いた。
真一達が宿屋を出発してから1時間ほどして、偽勇者パーティーのメンバーがゾロゾロと1階へ降りて来た。
全員が出発準備を終えており、銀髪の女剣士ライディーン ハモンは金色の派手な鎧を身に着けている。
「そろそろ出発しようかの」
人間離れした魔力の持ち主、魔人ガーゼットが、昨夜とは違い、悪人顔で笑いつつそう言う。
「それにしても、本当に運が良かったわね」
老治癒魔術師のアフロダイアが欠伸をしつつそう答える。
「まったくだ。魔導書が封印された遺跡の場所は偶然聞き出せたが、いざ行ってみたらどうやっても取り出せない。周囲の村や山を調べて回ったが全く情報がないし、正直諦めかけていたところだ」
巨漢の格闘家ダイモスがバシッと拳を打ち合わせつつそう言った。
「まあ、春まで働かなくても遊んで暮らせるだけの金は手に入れたが、魔導書を売り飛ばせれば残りの人生遊んで暮らせるからのう」
ガーゼットがそう言うと、ライディーン以外の3人が笑った。
「どうした、勇者ライディーン。何か気になることでもあるのか?」
ノリが悪い彼女にダイモスがそう聞く。
彼女は元々無口で、感情もあまり外には出さない。
そのおかげで、とても勇者の子孫っぽく見えるのだが、時々何を考えているのか分からなくなるのだった。
「もしかして、魔導書を奪うのが気にくわんのか?」
「今更何を言っているんだい、勇者。これも人界平和のための軍資金集めだよ」
……先ほど遊んで暮らせるとか言っていたはずだが。
彼ら、偽勇者パーティーは、ビーデ シヨに魔導書の情報を伝えた猟師と偶然出会い、彼から金貨と魔導書の封印された遺跡の情報を奪い取ったのだった。
その後、大急ぎで遺跡へと向かい、そこで隠し部屋の台座に埋め込まれたそれを発見する。
しかし、強力な封印のため、どうやっても取り出せなかったのだった。
そこからは、さっき彼らが言った通りだ。
周囲の村などで情報を集め、何とか魔導書を手に入れようと頑張ってきたのだが、どうにもならず、ついに諦めて、どこかで春までのんびりとしようかと考え始めた頃、昨夜、偶然その魔導書を探しに来たビーデ シヨ達と遭遇したのだ。
「あの男は、魔術師としてよりも魔導書の研究者として有名だ。あの猟師から得た情報を元に魔導書を回収しに来たんじゃろう」
「たぶん、封印を解く方法を知っているんだろうね」
ガーゼットとアフロダイアがニヤニヤと笑いつつそう言い合う。
「魔導書のある場所は分かっているんだ。あとはコッソリ近付いて、封印が解けた瞬間に頂き」
「そういうことじゃ、ダイモス」
「しかし、向こうの方が人数は多い」
そう言ったのはライディーンだった。
「フォフォフォ、何を言っておる、勇者よ。あんな素人冒険者どもなど、儂らの敵ではないわ」
「そうだね。一番厄介なのはビーデ シヨだけ。あの爺さんを倒せば、残りの若造共など敵ではない」
再びガーゼットとアフロダイアがウヒャヒャヒャと笑う。
しかし、本物の召喚勇者より、はるかに本物っぽいライディーンは、そこまで楽観はできなかった。
確かに年齢は若く、レベルは低そうだったが、女剣士(阿左美)、女騎士、魔術師(真一)、神官、シーフ(シラクサ)、そして謎の大男……本当にあの男は何者なの?
剣の腕では王国騎士にすら負けない自信がある。
レベルが低い魔術師もたいした魔術は使えないし、すぐに魔力が切れるため、恐れるに足りない。
神官は治癒魔術(神の奇跡)が使えるだろうが、戦闘力は低い。
シーフは身軽だが、そのため殺傷力の低いダガーやショートボウなどを主に使う。
……やはり、あの大男だ……。あ奴だけは分からない。
要するに、彼女はエリチンの正体が分からず、不安を感じているのだった。
まあ、無理もないだろう。
大陸広しといえど、千年間ボディービルを続けたマッチョエルフなど、エリチン以外に存在しないはずだから。
「さて、そろそろ儂等も出発するとしようか」
ガーゼットがそう言うと、城壁山脈へ向けて歩き始めた。
目的の魔導書が封じられた遺跡は、あの壁のような斜面の途中にあるのだ。




