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召喚女子高生勇者が思いのほかポンコツでした  作者: よしぞう
第3章 偽勇者となんちゃって勇者

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第58話 接触

【これまでのあらすじ】

 魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。

 2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。

 フラーノの郊外で暮らす魔導書研究家のビーデ・シヨから依頼内容の説明を受けた彼等は、準備を整え、魔導書がある遺跡を目指して出発をする。

 真一達が出発をした後、森の中の広場には、一頭の不気味な牛もどきが残されていた。


 幸いと言うべきか、この街道は人の往来がほとんどなかったため、新種の魔獣が出現したという事件にはならなかったが、その代わり人間以外の生物がやって来た。


 それは、この世界ならではの冬眠をしない熊だった。


 昨日、フラーノの街の側の森でエリチンに投げ飛ばされた熊が、もう人間の街の側は怖いと学習をして、ここまで移動をしてきたのだ。


 冬は獲物が少ないため、通常の熊は冬眠をする。


 しかし、夏と冬で完全に毛が生え替わるという独特の進化を遂げたこの希少種は、寒さに強く、積雪地でも素早く移動ができるように、体が少し細身だった。


 それでも、食事をしなければ、いずれ飢え死にしてしまう。


 何か獲物はいないかと臭いを嗅いだり、目を凝らしたりしていると、森の中から牛の鳴き声が聞こえてきた。


 何というか、牛っぽくない声だったが、とりあえず何かがいることは間違いない。


 熊は、昨日投げ飛ばされた時に木にぶつけて痛めた背中を庇うように、ゆっくりと森の中を進んで行った。


 すると、牛がいた。


 いや、正確には牛らしき生き物がいた。


 顔が人間なこと以外は、立派な牛だ。


 熊は焦った。


 腹は減っているし、これほど大きな獲物なら、しばらくは食いつなぐことができる。


 しかし……。


「モォ~ッ」


 熊と目が合った牛もどきが、再び鳴いた。


 どうする、諦めるか?


 しかし、顔以外は実に美味しそうな肉付きをしている。


 熊は悩んだ末に、襲うことにした。


 不気味ではあったが、危険には見えなかったためだ。


 姿勢を低くすると、そのまま雪を蹴り上げて獲物へと襲い掛かる。


 牛もどきは逃げるかと思ったが、見た目同様、動きが鈍い。


「グゥアアアアア!!」


 大きな咆哮を上げつつ、その首に食らいつこうとした時。


 牛が立ち上がった。


 いや、正確には後ろ脚だけで直立し、あまつさえ身をかがめると、右の前脚を胸に引き付け、そして、全身のバネを活かしつつ、見事な昇〇拳を放ったのだ。


 熊の巨体が仰け反るように宙を舞い、その前でクルッと体を回転させつつ、牛もどきがジャンプをしている。


 半日意識を失った熊が目を覚ました時、人の顔をした牛は消えていた。





 熊が牛身人頭と死闘(?)の末、敗れて意識を失ってから数時間後、真一達は今日の目的地である村へと到着していた。


 ここは人口が五百人ほどの、かなり規模の大きな集落で、さすがに冒険者ギルドはなかったが、宿屋があった。


 この世界の宿屋は食堂や酒場と兼ねているため、冬場は宿泊客よりも、飲酒目当ての地元の人間の方が多い。


 二階建ての宿屋の扉を開けて中に入ると、十個ほど並んだテーブルのうち、半分に客が座っていた。


 ほとんどが村人で、冬の暇つぶしに酒を飲みつつ、おしゃべりやカードゲームなどをしている。


「部屋は空いているか?」


 ビーデ シヨが宿屋の主人にそう聞くと、もちろんという返事が返ってきた。


「では、大部屋と個室を一つずつ頼む」


 当然だが、大部屋が真一達で、個室を彼が使うつもりだ。


 ちなみに、ビーデの荷物を背負って来たウッドゴーレムは、村人達が怖がるといけないので、村の外で待機させている。


 食堂にいた村人達が、この時期に珍しい宿泊客を見て驚く。


 まあ、無理もないだろう。


 冒険者のパーティー自体はそれほど珍しくはないが、真一達はかなり異色だ。


 まず、エリチン以外は全員若い。さらに、男が二人なのに対して、女が四人もいるのだ。


「あんたら、冒険者かい?」


 宿屋の主人がそう聞いてきた。


「こいつらはそうだ」


「ふぅ~ん、今日は珍しいな、冒険者さんが二組も来るとは」


 彼がそう言うと、食堂の隅のテーブルをチラッと見た。


 そこでは四人の冒険者が食事をとっていた。


 一人は美しい銀髪の若い女性で、あとは男と女の老人が二人、最後に見るからに格闘家風の体格の良い男が一人。


「おい、お客さんだ。案内しろ」


 主人がそう言うと、彼と同年代の女性が奥から出てきた。


 おそらく奥さんだろう。


「いらっしゃい、部屋は二階よ」


 彼女はそう言うと、階段を登って行った。


 宿屋の二階は、廊下を挟んで左右に部屋が並んでいた。


 そして奥に、団体客用の大部屋がある。


 どうやら先客の冒険者パーティーは、一人ずつ個室を使っているようだ。


 廊下の手前から四部屋のドアには、すでに宿泊客がいることを示すプレートがドアノブに掛けられている。


 残りの個室は二室で、そのうちの一つにビーデ シヨが案内をされる。


「あんた達の部屋はそこだよ」


 宿屋の女性がそう言うと、突き当たりのドアを指さした。


 真一達がそのドアを開けて中に入ると、粗末なベッドが壁に沿って十個ほど並んだ大部屋だった。


 暖房用の暖炉があるが、火がつけられていないので、かなり寒い。


「薪は裏の納屋にあるから、運んで来て自分で火をつけな。ちなみに一束、銅貨二枚だからね」


「それもまとめて雇い主から貰ってくれ」


 この後、真一達は二組に分かれて宿泊準備を始めた。


 女性陣は雑に部屋の隅に積み上げられた毛布でベッドメイキングを、真一とエリチンは納屋に行き、薪を運んでくると、暖炉に火を点ける。


 ちなみに、ビーデ シヨの方は、全部宿屋の人間がやってくれていた。


 どうやら、かなりチップをはずんだようで、宿屋の女が上機嫌で色々な物を部屋に運び入れている。


 それらが全て終わると、鎧や荷物は部屋に置き、武器と金銭だけを持って下の食堂へ降りる。





「私には、この宿屋で一番高級な料理と酒を、彼らには普通の物を頼む」


 ビーデ シヨがそう言うと、主人がニコニコと愛想笑いを浮かべつつ、畏まりましたと返事をした。


 どうやら、彼が気前よくチップをはずんでくれることを聞いたようだ。


 真一達とは明らかに対応が違う。


「先生、私、あのおじさん、あんまり好きになれない」


 阿左美が隣に座る真一の耳元に口を寄せてそう言った。


「仕事だ、割り切れ」


「うわっ、大人だ」


「当たり前だ。仕事じゃなかったら、お前みたいな面倒臭いガキの相手なんかしていなかったぞ」


「ひどっ、金〇先生を少しは見習ってよ」


「あれはドラマだ。そして武〇鉄〇の本職は役者」


「さっきから、何を言っているんだ?」


 テーブルを挟んで二人の正面に座っていたヴァレリアンがそう言った。


「そんなことより、ビーデさん。明日の行動を教えて頂けますか?」


 それには答えずに、真一が依頼人に質問をする。


「明日の朝に、ここを出発すれば、昼頃に目的地に着く。そこで魔導書を手に入れ、夕方までにここへ戻る。ただし、手間取るようなら、そのまま遺跡で一泊という可能性もあるから、荷物を残して行くなよ」


「へぇ~、そんなに近いんだ」


 シラクサが少し驚いた。


 距離にすれば、フラーノの街から三十キロ、この村から十キロぐらいしか離れていなかったからだ。


 そんなに近い遺跡に、未発見のエリアが残っていたり、ましてや魔導書が残されていたなど、奇跡だ。





 その時、彼らは気付いていなかったが、魔導書という単語を聞いて、少し離れたテーブルで食事をしていた先客の冒険者達がピクッと反応した。


 料理やグラスに口をつけつつ、さりげなく聞き耳を立てている。


「今回見つかった魔導書は封印をされていたからな。相当貴重な物だろう。厳重に隠され、さらに封印を解く鍵となるもう一冊の魔導書まで作られた」


「封印を解いたら、魔王が復活するとか?」


 シラクサが意地の悪い笑みを浮かべつつ、そう言った。


 なんせ、ここは魔界と人界の境界である城壁山脈の側である。


 さらに言うと、勇者によって魔王が倒された死の谷にも近い。


「それはない」


「確かに、魔王関係なら、あんな表紙にはしないだろうからな」


 そう答えたのは、ビーデ シヨではなく真一だった。


 確かに、女性の胸を装飾された本で封印が解けたりしたら、魔王の威信がガタ落ちである。


「そもそも、魔王が封印をされているなどという話は聞いたことがないぞ」


 ヴァレリアンが腕を組んでそう言った。


 確かに、魔王は勇者ワルダスカーによって倒されたのであって、封印をされたわけではない。


 もっとも、千年も昔の話なので、本当はどうだったかなど誰も知らないのだが。


「いや、待てよ。エリチン、何か知らないか?」


 平均寿命が五十年程度の人間と違い、エルフは気合があれば何千年も生き続けることができる。


 実際、エリチンは子供の頃に、本物の勇者に会っていた。


「千年も前のことだからな。しかし、確かに魔王は倒されたと聞いている。しかし、勇者同様、魔王も規格外の存在だ。何があっても不思議はない」


「逆に言うと、魔王ではなく勇者関係の何かが封印をされている可能性もあるということか」


 もしそれが本当なら、ぜひとも入手をしたい。


 もっとも、封印を解いてその魔導書を入手しても、その所有権はビーデ シヨにある。


 例えそれが勇者にまつわる物だとしても、そう簡単に手放したりはしないだろう。


「ビーデさんは、その魔導書について何か心当たりはないのですか?」


 真一がそう聞くと、彼が少し嬉しそうな表情になった。


 偏屈な老人ではあるが、基本、研究者は自分の分野について講釈を垂れるのが大好きである。


 特に彼は半ば世捨て人のような状態で長年魔導書の研究を続けていたため、貯め込んだ知識を披露する機会が少なかった。


 仕方がないな、とばかりに説明を始める。





「魔導書は大きく二つのタイプに分けられる。一つが仕様書で、もう一つが封印書だ」


 仕様書は、魔術に関する取扱説明書のような物で、魔術の構成や発動方法、そして魔術アイテムの製造方法などが記されている。さらに、大規模な儀式のやり方など、使い方によっては世界すら揺るがしかねない代物まであった。


 そして封印書の方は、本を開くだけで魔術が発動したり、何かが本の中に封じられていたりするのだ。


 特に危ないのは、魔族などが封印されている場合で、こういう本は簡単に手に入らないし、素人では開くことすらできなくなっている。


 その一方で、そこから漏れ出す魔力によって操られた人間が、残虐な行為を行ったり、巨万の富を手に入れたりすることもあった。


 ちなみに、魔導書の他に魔術書という物もあり、こちらは魔術に関する基礎や低レベル魔術などが書かれた、教科書的な物である。


「魔術書と違い、魔導書は作るのも難しいため、多くの場合は作成者が限定をされる」


「有名な作家が書いた作品と同じというわけですね」


 真一がそう言うと、ビーデ シヨが出来の良い生徒を見るように、少し目を細めた。


「その通りだ。偉大な魔術師でなければ魔導書は作れない。例え無名の者が作ったとしても、それはせいぜい出来の良い魔術書が関の山なのだ」


 そもそも、一人で作っているとは限らない。国や組織が大勢の魔術師を集めて、共同制作をさせる場合もあるのだ。


「あと、魔導書の中には、限定的な目的をもって作られた物もある。封印などはまさにそれだ」


 特定の存在や力を封じるためには、それ専用の器となる魔導書が必要になるのだ。


 もちろん、汎用性が高くて、何でも封じてしまう物もあるだろうが、その場合はおのずと限界ができてしまう。


「過去に、美しい王妃を愛しすぎた故に、配下の魔術師に魔導書を作らせた王がいた」


「まさか」


「そうだ。どれほど美しい女性であっても、人間であれば年老いていく。それを嘆いた王が、最も美しい姿を永遠に残したいと考えたわけだ」


「うわっ、キモ」


 阿左美が正直な感想を口にした。


「確かに愚かな行為だ。しかし、女性自ら、年老いることを恐れて封印されることを望んだ者もいる。その王の場合は、王妃と同時に、自らも同じ魔導書に封印されることを願った。ある意味、究極の愛と言えなくもないだろう」


「本の中で永遠に結ばれるというわけですか」


 ミントが「ロマンチックですね」と感想を漏らした。


「それで、その魔導書は完成をしたのですか?」


「ああ、王が国の財政が傾くほど無理をして、なんとかな。そして王と王妃は魔導書に封印をされた」


「その本は、今はどこに?」


 今度はヴァレリアンがそう聞く。


「今でもその国で飾られている」


「飾る?」


「本人は希望が叶って幸せかもしれないが、そんな無茶な魔導書を作るために散財しまくったせいで、国が大変なことになったからな。後を継いだ王の息子が、城で展示をして見物料を取ることにしたんだ」


「見世物……」


「さらに言うと、王は本望だったかもしれないが、王妃は自分の意思に関係なく、強引に本に封じられたらしい」


 そう言うと、ビーデ シヨは上着の内ポケットから一冊の本を取り出した。


 それは彼の魔導書に関する研究を記したメモ帳のような物で、それをテーブルの上に置いてページをめくる。


「私は何度かその城を訪れて、二人が封じられた魔導書を見させてもらった。もちろん見物料を払ってな。これが最初に見た時の絵柄だ」


 それはかなり精密なスケッチで、ベッドに横たわる王妃と、その傍らで片膝をつき、妻の手を握る王の姿が描かれていた。


「これが、その魔導書が作られてから、三年後に訪れた時の絵柄だ」


 ベッドから起き出した王妃に、王が蹴り飛ばされている。


「そして、さらに五年後」


 ベッドに腰かけた王妃の前で、ボロボロになった王が土下座をしている。


「これは十年前の時だ」


 全裸になった王がトレイで股間を隠して踊り、それを不機嫌そうな表情の王妃が眺めていた。


「これって、誰かが定期的に描き直しているわけではないのですよね?」


「無論だ。確認をしたところ、毎日少しずつ絵が動いているらしい。おかげで面白がって客が定期的に訪れて助かると言っていた」


「…………」


 永遠の美も愛も台無しである。


「封印を解いてあげればいいのに」


 阿左美がそう言うと、


「あと五十年ほど経てば、この魔導書のために浪費された国費が取り戻せるらしいから、そうなったら解放すると言っていた」


 要は、こんなくだらないことに国の金を使った責任を取り終えるまで、見世物として飾られ続けるというわけだ。





 微妙な空気になった時、


「失礼だが、あなたは高名な魔導書研究家のビーデ シヨ殿ではありませんかな?」


 少し離れたテーブルで食事をとっていた冒険者の一人が声をかけてきた。


 いかにも魔術師といった雰囲気の老人で、温和な笑みを浮かべている。


 彼以外の仲間達は、自分達のテーブルについたままで、顔だけこちらに向けていた。


「いかにも、私はビーデ シヨだが」


 高名な魔導書研究家という肩書が気に入ったようで、彼が少し気取った声と態度でそう返事をする。


「やはりそうでしたか。先ほどから魔導書について素晴らしいお話をされていたのと、その立ち振る舞いから、そうではないかと思っていたのですよ」


 そう言ってから、その老人が右手を差し出し、


「儂はガーゼットと申します。仲間達と旅をしています」


「あなたは魔術師かな?」


「その通りです。いやはや、このような辺境で、あなたのような有名人に会えるとは夢にも思いませなんだ」


「むぅ、そんなに有名ではないと思うが」


「何を仰る。魔導書についてあなたほど見識が深い御人は、大陸中を探してもそうはおりますまい」


 ガーゼットと名乗った老魔術師は、そう言うと隣のテーブルから椅子を引きずって来て、彼の隣に腰を下ろした。


「盗み聞きするつもりはなかったのですが、魔導書の探索ですかな?」


 彼がそう言って真一達の方を見回した。


「まあ、そんな所だ」


 おだてられて上機嫌になってはいるが、自分からペラペラと旅の目的を話すほど愚かではない。


 ビーデ シヨは言葉を選んで返事をしている。


「このような時期に? よほど貴重な本のようですな」


「どのような魔導書でも貴重だ」


「確かに、仰る通り。買い付けではなく探索ということは、迷宮か遺跡に向かわれるのですか?」


「それを聞いてどうするつもりです?」


 ビーデが返事をする前に、真一がそう遮った。


「…………」


 温和な表情のまま、それでも視線だけで「若造は黙っていろ」と言わんばかりに、彼を一瞥するガーゼット。


「これは不躾じゃったな。すまん、すまん。私も魔術師の端くれとして、魔導書にはとても興味を持っていてな。もちろん、所有できるほど財がないがの」


「確かに、魔導書は物によっては一冊で城一つ、それも領地ごと買えるほどの価値があるからな」


「その通り。それほど貴重で高価な物を探しに行くというのに……」


 そう言ってガーゼットが再び真一達の顔を見回した。


「失礼だが、お付きの方々が若すぎるのではないかの?」


「我々では心もとないと?」


「その通りじゃ。見たところ、お主達はこの地方の人間ではないな。城壁山脈の寒さは厳しく、この土地特有の獣や、時には魔獣も出る。いざという時、偉大なビーデ シヨ氏を守り切れるかどうか、はなはだ心配じゃ」


 まあ、これに関しては正論だ。


 確かに真一達は冒険者パーティーとしては若い。そして、それはレベルが低いということであり、経験不足だという結論になる。


「ビーデ氏よ、私は尊敬するあなたのことが心配じゃ。どうか、儂らも護衛として雇っては貰えんか?」


「何だと?」


「もちろん厚かましいことは分かっている。だからこうしよう。何事もなければ報酬はいらん。途中で獣なり盗賊なりに襲われ、それを撃退した時だけ、その活躍に応じた報酬を貰えれば良い」


「…………」


 これはこれで怪しすぎる。


 普通に考えれば、探索によって入手した魔導書を横取りするつもりかと疑ってしまうだろう。


「あなた達は、冒険者か? それなら身分の証(プレート)を持っているはずだが」


 ビーデ シヨがそう言った。


 冒険者ギルドのプレートは偽造ができなくなっている。


 そして、万が一彼らが魔導書を強奪などしたら、冒険者ギルドに通報をすれば、彼らは大陸中のギルドメンバーから追われる立場になるのだ。


 このおかげで、一歩間違うと盗賊や野盗と間違われやすい冒険者達が、それなりに社会から信用されているのだった。


「儂らは冒険者ではあるが、ギルドには属しておらぬ」


 ガーゼットが気まずそうにそう答えた。


「何か事情があるのか?」


「うむ、それをここで話すことはできんが、ただ罪に問われるようなことはしておらぬ」


「それを証明できない以上、あなた方を信用することはできない。お心遣いは感謝するが、護衛の件は断らせてもらう」


 ビーデ シヨのその言葉を聞いて、真一達がホッと胸を撫で下ろした。


 おだてられて調子に乗り、怪しい連中を仲間などにしたら、獣や魔物以上に気を付けなければならなくなるからだ。


 ガーゼットが怒って、実力行使に出るかもしれないと思い、真一が仲間達に目配せをした。


 まさかこのような場所でいきなり攻撃をしてくるとは思えないが、大声を上げて凄んできたり、武器を構えて威嚇ぐらいはしてくるかもしれない。


 そして、それに素早く対応できなければ、依頼人であるビーデ シヨの信頼を失うだろう。


 それこそ、


「こんな間抜けな連中に護衛は任せられない」


 とか言って契約を破棄され、ガーゼット達にそれを任せかねない。


 真一達の気配を感じたのかどうかは分からないが、幸いなことに、そのような事態にはならなかった。


「それは残念じゃ。しかし、儂らはしばらくこの宿屋に滞在をする予定でしてな。何かあれば、いつでも声をかけて下され」


 特に気を悪くした様子もなく、ガーゼットはそう言うと、椅子から立ち上がり、そのまま仲間達の方へ戻って行った。

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