第53話 封印された魔導書
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたが、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
アバトの街の冒険者ギルドで”魔導書探索”の依頼を受けた勇者パーティーは、人界最北の街フラーノに移動し、そこに住む魔導書研究家ビーデ・シヨに会いに行った。
それは二カ月前、まだ秋のことだった。
城壁山脈の斜面に、猟師が山で狩りをする時に、休憩場所として利用している遺跡があった。
そこはかなり古く、すでに冒険者達によって、端から端まで徹底的に調べ上げられていたため、宝はもちろん、罠も全てなくなっており、猟師以外にも旅人などが時々、休憩や宿泊のために利用している。
その日も激しい雨が降り、近くの村の一人の猟師が雨宿りをしていたのだった。
その時、一匹のネズミが、彼の中身の少ない財布を咥えて、遺跡の奥へと逃げていった。
いくら少ないとはいえ、全財産をネズミごときに奪われたとあっては、無視もできない。
猟師は、ネズミを追って遺跡の奥へ奥へと進んでいった。
特に危険は感じなかった。
この古代遺跡は規模が小さかったし、魔物や危険な野生動物が住んでいる気配もなかったからだ。
彼の財布を咥えたネズミは、遺跡の一番奥の部屋に逃げ込むと、大きな岩の間に入り込んだ。
「ああっ、クソ!!」
とても、人間では後を追えない。
しかし、幸いなことに、その岩の間は隙間を埋めるように小さな石で塞がれていたため、それを何とかできれば、さらに追跡が可能だった。
雨がまだ止んでいなかったため、暇だったということもあり、彼は穴を掘り、這いながら岩の間に入り込むと、驚いたことに、そこには未発見の通路があった。
どうやら、過去に天井が崩れて、大きな岩で入口が塞がれていたようだ。
そしてその岩の奥の通路は、最初は狭かったが、石や土をのけて進むと、一気に天井が高くなり、幅も広くなった。
猟師が持っていた松明では奥まで見渡せないほど奥行きがあり、さらにいたるところに手の込んだ装飾がされている。
それを見て、彼は悟った。
今まで発見をされていた部分は、この遺跡の玄関にすぎなかったのだ。
未発見の遺跡の情報というだけで、冒険者ギルドに持ち込めば、かなりの報奨金が出る。
いや、ギルド以外にも、そういった情報を高く買ってくれる人物や組織もあるはずだ。
いやいや、待て、待て。
もしこの奥に財宝などが残されていた場合、そしてそれを独り占めできたら、「一生遊んで暮らせる」どころか、「豪勢な生活で」というオプションを付け加えることもできる。
もしそうなれば、偉そうにふんぞり返って、食事の時に滅多に酒も出してくれない嫁に手切れ金を渡して追い出し、代わりに若くて美人な嫁と、さらに愛人達を囲うことも夢じゃない。
などと夢を膨らませつつ奥へと進んでいくと、やたらと長い通路の突き当たりに祭壇があった。
「えっ、宝箱とかは?」
途中に分かれ道や部屋はなかった。
宝箱も魔法のアイテムや武器も転がっていなかった。
「くそっ、期待させやがって!!」
怒った彼が祭壇を蹴ろうとした時、そこに一冊の本が埋め込まれていることに気付いた。
「その本の表紙に、これと同じ模様が彫られていたのだそうだ」
ビーデ・シヨがそう言って、表紙にちょっと恥ずかしい装飾が施されった魔導書を指さした。
「なるほど、それでその猟師は、その本を持ち帰らなかったのですか?」
そうしていれば、大金をはたいてこのような依頼を冒険者ギルドにする必要はなかったはずだ。
「もちろん、その猟師は持ち帰ろうとした。しかし、どうやっても祭壇から本を取り出すことができなかったそうだ」
「封印されていた?」
「おそらく、そうだろう。その後、猟師は私が魔導書を集めていることを思い出して、その情報を売りにきたのだ」
「それを買っちゃったんだ」
阿左美が小声でそう言うと、それはビーデ・シオに聞こえていたらしく、ギロッと睨みつけられた。
「その情報の確証は?」
そう言ったのはシラクサだ。
シーフである彼女は、宝箱の開錠や罠の解除の専門家である。
当然、与えられた情報は鵜呑みにせずに、あらゆる方向から検証して、精度を上げていく。
「猟師には礼金を渡したが、もし嘘だった場合は、魔導書の呪いをかけると脅した」
「魔導書の呪い?」
「今後、異性が近づくと股間に激痛が走るという呪いだ」
「な、何て恐ろしい」
真一がゴクッと唾を飲み込んだ。
「それでも、絶対に間違いないと言い切ったし、本当にあったら、さらに報酬をはずむとも伝えた」
「なるほど、少なくとも魔導書らしきものがあることは間違いないようですね」
「そこで、冒険者ギルドに、儂をその遺跡まで護衛してくれるよう依頼を出したわけだ」
「護衛?! その本を回収してこいと言うのではなく?」
「魔導書に関して、私以上に詳しい者はそうそういないからな」
あと、下手な連中に回収を依頼して、そのまま持ち逃げされることを心配しているのかもしれない。
「その魔導書がある遺跡は遠いのですか?」
「歩いて二日の距離にある」
城壁山脈の規模から考えれば、かなり近いと言える。
「発見されてから二カ月以上たっているわけですから、当然、誰かに持ち出されている可能性もあると思いますけど」
「猟師は、奥に進む入口は埋め戻したそうだ。あと、儂以外には誰にもこの情報は伝えていないとも言っていた」
おそらく、その分ビーデ・シオは高い謝礼を渡しているはずだ。
この話を他人に絶対に話すな、もしバラせば、やはり魔導書の呪いをかけるとも伝えているだろう。
「念のために確認をしておきますが、もしその遺跡に行って魔導書がなかった場合は?」
「報酬は約束通り出す」
真一達のミスで魔導書が手に入らない場合は、依頼失敗ということになり、当然報酬は支払われない。
しかし、そうでなければ減額はあっても、不支給ということはないようだ。
「あと、もう一つ確認をしたいのですが」
「何だ?」
「今回の依頼をレベルフリーにした理由は何ですか? あなたにとって魔導書がそれほど重要なら、信頼できる高レベル冒険者限定にした方が良かったと思うのですが?」
「魔導書が発見された遺跡を含め、道中も危険は少ないからな。そして高レベル冒険者だと、成功報酬の額が倍になる」
せこいと言えばせこいが、危険が少ないのであれば、護衛は必要最小限でいいだろう。
そのおかげで、真一達のような新人パーティーでもこの依頼を受けることができたというわけだ。
「分かりました。それで、出発はいつにしますか?」
「荷物の準備はできている。今日中に食料なども買い足しておくから、明日の朝出ることにしよう」
「分かりました」
こうして真一達も屋敷を後にした。
今日はフラーノの街へ戻り、装備を整えることにする。




