第49話 依頼、魔導書探索
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
上級魔族の召喚阻止以降、大きな依頼がなかった勇者パーティーだが、本格的な冬を前に地道に依頼をこなしていた。
アルメシア王国北部最大の都市、アバト。
異世界から召喚された勇者、早瀬阿左美と愉快な仲間達は、今、その街を拠点に活動をしていた。
「あ~、お腹減ったぁ~」
冒険者ギルドに入るなり、早瀬阿左美がそう言って、テーブルに駆け寄り、その上に突っ伏した。
ここは冒険者にとって、仕事の斡旋所であると同時に、食堂兼宿屋でもある。
「先生、お肉、お肉が食べたい」
異世界から召喚された女子高生勇者である彼女が、無理やり巻き込んだ担任教師、眞壁真一に向かってそう言った。
「まあ、いいだろう」
そう言うと、魔術師風のローブをまとった真一が、彼女の隣に腰を下ろす。
「さっむぅ~」
そんな彼の前にテーブルを挟んでシーフ(盗賊)のシラクサ・インカラが座り、その隣に騎士のヴァレリアン・ホルセットも腰を下ろした。
最後に、勇者神殿の神官であるミント・アンジーが真一の隣に座った。
彼女達は今、一仕事終えて、活動拠点にしている冒険者ギルドに戻ってきたところなのだった。
四人とも、それぞれ身に着けていた防寒用のフード付きローブを椅子の背もたれにかけている。
ちなみに、阿左美は勇者装備である高校のブレザーにスカート姿という、この世界ではとっても目立つ格好になっていた。
「お帰りなさい、何になさいますか?」
ギルド食堂のウェイトレスが注文を取りに来た。
「私は子羊のシチューと温かいワインを」
「私も同じでお願いする」
シラクサとヴァレリアンがすぐに注文をした。
「え~っと、私はジャガイモのグラタンと、ハーブティーを」
「肉だ、肉をくれ!!」
ミントに続いて、阿左美がそう言うと、
「せめて料理名を言え。……そうだな、この馬鹿にはスペアリブとパンを。俺はミートパイを頼む。飲み物はハチミツ酒で」
「はぁ~い、少々お待ちください」
全員のオーダーを取り終えると、ウェイトレスは厨房へと戻って行った。
「そう言えば、エリチンは?」
馬鹿呼ばわりされたのに平然としている阿左美がそう言いつつ、扉の方を見た。
「ああ、あいつは今回の依頼ではあまり体を動かせなかったから、筋トレするっと言って森の方に向かったな」
エリチン・ボデーとは、千年間も森の中に引きこもって筋トレを続けていた男のエルフのことで、彼女達のパーティーの一人だ。
「確かに、ひたすら見張りをしていただけだもんね」
今回の依頼は、街の倉庫街の警備だった。
昼番と夜番に分かれ、二十四時間態勢で一週間、ひたすら倉庫に張り付いていたのだ。
冒険者と言えば、洞窟や迷宮の探索、凶暴な魔物や盗賊の退治など、血沸き肉躍る冒険をイメージするが、現実にはそのような依頼は滅多に来ない。
そして、どちらかと言うと何でも屋のような地味な仕事ばかりをして、小銭を稼いでその日暮らしをしているのだった。
「それにしても寒くなったわねぇ~」
シラクサがそう言って、手袋を外してハァ~と息を吐きかける。
「この付近は、雪が積もるそうですね」
ミントがそう言うと、
「そうだよ。って言っても、積もったり溶けたりを繰り返すんだけどね」
と、答えた。
アバトはアルメシア王国北部最大の都市であり、ここから北に進むと急に寒さが厳しくなると言われている。
特に魔界と人界を分けている城壁山脈付近は、豪雪地帯で完全に雪に閉ざされる。
「少し余裕はできたが、冬になると依頼が減るって言うからな。ギリギリまで働くぞ」
「この間の愛の神殿以降、大きな依頼もないもんね」
阿左美と真一がこちらの世界に来て以来、盗賊退治や鉱山での魔物退治、そして上級魔族の召喚阻止など、大きな依頼をいくつもこなしてきたが、それでも彼女達はランク的には駆け出し冒険者パーティーでしかないのだ。
なかなか報酬の大きな依頼を受けることができない。
ちなみに、上級魔族召喚事件は、何の被害も出なかったので未然に阻止されたことになっているが、実際には召喚の儀式は成功し、愛の神殿がボッタくり商売でため込んでいた財宝を根こそぎ奪われていたが。
「お待たせしましたぁ~」
そこへ暖かい湯気をあげた料理が運ばれてきた。
食事が終わるころ、身長が二メートル近くあるマッチョエルフも冒険者ギルドへ入って来た。
「エリチン、飯は?」
「森で食べてきた」
森の守護者にして管理者でもあるエルフは、狩りが得意なことでも有名だ。
森の中を移動していると、木の葉を千切ったり、虫を捕まえたりしてよく食べている。
今日も何か捕まえて食べてきたのだろう。
屋内でもフードを目深に被って顔を見せないが、その下には美しい金髪と笹の葉の形をした耳が隠されており、首から上だけは立派なエルフだ。
「じゃあ、何か飲み物だけでも頼もう」
真一がそう言って、ウェイトレスを手招きした。
「先生、お替りしていい?」
ちょうど料理を食べ終えた阿左美が、ついでに注文をしようとする。
「しょうがないな。しかし、肉は駄目だぞ。高いからな」
「じゃあ、芋料理で我慢する」
二人が暮らしていた世界と違い、ここでは調味料は貴重なうえ、香辛料は高価なため、全般的に味は薄い。
現代っ子でジャンクフードやスナック菓子を毎日食べていた彼女にしてみれば、かなり物足りないはずなのだが、速攻で順応していた。
「海が近ければ、塩は自給自足できるんだがな」
「本当に、シンイチって器用よね」
自分が注文をした料理を食べ終え、ホットワインをチビチビと飲んでいたシラクサがそう言った。
真一は元の世界では化学教師をしていた。
そして現在は魔術師になっているため、その知識と技能を生かして、塩水や岩塩から塩を作れるのだった。
しかし、このような内陸部では、そもそもその原料がない。
いくら魔術師でも、何もない所から物を作ることはできないのだった。
「まあ、動物の血液中にも塩分は含まれているから、その気になればできないことはないがな」
「怖いよ、そんな物から作った塩なんか食べたくないよ!!」
「しかし、お前達が食べている肉や魚も……」
「言わないで、料理が食べられなくなるから!!」
「先生、そういうところ直した方がいいよ。女の子にモテないから」
隣に座っている阿左美が、呆れながらそう言う。
「放っておけ。そもそも、モテたいなどと思っていない」
「それにしても、シンイチ様の知識はまるで賢者様のようですね。異世界の人は皆そうなのですか?」
「ミントさん、これを見てもそう思う?」
真一がそう言って、隣の女子高生勇者を指さすと、
「アザミ様も、知識は豊富ですよ。ただ……」
「役に立たないものばかりだがな」
「ひっどぉ~い!!」
「当たり前だろ。ゲームの攻略法や、アニメキャラの必殺技なんか、いくら知っていても無意味だ」
「ふふん、甘いわよ先生。まだ行ったことはないけど、ダンジョンや魔物退治ミッションでは、私のこのゲーマー知識がきっと役に立つわ」
「そんな知識より、まずは魔術の一つでも使えるようになれ。魔力自体は強いんだから」
「私だって魔術は使えるじゃない」
「発火の魔術を使ったら、足の生えたマグロが出たな。もしかして、あれのことを言っているのか?」
そう言われて、阿左美がウッと言葉に詰まる。
あれ以降も、暇を見つけては魔術の練習をしているのだが、まともに発動したことがなかった。
その時、食堂の隣にある依頼斡旋所の方に受付の男性職員が出てきた。
手には、新しい依頼書を持っている。
冒険者ギルドでは、新しい依頼は毎朝八時に貼り出すようにしている。
これは、公平性を期すためで、そうしなければ冒険者達は良い依頼を受けるために、二十四時間、掲示板の前で待機しなければならなくなる。
しかし、時々緊急の依頼があったり、依頼を受けた冒険者が失敗をしたりすると、それ以外の時間にも貼り出されることがあった。
どうやら今も、そういう依頼があったようだ。
「ちょっと見て来る」
真一がそう言って立ち上がると、依頼書の掲示板へと向かった。
そこには、まだ誰も受けていない依頼書が何枚も貼られている。
報酬が少ないか、依頼内容が面倒くさいか、もしくは依頼の内容の割に報酬が少ないか。
要は、割に合わないものは、冒険者もなかなか受けたがらない。
それはそうだろう。これはあくまでも職業であり、生活の糧なのだから。
難易度が高いか、報酬が高い依頼は、目立つ中央に貼られることが多い。
ギルド職員は、そこへ一枚の依頼書を貼ると、奥へと戻って行った。
「どれどれ」
依頼は誰でも受けられるわけではない。
ギルド側が判断をして、達成が難しいパーティーがやりたいと申し出ても断るのだ。
依頼を失敗すれば冒険者ギルドの信用問題になるし、冒険者達の命にもかかわる。
仕事柄、どうしても犠牲者をゼロにすることはできないが、可能な限りそれを少なくしたいのだ。
「これは、探索ミッションか……」
このファンタジー世界には、RPGお約束のダンジョンがあちらこちらにある。
古代神殿や、廃墟になったドワーフの地下都市、魔族との戦争の時に造られた廃城や砦、魔獣が掘った巣穴に自然にできた洞窟などなど。
すでにそれらの多くは、徹底的に調査をされ、罠は解除されていたり、宝物は全て持ち出されていたが、それでも魔物が住み着いたり、盗賊が根城にしたりする。
そのため、冒険者ギルドには、それらの退治や討伐の依頼が時々持ち込まれていた。
このアバトのような大きな街の近くでは、定期的に軍が派遣されて巡回をしたりしていたが、田舎では軍を動かすより冒険者に依頼をした方が、効率が良くて安上がりなのだ。
「魔導書の探索か」
真一がその依頼書に顔を寄せて、内容を読みだした。
一言で魔導書と言っても、色々な種類がある。高度な魔術の使い方や儀式のやり方などが書かれた物から、魔術が込められていて、開くことによってそれが発動するもの、あと魔族などが封じ込められているものまで様々だ。
ちなみに、魔道書と違い、一般に出回っている魔術書と呼ばれる物もあるが、こちらは簡単な魔術の使い方などが書かれた教科書的な物で、真一達が勇者神殿の冒険者ギルドに登録をした時にもらった、初心者向けの「猿でも分かる初心者魔術」の小冊子などがそれにあたる。
「フラーノの街って……どこだ?」
依頼場所の地名が書かれているのだが、まだまだこの世界の地理に不慣れな彼には、それがどこなのか分からない。
「フラーノって、城壁山脈にある街ね」
いつの間にか気配と足音を消して背後に立っていたシラクサがそう言った。
「うわっ、びっくりした?!」
「ああ、ごめんごめん。つい癖で」
「ある意味、職業病だな。で、この街にも行ったことがあるのか?」
「ないけど、フラーノって城壁山脈の死の谷にある街でね。要は人間と魔族にとっての最前線なの」
人間界と魔界を隔てる城壁山脈には、一か所だけ通行可能な死の谷という裂け目があった。
千年前にはその谷を通って魔族が人間界に侵攻し、それを押し返した勇者と魔王が最後に戦った場所でもある。
最終決戦後、谷の南側には人間達が、北側には魔族がそれぞれ門を築き、防御を固め、谷自体は緩衝地帯になっていた。
門と言っても、それは巨大な城塞で、多くの兵が守備についている。
その守備兵相手に商人達が集まり、気が付くと歓楽街のような物ができ、それがどんどん大きくなってフラーノという街になったのだった。
「もちろん、このアバトよりは小さいし、人口もずっと少ないけどね」
「そんな場所からの依頼か」
さらに依頼書を読み進めていくと、フラーノの街の近くにあるダンジョンから、魔導書を取って来てほしいという内容だった。
「ん? このフラーノには冒険者ギルドはないのか?」
「確かあったと思うけど、依頼が多すぎて手が足りていないのか、難しすぎて誰も達成できなかったのか」
「フラーノか。一度行ってみたいと思っていた」
そう言ったのは、食事を終えて近づいてきた女騎士ヴァレリアンだった。
「確かに、王国の騎士にしてみれば最前線基地みたいなものだもんな」
「うむ。千年前の魔族侵攻時には、多くの騎士や兵の屍が谷を埋め、その血が川のように流れたと言う」
まさに激戦地の古戦場である。
「王国の騎士は、一度は門に赴任して、何年か守備の任に就くことになっている」
彼女は今、王国騎士を休職中だが、いずれ復帰をしたら、そうなるだろう。
「先生、先生、報酬は?」
蒸かした芋にかぶりつきつつ、阿左美がそう言った。
「早瀬、行儀が悪いぞ」
「だってダンジョン探索だよ、魔導書だよ。きっと高額報酬間違いなしでしょ」
「まあ、そうかもしれないが」
「そして最下層にはラスボスとして、炎を吐く古代竜が」
「それは困るな」
依頼書には、フラーノまでの交通費と途中の宿泊代は依頼主持ち、さらに成功報酬として金貨五十枚と書かれていた。
「先生、受けよう」
それを見た彼女が、今度は真顔になってそう言う。
「難易度が高すぎる。俺達ごとき駆け出しでは無理だ」
真一が肩をすくめてそう言った。
そこへミントとエリチンもやって来た。
「そうですね。ベテランパーティーでなければ、ギルドが認めないと思います」
「依頼の内容も、不明なところが多いな」
確かに、回収する魔導書がどういう物か、それがあるダンジョンに敵や罠があるのか、そもそも何故そのような場所にあるのか、細部が記されていない。
阿左美ではないが、最悪の場合、本当に凶暴な魔獣や魔族がその魔導書を守っていたりするかもしれない。
「先生がいれば大丈夫だよ。何がいても、いつものチート魔術でやっつけるから、私達は入口でのんびり待っていればいいだけだよ」
「おいコラへっぽこ勇者、少しは活躍しろ」
その時、この依頼書を貼ったギルドの事務員が、再び掲示板の前に出てきた。
「おっ、運が良いですね、皆さん」
そして、依頼書の前でワイワイと騒いでいる彼等を見て、そう声をかけてくる。
「何で運が良いんだ?」
「だって、その依頼、冒険者のランク不問ですよ」
「え?」
「つまり、素人、ベテラン問わず、早い者勝ちということです」
「ええっ?!」
全員がそう驚いてから、振り返って依頼書を読み直した。
「それって、簡単ってこと?」
阿左美がそう言うと、事務員がウ~ンと少し考え込み、
「そうですね。危険度は低いけど、面倒くさい場所にあるとか」
「面倒くさい場所って?」
「臭い場所、汚い場所、気持ち悪い場所」
「先生、この依頼断ろう」
阿左美が再び真顔になると、真一の方に向き直ってそう言った。
「危険がないなら、少しぐらい我慢できるだろう」
そもそも阿左美は、勇者補正がかかった制服のおかげで、どれだけ汚れてもすぐに自動で綺麗になる。
おかげで言葉通り、このパーティーでは汚れ仕事は彼女の担当になっていた。
「正直、あまりやりたくはありませんけど、金貨五十枚あれば、もう冬の間働かずに済みますね」
ミントがそう言った。
「ダンジョン探索なら、私のスキルが活かせるわね」
シーフであるシラクサにとって、トラップの解除や鍵開けは得意分野である。
「私は、フラーノの門に寄れるのなら問題はない」
これはヴァレリアン。
「…………」
エリチンは特に意見はないようだ。
彼はどこにいても筋トレさえできれば、そこが山奥だろうがダンジョンの奥深くだろうが、文句は言わない。
「すまないが、この依頼を受けさせてくれ」
阿左美以外はやる気のようなので、真一が事務員にそう言った。
「分かりました。手続きをしますから、ちょっと待ってくださいね」
こうして、本格的な冬を前に、勇者パーティーはさらに北を目指すことになったのだった。




