第47話 上級魔族会議
【これまでのあらすじ】
魔王が近々復活すると言う予言にしたがい、異世界召喚された女子高生勇者、早瀬 麻美と、その巻き添えとなった担任教師の眞壁 真一。
2人は異世界で知り合った勇者神殿の神官ミント、マッチョエルフのエリチン、シーフのシラクサ、王国女騎士ヴァレリアンと共に、異世界で冒険者として旅を続けている。
そして、ある事件をきっかけに上級魔族のゲインズ・ラモンに、勇者が召喚されている事を知られてしまったのだった。
プロローグ
そこは魔界の中央にある、ヴォルノーという巨大な火山の麓であった。
この火山は、ここに魔族が住み着く遥か昔から噴煙を上げ続け、幾筋もの川のように流れる溶岩の源流となっている。
そして、そこに魔王城は建っていた。
外壁や城壁はマグマによって真っ黒に焼け、火山から立ち上る噴煙によって、ほとんど日の光が届かない。
とてもではないが、人間では住むどころか近づくこともできないような劣悪物件である。
しかし、魔族達にとっては、ここは本拠地にして聖地であった。
その不気味な城の大広間に、魔族を率いるべき上級魔族達が集まっている。
【皆の者、よく集まってくれた】
千年前に勇者によって倒された魔王の腹心にして、現在の魔界を統治しているシャドードラゴンが、地鳴りのような声でそう言った。
実際にはグルルルと唸っているだけなのだが、聞く者の頭の中に、直接言葉となって響いてくる。
ちなみに、名前はシャドーなくせに、外見は体長五十メートルもある巨大な黄金の竜だった。
一応、この世界に生きる全てのドラゴンの長であり、それはそのまま、この世界における最強の生物という意味でもあった。
魔王城の広間には、RPGでいうところの各エリアのボス達が集まっている。
【先日、ゲインズ・ラモンが人間界に呼ばれ、そこで異世界から召喚された勇者に出会った】
シャドードラゴンがそう言うと、上級魔族達が一斉にざわついた。
「え~っ、怖い」
身長が十メートルもある岩の巨人が半泣きになりながら、その場で蹲る。
「俺、千年前にあいつに足を二本も切り落とされたんだよ」
巨大なムカデが丸まりながらそう言い、
「私は、勇者にお尻を触られたわ」
頭髪が蛇のメデューサが身をよじりつつ後ずさる。
「ほ、本当なのか、ラモン?」
「噛み付かれたりしなかった?」
「勇者って、すぐに怒鳴るから苦手なんだよなぁ~」
ざわつく上級魔族達に詰め寄られる、半透明の巨人ゲインズ・ラモン。
『ええ、本当です。今回、異世界から召喚された勇者は、人間の女性です』
彼が会ったのは、女子高生勇者、早瀬阿左美のことである。
「おおっ~?!」
上級魔族達が怯えて浮足立つ。
【落ち着け!!】
シャドードラゴンが一喝した。
竜の鳴き声には、普通の人間であれば聞くだけで精神を破壊されると言われるほど強力な魔力が込められている。
上級魔族達といえども、そのようなものを生で食らえば、縮み上がってしまう。
「やめてぇ、あんたに怒鳴られると、二、三日は夢でうなされるんだよ」
「俺は、オネショをするぞ」
【頼むから話を聞いてくれ】
巨大なドラゴンが溜息をつきつつ、広間の中を見回す。
【魔王が勇者に倒されてから、今年でちょうど千年になる。そして、それは魔王様が自らが予言をした復活の年だ】
「そう言えば、そうだっけ?」
「随分昔の話だから、すっかり忘れていたよ」
この広間に集まっている上級魔族の多くは千年以上生きているため、ご存命中の魔王のことは知っている。
【しかし、未だに魔王復活の兆候はない。もしかしたら、異世界に転生をしてしまったのかもしれん】
「もしかしたら、虫や魚に転生をしたのかもしれんぞ」
「絶大な魔力を持った魚か……それは嫌だな」
釣り人に釣り上げられた魚が、カッと目を見開くと、辺り一面を焼け野原にする光景を想像して、皆が身震いした。
【もし虫や魚に転生しても、絶大な魔力で魔族の姿になる】
「ああ、そうか」
【さらに、どのような姿であれ、この世界に転生をしていれば、絶対に騒ぎや噂になる。だから、我々が気付かないはずがないのだ】
シャドードラゴンの言葉を聞いて、上級魔族達が黙り込んだ。
つまり、魔王はこの世界とは違う異世界に転生(復活)した可能性がある。
もしそれが本当なら、探しようがない。
何せ、彼らには異世界へ移動する方法がないのだから。
「安心してください」
その時、それまで黙っていた召喚魔術師のデォマヌスが口を開いた。
彼も上級魔族で、一万歳を超えるダークエルフだ。
「人間共がやった召喚の儀式を、我々も行えば良いのです」
「なるほど、異世界に転生をした魔王様を、こちらの世界に呼び寄せるというわけだな」
「その通り」
「さすがは魔界一の召喚魔術師。しかし、召喚の儀式には触媒が必要なはずだが」
「うむ。黄金を溶かしたドラゴンの血が必要になる」
「それなら、なんとか」
上級魔族達の表情が和らいだ。
人界と違い、魔界にはドラゴンもそれなりにいる。
さらに言うと、金も十分な蓄えがあった。
「ただし、魔王召喚となると、並みのドラゴンでは駄目です。最強クラスのドラゴンの血が、かなり必要になるでしょう」
「…………」
上級魔族達の視線が、黄金色のドラゴンに集中した。
【ん? なんだ。何故そろって我を見るのだ?】
「だって、ドラゴンの長だし」
「だよなぁ。シャドードラゴン以上はいないってことだよな」
【ま、待つがよい。何も我でなくても……】
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
【いや、減るだろ!!】
「デォマヌス、そのドラゴンの血っていうのは、どれぐらい必要なんだ?」
「そうですね。樽なら十個分ぐらいですかね」
ちなみに、一樽=十八リットルである。
【ほら、ほら、ほらぁ~。ちょっとまずいよ、その量は】
「大丈夫です。別に一度にそれだけの量を取る必要はありません。それに、腕を切り落とされても三日で元通りになるあなたの回復力なら、貧血ぐらいなんでもないでしょう」
「そうだよ。あんた、一度勇者に腕を切り落とされているけど、平気な顔していたじゃないか」
巨大化した蚊のような上級魔族が、甲高い声でそう言った。
【馬鹿者。あれは痩せ我慢をしていたのだ。本当はめちゃくちゃ痛かったんだぞ】
「じゃあ、今回も痩せ我慢をするってことで」
【絶対に嫌だ!!】
どうやら、魔王復活(召喚)には、まだ少し時間がかかるようだ。




