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召喚女子高生勇者が思いのほかポンコツでした  作者: よしぞう
第2章 死者の神殿と愛の神殿

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第46話 終焉と新たな脅威

【これまでのあらすじ】

 魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。

 アルメシア王国北部最大の街アバトへと到着した勇者パーティーは、そこにある愛の神殿から、毎日押し掛けて来る邪神の信徒達(実際の所は愛の神殿の被害者達)を追い払う依頼を受けるが、その信徒達は上級魔族の召喚を企んでいた。

 そのアジトを見付け乗り込んだ勇者パーティー達の目の前で上級魔族ゲインズ・ラモンが召喚をされたが、何もせずにそのまま消えてしまう。

遺跡の地下が、何とも言えない微妙な空気に包まれている。


 誰も何も言わない、いや何を言えば良いか分からない。


 絶望し、呆然自失状態の老魔術師や男たちを放置して、真一たちは廃墟を脱出した。


「とりあえず、依頼は達成したな」


「何もしてないけどね」


 本当に、彼らは何もしていない。邪教集団が勝手に自滅したようなものだ。


「とりあえず、報酬を受け取るために愛の神殿に戻ろう」


 すでに日は暮れており、森の中は真っ暗になっている。


 彼らは迷わないようにエリチンに先導されて森を抜けると、愛の神殿を目指した。





「と、いうわけで、連中の魔族召喚は失敗した」


 召喚を防いだと言わないのは、真一なりの良心だった。


 ここは愛の神殿の神官長室。


 今はエステカ・キッタにクエストの成果報告をしている。


「そうですか。本当に助かりました」


 神官長というよりは高級クラブのママのような外見の彼女が、色っぽい笑みを浮かべつつそう言う。


「もう、あいつらがこの神殿に押しかけてくることはないだろう」


「まあ、そんな気力は残っていないだろうしね」


 真一の言葉に阿左美がそう付け加える。


「それでは、依頼達成を認めてもらおうか」


「そうですね……」


 そう言って神官長が合図をすると、部下の神官が報酬の入った革袋を持って彼女に差し出した。


「では、これはあなたたちの物です」


 それを受け取り、


「どうも」


 と答えると、今度は真一が依頼書を取り出して彼女の前で燃やす。


 冒険者ギルドのスタンプが押された依頼書が燃え尽きると、それまで浮かべていた愛想笑いを消して、彼女が


「では、お引き取りください」


 と、面倒臭そうに言った。


「ええっ?! こういう場合、打ち上げパーティーとかするんじゃないの?」


 阿左美がそう抗議するが、


「そういうことでしたら、ぜひ神殿内の酒場をご利用ください。もちろん、料金はいただきますが」


「冗談ではありません。果実酒一杯と果物だけで金貨一枚もしたんですよ!!」


 高い授業料を支払わされたミントがそう言う。


「では、さっさと帰って下さい」


 そう言うと、シッシッと手を振り、彼らを追い払おうとする神官長。


「こっちが本性ってわけね」


 そう言ったのはシラクサだ。


「まあ、この神殿を見れば、その長がどういう人間か想像できたがな」


 これはヴァレリアン。


「シンイチ様、街の宿屋かギルドに泊まりましょう」


「そうね、ミントちゃんの言う通り、街で私たちだけで打ち上げやろう!!」


 もちろん真一もそのつもりだ。


「では、邪魔したな」


 そう言って神官長室を出ると、神殿の門へと向かう。


 愛の神殿の神官たちは、誰も見送りに来なかった。


「本当に、この世界の神殿は色々と問題があるな」


「申し訳ありません」


 とりあえず、勇者神殿の神官であるミントが代表して謝る。


「愛の神殿が聞いてあきれる」


 ヴァレリアンですら、相当頭にきているようだ。


「仕事よ、仕事。そう割り切るのが一番」


「さすがベテラン冒険者のシラクサちゃん」


 神殿の外に出ると、アバトの街の方に向かって歩いていく。


「まあ、それなりの報酬はもらえたから、今日は少しは羽目を外してもいいだろう」


「わぁ~、ケチな先生にしては珍しい」


 今回は色々とスッキリしない仕事だったが、まあ、そういうこともあるだろうと考えることにする。


 しかし、実はまだ終わってはいなかった。


 愛の神殿とアバトの街のちょうど中間ぐらいに差し掛かった時。


『お待ちしていましたよ』


 突然、甲高い声が聞こえてきた。


「こ、この声は?!」


 真一たちが一斉に武器を構え、周囲を警戒する。


 そう、それは、あの上級魔族ゲインズ・ラモンのダックボイスだったのだ。


「あの魔族って、呆れて帰ったんじゃなかったの?」


 阿左美がショートソードを構え、切っ先を右に左に振る。


 しかし、どちらを向いても、あの半透明の巨人の姿は見えないし、姿を隠せるような茂みなどもない。


「姿を現せ」


 真一がそう言いつつ、周囲の魔力を探った。


 すると、近くにあった岩に紫色のシルエットが腰かけているのが見えた。


 いや、透明だったものが少しずつ色づき、見えるようになったと言うべきだろうか。


「あれ? 小さくなった?」


 確かに、あの地下広間で見た時は4mの巨人だったが、今は人間サイズになっている。


『ああ、私は生身の肉体がありませんから、大きさなどは自由に変えることができるのですよ』


「つまり、ここにいきなり出現したわけではなく、姿を消していただけというわけだ」


『大正解です』


「もしかして、あの地下で姿を消したのも?」


『もちろん、見えなくなっただけで、ずっとあそこにいました』


 確かに、ゲインズ・ラモンは召喚されて魔界から人界に瞬間移動をしたのだ。


 男たちの願望に呆れたからと言って、勝手に魔界に戻れるはずがない。


 ようは、そう見せかけただけだったのだ。


「それで、何か用か?」


 警戒を解かずに身構えたまま、真一がそう言った。


『ええ、帰る前にちょっと確認したいことがありまして』


「こいつは、召喚された勇者だぞ」


 何も聞かれる前に阿左美を指さしてそう言う。


「せ、先生?!!」


「安心しろ。お前を襲う気なら、声をかけたり姿を見せたりなどしない」


『仰る通りです』


 そう言うと、ゲインズ・ラモンが岩から立ち上がって、ゆっくりと近づいてくる。


 足を動かさずに地面の上を滑るように移動するので、亡霊のようにしか見えない。


『そうですか。やはり異世界勇者でしたか』


「そう言われると、ちょっと照れる」


 ファンタジー好きの人間にとって、転生や召喚で異世界に飛ばされるというのは、オーソドックスにして最も憧れるシチュエーションだ。


 あと近年はゲーム世界の中に閉じ込められると言うケースも流行だ。


『千年前の人とは、かなり印象が違いますが、同じオーラを感じます』


「やはり千年前の勇者も頭が悪かったのか?」


『はい、相当なものでした』


「ふたりして、ひっど~い!!」


「それにしても、千年前から生きてるのか?」


『ええ、上級魔族はエルフ並みに長命ですから』


 そう言いつつ、ゲインズ・ラモンが阿左美の前で停止する。


『触れないでくださいよ。魔族にとって、あなたの浄化スキルは結構強烈ですので』


「そう言われると、余計に触りたくなるんだけど」


「止めろ、早瀬。そいつには色々聞きたいことがある。触るならその後にしろ」


『お二人とも、結構いい性格していますね』


「ある意味、魔族より魔族っぽいわね」


 そう言ったのはシラクサだ。


「最初に言っておくが、こちらはあんたたちと敵対する意思はないし、そもそもこの人界を救う義理もない」


「先生、良いの、そんなこと言っちゃって」


 ミントたちは仲間だが、この人界の住民でもあるのだ。


「かまわん。そして俺は元の世界に帰る方法を探している」


 あの老魔術師は子供図鑑を読んで魔族を召喚した。


 しかし、あの本には魔族を元の場所に飛ばす(戻す)方法は書かれていなかった。


 つまり、その方法は知らないはずだ。


 だが、千年も生きている上級魔族なら、何か知っているかもしれない。


『残念ながら、私もその方法は知りません。唯一知っていたのは……』


「知っていた? 過去形か」


『はい。知っていたのは魔王様だけです』


 その魔王は、千年前の戦いで勇者によって倒されている。


「なんということだ」


『お力になれず、申し訳ありません』


 見た目は不気味だが、なかなか礼儀正しい魔族である。


「ねえ、ゲイちゃん」


『申し訳ありませんが、勇者殿。名前を縮めるなら、もう少し違う場所でお願いします』


「じゃあ、ゲインちゃん」


『何でしょうか、勇者殿?』


「ここから魔界って結構遠いんでしょ?」


『はい、あの北に見える城壁山脈の向こうですから』


 今は日が暮れているため見えないが、昼間なら、はるか彼方に細い壁のような山脈が霞んで見える。


「その格好じゃ馬車には乗れないと思うけど、歩いて帰るの?」


 もしそのようなことをすれば、途中の街道や街で大騒ぎになるだろう。


 なんせ、彼は伝説級の上級魔族だ。


『それなんですけど、力を補充できれば、空を飛べるのですよ。そうすれば、誰にも迷惑はかけません』


「力を補充?」


『はい、私も魔族の端くれですから、様々な物から力を補充することができます』


「まさか、人の魂か?!」


 それまで警戒しつつも黙って控えていたヴァレリアンが、剣の柄に手を乗せて身構えた。


『もちろん、それを力に変えることはできます。しかし……』


「他にもあるのか?」


『私は生物や物を自分の力に変えることができるのです。そして、その価値が高ければ高いほど、得られる力も大きくなります』


「ほぅ、それで俺たちに飛んで帰るための餌になってほしいと?」


「ち、ちょっと、先生。何で私の後ろに回って肩に手をのせるの?」


『もし、そうするのでしたら、あなたが仰ったとおり、わざわざ姿を現したりしませんよ』


「分からんぞ。どこの世界にも目立ちたがり屋やお調子者はいるからな」


「なんで、私の肩をポンポンと叩くの?!」


「もしかして、価値のある物なら何でもいいのか?」


『はい。宝石や芸術品など、多くの人たちに価値があると思われている物でしたら、私はその価値を奪う事によって力に変えることができます』


「シンイチ様、宝石や金などは魔術の触媒としてもよく使われています」


 ミントがそう教えてくれた。


「それで、俺たちに命か金のどちらかを出せと言うのか?」


『いいえ。私はお嬢さんが召喚勇者か確かめたかっただけです。帰るための力は、どこかその辺りでコッソリと手に入れます。もちろん、人の命は奪いません。それは本当の意味で最後の手段ですから』


「…………」


 ふと、真一が考え込んだ。


 そして、クルッと振り返ると、かなり小さくなった愛の神殿を見る。


「それなら、良い場所を知っているぞ」


 ニヤッと笑いつつ、そう言った。





 上級魔族召喚が失敗に終わった翌日


 愛の神殿の神官長、エステカ・キッタは、毎朝、神殿の金庫の点検をしていた。


 神殿の中心にある本殿の地下、鋼鉄製の扉と魔術結界で守られたそれは、外部の人間は近づくどころか、存在すら気づかないように隠されていた。


 彼女の毎日の日課にして楽しみは、信者たちから巻き上げたお金を、毎日この金庫にしまうことだったりする。


 優雅に朝食をとった後、エステカ神官長は、朝の点検のために本殿へと入っていった。


 朝食時に飲んだ年代物のワインのおかげで、頬が少し赤くなっている。


 彼女が本殿内に入ってくると、そこで掃除をしていた神官たちが慌てて外へと出ていく。


 もしグズグズしていたら、「さっさと出ていきなさい」と怒鳴られるからだ。


 そして、誰もいなくなると、彼女は本殿の中央にある女神アイの神像へと近づいていった。


 その周囲には他の神々の像もあったが、この神殿で最も崇拝されているのはこの女神だ。


「ごきげんよう、女神様」


 彼女がそう言うと、女神像の足元に地下へと降りる階段が出現した。


 どうやら、今のは合言葉で、それを唱えると隠し階段が現れる仕掛けになっていたようだ。


 フンフンと鼻歌を歌いつつ階段を下り、侵入者や魔術による攻撃を防ぐための魔術結界を止めて、頑丈な鋼鉄製の扉の前で立ち止まった。


 神官服の大きく開いた胸元に手を入れると、谷間から鍵を抜き取り、鍵を開ける。


 すると、自動で鋼鉄の扉が開きだした。


「もうすぐここも一杯になるわね。どうしようかしら」


 すでに、本殿を丸ごと建て直せるほどのお金は溜まっている。


「いっそのこと、新しい愛の神殿を建てようかしら」


 そうすれば、売り上げは倍増するはずだ。


 扉が完全に開き切ると、石造りの通路の先に頑丈な金庫があった。


 いや、金庫というよりは鋼鉄製の部屋だ。


 通路に入ると、天井に設置された魔光石が自動で光りだした。


 その中をエステカ・キッタが小躍りしながら進んでいき、金庫の扉の前で立ち止まる。


「さぁ、おはよう。私の可愛いお金たちぃ~」


 扉に取りつけられているダイヤル式の鍵をクルクルと回すと、ガコンッという音が聞こえ鍵が開いた。


 その時、彼女の背後に半透明の人影が出現した。


『はい、ご苦労様です』








 一日休養をとった真一たちが、アバトの街の冒険者ギルドにやって来た。


 ちょうど本日の依頼書が貼り出される時間だったため、大勢の冒険者たちが詰めかけている。


「先生、次はどんなクエストを受けるの?」


 昨日、約束していた新しい服を買ってもらったため、阿左美はご機嫌だ。


「しばらくは、この街の周囲に留まろうと思っていたが、さすがにこれは……」


 彼らの前には、ベテランっぽい冒険者たちがウジャウジャとひしめいており、皆が少しでも条件の良い依頼を受けるために、依頼書が貼り出された壁に押し寄せている。


「じゃあ、どうするの?」


 シラクサがそう言った時、オオ~ッと冒険者たちがざわめいた。


 その視線が、一枚の依頼書に釘付けになっている。


「ん~っ、どれどれ?」


 パーティーの中で一番視力が良い彼女が目を凝らす。


「……ゲッ?!」


 そして、顔色が青くなった。


「どうした?」


「あれ、愛の神殿の神官長からの依頼よ」


「またか」


「今回は、盗まれた神殿のお金を取り戻してほしいんだって」


 それを聞いて、真一が仲間たちの方に目配せをした。


「どうやらゲインズ・ラモンは、上手くやったみたいだな」


「みたいだねぇ~」


 そして、皆で目立たないようにガッツポーズをとったのだった。


「ざまぁみろ」





 大量のエネルギーを得ることができたゲインズ・ラモンは、城壁山脈を飛び越えて魔界へと戻ってきた。


「おや、ラモンじゃないか。人界に呼ばれて行ったと聞いていたけど」


 そこは魔王城と呼ばれる、不気味で巨大な城だった。


 魔界のほぼ中央、ヴォルノー火山の麓にあり、堀の代わりに周囲に溶岩が流れている。


 世間一般の人々が想像する、ラスボスの城というイメージにピッタリだ。


 そのマグマ焼けして黒くなった城のバルコニーに、半透明の巨人がゆっくりと降り立つ。


『ええ、気まぐれで召喚されてあげたのですけど、とても大きな収穫がありました』


「そんなに美味しい魂にありつけたのですか?」


 ゲインズ・ラモンを出迎えたのは、上級魔族の一人であるダークエルフの男だった。


 肌が黒いことを除けば美形のエルフだが、当然、彼もとてつもない魔力の持ち主だ。


 嘘か本当か、一万年以上生きていると言われており、召喚魔術師でもある。


 二人は魔王城の通路を並んで歩きつつ、会話を続ける。


 ちなみに、最初は4mの半透明の巨人の姿をしていたゲインズ・ラモンの身体が縮み、ダークエルフのデオマヌスと肩を並べるサイズになった。


『いいえ、今回は誰も殺していません』


「ほほぅ、これは興味深い。人界などに呼び出されて、人の魂を吸収せずにどうやってこの城に戻って来られたのですか?」


 上級魔族も人間の魔術師たちと同じで、この世界に満ちている魔力を吸収して魔術を使っている。


 しかし、その使用量が大きすぎた場合、周囲にある魔力だけでは足りなくなるのだ。


 そういう時に利用するのが触媒であり、贄なのだった。


 一番手っ取り早いのが生贄、つまり他者の命を頂くことだったりする。


『命に代わる代価をいただきました』


「なるほど。よほど気前の良いお金持ちがいたようですね」


『はい、おかげであと2、3往復ぐらいできそうですよ』


「ん? 使いきれないほどの力を吸収したというのですか?」


『そういう約束でしたので』


「約束?」


『そんなことより、偶然とはいえ、面白い人に会ってきましたよ』


「人? 人間ですか?」


『そうです。なんと異世界から召喚された勇者です』


「…………」


『おや? どうしました? 顔色が変わりましたよ』


「いやいや、私はダークエルフですよ」


 顔色はずっと黒いままだ。


「そんなことより、それは本当ですか?」


『ええ、とても愛らしい人間の娘さんでした』


「女? 娘? 千年前の勇者はムキムキの男だったはずだが」


『ええ、まあ、復活や転生ではなく、新たに召喚されたわけですから。あと、頭は相変わらず悪そうでしたけど』


「そうか、前の勇者も相当だったからな」


 そう言って二人が足を止めると、目の前に巨大で不気味な扉があった。


 ここが、この城に魔王がいた時の謁見の間だ。


 主がいない今では、上級魔族の集合場所として利用されている。


 ゲインズ・ラモンが巨人状態でも、そのまま潜れるほど大きな扉がゆっくりと開いていく。


 驚いたことに、誰も触れていないうえに、無音だ。


【よく戻ったな、ゲインズ・ラモン】


 謁見の間は広かった。


 どれぐらい広いかというと、サッカーの試合ができるほどの面積があり、ロケットの組み立てができるほど天井が高い。


 しかし、その広間の中央に、巨大なドラゴンがいた。


 黄金の鱗に覆われた、竜種最強のゴールドドラゴン。


 ちなみに名前は金ピカなのに何故かシャドー・ドラゴンという。


 一万年生きているダークエルフよりもはるかに長命な、この世界最強の生物。


 有史以来、彼を従えることができた者は、魔王ただ一人である。


 そして、魔王亡き後、この魔界を治めているのも彼である。


 体長が50m以上ある神々しい姿のドラゴンが、ゆっくりと首を持ち上げ、ゲインズ・ラモンを見下ろした。


 普通の人間が相手であれば、一睨みするだけでその魂を砕き、一啼きするだけで軍勢を恐慌状態にすることができると言われている。


『ご心配をおかけしました』


 半透明の巨人の上級魔族であるゲインズ・ラモンが、実はここでは一番若くて下っ端だったりする。


 その彼が深々と頭を下げた。


【フン、で、久方ぶりの人界はどうであった?】


 シャドー・ドラゴンの声は、頭の中に直接響いてくる。


 実体のないゲインズ・ラモンの頭にどうやってそれが響くのかよく分からないが、聞こえるのだから仕方がない。


「それがシャドー様、ゲインズは人界で召喚された勇者に出会ったそうです」


 彼に代わってダークエルフがそう答えた。


【勇者だと?】


 頭に響く声と同時に、グルルルルという唸り声が聞こえた。


『はい、人間の娘で、どうやら最近、異世界から召喚されたようです』


【…………】


 頭に何も聞こえてこないのに、唸り声は続いている。


 怒っているのか、それとも悩んでいるのか、なかなか判断しにくい。


「あの、シャドー様?」


【お前たちも、魔王様の辞世の句は知っているな?】


『魔王ボルテッカー様が、死の谷で勇者ワルダスカーに敗れた時に詠まれたものですか?』


【そうだ。私はそれを魔王様が亡くなる直前に直接お聞きした】


 勇者との死闘の末、致命傷を負わされた魔王は、命が尽きる時に、


“口惜しい でも千年たったら復活し 必ず勇者に 復讐を”


 という辞世の句を残したのだった。


 それはこの魔王城の側、ヴォルノー火山にある魔王の墓石にも刻まれており、魔族学校でも教えている。


【その千年後というのが、今年なのだ】


「…………」


『…………』


【そして、ここからは秘密だったのだが、魔王様は正確には死んではいない】


「?!!」


『どういう意味ですか?』


【確かに、魔王様の肉体は滅んだ。しかし、魔王様はご自身の魂を異世界に逃がしたのだ】


 確かに魔王は、魔界で唯一、異世界召喚ができた。


「魔王様は、自らの魂を異世界に……」


【そうだ。そして千年の時をかけて回復&パワーアップをしている……はずだ】


『はず?』


【本当かどうか確かめようがないからな。しかし、あの辞世の句は、そういう意味なのだと思う】


 千年たったら復活して勇者に仕返しをする。


「魔王様が……復活される」


【そうだ】


『これは、勇者が召喚されたのと無関係とは思えませんね』


【急がねばなるまい。勇者と互角に戦えるのは、魔王様だけだ】


 ハッキリ言って、今の早瀬・阿左美では、下っ端の魔族にも負けそうだが。


【魔王様を魔界に召喚する!!】


 グォオオオオオとシャドー・ドラゴンが吠えた。


「召喚?!」


【正確には、呼び戻すのだ!!】


 千年におよぶ平穏な時代は終わりを告げ、大陸に再び暗雲が立ち込めようとしている。


 勇者が異世界から召喚され、魔王が復活をするのだ。


 阿左美は人界を守ることができるのか。そして真一は、無事に元の世界に戻ることができるのか。


 今のままだと、とても無理そうだが。

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