第45話 上級魔族ゲインズ・ラモン
【これまでのあらすじ】
魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。
アルメシア王国北部最大の街アバトへと到着した勇者パーティーは、そこにある愛の神殿から、毎日押し掛けて来る邪神の信徒達(実際の所は愛の神殿の被害者達)を追い払う依頼を受けるが、その信徒達は上級魔族の召喚を企んでいた。
そのアジトを見付け乗り込んで行く勇者パーティー達だったが、目の前で上級魔族ゲインズ・ラモンの召喚阻止に失敗をする。
童貞の血液と涙で描かれた魔法陣から、禍々しい魔力が噴出しだした。
床から壁へ、そして天井へと振動が伝わっていき、不気味な音が響き渡る。
魔法陣から発生した光は紫色で、ジワジワと光量が増していく。
「良いぞ、良いぞ、成功じゃ!!」
今にもショック死しそうな老魔術師が、狂ったように叫んでいる。
対して周囲の男たちは、
「マジですか?」
「本当に召喚できるなんて……」
「えっ、どうしよう、ちょっとチビった」
などと、真一たち以上に驚いていた。
「こ、こら、お前ら、それはどういう意味じゃ?!」
「だって、いかにも怪しかったし」
「まあ、楽しかったので、ついつい調子を合わせていましたが」
ようは、中二病が調子に乗って騒いでいたら、本当に封印されていた邪竜や魔王が目の前に現れたような感じだ。
「アバトの街は、こんな連中のせいで滅ぼされるの?」
シラクサが呆れながらそう言った。
「例えそうなっても、真相は黙っておいてやろう」
「い、いや、シンイチ殿、そうなる前に何かできることはないのか?」
騎士としての使命感からヴァレリアンがそう言うが、彼女も途方に暮れている。
「個人的には、今すぐ逃げ出したいんだが」
「先生、先生、生の召喚シーンだよ。すげぇ~、オラ、ワクワクしてきたぞ!!」
阿左美はテンションが上がりすぎて、某有名アニメの主人公のような台詞を叫んでいる。
そんな彼らの目前で、紫色の光の中に巨大な人影が出現しだした。
その身長は4m近くある。
「上級魔族ゲインズ・ラモン」
子供図鑑に載っていた、幻覚や幻惑魔術を使う、実体のない魔族だ。
「まずいな、戦うにせよ、こいつらが邪魔だ」
間違いなく、これまで戦ってきた盗賊やポイズンガストとは桁違いな強敵だ。
そして、真一が魔術をフルパワーで使えば、ここにいる者たちはほぼ間違いなく消し炭になるか、生き埋めになってお亡くなりになる。
「よし、早瀬、突っ込め」
「ええっ?!!」
「お前なら浄化できる」
「いやいやいや、無理無理。この前の鉱山の時とは、いろいろ違いすぎるでしょ」
「やる前から無理と決めつけるな」
「後悔先に立たずって言葉があるでしょ!!」
「ほほぅ、俺は嬉しいぞ。お前がそんな難しい言葉を知っていたとは」
「もう、酷すぎて泣けてきたよ」
そんなことを言い合っている間にも、どんどん魔族の姿が鮮明になっていく。
そして、ついに召喚が終わった。
『人間ごときが我を召喚するとは……身の程知らずにもほどがありますね』
それは確かにそう言った。
「おおっ、すごい。頭の中に直接、声が響いてくる」
「ドナル〇ダックの声みたい」
その声は、性別も年齢も分からないダックボイスだった。
分かりやすく言うなら、ヘリウムを吸い込んだ時のような甲高い声だ。
「おおっ!! あなた様はゲインズ・ラモン様ですか?!」
老魔術師が、その紫色の影のような人影の前に、涙と鼻水を垂らしつつ跪く。
『うわっ、汚っ。近づくな』
「も、申し訳ありません!!」
『おまけに、あなた、けっこう臭いですよ』
実体がないくせに、意外と綺麗好きなようだ。
「案外、こいつらよりもあの上級魔族の方が、話が通じるかもしれないな」
「そうだね」
真一と阿左美がそう言い合う。
「お願いです、ゲインズ・ラモン様!!」
老魔術師と周囲の男たちが一斉に平伏した。
「偉大なるあなた様のお力をもって、我らの願いを叶えてくだされ!!」
『ほほぅ、魔族を召喚し、願いを申し出るとは……分かっているのでしょうね?』
そう言うゲインズ・ラモンの頭部が、周囲を見回した。
「ガスのくせに視覚があるのか?」
「目が弱点とか?」
「よし、行け、早瀬」
「だから、嫌ですよ」
真一と阿左美がそう言い合っている間も、老魔術師の懇願は続いている。
「この近くにある街の住民の命を贄として捧げます!!」
「何を勝手なことを言ってるの、あのジイさんは?!」
思わずシラクサがそう言う。
「どうか、我らの願いを叶えてくだされ!!」
「お願いいたします!!」
老魔術師と男たちが額を床に擦り付けたままそう叫ぶ。
『面白い。言ってみろ』
「あ、あのぉ~、忠告しておくが、聞かない方が良いと思うぞ」
真一がそう言うと、老魔術師とゲインズ・ラモンが同時に彼の方へ顔を向ける。
「余計な口を挟むな!!」
『何だか、気になる台詞ですね』
「い、偉大なるゲインズ・ラモン様、あなた様の力をもってすれば、いと容易きことでございます」
「そうです、偉大なるあなた様なら、本当にチョチョイのチョイでございます」
『まあ、良いだろう。試しに言ってみなさい』
そう言われて、男たちが一斉に顔を上げた。
そして――
「可愛い彼女が欲しいです。年齢は15歳以下限定で!!」
「黒髪ロング、性格はきつめで、僕のことをゴミのように見下して踏んでくれる彼女が欲しいです!!」
「妹が、妹をお願いします。もちろん、血は繋がっていない子が良いです!!」
「金髪のグラマーな美女をお願いします!! 特に胸はGカップ以上で!!」
「猫耳、もしくは兎耳の女の子を!!」
「語尾に『リュン』とか『ミュン』って言う女子が!!」
「実年齢は18歳以上だけど、外見は12、3歳ぐらいの女の子をお願いします。合法的に……」
「腹筋が割れている女の人を!!」
「男の娘を!!」
「母性的で優しい熟女を!!」
「幼女をお願いします。もちろん変なことはしません、絶対にしませんから!!」
「眼鏡が似合う知的な子が良いです!!」
「ツンデレでお願いします!!」
地下広間に集まった男たち約100人が、口々に自分の好みについて大声で暴露する。
「うわぁ~、困ってる、困ってる」
最初は余裕ぶって泰然としていたゲインズ・ラモンのシルエットが揺らぎだした。
半透明のガスの巨人が、えっ? えっ? と助けを求めるように周囲を見回す。
そして、呆れながら傍観している真一と目が合う。
「い、いや、そんな目で見られても」
『…………!!』
彼が当てにならないと分かったゲインズ・ラモンの視線が、真一の隣に立っている阿左美に向けられた。
そして驚く。
いや、正確には、驚いたように見えた。
「ん? もしかして、早瀬が勇者だってバレたか?」
「せ、先生、シーッ!!」
『…………』
「私は清楚な神官が良いです!!」
「お姉さま、甘えさせてくれるお姉さまをお願いします!!」
「僕は甘えてくれる年下の女の子が!!」
さらに男たちの懇願は続いている。
『…………』
再び視線を男たちに戻したゲインズ・ラモンが天井を見上げ、そして……。
ズズズズ……と足先から魔法陣に消えていく。
「ええっ?!!」
「そ、そんな、願いは……我々の願いを叶えてくれるのでは?!」
『ごめん、無理』
最後に小さな声でそう言うと、完全に姿が消える。
「…………上級魔族の力をもってしても、どうにもならなかったか……」
シーンと静まり返った広間に、真一の声が響いた。




