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召喚女子高生勇者が思いのほかポンコツでした  作者: よしぞう
第2章 死者の神殿と愛の神殿

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第43話 神殿の奥へ

【これまでのあらすじ】

 魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。

 アルメシア王国北部最大の街アバトへと到着した勇者パーティーは、そこにある愛の神殿から、毎日押し掛けて来る邪神の信徒達(実際の所は愛の神殿の被害者達)を追い払う依頼を受けるが、その信徒達は上級魔族の召喚を企んでいた。

 その召喚場所を見付けた勇者パーティーは廃墟の捜索を開始する。

召喚場所と思われる森に埋もれた遺跡の周囲を、エリチンを先頭に慎重に歩いて行く。


 すると


「ここだ。」


 エリチンが樹齢数千年の巨木に触れながらそう言った。


「小学生の頃、屋久島に家族旅行した時に見た縄文杉みたい。」


 ほぼ限界まで首を真上に向けた阿左美がそう言った。


「じゃあ、エリチン頼む。」


 彼の力を使えば、この巨木の幹が折れ曲がり、廃墟への入口が姿を現すはずだ。


「分かった。」


 そう言うと彼は精神を集中する。


 普段であれば、直後になんらかの反応があるはずなのだが……。


「ムゥ……。」


 巨木はピクリとも動かず、代わりにエリチンが顔を真っ赤にして呻いた。


「随分苦戦しているみたいだな。」


「どうやら、この木はこの建物が建てられる前からここに根付いていたようだ。」


「つまり?」


「俺より樹齢(寿命)が長い。」


 どうやら、エルフの特殊能力は人生の先輩には効きにくいようだ。


「もしかして?」


「ああ、随分ご立腹だ。」


 この巨木にしてみれば、エルフの若造が、


「おい、邪魔だ。道を開けろ」


 と、言っているような感じなのだろう。


「腰を低くしてお願いしてみたらどうだ?」


「やっているんだが、面倒臭いと言って断られた。」


 まあ、ここまで立派に根を張り、枝葉が茂って成長したら、身じろぎするだけでも難しいだろうとは思う。


 真一がその気になれば、この巨木の内部にある水分を一瞬で凍らせることも、丸ごと燃やすこともできる。


 そうなれば、確実に枯れてしまうだろうが、そのようなことはエリチンが許さないだろう。


 怒り狂った彼にフルパワーで殴られたら、大気圏外まで吹き飛ばされるかもしれない。


「……よし。エリチン、交換条件を出してくれ。」


「なんと?」


「何か困っていることはないか? あるなら我々がそれを解決する。その代わり、少しだけ隙間を開けてほしい、と。」


「分かった。」


「木が困るって……。」


 阿左美が樹皮に触れながらそう言った。


 人間が相手なら賄賂を渡すか、剣を突き付けて脅すことができるのだが。


「言うことを聞かないと燃やしちゃうぞって脅したらどうかな?」


「お前の発想って、本当に勇者として問題あり過ぎだよな。」


 そうこうするうちに、


「あの枝が重くて、折れそうだと言っている。」


 と、エリチンが答えた。


「どれだ?」


「あれだ。」


 枝が多すぎて分かりづらいが、その中でも一際太くて横に伸びているものをエリチンが指差した。


「よし、あれを剪定すればいいんだな。」


 その枝は太さが人間の胴体ほどあり、さらにかなり高い。


「俺がやろう。」


 相手が木なら、エルフに任せるのが一番だ。


 彼は、その巨漢からは想像できないほど身軽に巨木を登っていくと、その太い枝の付け根の上に立った。


 そして、右の拳を握りしめ、


「我が拳に宿れ、風の精霊よ」


 と唱えると、風の精霊パンチを放った。


 ドンッという鈍い音がして、巨木が震える。


 直後に、彼の拳が当たった枝が付け根から切断され、落下した。


 思いのほかその枝が大きかったため、阿左美たちが頭上を見上げてキャーキャー言いながら逃げ惑っている。


「毎回思うが、絶対、精霊は関係ないよな。」


 エルフであるエリチンは精霊魔術、つまり精霊の力を借りてさまざまな魔術を使うことができる。


 ただし、彼が拳に宿す精霊は、あくまでもそこにいるだけであって、破壊力そのものは彼自身の究極に鍛え上げられた筋力によって生み出されていた。


 エリチンが枝を切断した直後、巨木がミシミシと音を立ててしなりだした。


 どうやら約束を守ってくれるようだ。


 バサバサと大量の葉や小枝が雨のように降ってくる。


 そして、幹の一部が少しだけ横にずれて、人一人が身体を横にすれば通れるほどの隙間ができた。


「大迫力だな。」


 そう言う真一の隣に、切断後の処置を済ませたエリチンが飛び降りる。


「急ごう。かなりの負担になっているはずだ。」


「そうだな。」


 そう言うと、彼らは巨木の隙間を通って、廃墟の中へと入っていった。





 真っ暗というか、真っ黒な空間に、小さな光が発生した。


 それは、真一が手に持った木の棒の先端で光っている。


 最初は線香花火のような小さな灯りが、どんどん大きくなり、光量が増していく。


「先生、それも魔術?」


「そうだ。静電気をコロナ放電させている。」


 これは世にいうセントエルモの火と呼ばれる現象で、悪天候の時、船のマストや航空機の機体などでも発生する。


「なんて明るさだ。」


 ヴァレリアンが右手で剣を構え、左手で目を覆いつつそう言う。


 この世界には照明の代わりになる魔術はいくつかあったが、それらは炎などを発生させ、空中に浮かせたり、ランプの中に閉じ込めたりするものが主流だった。


「地下や密閉空間で火を使うのは危険だからな。」


 一酸化炭素中毒になる可能性もあるし、ガスなどが充満していた場合、最悪の場合は引火して爆発する可能性がある。


「あと、この方法だと……。」


 そう言うと、真一がヴァレリアンのほうに視線を向けた。


 直後に、彼女の剣の先端に眩い光が発生する。


「おおっ?!」


 さらに、ミントの杖にも同じ魔術をかける。


 光源が三つに増えると、廃墟の中が一気に明るくなった。


 そこはかなり広い部屋だが、床一面に壁や柱の残骸が散乱している。


 彼らが入ってきた入口は、巨木が元の状態に戻ったため、完全に塞がれていた。


「さて、あいつらはどこだ?」


 この廃墟は巨大だが、地上階はどこも同じような状態だろう。となると、やはり地下か?


「どこかに、あいつらが利用している地下への通路があるはずだ。その痕跡を探せ。」


 この廃墟は外観からは分からなかったが、中庭があり、その周辺を回廊がぐるりと囲んでいた。


 今は原型が分からないほど崩れているが、昔は噴水や花壇などがあり、さぞ美しかったことだろう。


 その中庭はジャングルになっており、あちらこちらに倒れた石像やベンチが転がっている。


 とりあえず、中庭の周辺はまだ明るいので、真一が照明の魔術を消した。


「どうやら、ここみたいね。」


 床に片膝をついて様子を探っていたシラクサがそう言った。


 確かに、複数の靴跡が残っており、それが列になって同じ経路を往復している。


「こっちが外で、こっちが……。」


「儀式の間か。」


 確かに、足跡の一方は廃墟の奥へと伸びていた。


「気を引き締めて行こう。」


 ヴァレリアンと阿左美が剣を抜き、シラクサはショートボウを、ミントは杖を構えている。


 そして、ゆっくりと進んでいった。


 足跡を追っていくと、建物の中が明るかった。


 魔光石のランプが壁に点々とかけられているのだ。


 さらに、複数の男たちの呻き声が聞こえてきた。


「な、なに、この不気味な声は?」


 阿左美が真一の背後に隠れつつそう言った。


「呪文か?」


 確かに、そう聞こえなくもない。


 廃墟の中を進み、何回か角を曲がると、幅の広い廊下に出た。


 天井が高く、壁や柱の装飾も凝っている。


 どうやら大広間に通じるメイン通路のようだ。


 そして、その先に地下へと通じる階段があった。


「いよいよっぽいな。」


 その階段の前には二人の見張りが立っている。


 彼らも表の者たちと同じく槍で武装しているが、とても弱そうだ。


「騒がれると面倒だ。」


 真一が魔術で彼らの周囲の気圧を一気に下げた。


 地上から一瞬で高度一万メートルまで移動したような状態になった二人が、白目をむいて失神する。


「気を付けないと、鼓膜が破れたり、最悪の場合は死ぬからな。」


 どうやら、この魔術は力加減が難しいようだ。


 前回使った時は、相手が盗賊団だったため、手加減をしなかったが、今回は精神的に屈折しただけの迷惑集団だ。


 さすがに、問答無用で命を奪ったり、脳に障害が残るほどのダメージを与えたりするのはやり過ぎだろう。


 二人が倒れたまま動かないのを確認してから近づき、容態を探った。


 どうやら二人とも失神しているだけで、命に別状はなさそうだ。


「シラクサ、念のために縛り上げて、猿轡を噛ませておいてくれ。」


「分かった。」


 そう返事をすると、彼女が腰からぶら下げている袋からロープを取り出し、手際よく二人を縛り上げる。


 さらに布を噛ませて、気が付いても声を上げられなくした。


「いよいよだね、先生。本当ならここでセーブしておきたいところだけど。」


「ここはゲームの世界とは違うからな。」


 失敗は許されない。この後の戦闘で誰かが死んだとしても、やり直しなどはできないのだ。


 だからこそ、慎重に行動しなければならない。


 先頭に真一とヴァレリアン、次に阿左美とシラクサ、最後尾をミントとエリチンの順で、ゆっくりと階段を下りていく。


 不気味な声はさらに大きくなってきた。


 そして、ついに地下の大広間へと到達する。

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