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召喚女子高生勇者が思いのほかポンコツでした  作者: よしぞう
第2章 死者の神殿と愛の神殿

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第41話 尾行

【これまでのあらすじ】

 魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。

 アルメシア王国北部最大の街アバトへと到着した勇者パーティーは、そこにある愛の神殿から、毎日押し掛けて来る邪神の信徒達(実際の所は愛の神殿の被害者達)を追い払う依頼を受けるが、その信徒達は上級魔族の召喚を企んでいた。

 その召喚場所を探していると、古本屋で売っていた子供図鑑「魔族大集合」を入手する。

子供図鑑『魔族大集合』で調べたところ、童貞の血と涙で召喚できる魔族は、1体だけだった。


「ゲインズ・ラモン……」


 その名前を読んだ真一が、溜息をついて右手の親指と人差し指で眉間を揉んだ。


 ゲインズ・ラモンとは、身長が4m近くある巨人なのだが、半透明で、その時の気分で男にも女にも、若者にも老人にも姿を変える事ができるらしい。


 幻覚や幻惑の魔術が得意で、人々を惑わせて争わせたり、洗脳して奴隷のようにこき使ったりできると書かれていた。


「これは、また、つまらない物で呼び出されるくせに、厄介な相手だな」


 前回、鉱山で退治したポイズンガストのようなガスなら、真一の魔術で吹き飛ばしたり、阿左美のブレザーで浄化できる。


 肉体があれば、攻撃系の魔術が効くだろうし、ヴァレリアンの剣やシラクサの矢でもダメージを与えられるだろう。


「実体がなく、そのくせ幻を見せたり、心を惑わせるなんて、どう戦えばいいんだ?」


 分厚い本のページをめくりつつ、そうぼやく。


 さらに言うと、この図鑑にはゲームの攻略本のように、相手の弱点や攻略法などは書かれていない。


「まあ、魔界で書かれた本だから仕方がないか」


「だったら、最初から載せなければいいのに」


 彼のぼやきに、阿左美がそう答える。


「そもそも、何で魔界の本に、人界での魔族召喚方法が載っているんだ?」


「もしかしたら、この召喚の儀式をやっても、現れるかどうかは、その魔族次第なのではありませんか?」


「この世界は、どこまで真剣なんだか分からんな」


 何にせよ、本を読み込んでいる間に夕方になってしまった。


「そろそろ、またあいつらが来るな」


「嫌だなぁ~」


 エリチン以外の全員が眉をひそめる。


「今日は最初からエリチンに相手をしてもらおう」


「それは構わんが」


「そして、連中が逃げ出したら、シラクサ、後を追ってくれ」


「隠れ家の場所を探るのね。分かった」


「他のメンバーは、神殿内で待機だ」


 そう指示を出した時、食堂に神官が駆け込んできた。


「冒険者の皆さん、来ました!!」


 そして、真一達を見つけてそう言う。


「分かった。よし、行こう」





 愛の神殿の前では、昨日と同じく、むさ苦しい男達がシュプレヒコールを上げている。


「寄付した金を返すか、我々に恋人を紹介しろ!!」


「そうだ、もちろん紹介する女の子は処女限定だぞ!!」


「中古は返品するからな!!」


「ぼ、僕は、処女じゃなくて熟女がいい……」


 昨日にもまして暑苦しく、そして鬱陶しくてムカつく。


「人数は昨日より少ないな。あと、顔ぶれが総入れ替えになっている」


 柵代わりの生垣の隙間から、男達の様子を探っていた真一がそう言った。


「昨日が30人、今日は20人。最低でも50人はいるということだ」


「まあ、あれだけ大きな街ですから……」


 ゲッソリとした表情になったミントがそう言った。


「せ、先生、お願いします!!」


 阿左美がエリチンに向かって頭を下げつつ、そう言った。


「うむ、任せろ」


 そう言うと、巨漢のエルフがノッシノッシと歩いて、門から外へと出て行く。


「な、何者だ、お前は?!」


「我々は非武装だ、暴力を振るったら兵士に捕まるぞ!!」


「痛いのは嫌だから、殴るのは止めろ!!」


 生垣越しに、男達の情けない声だけが聞こえてくる。


「な、何とか言ったらどうだ?!」


「金か? 金が欲しいのか? 少しはあるから暴力は止めろ!!」


「……こいつら、本当にあれだな」


 威勢だけは良いが、言っている内容は情けないを通り越して、憐憫すら感じる。


 その直後に、


「ウギャアアアアア!!」


 という男達の悲鳴が響き渡った。


「筋肉だぁ!!」


「助けてくれぇええええ!!」


 そして、バタバタと逃げ散っていく。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 生垣から顔だけを出して、外の様子を確認したシラクサが、そのまま飛び越えて男達を追いかけていく。


「危なくない?」


 阿左美が心配そうにそう言った。


「まあ、あんな不健康そうな連中に、シラクサが捕まるとは思えないし、大丈夫だろう」


 そこへ、外套を羽織りつつエリチンが戻ってきた。


「お疲れさん」


「フンッ、ただ外に出て、これを脱いだだけだ」


 それだけ聞くと、とても変態チックに聞こえる。


「それじゃあ、俺達はシラクサが戻ってくるまで待つとしよう」


 真一がそう言うと、皆が頷いて宿舎の食堂へと戻っていった。


 


 男達は愛の神殿前から逃げ出すと、100mほど走って足を止めた。


 そして、ゼェゼェと死にそうな表情で膝に手をついている。


 中には、気持ちが悪くなって道端で吐いている者までいた。


「な、なんて体力がない連中なの」


 シラクサは、彼らから少し離れた木陰に身を隠して、様子を伺っている。


 男達は極度に痩せているか太っており、見るからに体力がなさそうだ。


 それにしても、この程度の体力で普段はどのような仕事をしているのだろうかと、心配になる。


 10分ほど経って、呼吸と膝の痙攣が治まると、男達はアバトの街の方に向かってトボトボと歩き出した。


「そう言えば、今度発売される『女勇者ミコリンの大冒険』の最新刊、もう予約されましたかな?」


「当たり前なのです。そのために食事を1日1食に減らし、1カ月間耐えましたからな」


「おぬしは、誰推しですかな?」


「もちろん、ドラゴンと人魚のハーフ、アイレスちゃんですぞ」


「おおっ、心の底から同意ですぞ」


 何事もなかったかのように、雑談を交わす彼ら。


「な、何なの、こいつら」


 ついさっき、愛の神殿で神官達に不気味な罵声を浴びせていた連中と、同一人物とは思えない。


 20人の男達は、自分達の愛する作品について熱く語り合っていた。


 それはもう楽しそうで、笑い合ったり、怒鳴り合ったりしている。


 そうこうするうちに、アバトの街へと到着した。


「では、皆の衆、本日はこれにて解散!!」


「お疲れ様でした~!!」


 リーダーらしき男の合図で、全員がバラバラになる。


「ええっ!? 隠れ家に帰るんじゃないの?」


 これにはシラクサも焦った。


 とりあえず、そのグループのリーダーらしき男を尾行する。


 彼らは集団で行動していた時は堂々としていたが、単独行動になると、途端に挙動不審になった。


 何かを警戒するようにキョロキョロとし、若い女性やガラの悪そうな男が前から歩いてくると、サッと道端に避ける。


 必要以上に他人の視線を気にしているようだが、その動作のせいで余計に目立つ。


「お、お願い、もう止めて」


 シラクサは、いろいろな意味で痛々しいその姿を、もう直視できなくなっていた。


 一体、何が彼を、いや、彼らをここまで卑屈に追い詰めてしまったのだろう?


 リーダーの男は、街の繁華街にある衣料店へと入っていった。


「ここが隠れ家?」


 警戒しつつ、彼が入っていったドアへと近付き、中の様子を探る。


 すると――。


「こら、店の手伝いもしないで、どこほっつき歩いていたんだい!!」


「と、友達と約束があって……」


「働きもせずに、毎日エッチな本ばかり読んで!!」


「エッチじゃない、そんな目で僕の嫁達を見るな!!」


「何が嫁だ!!」


 年配の女性に叱られている声が聞こえてきた。


「…………」


 シラクサはソッとドアから離れると、日が暮れて星が見え始めた空を見上げた。


「私……何やってるんだろ」


 それは、心からの言葉だった。


 そんな彼らのコンプレックスを食い物にして大金を巻き上げる愛の神殿。


 一体、どちらが被害者で加害者なのだろう。

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