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召喚女子高生勇者が思いのほかポンコツでした  作者: よしぞう
第2章 死者の神殿と愛の神殿

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第40話 子供図鑑「魔族大集合」

【これまでのあらすじ】

 魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。

 アルメシア王国北部最大の街アバトへと到着した勇者パーティーは、そこにある愛の神殿から、毎日押し掛けて来る邪神の信徒達(実際の所は愛の神殿の被害者達)を追い払う依頼を受けるが、その信徒達は上級魔族の召喚を企んでいた。

愛の神殿で一泊した真一たちは、翌朝さっそく行動を開始した。


 愛の神殿にエリチンを残すと、真一、阿左美、ミントの三人と、シラクサ、ヴァレリアンの二組に分かれて、邪教集団が召喚の儀式を行う場所を探す。


 さらに分担し、シラクサたちには街での情報収集を頼み、真一たちは街外れの遺跡を目指すことにした。


「先生~、私も街のほうが良かったぁ~」


 アバトの街を迂回するように北を目指していくと、さっそく阿左美が文句を言い出した。


「早瀬も俺も目立つ外見をしているから駄目だ」


「でもぉ~」


 ちなみに、かなり慣れてきたとはいえ、真一と阿左美はまだまだこの世界の初心者だ。


 その案内役兼説明役として、ミントについて来てもらっている。


「昨日見たけど、美味しそうな料理がいっぱいあったのに~」


「この仕事が終わったら、街で少しゆっくりするから、それまで楽しみに取っておけ」


「はぁ~い」


 そう返事をしつつも、顔は左側に見える街へと向けられている。


 アバトの街は、元々は城塞都市であった。


 魔族の侵攻はもとより、人界でも戦争は起こる。


 その時、街の住民たちを守るために、周囲を高い城壁で囲んでいるのだ。


 しかし、千年前の魔王軍侵攻以降、そういった事態が発生していないため、気が付けばその城壁の外側にも人が住み着くようになり、今では外側のほうが人口が多くなっている。


 特に、住んでいる場所が内側だろうが外側だろうが何も変わらないが、雰囲気的には内側のほうが高級住宅地のようなイメージになっていた。


「こういった街は、それほど珍しくはありません。人界では、この千年の間、国対国のような大きな戦はありませんから」


 ミントがそう言った。


 魔界という強大で共通の敵がいるおかげで、人界は長い平穏な時代を迎えている。


 人同士が争って隙を見せれば、再び魔族が攻め込んでくるに違いないと警戒しているからだ。


 ただし、小さくて短期間で終わる、小競り合いのような争いは、毎年大陸のどこかで行われていた。


「そう言えば、どこかのエルフの森が戦争の原因になりかけていたと聞いたけど」


「今、私たちがいるアルメシア王国の北西にあるエルフの森のことですね」


「ああ、隣国が干ばつで大変なので、その森を寄こせと言ってきたとか」


「そのようですね。エルフの森は豊かで、水源としても安定していますから。そしてアルメシアの王は、戦をするぐらいなら、エルフの住む森など明け渡してもいいと考えているとか」


「まあ、そんな情けない話、堂々とはできないだろうから、形としては相手に軍事力で攻め取られたことにするんだろうな」


「はい。その森で暮らすエルフたちにとっては、迷惑な話です」


 もっとも、どこの国が森の支配権を持とうが、そこで暮らすエルフたちに何かできるわけではない。


 彼らを森から追い出して、それを奪ったりなどしたら、それこそ大陸中のエルフを敵に回し、全面戦争になるからだ。


「先生、あれじゃないの?」


 この大陸の情勢について語り合っていた真一とミントに、阿左美がそう言った。


 彼女の指さす方向には森があり、その木々の中から塔のようなものが飛び出している。


「この森が遺跡地域か」


 千年前の魔王軍侵攻によって滅ぼされた街や神殿だ。


 かなり徹底的に破壊されたため、復興はされず、アバトの街は場所を少しずらした現在の位置に、基礎から築かれている。


「過去には、盗賊などのアジトになっていたそうですね」


「街の近くにこれだけ大きな森があれば、隠れ家としてはうってつけだろうな」


 おまけに、その森の中には至るところに廃墟があるのだから。


「また、あのテレポートの魔法とかかかっていないよね?」


 阿左美が森を目の前にして身構えながら、そう言った。


 どうやら、エリチンが千年間引きこもっていた森のことを思い出したようだ。


 その森には、侵入者を強制的に森の外縁部へ送り返す結界が張られていた。


「この森にはエルフは住んでいないようだから大丈夫だろ。その代わり、邪教集団のトラップが仕掛けられているかもな」


「ええ~っ」


 阿左美とミントが揃って嫌そうな表情になる。


「何か、怖いというより気持ち悪い罠がありそう」


「何だ、それは?」


「ベチャとかヌメとかしていそう」


「どんな罠だ。しかし、若い女が掛かったら、どんな目に遭わされるか分からないだろうな」


「お嫁に行けない体にされそう」


「お前は、元々いけないから安心しろ」


「ひっどぉ~い!! ねえ、ミントちゃん、あんまりだよね?」


「そうですよ、真一様。アザミ様は、あの男の人たちからはモテモテだったじゃないですか」


「ああ、そうか。じゃあ、ここは大人しく捕まったほうがいいのかもな」


「ふ、二人とも……」


 ムスッと膨れている阿左美は放置して、森に沿って移動していく。


「あれだけの人数が出入りしていれば、必ず痕跡が残る。それを探せ」


「分かりました」


 この森は、アバトの街の住民が薪を拾ったり、キノコや山菜を採ったりするために頻繁に出入りしているようだ。


 ところどころに小道ができている。


「魔物や猛獣がいない、安全な森みたいだな」


 そういったものが目撃されたら、街からすぐに討伐のための兵たちが派遣されてくるはずだ。


「ですが真一様、誰でも立ち入れるような森に秘密のアジトなど作っては、すぐに誰かの目に留まり、噂になるのではありませんか?」


「そうだな」


 では、どうやってあの連中は隠れ家から出入りしているのか。


「それとも、ここは外れで、もともとアジトなどないのか?」


 なんにせよ、この廃墟の森は広い。一周ぐるりと見て回ろうと思えば、それだけで丸一日かかるだろう。


 その中まで調べようと思ったら、この三人では何週間もかかってしまう。


「一度、愛の神殿に戻ってエリチンを連れて来よう」


 他に方法はない。


「でも、それでは神殿のほうの守りは?」


「早瀬を残しておく」


「ええっ?! せ、先生、なんで私が?!」


「お前は連中に大人気だからな。それに、ダッシュができるから捕まらないだろうし、逃げ回って時間を稼いでいるうちに日が暮れる」


 そうなれば神殿の門が閉じられるし、あの体力がなさそうな連中は、さっさと諦めて帰るだろう。


「ええ~、嫌だなぁ~」


「じゃあ、お前一人でこの森を端から端まで調べるか?」


「それはもっと嫌だなぁ~」


 こうして、真一たちは一度、愛の神殿に戻ることになった。








 昼前に真一たちは、愛の神殿に戻ってきた。


 そこは相変わらず参拝者で混雑しており、その列に巻き込まれないように道から離れて、神殿関係者用の門から中へと入る。


「ん? どうした、真一殿?」


 本殿の裏では、相変わらずエリチンが筋トレをしていた。


「森の探索をするために、エリチンの力を借りたくてな」


「なるほど。それでは、ここの守りは?」


「早瀬に任せる」


 その阿左美は、二人に脇目も振らず、宿舎の食堂に駆け込んでいる。


「お腹がすいて、ヒットポイントがゼロになる直前だそうです」


 ミントがそう説明するが、もちろん彼女は言葉の意味など理解していない。


「では、我々も昼食にしよう」


 真一がそう言ったとき、偶然ヴァレリアンとシラクサも戻ってきた。


「シンイチ殿、戻っていたのか?」


「ああ。それより、どうしたんだ? 早いじゃないか」


 それはお互い様なのだが、彼女たちも何か情報を手に入れたので、報告に戻ってきたようだ。


 とりあえず、昼食を先に済ませることにする。


「実は、アバトの街の古書店で、これを売っていた」


 そう言ってヴァレリアンが、食堂のテーブルの上に、大きいというよりは頑丈そうな本をドンと置いた。


「それは?」


「子供図鑑『魔族大集合』だ」


「……え?」


「どうやら、それほど珍しい本ではないらしい。その割に値が張るので、棚に何冊も売れ残っていた」


「…………」


 魔族召喚という話が、さらに眉唾物になった。


「それで、この本の値段は?」


「初版は金貨二枚だそうだ。ちなみに、これは第三版で、金貨一枚と銀貨五十枚だった」


 この世界では活版印刷がすでに一般化しているため、書物は高価ではあるが、庶民でも買えないことはない。


 それでも、この値段はかなり高く、一般の本の十倍ほどの価格だ。


 さらに言うと、この本は古本である。


「そ、そうか。ちょっと読ませてもらっていいか?」


「もちろんだ」


 そう言うと、ヴァレリアンが『子供図鑑・魔族大集合』を真一に差し出した。


 それを受け取ると、ページをめくっていく。


 確かに子供向けの本のようだ。


 魔物や魔族たちが図入りで、丁寧かつ分かりやすく描かれている。


「色々な種類がいるのだな」


 まるでゲームの攻略本、いや、解説書のようだ。


 魔物(魔獣)と猛獣は似てはいるが、違う存在である。


 熊や狼のような人を襲う動物が猛獣で、その体内に魔力を宿したものが魔物(魔獣)なのだ。


 分かりやすく言えば、魔術が使える獣ということだ。


 火を吹いたり、石化の息を吐いたり、十万ボルトの電撃を出せれば、立派な魔物ということになる。


 ちなみに魔物は、ドラゴンやスライムのようなファンタジーゲームではお馴染みのものから、この世界ならではのものまで、何千種類も存在するらしい。


 しかし、魔物はドラゴンを除き、基本的に知能が低く、本能や習性で行動している。


 対して魔族は、人間によく似ていた。


 ダークエルフやコボルド、ゴブリン、さらにオーガといった種族が、それにあたる。


 知能があり、人間同様、村や街、国といった社会をつくって暮らしている。


 そして、それらを支配しているのが上級魔族であり、彼らは強靭な肉体と強力な魔力を有していた。


 感じとしては、肉体を持った悪魔といった雰囲気だ。


 邪教の信徒たちが召喚しようとしているのは、その上級魔族である。


 数は少ないが、一人で一国の軍隊と互角に渡り合うほどの力を持っており、千年前の戦いでは、いくつもの城や国が魔族によって滅ぼされていた。


「それら魔族を統べる存在が魔王だが、千年前に先代の勇者に倒されて以降、新たに誕生したり復活したりしたという話は聞いていない」


 それが近々復活するという、勇者神殿の大神官の予言によって阿左美が異世界召喚をされ、真一がその巻き添えになったのだが。


「それで、あの気持ちが悪い男たちは、どの魔族を呼び出そうとしているんだ?」


 そう言いつつ、真一が上級魔族の召喚方法が書かれたページをめくっていく。


 上級魔族は高い知能を持つことが必須であるため、ほとんどが人型をしている。


 ただし、肌が鱗だったり、色が赤かったり黒かったり、牙や角が生えていたり、腕や足がたくさんあったりする。


「おい、早瀬」


 真一が食後のデザートとして出された柿(のような色形の果物)にかじりついていた阿左美の肩を突く。


「なぁに?」


「これを見てみろ」


 そう言って開いたページを見せると、彼女が驚き、そして瞳を輝かせた。


「こ、これって?!」


「ああ、あのフロアボスだ」


 そこには、一体の上級魔族のイラストが載っていた。


 巨人で四本の腕があるその姿は、真一と阿左美がこの世界に召喚される前にやっていたオンラインゲームのボスキャラにそっくりだったのだ。


「四本の腕に剣や盾や杖を持って、めちゃくちゃ強いぞ~っ」


 真一が渋い声で説明文を読む。


「先生、ふざけてるの?」


「仕方がないだろう。子供図鑑なんだから。あと、魔物の中にも、あのゲームに出てきた奴が結構載っていた」


 もっとも、ゲームに出てくる魔物などは、概ねパターン化されているため、デザインが違うだけだが。


「あと、こいつやこいつも、あのゲームのボスキャラに似ている」


「ホントだ。わぁ~、懐かしいなぁ」


 その後、しばらく二人でページをめくっては、攻略パターンがどうの、ドロップアイテムがどうのと、マニアックな話題で盛り上がる。


「ところで、あいつらが呼び出そうとしている魔族って、一体何なのだ?」


 そんな二人に、遠慮がちにヴァレリアンがそう質問した。


「そ、そうだった」


 すっかり目的を忘れていた真一が、さらにページをめくっていく。


 すると、魔族召喚の章に入った。


「処女の生殖器百人分と、ドラゴンの心臓……十樽分の処女の生血と真珠を砕いた粉……処女の……やたらと処女が好きだな」


「まあ、お約束だからな」


 当たり前だが、簡単に揃えられないものばかりだ。


「そもそも、魔族って何のために召喚するんだ?」


 異世界や過去や未来からというならいざ知らず、この魔族召喚は、魔界で暮らしている彼らを任意の場所に呼び出すというものだ。


 これは召喚というよりは、強制瞬間移動というべきだろう。


「これは魔王侵攻の時、人界が行った苦肉の策だと聞いたことがある」


「策? つまり、人間側の対魔族用の戦法ということか……」


 確かに、これは使いようによっては、かなり有効だ。


 例えば、上級魔族が率いる軍勢が街や城に迫っていたとする。


 その時、遠く離れた場所で、この魔族召喚儀式を行い、その上級魔族だけ瞬間移動させたらどうなるか?


 いきなり指揮官を失った魔王軍は混乱して統率が取れなくなり、戦いどころではなくなってしまう。


 さらに、召喚場所にトラップを設置し、大軍で待ち伏せをしていれば、一人で瞬間移動させられた上級魔族も、ただでは済まない。


「つまり、この魔族召喚とは、対上級魔族用に人界が編み出した必殺技のようなものか」


「魔族は人間などよりはるかに強大な魔力を扱えますが、その反面、魔力や魔術の制約というか、強制力を受けやすいと聞いたことがあります」


 ミントがそう言う。


「読んで分かる通り、準備する物が物だけに、おいそれとは召喚の儀式は行えないし、必ずしも成功するとも限らない」


 もし失敗すれば、その儀式のために準備された物は、すべて無駄になる。


 千年前には、上級魔族を倒すために、多くの処女が犠牲になったということか?


 そう想像して、真一は胸くそが悪くなった。


「もっとも、この儀式のために準備する物は、人界側が勝手に考えたものらしい」


「へっ?」


「それはそうだろう。魔族に『貴殿を呼び出したいから、何が必要か教えてほしい』などと尋ねて、素直に教えてくれるはずがなかろう」


「確かに、それはそうだ」


「つまり、魔族召喚など、実際にやってみるまでは、何が出てくるか分からないということだ」


「……何で、そんなもんが魔界の本に載っているんだ?」

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