第39話 捜索会議
【これまでのあらすじ】
魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。
アルメシア王国北部最大の街アバトへと到着した勇者パーティーは、そこにある愛の神殿から、毎日押し掛けて来る邪神の信徒達(実際の所は愛の神殿の被害者達)を追い払う依頼を受ける。
「この世界に来て、これほど追い詰められたことはなかったな」
日が暮れて愛の神殿の門が閉じられると、真一たちは神官宿舎の食堂に集まった。
テーブルを囲んで夕食を取りながら、今日の反省会をしている。
「邪教の信徒とか言うから、どんな連中かと思ったら……」
「あの人たちも、ある意味では被害者ですよね」
愛の神殿の神官たちに聞こえないように、小声でミントがそう言った。
確かに、自分がモテないからといって、ろくな努力もせずに神頼みするほうもどうかと思うが、そんな連中の弱みに付け込んで、金を巻き上げる愛の神殿にも問題がある。
これであの男たちが神殿を攻撃したり、神官たちを傷つけたりしたら、問答無用で力ずくで追い払えるのだが、やっていることは抗議活動だ。
迷惑ではあるが、それ自体は犯罪ではない。
「クリスタルやグッズを高値で売りつけたり、ぼったくりバーを経営するほうが、よっぽど悪どいよな」
そう呟きながら、真一が食堂内を見回した。
周囲では、愛の神殿の神官たちが楽しそうに食事をしている。
女性が多いせいか、量よりも見た目や味重視の料理がメインだ。
ちなみに、メニューは真一たちも神官たちと同じだが、質より量の阿左美はかなり不満なようだ。
「それにしても、厄介な連中だったな」
「ああ、思わず剣を抜いて切りかかりそうになった」
ヴァレリアンが、自分の左腰に下げているレイピアに触れながらそう言う。
「先生は追い詰められたというより、自滅だったけどね」
阿左美にそう突っ込まれ、真一が「ウッ」と呻いて黙り込んだ。
「シンイチ殿がアザミ殿にやり込められているのを、初めて見たな」
ヴァレリアンがそう言った。
「確かにそうね」
シラクサも同意する。
「と、とりあえず、明日以降も神殿に押し掛けてくる連中は、エリチンに対処してもらおう」
「任せておけ」
外套を脱ぐだけで相手が撤退してくれるのだから、楽ではある。
「しかし、それだけでは、いつまでたっても依頼は達成できない」
「確か、魔族召喚を企んでいるとか」
ミントがそう言うと、真一が頷いた。
「そうだ。あんな連中に、そんな大それたことができるとは思えないが、もしかしたら、ひょっとするかもしれないと思えてきた」
それを聞いて、女性陣も「ウ~ン」と唸る。
「でも先生、どうやってそれを阻止するの?」
「確実なのは、連中が街の古書店で購入したという子供図鑑『魔族大集合』を奪取することだな」
「そもそも、その子供図鑑が怪しさ全開なんだけど」
「まあ、俺も心の底からそう思う」
そう言ってから、ミントのほうを見て、
「しかし、この世界の召喚は、なんというか、いい加減だからな」
「シンイチ様、何で私のほうを見たのですか?」
「なんにせよ、召喚の儀式をするなら、それなりの場所が必要なはずだ」
確かに、召喚には魔法陣を描いたり、大勢で祈りを捧げたりする必要がある。
街角や野原では、それは難しいだろう。
「あと、召喚の魔法陣を作るには、触媒が必要です」
真一と阿左美が召喚された時は、ドラゴンの血に金を溶かし、それで魔法陣を描いていた。
とても、あいつらにそのような高価なものが買えるとは思えないが、魔族はもっと安いものでも呼び出せる可能性がある。
「明日になったら、エリチンをここに残して、残りは街に行って情報収集をしよう」
「何を調べるの?」
「触媒っぽいものを大量に買い込んだ者がいないかどうか。それと、怪しい男たちが集団で出入りしている建物についてだ」
「触媒っぽいものって?」
「それは分からん」
そもそも、この世界の人間が知らないことを、異世界人である真一が知っているはずがないのだ。
「冒険者の皆さん」
そこに、愛の神殿のエステカ神官長が近づいてきた。
真一とエリチン以外は初対面だったため、皆そのケバい外見に驚いている。
「今日の夕方の活躍はお見事でした」
「それはどうも」
正直、その話題にはあまり触れてほしくない。
「以前のパーティーは、随分と苦労をしていましたから」
そのパーティーには、ボディービルダーがいなかったのだろう。
「これはお礼です」
彼女はそう言うと、果実酒の瓶をテーブルの中央に置いた。
今日の昼間、ミントはこれのために銀貨30枚をぼったくられている。
「神官長、ちょっと質問があるのだが」
真一は、試しに彼女に先ほどの質問をしてみることにした。
「何でしょうか?」
「魔族の召喚に必要な触媒が何か、知らないか?」
「そうですねぇ~」
そう言いつつ、胸の下で腕を組んで、ムギュッと寄せて上げて強調する神官長。
それを見て女性陣が「ウッ」と呻いてから、自分たちの胸を見下ろした。
「ちょっと生々しいのですが、確か、人間の男性の血液と涙だったと思います」
「人間の? 男だったら誰でもいいのか?」
「いいえ、童貞でなければ駄目なはずです」
「……もう揃っているな」
真一は、今日押し掛けてきた男たちが、服装はバラバラなのに全員腕に包帯を巻いていたことを思い出した。
この世界には採血用の針などあるはずがないので、あれは血を集めるために自分達で傷をつけたあとだろう。
血管に針を刺して集めたわけではないので、効率が悪いだろうが、それでもあれだけ人数がいれば、相当な量の血が集まっているはずだ。
あと、やたらと泣き叫んでいたので、涙はもっと簡単に集まりそうだし。
「普通なら、人間でも処女とか、王族とか、魔力が高い神官とかだろうに」
「呼び出す魔族によっては、そういう場合もあるみたいですね」
「そ、そうか。とりあえず、そんなもので召喚される魔族なら、大したことないような気がするな」
「シンイチ殿、逆に、あの男たちをさらにパワーアップしたような者が現れるかもしれないぞ」
ヴァレリアンにそう言われ、思わず想像してしまった。
異性にモテず、心がねじ曲がりまくった魔族が、
「畜生!! リア充など焼き払ってくれる!! アベックに死を!! カップルに破滅を!!」
などと叫びながら、街を破壊する姿を。
「そんなヘタレに滅ぼされるなんて、絶対に嫌だな」
元々、魔族はろくでもない存在だが、あの男たちと組むと、その相乗効果は計り知れなかった。
「フゥ、次の質問だが、この付近で地下に大きな空間がある建物や洞窟などはないか?」
「それは、召喚の儀式が行えるような、ということですか?」
「ああ、そうだ」
真一は次に、召喚の儀式ができそうな場所について質問してみた。
「廃墟などでもいい」
「申し訳ありません。アバトは大きな街なので」
「そうか」
「ただし、街の北側には、いくつかの遺跡があります」
「遺跡?」
「はい。千年前の魔王軍侵攻の際に破壊された街や神殿の廃墟です」
「そんなものがあるのか?」
「はい。とても人は暮らせませんが、過去には盗賊団が隠れ家として使用したりしていました」
「今は?」
「もちろん盗賊団は討伐されていますし、定期的に街の兵士が見回りをしています」
「何とも微妙だな」
あの男たちは、誰が見ても一目瞭然なほど弱そうだ。
例えその遺跡の周囲をうろついていても、盗賊とは間違えられないだろう。
かといって、集団で何かをしていれば、さすがに目立って噂になるはずだ。
「よし、明日は街と廃墟の二手に分かれて、情報を集めるぞ」
真一がそう言うと、皆が頷いた。




