第38話 邪教徒襲来
【これまでのあらすじ】
魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。
アルメシア王国北部最大の街アバトへと到着した勇者パーティーは、そこにある愛の神殿から、毎日押し掛けて来る邪神の信徒達から神殿を守る依頼を受ける。
その金儲け至上主義の愛の神殿に、邪教の信徒達が押し寄せて来た。
金、じゃなくて愛の神殿に怪しい集団が近づいて来た。
夕日を背に、黒いシルエットにしか見えないが、人数は30人ほどで、全員男だ。
神殿は日没と同時に門を閉じるため、この時間は参拝者はかなり少なく、残った人達も順次帰路についている。
「あっ、またあいつらだ!」
「誰か、冒険者さん達を呼んできて!!」
正門前に立っていた神官達が、その集団を見つけて慌てて走り回る。
「冒険者さん達、お願いします、あいつらが来ました!!」
ボロ小屋で打ち合わせをしていた真一達のところに、神官が駆け込んできた。
「もう来たのか……」
正直言って、まだ全然その怪しい集団にどう対処するのか決まっていなかったが、もう待ったなしである。
真一達は神殿の正門へと急いで移動した。
「俺達は、お前達を信じてたくさん寄付をしたのに、彼女ができなかった。これはどういうことだ?!」
「そうだ、詐欺だ! 金を返せ!!」
「愛の神殿などと名乗るのはやめろ!!」
男達の情けないが、心からの叫び声が聞こえてくる。
「私達は、皆さまが幸せになれるよう、神々に愛の祈祷を行っています!!」
「その効果が全く、微塵も、これっぽっちも無いんだよ!!」
「そうだ、俺達は神々に愛されていないというのか?! 幸せになる資格は無いのか?!」
「彼女なんて贅沢は言わない、せめて普通に会話ができる女友達が欲しいんだよ!!」
正門前では、神殿の警備をしている武装神官4人が、30人の男達と睨み合っていた。
ちなみに、武装神官と言っても鎧兜などは身に着けていない。ただ、動きやすいように神官服の下がズボンになっていて、手には長い警棒を持っているだけだ。
「な、何というか、よりによってという感じだな」
男達の外見を一通り眺めてから、真一がそう呻いた。
体形は太っているか、極度に痩せているかのどちらかだ。
顔は……あまり女性受けしそうにない感じで、目が細かったり、ニキビ顔だったり。あと髪型は、ハゲか長髪の概ねどちらかだった。
服装は着こなしがだらしなく、あと、何とも表現が難しい体臭が周囲に立ち込めている。
そして共通しているのは、全員顔色が悪く、腕に包帯を巻いているところだった。
「うわっ……」
阿左美も半歩後ずさりつつ、そう呟く。
「異世界にもこういう人達っているんだ」
ゲームやアニメが大好きな彼女は、世に言うヲタクと呼ばれる人達に対して、それほど悪いイメージは持っていない。
妙に挙動が怪しかったり、異性を極度に避けるくせに、仲間内では専門用語を使いまくって、やたらと饒舌になる。
それ自体は、彼女は好ましく思いこそすれ、忌避などはしない。
しかし、不潔な者達だけは駄目だった。
服装のセンスや着こなしは個人の好みがあるから何とも思わない。しかし、周囲の人間を不快にするようなら話は別だ。
特に、無精による体臭などは完全なマナー違反だと考えている。
そして、今、愛の神殿の前に押し掛けている連中は、まさにそれだった。
「他の参拝者の迷惑になりますから、どうか落ち着いてください」
「俺達も何度もこの神殿に参拝をし、寄付をし、グッズを買いまくったんだぞ!!」
「それなのに、今でも女の子達に避けられる!!」
「街中で女の子とすれ違いざまに、『うわっ、きもっ』って言われた男の気持ちがお前達に分かるか?!」
「……」
黙り込む神官達を見て、あ~、今まさにそう感じている真っ最中なんだろうな、と真一は思った。
「どうする、真一殿?」
ヴァレリアンが口呼吸をしつつ、彼にそう聞いた。
「厄介だな」
男達は全員非武装だ。
おまけに、暴力行為や破壊活動はしていない。
相手が暴れてくれれば、こちらも武器を抜いて堂々と蹴散らせるのだが、彼らは迷惑ではあっても違法行為はしていないのだ。
そして、そのような連中に暴力を振るえば、こちらの方が犯罪者になり、冒険者ギルドからペナルティーを科せられる。
「俺達の前にこの依頼を受けていたパーティーが投げ出した理由がこれか……」
「ちょっと、あんた達!!」
シラクサがそう言いつつ、男達に近づいて行った。
「誰ですか、あなたは?」
腰に短剣を下げたいかにも冒険者風の彼女の姿を見て、男達が少しひるむ。
弱い立場の相手には数を頼みに強気になれるが、それが通じない相手には本能的に腰が引けてしまうのだ。
「女にモテないからって、神殿に八つ当たりをするなんて恥ずかしくないの?」
「俺達はモテないわけじゃない」
「えっ?」
「そもそも相手にされないんだ!!」
「存在自体、認められないんだ!!」
「生きている資格が無いって言われるんだ!!」
「お願い、死んでとか、息しないでとか、視界に入らないでって言われるんだ!!」
「私などは、普通に挨拶しただけで衛兵を呼ばれましたぞ!!」
「僕なんか、夜に裏通りを歩いていたらゾンビと間違えられた」
「……」
「あ、あの……ごめん」
そう言うと、シラクサがフラフラになりながら戻って来た。
「ごめん、無理。あいつらの心の闇は想像よりも深いわ」
「あ、ああ、そうみたいだな」
そんな彼女の肩を優しく叩いて、気にするなと慰める。
「では、次は私が」
「や、やめておけ、ミントさん。きっと心に深い傷を負うぞ!!」
「いいえ、勇者神殿の神官として、その役目を果たします」
迷い悩む者達を救うのは、神官にとっては使命である。
真面目な彼女の目には、目の前の暑苦しい連中は迷える子羊の群れに見えたのだろう。
制止する真一の手を振り払い、彼女は男達の前へと進み出た。
「皆さん、どうか私の話を聞いてください」
「おおっ、か、可愛い」
神官服は、それぞれの神殿によってデザインが違う。
死者の神殿の神官服はノースリーブ、臍出し、腿出し、ホットパンツだったし、愛の神殿の神官服は、胸元が大きく開いていたり、チャイナドレスのようにスカートに大きなスリットが入っていたりする。
それに対して、勇者神殿のそれは、ミニスカワンピースの上にローブのような物を羽織っている。
どうやら、彼等には露骨なアピールや大人のお色気よりも、こちらの方が好みだったようだ。
全員の目の色が変わり、ハァハァと呼吸が荒くなる。
「え、えっと、皆さん」
「ね、ねえ、そこでクルッと回って見せて」
「お願いだから、神への祈りのポーズをやってよ」
「悪い子には神罰よって、言って!!」
彼らがそう言いつつ、ミントににじり寄った。
「あ、あの、お願いですから私の話を聞いてください」
「ああ~っ、可愛い声。何時間でも説教されたい!!」
「僕的には、是非、膝枕をして耳元で神の教えを説いてほしいのですぞ」
「あ、あの、これ、ここの神殿で買ったクリスタルです。是非、受け取ってください!!」
「ひぃいいい、ごめんなさい、私には無理です!!」
あっという間に忍耐の限界に達した彼女が、泣きながら逃げ帰って来た。
「だから、言っただろ。あいつらにとってミントさんは、ど真ん中ストライクなんだよ」
「ウウッ、盗賊より怖かったです!!」
ガタガタ震えて泣いている彼女を、阿左美がよしよしと優しく慰める。
「ミントを泣かせるとは許せん」
そう言うと、次はヴァレリアンが出て行った。
「絶対無理だろ」
「ああ、俺もそう思う」
彼女の後ろ姿を見つめつつ、エリチンと真一がそう言った。
「貴殿達は、恥ずかしく無いのか?!」
凛と響く張りのある声で、ヴァレリアンがそう言った。
「女性に好意を寄せられたいのであれば、まずは自分を高める努力をするべきであろう!!」
男達がウッと呻いて、半歩後ずさる。
彼らは基本的に高圧的な相手には本能的に反発するが、基本軟弱なので、単独行動時には驚くほど卑屈だ。
「まずはやるべきことをやり、その後で神に祈るべきとは思わないのか?!」
しかし、同志が集まると、異様に強気に転じる。
「フッ……」
彼女の正論に、男達が自嘲気味に笑った。
「騎士さん、それでは質問しますけど、やるべきことって何ですかな?」
「それは、体を鍛えるとか、勉強をするとか」
「クックックッ、甘いな、甘すぎですぞ」
「な、何?」
「女が男に求める魅力とは、学歴、収入、そして身長と顔だ!!」
男達が声を揃えてそう叫んだ。
いや、心から絶叫した。
「どれ一つ持っていない俺達が、ちょっとぐらい体を鍛えようが勉強しようが、無駄なんだよ!!」
「そうだ、どんなに鍛えたって身長や足は伸びないのですぞ!!」
「一度抜けた髪の毛も二度と生えてこないんだ!!」
どうやら蘇生魔術も回復魔術も、毛根までは復活させることはできないようだ。
「もう手遅れなんだよ!!」
「こんな外見に生まれたのは俺のせいじゃない、神々のせいだ!!」
「そうだ、神々のせいだ。だから代わりに神殿は責任を取れ!!」
あっという間に勢いを取り戻し、ヴァレリアンに詰め寄る男達。
「ううっ……剣を抜いて切り伏せたい……」
彼らとの距離が縮まれば、その体臭の濃度も増す。
「騎士さんも、どうせ俺達のことを気味が悪いって思っているんだろ?!」
「低身長、低収入、低学歴なんて、魔物以下だって思っているんだろ?!」
ついに限界を超えた彼女も逃げ帰って来た。
「す、すまない、私ごときでは無理だ」
フルマラソンを2時間台で完走したランナーのような状態で疲弊した彼女が、そう言ってガクッと膝をつく。
「さて、勇者様」
真一が阿左美の方に顔を向ける。
「えっ?」
驚く彼女の肩に手を置き、優しい笑顔で、
「出番だぞ、勇者様」
と言われた。
「で、でも、先生、今の見たでしょ?」
彼から距離を取ろうとするが、ガシッと肩を掴まれた。
「ああ、だからお前も行ってやられて来い」
「ええっ?!」
「大丈夫。この中で一番、ああいった連中に耐性があるのはお前だ」
「た、確かに、夏の幕張にはああいうのが一杯いたけど」
「だったら、さっさと行って来い」
そして、男達の方に突き出された。
「……」
彼のことを恨めし気に睨みつつ、阿左美が男達の方へと歩いて行く。
「ええ~っと、どうもぉ~」
愛想笑いを浮かべつつ、へこへこしながら進み出てきた阿左美の姿を見て、男達が「オオッ~!!」とどよめいた。
その目が驚きで見開かれ、さらにキラキラと輝きだす。
「な、何だ、初めて見る格好だが……」
「ああ、何故か分からないが、魂が揺さぶられる」
「何だ? 一体何なんだ、この感覚は?」
「忘れていた何かが揺さぶられる。まるで干からびた大地に降る雨のように染みて行く」
彼らは、彼女の異世界女子高生スタイルを見て、得体は知れないが、本能で何かを感じ取っているようだ。
「オオッ……」
感嘆の声と共に、男達がその場に膝をつき、阿左美に向けて頭を下げる。
何となくコミケ会場の有名コスプレイヤーになったような雰囲気だ。この世界にデジカメがあれば、今頃撮られまくっていたことだろう。
「な、何なの? せ、先生、ちょっと怖いんだけど、これ!!」
ゲームやアニメは好きだが、コスプレはしたことが無い阿左美が、怯えながら真一に向けて助けを求める。
「頑張れ。よく分からないが、お前ならできる」
右手を突き出し、親指を立てる真一。
「何をどうすれば良いの?!」
「自分で考えろ」
「ひぃ~、わっかんないよぉ~!!」
再び男達の方に向き直る阿左美。
「あ、あのぉ~、ちょっと顔上げて」
彼女にそう言われて、男達が祈りの姿勢を止めた。
「ねえ、皆もう分かっているんでしょ?」
「何を?」
「三次元なんてろくなもんじゃない、二次元の方が素晴らしいって」
それを聞いて、男達の身体を雷のような衝撃が貫いた。
もちろん、三次元だとか二次元だとか、彼らが理解できるわけがない。
しかし、何となくイマジネーションというか、インスピレーションで、その意味を感じ取ったようだ。
お互いの顔を見合わせて、ざわめきだす。
「あの~、真一様、今のはどういう意味ですか?」
「つまり、現実の女より、絵に描いた女性の方が良いだろうってことだ」
「絵……ですか?」
「この場合は絵だけではなく、彫像や石像なども含まれるがな」
「確かに芸術は心癒されますが、それと生きた女性は全くの別ものなのではありませんか?」
「だから良いんだろう。要は、頭の中で好きな状況を妄想できるわけだからな」
それを聞いて、ミントがものすごく嫌そうな表情になった。
どうやら神々の石像や肖像画を見て、いかがわしい妄想をしつつ恍惚とした表情になっている彼らの姿を想像してしまったようだ。
「もしかして、現実の女性には相手にされないから、絵を見て理想の女性像を妄想するということですか?」
「まさしくその通りだ」
「それって虚しくないんですか?」
「そんな一線、とっくに超越しているということだ」
「……」
ざわついていた男達が静まりだした。
「確かに、現実の女には幻滅をしている。しかし、大陸は広いんだ。こんな俺達でも良いと言ってくれる人が、どこかにいるかもしれない」
「いないよ」
「い、いや、どこかのダンジョンや樹海の奥を探せば、一人ぐらいは」
まるでボスキャラ扱いだ。
「無理無理」
「人界は無理でも、魔界に行けば」
ついに人間でなくても良いというところまでハードルが下がってきた。
もっとも、逆に人間の女性を相手にするより難易度は上がるのだが。
「現実を見ようよ」
「……」
男達がどんどん弱っていく。
「さすがはアザミだ」
「ああ、あいつら相手に一歩も退かないどころか、逆に圧倒している」
シラクサとヴァレリアンが感心している。
「だったら、あんた達!!」
男の一人が、事の成り行きを見守っているというか、置いてけぼりになっていた愛の神殿の神官達を指さした。
「えっ、私達?」
我に返った彼女達が驚いて、自分の顔を指さす。
「そうだ、愛を大陸に広めるのが役目なら、俺達の恋人になってくれよ!!」
「それは良い考えだ。俺なんか全財産を寄付したんだ、それぐらいしてくれても罰は当たらないぞ!!」
「お、俺は、さっきの違う神官の方が良いけど」
そこから、「俺はあの子が」「だったら俺はあっちの子が」みたいな話題で盛り上がり、さらにその視線が次第に阿左美に集中し始める。
「で、でも、やっぱり……」
「ああ、そうだな。どうせなら」
「こんなに心がトキメイタのはいつ以来だろう」
「何だか、嫌な予感がするっていうか、嫌な予感しかしない……」
阿左美がジリジリと後ずさり始めた。
「な、なあ、あんた、俺達と一緒に食事でも……」
「わ、わたくしめは、美味しいハチミツ酒のお店を知っておりますぞ」
そう言われた瞬間、阿左美が全力疾走で逃げ出した。
「助けてぇ~、先生、無理無理、絶対無理!!」
「あ~、お疲れ。よく頑張ったな」
泣きながら抱き着いて来た彼女の頭を撫でつつ、真一が慰める。
そして、そんな阿左美をミントに預けて、今度は自分が前に出た。
外見からは戦士とも魔術師とも、そもそも冒険者にも見えない彼の姿に、男達が身構える。
「ハァ……あんた達の気持ちも分かる」
真一が疲れた表情でそう言った。
実は彼はこの時、ほんの少しだけ彼らに同情をしていた。
女という生物は、時に男に対して残酷な仕打ちを平気でやる。
決して男前ではなく、気難しい性格の彼は、甘酸っぱい青春とは縁遠い学園生活を送って来たのだ。
「な、何だと?」
謎の男の言葉に、彼らが驚いた。
「確かに、女っていうのは我儘で意味不明だ。さらに、気に入らない奴には残酷なことをやっておいて、自分は悪くないって顔をしやがる」
「……」
「自分の目的のためなら、好きでもない男に平然と媚びを売るし」
「あ、ああ、そうだ」
「好みの男と、そうでない者をさも当たり前のように差別もする」
「その通りだ」
「自分は男に酷いことを平気でするのに、ほんの少しでも言い返されたら、理不尽なことに滅茶苦茶切れる」
「ああ、そうだ、そうなんだよ!!」
何と言うか、嫌な盛り上がり方をしている彼らを、阿左美達が半眼になって見つめている。
「なんというか、ずいぶんと実感がこもっていますね」
「まあ、先生も色々苦労していたみたいだから」
「まさに、共感だな」
ミント、阿左美、ヴァレリアンの順でそう言う。
「で、でも、このまま言いくるめることができて、あいつらを追い返せたら、依頼達成じゃない?」
シラクサが何かを期待しつつ、そう言った。
「逆に、あの連中と意気投合して、あっち側に行ったらどうしましょう」
「それは大丈夫だよ、ミントちゃん」
「何故そう言い切れるのですか、アザミ様?」
「だって今の先生って……」
そう言い合う彼女達の視線の先では、真一の熱弁が続いている。
「自分から告白してきておいて、飽きたら『君って退屈』とか『あなたよりもっと好きな人ができたの』などと言って、さっさとポイだ」
「……」
「何が『素敵な思い出をありがとう』だ、『あなたと知り合えて私、幸せだった』だと。自分だけ良い思い出にしやがって、こっちが少しでも恨み言を言えば、『器の小さな男』とか、『最低男』だなどとゴミを見るような目で見下してきやがる」
普段はクールな真一が、拳を握り、絞り出すような声でそう続ける。
どうやら彼も女性には色々と言いたいことがあったようだ。
「……」
「どうだ?」
俺はお前達の味方だとばかりに、真一が笑顔でそう言う。
彼の心の中では、心を開いた男達が感涙にむせびつつ、真一の前で頭を下げ、許しを請う姿を想像していた。
しかし――。
「フッ、何だ、自慢話か」
「何?」
「結局、お前は女と付き合ったことがあるんだろうが!!」
「そうだ、そもそも女と手すら握ったことが無い俺達にしてみれば、お前は充分にリア充だ!!」
「俺はお前達なんかとは格が違うって言いたいのかよ!!」
「そもそも、あんたのパーティーは可愛い女の子ばっかりじゃないか!!」
「許せない、リア充なんか魔王に滅ぼされたらいいんだ!!」
「つまり、お前は敵だぁ!!!」
どうやら、逆効果だったようだ。
男達が真一を包囲して、口汚く罵る。
「ああっ、やっぱりこうなったか。とりあえず先生がピンチだ」
「でも……なぜか助けなければという気持ちになれない」
阿左美とシラクサが、冷めた目で彼らを見つめつつ、そう言う。
ミントもヴァレリアンも同感のようだ。
あと、真一を助けたいと思う気持ちもあるにはあるのだが、あの集団に近づきたくないと本能がブレーキをかけている。
「任せろ」
その時、それまで黙って事の成り行きを見守っていたエリチンが動いた。
その巨漢からは信じられないような身軽さでジャンプをすると、男達に包囲された真一の隣に着地する。
「エ、エリチン?!」
「だ、誰だ、お前は?!」
驚く真一と男達。
そんな彼らの前で、エリチンがバッとフードを外し、外套を脱いだ。
人間には決してたどり着くことができない領域、千年もの長い年月ーーいや、それはもう歴史だーーをかけて鍛え上げられた筋肉が、夕日によって赤く染め上げられる。
「や、ヤバイ、こいつマッチョだ!!」
「ギャーッ!! た、助けてくれぇ~!!」
「やめろ、俺達に近づくなぁ~!!」
それを見た男達が、泣き叫びながら逃げ散って行く。
ちなみに、愛の神殿の神官達も腰を抜かして驚いていた。
「ヒィイイイイイ!!」
情けない悲鳴をあげつつ夕日に向かって逃げていく男達を、フロント・ダブル・バイセップスのポーズで見送るエリチン。
ちなみに、フロント・ダブル・バイセップスとは、ガッツポーズのようなポージングである。
精神的にも肉体的にも不健康な彼らにとって、その両方が極限まで鍛え上げられているボディービルダーは最大の天敵なのだ。
「あ、ありがとう、助かったよ、エリチン」
「フッ、気にするな。そのための筋肉だ」
えっ、そうなの? と思わずツッコミたくなったが、黙っておく。
なんにせよ、今日のところは邪教徒集団を追い払うことができた。
ただし、真一達が受けた依頼は、彼らが二度と愛の神殿に嫌がらせをしないという確約を取ることだ。




