第37話 金の神殿
【これまでのあらすじ】
魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。
アルメシア王国北部最大の街アバトへと到着した勇者パーティーは、そこにある愛の神殿から、毎日押し掛けて来る邪神の信徒達から神殿を守る依頼を受ける。
依頼内容の確認と、今日からの寝床が確認できたので、真一とエリチンは阿左美達を迎えに愛の神殿の本殿の方へと向かった。
相変わらず大勢の参拝者で賑わっており、4人がどこにいるのか分からない。
しかし、そんな人ごみの中から阿左美が飛び出してきた。
「先生、先生!!」
と言いながら駆け寄ってくる。
「どうした、早瀬?」
「このクリスタルを持っていると、素敵な恋人と出会えるんだって。普段なら銀貨10枚だけど、今日は特別に8枚で買えるの!!」
「だから?」
「お金ちょうだい!!」
純真無垢な少女のような笑顔で彼女がそう言った。
「ふざけるな」
「ええ~っ!! 一生懸命頑張って来たんだから、少しぐらい良いじゃない!!」
「こんな胡散臭い神殿のクリスタルに、そんなご利益なんかあるものか」
先ほどのエステカ神官長の部屋のことを思い出して、真一がそう言った。
「そんな物のために金を使うぐらいなら、服や化粧品を買って自分磨きをした方がはるかにましだ。そもそも、何か本当に効果があっても、お前のブレザーでキャンセルされるだけだ」
「えっ、じゃあ服とか買ってくれるの?」
「この仕事が終わったらな」
「やった~!!」
こいつ、本当に単純だな。もし元の世界に戻って社会人になった時、まともに生きていけるのか? と思わず心配になる。
次はヴァレリアンが真一達を見つけて駆け寄って来た。
「シンイチ殿、これを見てくれ」
彼女はそう言うと、愛の神殿の紋章が入った短剣を二本取り出す。
「この短剣を1本は自分で、もう1本を好きな相手に渡すと、両想いになるそうだ」
「ほほぅ。で、誰に渡すんだ?」
「えっ?!」
「その短剣は誰かに渡さなければ効果がないということだな。で? 誰か渡す相手がいるのか?」
「そ、それは……」
どうやら、相手の口車に乗って思わず買ってしまったが、根本的なところが抜け落ちていたようだ。
「ちなみに、その短剣の有効期間は?」
「三カ月ぐらい……だそうだ」
「なるほど、お部屋の防臭剤ぐらいは効果が持続するわけだな。で、値段は?」
「金貨1枚……」
「普段はもう少し高いのか?」
「金貨1枚と銀貨50枚……」
ヴァレリアンは真一達とは違い、自分のお金は自分の財布で管理をしているため、阿左美のように事前に止めることができなかった。
「まあ、三カ月以内に渡せる相手と出会えるように頑張るんだな」
「迂闊だった。思わず神官の口車に乗って……」
彼女は彼女で騎士としては優秀かもしれないが、貴族の娘なため世間知らずだ。
次はシラクサが戻って来た。
「シンイチ、ここってあれだね……」
「シラクサは何か買わされなかったのか?」
「クリスタルや短剣を買え買えってしつこく言って来たんだけど、見たら銅貨10枚で買えるような安物ばかり」
真一の後ろで阿左美とヴァレリアンが気まずそうに俯いている。
「あと、神殿のあちらこちらを見て回ったけど、見た目は派手だけどハリボテばっかり」
「さすがだな」
「正直、ガッカリね」
彼女もそれなりに何かを期待していたようだが、現物を見て、この神殿の本当の姿に気付いてしまったようだ。
あとはミントだが、彼女はなかなか戻って来ない。
「彼女のことだから、下手な物を買わされたりはしていないと思うが」
ミントは真面目だから、良い物だからぜひ、と言われても断るだろうが、逆にこれを買ってもらわないと上司に怒られるとか言われたら、同情して金を払いそうだ。
とりあえず、神殿の敷地内を回りつつ彼女のことを探した。
すると――。
「冗談ではありません!!」
一軒の建物からミントの声が聞こえてきた。
彼女が大声を張り上げている姿を見たことがなかったので、最初、それがミントの声だとは気付かなかった。
「あれ? 今のって……」
「ああ、ミントさんみたいだな」
慌てて、その声が聞こえてきた建物へと駆け寄って行く。
そこは、飲食店、いや、酒場のようだった。
中に入ると、照明は薄暗いが、豪華なソファーやテーブルが並べられており、壁際にはカウンターがある。
真一達がこの世界に来てから入ったことのある酒場とは雰囲気が違い、かなり高級そうだ。
そして、その店内でミントが店員、いや、神官達と睨み合っている。
「ミントさん、どうした?」
彼女に駆け寄って、真一がそう聞いた。
「あっ、真一様。それに皆さん」
「トラブルか?」
「そ、それが、その……」
すると、それまで黙ってミントを睨みつけていた神官達が、
「ちょっと、人聞きの悪いことを言わないでください!!」
「そうです。その神官は、無銭飲食をしようとしていたのです!!」
と、口々に言い出した。
「む、無銭飲食?! 早瀬ならいざ知らず、ミントさんがそんなことするはずがないだろう」
「ち、ちょっと、先生、ひっどぉ~い!!」
後ろで阿左美が抗議する。
「いいえ、これを見てください」
そう言うと、神官が真一に伝票を突き付けてきた。
「なになに? テーブルチャージ代銀貨50枚、果実酒銀貨30枚、フルーツ盛り合わせ銀貨20枚、合計金貨1枚……」
それを読み上げる真一。それを聞いて神官達がウンウンと頷く。
「……ぼったくりじゃねえか!!」
「ぼったくりとは失礼な。ここは神聖なる愛の神殿です。信者達の悩みを聞き、愛を説いて導く。そのために、ほんのちょっぴり酒の力を借りているだけです」
「まあ、そのやり方を否定はしないが、問題は代金だ」
「こちらも慈善事業ではありませんから」
「ここは神殿だろうが……」
ちなみに、真一達が入ったことがあるこの世界の酒場では、これまでテーブルチャージ料など取られたことはない。
さらに、酒は高くても1杯銅貨5枚程度、料理もどれほど高価でも銀貨1枚程度だ。
「ミントさん、何でこんなぼったくりバーみたいな店に入ったんだ?」
「それが、この店の前で声をかけられまして、私が勇者神殿の神官だと名乗ると、ぜひお互いの情報交換をしようと」
「なるほど。それでこの店に入って、酒を一杯とフルーツの盛り合わせが出てきたわけだ」
見ると、そばのテーブルの上に、この世界では高級品であるガラス製のグラスと、ほとんど手が付けられていないフルーツの盛り合わせがあった。
「まんまと、やられたな」
まさか、神殿にこんな店があるとは。まさに、油断も隙も神も仏もあったもんじゃない。
「ほら、これで良いんだろ」
そう言うと、真一が財布袋から金貨を1枚取り出して、神官に渡した。
「し、真一様?!」
「まあ、高い授業料だと考えよう」
仮にも相手(愛の神殿)は依頼主だ。
できるだけトラブルは避けたい。
「毎度ありがとうございましたぁ~」
とっても可愛らしい神官達の笑顔に見送られて、店の外へと出る。
「ここって、怖い所だな」
「本当に愛の神殿なの?」
真一と阿左美が、しみじみとそう呟く。
「私が言うのもなんですが、いくら何でもここはやりすぎです」
勇者神殿の神官であるミントが、申し訳なさそうにそう言った。
「とりあえず、さっき神官長と色々話をしてきた」
その内容の説明をするために、男達の宿泊場所であるボロ小屋へと向かった。




