第34話 アバトの街
【これまでのあらすじ】
魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。
魔石鉱山における魔物退治と、死者の神殿の問題を円満に解決した勇者パーティーはアルメシア王国北部最大の街アバトへと到着する。
バタ足で泳ぎまわる不気味な巨大魚のせいで、カゲツの街周辺の漁師や、行き交う商船がパニック状態になった。
特に誰かが襲われたわけではないが、無害とはとても思えない。
ついにカゲツの街の商人組合が冒険者ギルドに討伐依頼を出したが、翌日の朝にはバタ足マグロは忽然と消えてしまったそうである。
カゲツの街を出発してから1週間、やっと馬車の旅が終わろうとしていた。
「やっと着いた」
馬車に揺られ続け、いい加減うんざりしていた阿左美がそう呟いた。
無理もない。歩くよりはましだが、馬車は乗り心地が悪い上に、かなり寒かったのだ。
貴族が乗るような高級な馬車であれば暖房が効いているが、真一達が乗った乗合馬車には、そのような物はない。
それどころか幌は隙間だらけで、雨が降れば雨漏りし放題。
歩いていれば体が温まるが、じっと座っているだけなので、体は冷える一方だ。
そういう意味では、筋トレしながらずっと歩いていたエリチンは、まだ暖かそうだった。
まあ、外套の下はブーメランパンツ一丁なのだが。
真一達は身を寄せ合い、毛布などを被って、ひたすら寒さに耐えてきた。
途中の宿場では、宿屋や冒険者ギルドに泊まれたため、食事と寝床に関しては不自由はしなかったのが、数少ない救いだった。
「これは、確かに大きな街だな」
馬車から降りた真一がそう言った。
そこは街の中央にある停留所で、百台を超える馬車が列を作って並んでいる。
荷物と馬車と人がひしめき合い、カオス状態になっていた。
周囲に目を向けると、大きな建物が見渡す限り並んでおり、確かに大都会という感じだった。
「ここはアルメシア王国北部最大の街だからね。商業の中心で、人口は10万人を超えていたんじゃないかな」
シラクサがそう説明してくれた。
「ミントさんは、この街に来たことは?」
「いいえ、ここまで遠出をしたのは初めてです」
彼女も珍しそうにキョロキョロとしている。
「ヴァレリアンは?」
「私は南部はあちらこちら行ったが、ここまで北部に来たのは初めてだ」
「ということは、シラクサ頼みだな」
地図もない、土地勘もない街をあてどなく歩いても、目的地には着けない。
「まず、依頼を果たそう。冒険者ギルドまで頼む」
「分かった。多分こっちだよ」
「多分?」
「細かいことは気にしないの。私も久しぶりなんだから」
そう言うと、シラクサが先頭を切って歩き出した。
確かに都会というだけあって、すれ違う通行人の数が多い。
その上、金持ちっぽい恰好の人も多いし、警備兵達の装備も高そうだ。
「やっぱり流行りの服とか鎧ってあるのかな?」
「そりゃ、あるんじゃないか」
阿左美の疑問に真一がそう答える。
「どうせなら、そういうの着たいなぁ~」
「お前はブレザー以外着られないだろうが」
「そうでした」
「そんなことより、早瀬はまともな魔術を使えるようになるのが先だ」
「ええ~っ、もういいよ。私は剣の道に生きるから」
「そうはいかんだろう」
千年前に魔王を倒した勇者は、魔法戦士だった。
そして、防御は特殊効果をてんこ盛りにした鎧兜で補い、剣と盾に魔術効果を付与して戦ったのだ。
防御の特殊効果は或祖紅高校のブレザーに移されたが、武器や盾には自分で魔術をかけなければならない。
あのカゲツの街で阿左美がマグロ魚人を創造(召喚?)した後、彼女が頭にイメージした魔術の構成で、真一が魔術を発動してみた。
すると、見事にその指先に種火が出現したのだった。
つまり、阿左美は魔術の構成を間違ったわけではないのだ。
「正しい方法で魔術を発動したのに、結果が途方もなく違う形になる」
自分の指の先でユラユラと揺れる火を、真一はしみじみと眺める。
「さすがと言うべきか、やっぱり早瀬だな」
彼の視線が、川で元気にバタ足で泳いでいるマグロ魚人に向けられる。
その進行方向にいた漁師達が逃げ惑っていた。
中には、船から飛び降りて泣き叫びながら逃げている者までいる。
「あ、あの~、どうしよう?」
さすがにマズいことをしたという自覚があるのだろう。困り切った表情で阿左美がそう言った。
「とりあえず、この場を離れよう」
「あ、あれはどうするの?」
「見た目はアレだが、早瀬が生み出した物なら、大した害はないだろう」
「もしかして……放置?」
「じゃあ、お前が自分で何とかしてこい」
「さっさとこの場を離れましょう」
「まあ、魔王が本当に復活するかどうかは別にして、勇者として魔術が使えないのはまずいな」
「正確には、使えないわけではないのですけどね」
真一のボヤキに、ミントがそう補足した。
確かに、阿左美が魔術を使えるのは間違いない。ただ、結果が予想とかけ離れているだけだ。
「またあんな愉快な物が出て来るかもしれないと思うと、迂闊に練習もできんし」
そのような会話をしつつ歩いていると、すれ違う人達が彼らの方を見て、ヒソヒソと囁き合っていることに気付いた。
もう慣れっこだが、阿左美と真一の恰好が珍しいのだ。
「ふと思ったのだが、早瀬は服を変えるわけにはいかないが、俺は別に着替えてもいいんだよな」
「ええ~、私もファンタジーっぽい服を着たい~」
「そのブレザーの付加特性がなくなったら、お前の存在価値は限りなくゼロになるんだぞ」
「…………」
自分でもそう思わないわけではないらしく、ウウッと言葉に詰まる。
そうこうするうちに、アバトの街の冒険者ギルドに到着した。
これまでの街のそれとは違い、大きくて立派だ。
おまけに冒険者の数も多く、開かれたままになっている扉から、ひっきりなしにそれっぽい恰好の男女が出入りしている。
「なんというか、これまでに会った人達とは、見るからにレベルが違いますね」
確かに、身に着けている装備もそうだが、面構えや雰囲気が強そうだ。
真一達は各人の能力は別にして、パーティーとしてはまだ駆け出しの新人でしかない。
「今夜はここで泊まるか」
冒険者ギルドは食堂や宿屋を兼ねており、ギルドに登録していれば格安で利用ができる。
「とりあえず、依頼を果たそう」
そう言うと、真一を先頭に中へと入って行った。
外見同様、屋内もかなり広くて立派だ。
これまでの冒険者ギルド同様、そこは食堂になっており、テーブルがズラリと並び、ウェイトレスが忙しそうに走り回っている。
そして、依頼書が貼られた壁と受付カウンター、そのどれも規模が違うが、これまでと同じだった。
「依頼の数もすごいな」
壁一面に貼られた依頼書を横目に通り過ぎると、受付カウンターへと近づいて行く。
「カゲツの街のギルドからの預かりものだ」
そして、そう言いつつ手紙の束を手渡した。
「これは、ご苦労様です」
ギルドの受付というよりは、高級ホテルのフロントマンのような男性がそう言うと、礼儀正しく頭を下げた。
そして、真一が差し出した手紙の束を受け取ると、中身を確認する。
「確かに、依頼は達成されました」
彼がそう言ったので、真一が依頼書を魔術で燃やし、報酬を受け取った。
「もしかして皆さんは、勇者神殿からおいでになったのですか?」
「ん? ああ、そうだが」
「やはりそうでしたか。最近、噂になっているのですよ。新人パーティーが盗賊団を討伐したり、鉱山に出没した魔物を退治したと」
「そうなのか」
「はい。若い人ばかりなのに、凄い功績です」
まあ、褒められて悪い気はしないが、多分、阿左美のせいで悪目立ちしているのだろう。
その後、彼らは壁に貼られた膨大な量の依頼書を見て回った。
「シンイチ、次はどんな依頼を受けるの?」
シラクサがそう聞いてきたので、
「この街を基点にして、そこそこ報酬の良いものを選ぼう」
と答えた。
真一としては、これまで受けたことのないジャンルの依頼を受けたいと考えていた。
要は、仕事の幅を広げていきたいのだ。
「これまで受けたのが、エルフ(エリチン)の森からの立ち退き、盗賊討伐、隊商の護衛、そして魔物退治。もちろん同じジャンルでも構わない。似ていても全く同じ内容ではないだろうからな」
それはそうだ。
魔物退治と言っても、退治する魔物によってやり方などは大きく変わってくる。
盗賊討伐も場所や人数が違えば、戦い方も変わるだろう。
「ん?」
ふと目を止めたのは、見慣れない紋章が入った依頼書だった。
「愛の神殿?」
思わずその依頼先を見て、首を傾げる。
「それは、この街の近くにある神殿ですね」
すぐにミントがそう教えてくれた。
「先日の死者の神殿同様、愛し合う二人が結婚式を挙げたり、参拝すると恋人ができたりする神殿です」
「縁結びの神社のようなものか」
「はい、とても素敵な神殿だと聞いています」
どこの世界でも女の子達は、この手の話題が大好きだ。
「ええ~っ、本当?!」
「私の目標は、王族か貴族と結婚することなの」
「私は興味はないが、詳しく聞こうか」
と、女性メンバー達が真一の周囲に集まって来て、その依頼書に注目する。
「どうやら、次に受ける依頼が決まりそうだな」




