第32話 祝宴とその後の死者の神殿
【これまでのあらすじ】
魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。
魔石鉱山で魔物により30人の鉱夫と5人の冒険者の命が奪われた。
その原因であるポイズンガストの討伐に真一達は成功する。
真一が鉱山長に今回のポイズンガスト退治の説明を始める。
「ポイズンガストも弱いとはいえ魔物だ。さらに言うと、気体。採掘現場で積み上げられていた魔力増幅の魔石や、岩盤の中に埋もれているそれのせいで、能力が一時的に増幅されたのだろう」
「……確かに、あそこでは今、ザクザク魔石が掘れていたけど」
「おそらくポイズンガストは、北の沼地から風に吹かれて鉱山内に迷い込み。そして、迷路のような内部をフワフワと漂っていたが、他の場所では人間に危害を加えていない。そして、一番奥の採掘現場でのみパワーアップしたのだ」
「なるほどね。被害が採掘現場だったから、何か凶暴な魔物の巣にぶち当たったのかと思っていたが、どうりで最初の冒険者達が何も見つけられなかったはずだ」
「その時は、ガスも違う場所に移動していたのだろうな。もちろん、この後、鉱山内を隅々まで歩いて、他にポイズンガストがいないか調べるが」
「分かった。それで異常がなければ、依頼達成を認めるよ」
「よし、じゃあ行くぞ、早瀬」
「ううっ……ちょっと休ませて」
ミントに治癒の魔術をかけてもらいつつ、阿左美がそう答えた。
結局のところ、その後、半日かけて鉱山内を調べて回ったが、他に魔物はいなかった。
真一達が地上に戻ってそのことを伝えると、鉱山長は大喜びして依頼達成を認めてくれた。
さっそく依頼書を暖炉に放り込んで燃やしてしまう。
これによって、冒険者ギルドにある依頼書の写しの色がかわり、依頼が達成された事を知らせるのだった。
さらに、鉱山長は今日は祝宴を開いて礼をしたいとまで言ってくれた。
結局、鉱山内の捜索を終えたころには夕方になっていたので、素直にその申し出を受ける。
広場に次々とテーブルが並べられ、料理と酒が運び込まれてくる。
魔物騒ぎが始まってからずっと溜まっていた鬱憤を晴らすように、鉱夫達も続々と集まって来た。
「若いのに大したもんだ」
「本当だぜ。どうせなら最初からあいつらが来てくれたら良かったのに」
「まあ、やり方はちょっとあれだったけどな」
実際のところ、彼らは酒を飲める口実ができて嬉しいだけのようで、集まった者から順番に勝手に飲み食いを始める。
「さあ、勇者様一行のお出ましだ!!」
真一達が宿屋から広場に出ると、歓声が上がった。
ちなみに「勇者様一行」と言ったのは、単なるお世辞で、阿左美の正体に気付いたからではない。
「さあさあ、こっちに来てくれ」
鉱山長がメインテーブルに彼らを呼び寄せる。
そこには特に豪華な料理と飲み物が準備されていた。
「早瀬、さあ好きなだけ平らげろ」
「了解であります!!」
真一の許可が下りると、阿左美がご馳走達に襲い掛かった。
「よく考えたら、今回私は何の働きもしていないのだが、良いのかな?」
ヴァレリアンが申し訳なさそうにそう言った。
「良いの良いの。ガスが相手じゃ、剣ではダメージは与えられないんだから」
こちらは全く悪びれずに、シラクサが葡萄酒の瓶に手を伸ばしている。
まあ、一応彼女は情報収集などをして働いていたが。
「フム。我らは一心同体だ」
こちらは筋トレとドワーフとの口喧嘩以外、本当に何もやっていないエリチンが、タンパク質の多そうな肉を選んで食べつつそう言う。
「まあ、一杯やりな」
鉱山長がそう言いながら、真一のグラスに琥珀色のアルコールを注いだ。
「どうも」
「それにしても、あんたのあの魔術はどこで覚えたんだい? ポイズンガストを吸い寄せた、あれだよ。風の魔術だとは思うんだけど、あんなの見たことも聞いたこともないよ」
「まあ、俺のオリジナルだからな」
「んなぁっ?!」
平然と答える彼に驚く鉱山長。
それもそのはず、普通の魔術師は、既存の魔術構成を一生懸命覚えて魔術を発動する。
そして並み以上の魔術師になると、それを自分用にアレンジしたり、パワーアップさせたりできるようになり、
偉大な魔術師と呼ばれるようになると、オリジナル魔術を作れる者がたまにいるのだった。
そして、嘘でなければ、真一はその偉大な魔術師クラスのことをやってのけたことになる。
「あ、あんたと言い、あの大食いの女と言い、あのオーガみたいなエルフと言い、本当に何者なんだい、あんた達?」
「冒険者だ」
「まあ、それは知っているんだけど」
普通の冒険者とは、色々な意味で規格外だ。
「あんた達ほどの冒険者パーティーなら、名前が売れていてもおかしくないと思ったんだけどね」
「まだ駆け出しの初心者パーティーだからな」
「嘘でしょ?!」
これも紛れもない真実だ。
ただし、召喚勇者のパーティーなのだが。
「おい、いつものあれやろうぜ!!」
「いいな、久しぶりだな!!」
宴会場の中央付近で鉱夫達がそう言って杯を掲げて立ち上がった。
そして肩を組んで歌い始める。
どうやら、彼らが鉱山で働いている時に普段唄っているもののようだ。
まさに異世界版炭坑節だな、と真一は思った。
「皆、嬉しそうだな」
「そりゃ、このままだと鉱山は封鎖され、皆失業するところだったんだからね」
「多くの仲間を失っても、変わらずに働けるのか?」
「冒険者だって、毎日大陸のどこかで魔族や魔物と戦って死んでいるだろ。騎士や兵士だって、それは同じさ」
まあ、この世界の文明レベルでは、真一達の世界と違い、人の死はもっと身近なはずだ。
生まれた子供が成人までに死ぬ確率も高いだろうし、そもそも出産自体のリスクも高いはずだ。
日本に比べれば治安も悪いため、旅をすれば野盗に、家にいても盗賊に襲われることもあるだろう。あと、ここの鉱山のように魔物に襲われる可能性もある。
要するに、言い方は悪いが、人が死ぬことに慣れていて、老人になるまで生きることができれば幸運だと考えているのだ。
大声で怒鳴っているような歌声に聞き慣れた声が混ざったので顔を向けると、阿左美が鉱夫達に混ざっていた。
お気に入りのハチミツ酒の瓶を片手に、テーブルの上に立って楽しそうに笑っている。
「相変わらず凄いな、あいつは……」
元の世界でもそうだったが、阿左美のコミュ力は一般生徒達より桁違いに高かった。
男女問わず誰とでもすぐ仲良くなり、彼女のいるクラスは他に比べて雰囲気が明るいのだ。
その証拠に、彼女のクラスでは、虐めどころか喧嘩をする生徒すらほとんどいなかった。
絶えず明るく朗らかな雰囲気のため、そういった負の感情など発生しないのだ。
阿左美自身は、見た目が可愛いため当然男子にはモテたが、恋人がいるという話は聞いたことがなかったが。
「いいぞ姉ちゃん、脱げぇ~!!」
髭顔の鉱夫が調子に乗ってそう言うと、阿左美が踊りながらブレザーのボタンを外し始めた。
「いい加減にしろ!!」
直後に真一が手元にあった空の皿を投げ、それが彼女の頭に直撃する。
鉱山で宴会をした後、宿屋で一泊した真一達は、一旦カゲツの街に寄り、冒険者ギルドで報酬を受け取った後、死者の神殿まで一気に移動した。
「と、いう訳で、鉱山での魔物退治は無事終了した」
死者の神殿の神官長、ジョニー・ゲンジに真一が事の顛末を説明する。
「そうでしたか。まさかポイズンガストが魔石の影響で……」
「そうだ。しかし、食欲は増しても胃袋までは大きくならなかったようで、魂が吐き出されたか、下痢をしたようだ」
「そ、それはまた……」
そう言うと、ジョニー神官長が窓の外に目を向ける。
そこからは、畑を耕すゾンビ達の姿が見えた。
相変わらず肉体は腐ることなく、(死んでいるが)健康そのものだ。
「まさか、彼らの魂が未消化状態のゲ〇やウ〇チと同じだったとは」
とても本人達に伝えることはできない。
いくら体は死んでいるとはいえ、心は健全な普通の人間なのだから。
「さて……どうしましょう?」
「いや、俺に聞かれても」
このままでは、いつまでたっても死者の神殿の門を開放して、参拝者を受け入れることができない。
ゾンビ達を地下室に閉じ込めて隠すという方法もあるが、ピュアなゾンビである彼らにそれをするのは、さすがに酷というものだろう。
「ど、どうかお願いです。一緒に考えてください」
「う~む」
真一が腕を組んで考え込みつつ窓の方に目を向けると、杖を構えて今にも浄化の魔術を放ちそうなミントの後ろ姿が見えた。
彼女もゾンビ達の事情は理解し、一応同情もしているのだが、職業柄、ゾンビを見ると本能的に魂を死後の世界に送りそうになるのだ。
「ねえ、先生」
それまで彼の隣で、出されたお茶とお茶菓子を交互に口に運んでいた阿左美が、彼を呼んだ。
「何だ?」
「要は、あの人達を有効利用したら良いんでしょ?」
「まあ、そうだが」
「だったら、私、良い考えがあるんだけど」
「ええ~、お前が?」
「ほ、本当ですか?! 是非、是非教えてください!!」
渋い表情になる真一に対して、ジョニー神官長が身を乗り出して阿左美に詰め寄る。
「うんうん、任せてよ」
そして、彼女が満面の笑みを浮かべてそう答えたのだった。
【後日談】
真一達勇者パーティーが去ってから1カ月がたったこの日、ずっと閉じられていた死者の神殿の門が開かれた。
そして、そのことは事前に周辺の村や町に知らされていたため、大勢の参拝者達が押しかけて来ている。
「本当に久しぶりだねぇ~」
「ご先祖様にお祈りを捧げたくて仕方がなかったんだよ」
「やっぱり改装中だったのか?」
どうやら、長い間門を閉じていたため、そんな噂が流れていたようだ。
「ようこそおいでくださいました」
露出度の高い衣装の神官達が、笑顔で出迎えてくれる。
「ほふぅ~、やはり良いのぉ~」
「癒されるわぁ~」
先ほどまで御先祖様がどうとか言っていたはずなのだが、一瞬で目元がだらしなく垂れ下がった。
正門から敷地内に入ると、本殿前にはステージがある。
死者の神殿と言えば、神官達によるショーが名物だ。
そこには、神官長のジョニー・ゲンジが一人で立っていた。
「皆さま、長らくお待たせいたしました!!」
彼が両手を広げてそう言う。
本殿前に集まり、若い神官達に見とれていた参拝者達が、彼の方に注目した。
「神官長、一体どうしてこんなに長い間、門を閉じていたんだ?」
「そうよ、私は3日に1度はこの神殿に足を運んでいたのに」
「やっぱり、あの鉱山の魔物と関係があるのか?」
「実は、新しい出し物の準備をしておりまして」
神官長がそう言うと、皆が「オオ~ッ」と驚き、次いで歓声を上げた。
「それでは、お楽しみください!!」
彼がそう言ってステージから降りると、音楽が鳴り始めた。
軽快なリズムで、これまで聞いたことがない曲だ。
さらに、ステージの左右から、リズムに乗ったゾンビ達が入場してくる。
「な、何だ、何が始まるんだ?」
「あ、あれって……本物か?!」
ノロノロと、いかにもゾンビらしく移動していた彼らが整列すると、観客(参拝者)達の方に向き直る。
最前列中央にいるゾンビは、一人だけ赤い服を着ていた。
そして、突然、一斉にキレッキレのダンスを始める。
キング・オブ・ポップ、マイケル・ジャクソンの『スリラー』だ。
本物のゾンビ達が、それを寸分違わず見事に踊る。
「…………」
唖然として、それを見つめる観客達。
そして曲が最高潮に達した時、赤い服のゾンビが、
「アオッ!!」
と、一際甲高い声で叫んだのだった。




