第28話 鉱山で調査開始
【これまでのあらすじ】
魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。
魔石鉱山で魔物により30人の鉱夫と5人の冒険者の命が奪われた。
死者の神殿で元気(?)なゾンビになった彼等から話を聞いた勇者パーティーは、その鉱山へ向かい調査を開始する。
山の斜面を蛇行するように、道が上へ上へと伸びている。
そして、その道に沿って鉱夫達の住居や商店が並んでいた。
この鉱山では、魔石と呼ばれるこの世界特有の鉱石が採掘されていた。
魔力を与えると光る石、魔力を増幅する石、魔力を流すと発火する石、さらに魔力を与えると浮かぶ石など、まさに様々だ。
それらは荷馬車で山の麓まで運ばれ、そこで精製されていた。
その工程には大量の薪が必要になるため、この周辺の山の木々は全て伐採されており、はげ山になっている。
それでも土砂災害が起きないのは、山の斜面の傾斜が緩やかだからだ。
「お客さん方、着いたぞ」
御者が振り返りながらそう言った。
馬車がゆっくりと止まると、そこはロータリー状の広場だった。
本来なら、掘り出された鉱石を積んだ馬車が並んでいるはずなのだが、今はガランとしている。
「お尻が痛い」
サスペンションなどなく、硬いベンチにずっと座っていた阿左美が、腰を叩きながら馬車から降りる。
「歩くよりましだろう」
そんな彼女に手を貸してやりながら、真一がそう言う。
もっとも、彼らも程度の差こそあれ、同じ状態だったが。
「雨が小降りになってきたな」
空を見上げると、まだ厚い雲に覆われていたが、朝より少し明るくなってきたような気がする。
水たまりだらけの地面に立つと、周囲を見回した。
仕方がないとはいえ、こういう馬車の停留場所や通り道では、馬達の落とし物があちらこちらに放置されており、気をつけないと踏んでしまう。
そのため、大きな街などでは、子供達が小遣い稼ぎのバイトとして、スコップとバケツを持ってそれらを回収したりしていた。
広場の周囲には、酒場や宿屋、あと事務所のような建物が並んでおり、その奥に、馬車がそのまま入っていけそうなほど大きな穴が開いていた。
どうやら、あそこが鉱山の入口のようだ。
しかし今は門で塞がれており、その前には槍を持った警備兵が二人立っている。
「まずは宿を取ろう」
ここには冒険者ギルドがないため、普通の宿屋に泊まらなければならない。
六人は広場の側に建っている木造二階建ての宿屋へと入っていった。
普段なら、鉱石を買い付けに来た商人などで賑わっているのだが、今はガラガラで空室だらけだ。
とりあえず、男二人と女四人で、それぞれ部屋を取った。
そして、ここも今まで泊まった宿屋と同様、一階が食堂になっていたので、そこで昼食を取る。
「さて、それじゃあ偵察と情報収集に移るか」
雨は小降りのため、全員フード付きの雨衣を羽織っている。
ちなみにエリチンだけは、普段と同じ外套姿のままだ。
「あの、シンイチ。私は別行動でもいいかな?」
そう切り出したのはシラクサだ。
「そうだな、頼む」
シーフである彼女は、こういう場合は単独行動を取った方が、効率よく情報を集めることができる。
「俺達は、鉱山事務所で話を聞いてくる」
「分かったわ」
そう返事をすると、彼女は身軽に水たまりと馬糞を避けながら移動していった。
「私も、一人で……」
「お前は駄目だ」
どさくさに紛れて阿左美がサボろうとしたが、ガシッと腕を掴まれた。
「さあ、行くぞ、勇者様」
「こんな時だけ……」
五人は広場を突っ切ると、鉱山事務所の建物へと移動した。
そこは平屋の建物で、鉱山の警備兵の詰め所も兼ねている。
ドアを開けて入っていくと、真一が少し驚く。
学校の教室ほどの広さの室内には、書類が山積みされた机が並び、退屈そうな事務員達がお茶を飲んだり雑談をしたりしている。
それだけなら普通の光景なのだが、その事務員の中に、樽のような体型の男が数人混ざっていたのだ。
ドワーフ族だ。
エルフに並ぶ、ファンタジー世界の住民の代表で、低い身長と濃い髭が特徴だ。
「先生、先生、ドワーフだよ。ドワーフがいる」
「そうだな。とりあえず落ち着け、早瀬」
彼の肩をバンバン叩きながらそう言う彼女を宥める。
ファンタジー世界というよりは、中世ヨーロッパにタイムスリップしたような雰囲気だが、こういった異人種を見ると、やっぱりここは異世界なんだと再認識できた。
ちなみにエリチンも立派なエルフなのだが、森の住民(管理人)というよりは、核戦争後の荒野を歩いているマッチョメンにしか見えない。
「何だ、あんた達は?」
受付に座っていたドワーフの男が、面倒くさそうにそう聞いてきた。
身長は人間の子供サイズだが、顔や体型は筋肉質のおっさんそのものだ。
「冒険者ギルドから来た」
そう言いつつ、真一が依頼書と自分のプレートを見せる。
「ああ、あんた達か、昨日冒険者ギルドから連絡が来ていたよ。それにしても、今度はちゃんと仕事をしてくれるんだろうな?」
「フンッ、自分達でどうにもできんくせに、偉そうな口を叩くな」
すると、普段は滅多に口を開かないエリチンが、馬鹿にしたような口調でそう言った。
身長差がありすぎるので、態度も口調も、本当の意味で見下している。
なんにせよ、初対面の相手にいきなり罵倒された受付のドワーフよりも、真一達の方が驚く。
「そ、そうか……」
エルフとドワーフは仲が悪いというのは、ファンタジーもののお約束である。
まあ、森の妖精と呼ばれるエルフと、地下や洞窟で暮らすドワーフは、あらゆる面で価値観が違いすぎる。
「お前、まさかエルフか?!」
そう言われ、彼がフードを取った。
確かに美形な顔と尖った耳は、エルフのそれだ。
「こいつは驚いた。お高くとまった森の引きこもりが冒険者とは!」
確かにエチリンは、千年以上森の中で一人で筋トレをやってきた。
それとは別にして、森の奥深くで外界との関わりを持たずに暮らすエルフ達のことを、ドワーフはよくこう呼んでいた。
「フンッ、ジメジメした洞窟で穴掘りばかりしているお前達には、ここはお似合いだな」
「エ、エリチンが、こんなに敵意をむき出しにするなんて」
「見た目はエルフっぽくないけど、中身はそれなりにエルフだったのね」
阿左美が何気に失礼な感想を口にする。
「どうしたんだ、騒がしい」
事務室の奥に通じるドアが開いて、白髪の女性が顔を出した。
そのドアの上には、「鉱山長室」というプレートが貼り付けられている。
「鉱山長、昨日冒険者ギルドから連絡があった冒険者が来ました」
ドアの近くのデスクで書類仕事をしていた人間の男がそう答えた。
「また冒険者か。いい加減、王都に連絡して騎士団でも呼んでほしいって言ったのに」
そう言いつつ、事務室に入ってきた鉱山長は、エチリンほどではないが、かなり筋肉質の大柄なおばさんだった。
「何だい、おかしな格好をした連中だね。おまけに一人はエルフかい?」
駄目だこりゃ、とばかりに彼女はそう言いつつ肩をすくめた。
「言っておくが、こいつがおかしいのは格好だけではないぞ」
「せ、先生、ひっどぉ~い!」
「先生?」
「はなはだ不本意だが、この早瀬は俺の教え子でな」
「ふぅ~ん、まあ、いいさね」
鉱山長はそう言うと、真一達を手招きして自分の部屋に案内した。
「チッ、さっさと鉱山に入って魔物に食われちまえ」
背後からドワーフの悪態が聞こえたが、無視をして鉱山長室へと移動する。
そこは、とても責任者の執務室とは思えないほど、散らかっていた。
絶妙なバランスによって、かろうじて崩壊を免れている書類や本の山。
それらに触れないように体を横にしたり屈ませたりしながら奥へと進むと、これだけは責任者にふさわしい、立派な執務机と椅子があった。
「説明を聞きに来たんだろ?」
「もちろんだ」
そう言いつつ真一が振り返ると、エリチンだけが入口のところで立ち止まっていた。
彼は見かけによらず身軽だが、それでも体積的に、本と書類に触れずにこの迷宮を突破することは不可能だったのだ。
阿左美、ミント、ヴァレリアンの三人が揃うと、彼女が説明を促す。
「これが鉱山の地図だよ」
そう言うと鉱山長が、法則性や規則性を全く感じさせない、芸術作品のようなマップを机の上に広げた。
「これはまた……」
「まあ、石が出そうな方向に向かって、ひたすら掘り進んでいくからね」
「それで、魔物が出現した場所は?」
「鉱夫達も冒険者達も、ここで皆やられていた」
彼女が指さしたのは、鉱山の中でも最深部、つまり今もっとも魔石が採掘できる場所だった。
「多分、地中に封じられていたか、眠っていた魔物にぶち当たっちまったんだろうね」
「ここでは何が掘れるんだ?」
一言で魔石と言っても、いくつも種類がある。
もしかしたら、何かのガスと魔石が化学反応でも起こしたのかもしれないと考えたのだ。
「魔力を増幅する奴だ」
それは魔術師達が持っている杖によく埋め込まれている物だった。
魔石の純度や大きさによって効果はかなり違うが、最高級の魔石が埋め込まれた杖は、城が買えるほどの値段がする代わりに、魔術の威力(効果)が数十倍に増幅される。
ちなみにミントが持っている杖も同じで、何も持たずに治癒の魔術をかけるのと、杖を持った状態でやるのとでは、癒しの効果がかなり違うらしい。
「かなり純度が高くて、大きな石が掘れて、皆喜んでいたんだけどね」
「……」
真一は顔を近づけて、鉱山の地図をじっくりと見つめた。
「出入口は二か所か」
「そう。すぐそこに一つ、あと山の反対側にもう一つある」
すぐそこと言うのは、ロータリーの側にあった大きな穴の事だろう。
「主に使っているのは、当然そこの門がある方だな?」
「そうだ。最初にここを掘り出した時は、山の反対側からだったんだけどね」
鉱山長の説明によると、この山に魔石の鉱脈が発見されたのは、百年ほど前らしい。
当初は、山の北側から掘り出したのだが、地形上の理由から途中で入口を反対側に移したらしい。
ただし、長い年月をかけて掘り進めるうちに、それが繋がっており、それ以降は北側の入口は事故時の避難口として利用されていた。
確かに入口が一つだと、落盤事故や火災が発生すると、鉱夫達が中に閉じ込められ、最悪の場合は全滅する可能性もある。
そういう意味では、最初に掘り出した北側の入口は、有効利用されていると言えた。
「教えてほしいのだが、なぜ途中で入口が山の反対側に移ったんだ?」
「ああ、それはあれを見な」
鉱山長がそう言って、今度は壁に貼られている地図を指さした。
それは、鉱山を中心にした周辺の地図だった。
「北側にはかなり広い沼地が広がっていてね。施設を建てる場所が狭かったのと、鉱石を運ぶ道もかなり細くて狭かったんだよ」
つまり、細々と採掘をしているうちはいいが、事業を拡張するには手狭だったというわけだ。
「この沼がある北側の入口は、今はどうなっている?」
「もちろん門で塞いで、見張りを立てているよ」
こちら側の入口も門で塞がれ、見張りが立っていたから、魔物が鉱山から出ようとすれば、すぐに分かるだろう。
「もし異常があれば、警鐘が鳴らされるからすぐに分かる」
もっとも、見張りが瞬殺されたら、それも鳴らないのだが。
「つまり、魔物とやらは封じ込められているわけだ」
「そうなるね」
「魔物は人間の魂、つまり精気を食べるらしいが、普通に考えれば、生き物がいない鉱山内よりも外の方が、それは多い。なぜ出てこようとしない?」
「さあ、お腹いっぱいで、しばらく食事の必要がないのかもよ」
それはおかしい。
真一は仲間達の顔を見回した。
ミントとヴァレリアンは、彼と同じ疑問を感じたようだ。
エリチンは退屈になったので入口のところでスクワットをしているし、何も考えていない阿左美は退屈そうに欠伸をしている。
ちなみに、彼とミント、ヴァレリアンが感じた疑問とは、今、死者の神殿にいるゾンビ達のことだ。
魔物が魂を喰らうのなら、なぜ彼らの身体に魂が戻ったのか?
現状では、その魂を喰らう魔物は、せっかく腹に入れた鉱夫や冒険者達の魂を、ほとんど消化せずに吐き出したことになる。
「鉱山長、質問なのだが、この北と南の入口は、普段はどうなっているんだ?」
真一がそう聞くと、彼女は腕を組み、怪訝そうな表情になりながら、
「魔物が出るまでは開放していた。採掘は昼夜交代でやっていたからな」
と答えた。
「もしかして、あんたは魔物が入口から入ってきたとか考えているのかい?」
「誰も姿を見ていない以上、透明という可能性もあるだろう。もしそうなら、鉱山内で生まれたのではなく、外部から侵入した可能性もあるはずだ」
「それはないよ。鉱山の中では常時何百人も鉱夫達が働いていたんだ。誰にも気づかれずに一番奥まで入れるわけがないし、そもそも、何でそこまで誰も襲われなかったんだ?」
「それはまだ何とも言えないが、どうも分からないことが多すぎる」
この後、真一は鉱山について細かい質問をすると、事務所を後にした。




