第27話 鉱山へ向かう
【これまでのあらすじ】
魔王復活に備えて異世界に召喚された女子高生勇者の早瀬阿左美と、その巻き添えになった教師の眞壁真一、彼等は、異世界で知り合った仲間達と共に旅を続けている。
魔石鉱山で魔物により30人の鉱夫と5人の冒険者の命が奪われた。
死者の神殿で元気(?)なゾンビになった彼等から話を聞いた勇者パーティーは、その鉱山へと向かう。
鉱山へ向かう朝
冒険者ギルドから外に出ると、雨が降っていた。
「ねえ、先生。今日はお休みにしない?」
いきなり心が折れた阿左美がそう言う。
まあ、気持ちは分からないでもない。
この世界の気候は、日本によく似ている。
秋に降る雨はなかなか止まらない上に、寒いのだ。
しかし、死者の神殿にいるゾンビ達のことを考えると、あまりのんびりとはしていられない。
あと昨日、冒険者ギルドで依頼を受けた時、ギルドマスターが鉱山側に今日向かうと連絡を入れてしまっている。
「フゥ……馬車を使うか」
これまで「金が勿体ない」という理由から、頑なに利用してこなかった公共交通機関の馬車。
しかし、今日は仕方がない。
確かに雨は体温を奪い、ぬかるんだ道は体力を奪う。
今日の目的は鉱山に到着することではない。
そこで魔物について調査をすることだ。
そのための体力を残しておくための決断だった。
真一達は、街の北側にある乗合馬車の停留所に向かった。
そこには目的地別に馬車が停まっており、その前には行き先の街や地名を書いた看板を持った御者が立っている。
鉱山行きの馬車は三台あり、そのうち一台は鉱山関係者用の貸し切りで、残りの二台は出発時間がずれていた。
もっとも、聞いた話では、時間が来ても客が少なければ出発時間を遅らせるらしいが。
「一人、銀貨一枚、銅貨五十枚……」
距離にして二十キロそこそこだというのに、この値段。
ちなみに、これは人間一人分の乗車賃である。
膝の上に載せられる以上の荷物を持ち込む場合は、さらに別料金を払わなければならない。
財布代わりの革袋の中を覗き込みながら、真一が呻いている。
「シンイチ殿、私は歩くぞ」
そう言ったのはエリチンだ。
確かに彼は巨漢であるため、馬車に乗ろうとすれば確実に割増料金になるだろう。
ただし、彼はお金を心配して遠慮したわけではない。
歩くことも彼にとってはトレーニングなのだ。
実際、彼は絶えず歩きながら、石製のダンベルを持ち上げている。
「助かる」
それでも真一は礼を言った。
馬車の荷台には、片側に六人が座れる板のようなベンチシートが設置されており、両側合わせて十二人が座れるようになっている。
それを二頭の馬が引くのだ。
真一達が乗る前から、三人の乗客が座っていた。
全員、鉱夫風の男達で、おそらく鉱山での仕事が止まっているため、街に降りてきて休んでいたのだろう。
「あんた達、冒険者かい?」
酒臭い五十代ぐらいの男が、真一に声をかけてくる。
「そうだ」
「まさか、魔物退治?」
「まあな」
真一のその返事を聞いて、彼はハッと鼻で笑った。
「正気か? そんな若い女ばかりのパーティーで。勿体ない」
まあ、この反応は当たり前だと思う。
「今からでも遅くないから、ギルドに言ってキャンセルしてこい」
「そんなに危ないのか?」
こういう場合は、下手に反論せずに相手に合わせて情報を引き出すべきだ。
「ああ、もう二組のパーティーが失敗している。特に二番目は全滅だぞ」
「本当に、それは怖いな」
「最初のパーティーは鉱山中を探し回ったが、魔物を見つけられなかった。次のパーティーは一人残らず全滅。そして、いまだに魔物の正体は不明のままだ」
「誰も姿を見ていないのか? 音や声も?」
「ああ、死んだ連中は何か知っていたかもしれないがな」
その死んだ連中は、ゾンビになって死者の神殿で元気に働いているが、何も知らなかった。
最初に三十人の鉱夫が死んだときは、有毒ガスが噴き出したのかもしれないと皆が疑った。
しかし、彼らの死体を回収しつつ周囲を調べたが、それらしい兆候は見つけられなかった。
さらに言うと、この付近に火山はないため、これは火山性のガスではないと判断されたわけだ。
この世界の人間に分からないものが、異世界人に分かるはずがない。
「ところで・・・・。」
鉱夫が、真一に顔を近づけると小声で話しかけて来た。
「何だ?」
「あれは、何者だ?」
そう言って、目線で馬車の後を、ダンベルを振り回しつつ歩いてついて来るエリチンをチラ見する。
「あんた達の仲間か?」
「ああ、そうだ。」
真一がそう答えた時、阿左美がポケットの中から取り出した干し肉を
「はい、エチリンあげる。」
と、言って彼目がけて投げた。
それをエリチンが、パクッと口で受け止めてそのままムシャムシャと食べる。
「・・・・本当に仲間か?」
「あ、ああ、仲間だ。」
「正直、最初、俺は鉱山を掘り進めるうちに有毒ガスが噴き出したか、一酸化炭素中毒になった可能性が高いと考えていた」
馬車の荷台で揺られながら、真一がそう話し出した。
女性陣四人は同じ荷台に乗っており、エリチンは馬車の真後ろを歩きながら、彼の言葉に耳を傾けている。
他の乗客達は皆、眠っていた。
「先生、いっさんかたんそって何?」
「おい、早瀬。この世界の人間ならいざ知らず、なぜお前がその質問をする?」
「せ、先生、目が怖い。ごめんなさい」
「……フゥ。だが、毒ガスや酸欠で死んだなら、魂が後から体に戻るなどということはないはずだ」
「確かに、自然現象なら、そのまま魂は死者の神殿から死後の世界へ旅立ちますから」
そう言ったのはミントだった。
「つまり、何かいるのは間違いない」
馬車には幌が掛けられており、雨粒がそれを叩く音がかなり耳障りだ。
「姿が見えない、音も立てない、霊の気配もしない……本当に厄介ね」
シラクサがそう言ってから、
「どうするの? 私達が入っても、結果は同じだと思うけど」
確かに、何かいると分かっていても、それが何か分からず、さらにどこにいるか分からないのであれば対処のしようがない。
「もちろん、何の策もなしにそんなことはしない。あと、俺が引っかかっているのは、なぜいきなり魂が体に戻ったかだ」
「確かに、精気を吸い取る魔物はいろいろいるけど、時間差でそれを返す奴は聞いたことがないわ」
「何かあったと考えるべきだろうな。そこで出てくるのが、準備万端整えたベテランパーティーが、なすすべなく全滅したってことだ」
「実は、彼らが相打ちで魔物を退治したとか?」
「それなら、依頼達成扱いされているはずだ」
「魔物も死んだが、誰もそれを確認していないだけではないのか?」
ヴァレリアンがそう呟く。
「分からない。ただ、その可能性もゼロではない」
馬車は緩い登り坂を進んでいる。
時々、車輪が深い轍や大きな水たまりにはまり、動かなくなると、エリチンが片手で馬車を持ち上げて脱出させた。
そして、予定より少し遅れ、昼過ぎに目的地である鉱山へと到着する。




