第20話 とりあえず一件落着
降参した盗賊たちを縄で縛り上げ、怪我をしている者には治療を施しているうちに、朝になっていた。
「あれだな、とても人間が戦った後には見えないな」
一夜明けた砦跡の惨状を見回しつつ、真一がそう言った。
彼は広場で焚き火にあたっている。
元々廃墟ではあったのだが、戦いが始まるまでは、それなりに形は残っていた。
しかし、今は東側の城壁が崩れ、砦の中もいくつかの建物が倒壊している。
あと、塔の一つには、かなり高い位置にくっきりと人間がめり込んだ跡が残っていた。
「捕まえた盗賊は四十二人、そのうち十七人が怪我をしている。死亡は六人で、あと数名逃げたようだ」
ヴァレリアンが近づいてきて、そう報告をした。
ちなみに怪我人のうち五人は、魔導士の氷の飛礫魔術の巻き添えになった者たちだ。
「人質は全員無事、我々も無事。大勝利だな」
「ああ、これも全てあなたたちのおかげだ」
「我々は依頼を達成しただけだ」
そこへ今度は、ミントと阿左美が小走りで駆け寄ってきた。
「先生、たくさん人が来るよ」
「村人たちだろう。人質になっていた人たちを保護してもらったからな」
彼女たちは、この周辺の村からさらわれてきている。
今後、それぞれの村に連絡が行けば、その家族が迎えに来てくれるだろう。
「シンイチちゃん、地下牢の隣に盗賊の隠し部屋があったよ」
シラクサが盗賊の首領の住居から出てきた。
彼女は盗賊が村人たちから奪った金目の物がどこに保管されているのか調べていたのだ。
「ネコババしていないだろうな」
「したかったけどね」
あと、砦内には食糧庫もあり、こちらも村々から奪われた物が山積みにされていた。
「こ、これは、本当に盗賊が捕まっている」
砦に入ってきた村長が、縛り上げられ一纏めにされている盗賊たちを見て驚いた。
「本当に、本当に……」
そして、膝をついて涙ぐむ。
これまでどれほど辛い目に遭ってきたのか、それを見るだけで容易に想像できる。
「村長、他の村に連絡は?」
ヴァレリアンがそんな彼に近づいて行き、そう言った。
「こ、これは騎士様。はい、今、村の若い者たちを走らせています」
「そうですか」
「この悪党ども!!」
村長と一緒にやって来た村の男たちが、捕らわれている盗賊を見ていきり立った。
皆、手に鋤や鍬、さらに即席で作った槍などを持っていたため、盗賊たちを囲んで罵声を浴びせる。
「ぶっ殺してやる!!」
「ざまあみろ、お前らなんか魔族以下だ!!」
そのうち、村人の一人が、
「お、お前、俺の娘をさらった奴じゃないか!!」
と叫んだ。
昨日救出された人質の父親が、その誘拐犯を見つけたのだ。
「娘に酷いことしやがって、殺してやる!!」
彼は手に木の棒を持っていたが、それを振りかぶって縛られている盗賊に襲い掛かろうとした。
「ひぃえええええ!!」
これまで散々威張り散らし、村人たちから一方的に搾取できたのは、野盗が強者だったからだ。
しかし、立場が変われば、それは簡単にひっくり返る。
だが、木の棒が盗賊の頭を叩き割る直前、それが太い腕によって受け止められた。
「だ、誰だ、邪魔をするのは?!」
驚いてそう怒鳴る村人。
そして視線を上げると、そこには外套を羽織ったエルフのエリチンがいた。
「こいつらは、これから裁きを受ける。盗賊は例外なく死罪だ」
「だったら、ここで殺してもいいだろう?!」
「もし、それをすれば、お前も殺人で罪に問われるぞ」
戦闘中に相手を殺傷したというならいざ知らず、縄で捕縛された相手を撲殺などしたら、例えその相手が盗賊であっても立派な犯罪だ。
「構わん!! この悪党を懲らしめることができるなら!!」
「娘さんはどうする?」
「うっ?!」
「生きて再び帰ってきた娘さんの面倒は誰が見るのだ? お前には、また守るべきものができたのではないのか?」
「そ、それは……」
一番痛いところを突かれ、村人の表情が歪んだ。
決して憎しみは消えない。
しかし、もし自分が罪人となり捕らわれれば、残された家族がどれほど苦労をするか。そこに思い至ったのだ。
ウウッと嗚咽を漏らすと、男の手から木の棒が落ちた。
「こいつらのせいで……こいつらの……」
「辛いだろう。しかし、今は耐えろ。そうだ……辛いときには体を鍛えるといい」
エリチンが何だか怪しいことを言い出した。
「体を鍛える?」
「そうだ。心の弱さは、体を鍛えることによって補える」
そう言うと、バッと外套を脱いだ。
「この私のように!!」
ウギャアアアアアア!!
村人と盗賊が抱き合って悲鳴を上げる。
昼頃になると、各村から村人たちが集まってきた。
その頃には、金目の物や食料が広場に運び出されており、それぞれの村ごとに分けられていた。
「ああっ、これは家宝の壺だ!!」
「ありがたい、これで今年の冬は安心して越えられる」
皆、喜び、口々に真一たちに礼を言った。
「ところで、ヴァレリアン、盗賊たちはどうするんだ?」
この頃には、盗賊たちは空になった倉庫に縄で縛られたまま閉じ込められている。
あと、縄を抜け出して逃げ出す可能性があったので、その縄はエリチンの魔術で強化されていた。
下手に縄抜けをしようとすると、棘が生えて皮膚や肉に食い込むのだ。
現に、時々倉庫の方から悲鳴が聞こえてくる。
「シンインの警備隊にも、村人に頼んで通報してもらった。まもなく到着するだろう」
その時の隊長たちの顔が見ものだ、と続ける。
そして、その言葉通り、まもなくシンインの街の警備隊が到着した。
「ま、まさか……本当に」
砦に入った警備隊長の第一声が、それだった。
彼に従ってきた兵士たちも、呆然としている。
「ご覧の通りだ、隊長殿」
ヴァレリアンが彼らを出迎えつつ、そう言った。
「き、騎士殿……まさか騎士殿が一人で?」
「そのようなはずないであろう。彼らの手助け……いや、実質的に盗賊を退治したのは彼らだ」
そう言うと、真一たちを指さす。
「ぼ、冒険者……なのか?」
とてもそうは思えない格好の人間が数人混ざっている。
「その通りだ。彼らが盗賊に捕らえられていた人たちを解放し、さらに討伐をした」
「たった、これだけの人数で……五十人近くいた盗賊を」
その時、真一がエリチンに盗賊の首領を連れてくるように指示を出した。
彼は倉庫へと入ると、盗賊の首領を抱えて出てくる。
「お、おい、どうなってるんだ、約束が違うぞ!!」
盗賊の首領が衛兵隊長を見た瞬間に発した第一声が、それだった。
「ば、馬鹿、何を?!」
「俺たちを見逃す代わりに、取り分の半分をお前たちに渡していただろうが!!」
「う、嘘をつくな、貴様など知らん!!」
今さら手遅れだが、隊長が必死でそう叫ぶ。
「何を言ってるんだよ、裏切る気か?! こいつらに言って、俺たちを解放させろよ!!」
「黙れ、黙れ!! 貴様など知らん!!」
そう叫んだ隊長の首元に、レイピアの切っ先が突き付けられた。
「ヒッ!!」
情けない悲鳴を上げる彼を、ヴァレリアンが睨みつける。
「これまでの私に対する言動、そして今の会話。もう言い逃れはできんぞ」
「ま、待て、話せば分かる」
「いいや、もはや話すことなどない」
「王国騎士が、領主直属の警備隊長を殺したりなんかしたら、大問題になるぞ!!」
「いいや、ならない」
「何だと?!」
「貴様は、もはや警備隊長などではない。ただの盗賊の仲間、裏切り者だ」
彼女のレイピアの切っ先が隊長の喉に触れ、小さな切り傷を作る。
「やめて、お願いします。殺さないで……」
「ならば、全て証言しろ」
「何でも言う、だからお願い、命ばかりは……」
盗賊退治が終った日の昼頃
シンインの街の領主の館で、トール領領主、セメン・トールは調理場に立っていた。
領主自ら昼食を作っているのだ。
彼の館は祖父の代に建てられたもので、それなりに立派だ。
しかし、もしも彼が建てていれば、間違いなく平屋建ての質素な物にしていただろう。
セメン・トールの趣味は貯金だった。
そのためなら、貴族の特権ともいえる贅沢な暮らしを全て排除しても、全く苦痛ではない。
それはそれで潔かったし、領民たちからも親しみを持たれたかもしれない。
ただし、彼には大きな欠陥があった。
領地の統治、つまり領民たちの幸福よりも、自分の貯金の方が重要だったのだ。
トール領は、はっきり言って貧しい。
それは、広い畑はあるのだが、それ以外の産業がほとんどなかったためだ。
そのため、領主の元に集まる税収も少なく、その中から兵に賃金を払い、インフラ整備などをしていたら、あっという間に赤字になる。
「全然貯金が増えない」
それは、彼にとって生き甲斐がないのと同じだ。
しかし、彼は最近、斬新な方法でそれを増やす方法を思いついた。
合法的に税を集めるには限界がある。
それならば、非合法にやればいいのだ。
彼は盗賊をスカウトすると、自分の領地内で自由に仕事をすることを許可した。
もちろん、表立ってそのようなことはできないので、裏でこっそりと。
条件としては、あまり殺さず、全てを奪わないこと。それだけだ。
こうしてここ最近は、彼の貯金の残高がかつてないほどの勢いで増えだしたのだった。
「た、大変です、領主様!!」
屋敷のドアが外から激しく叩かれ、そう言う声が聞こえてきた。
「……」
調理をしていた鍋をテーブルの上に移動させると、セメン・トールは玄関へと向かった。
そして鍵を開ける。
「どうした?」
ドアを叩いていたのは、この屋敷の警備をしている兵士だった。
その兵士が、背後を指さしつつ、
「あ、あれをご覧ください」
と言う。
「何だというのだ?」
顔を上げると、王国の女騎士を先頭に、何と形容したらいいか分からない異様な集団が近づいてくるのが見えた。
「ヴァレリアン・ホルセットか。何の用だ?」
王国から派遣されてきている若い騎士。
融通が利かず正義感が強い、色々と目障りな奴だ。
「この二人が領主殿とお話がしたいそうです」
彼女がそう言うと、人間離れした巨漢の男が進み出て、両腕でそれぞれ抱えていた二人の男を地面の上に放り投げた。
「ぐえっ!!」
「ぎゃっ!!」
それは盗賊の首領と警備隊長だった。
「何の真似だ?」
特に表情を変えずに、セメン・トールがそう言う。
「この二人から全て聞きました。全てあなたの差し金だったと」
「何のことだ?」
「とぼけても無駄です。あなたの屋敷を調べれば、証拠は簡単に見つけられますから」
「……」
確かに、彼の屋敷の金庫を開ければ、その証拠がある。
証言と証拠が揃えば、もう誤魔化すことはできない。
しかし、
「閃光の美姫だったか?」
セメン・トールがそう言うと、ヴァレリアンの頬が赤くなった。
「何だ、それは?」
それまで黙っていた真一がそう聞く。
「い、いや、それは皆が勝手に私のことを……」
「なるほど。閃光の美姫、ヴァレリアン・ホルセット。通称ということだな」
「だ、だから、それは……」
「気にするな。こいつは学校一の馬鹿と呼ばれていたぞ」
「呼ばれてない、学校一の残念アイドルとは呼ばれていたけど」
いきなり会話に巻き込まれた阿左美が自爆をした。
「まあ、気にせずに会話を続けろ」
「わ、分かった。……領主殿、話を誤魔化さないでいただこう」
「フンッ、たかだか騎士風情が、貴族にして領主たるこの私をどうこうできると思っているのか?」
貴族の位も領主としての地位も、国王が授けるものだ。
そのため、セメン・トールを裁くことができるのは、国王ただ一人だけなのだった。
「そのような盗賊の苦し紛れの戯言や、金で釣られた者の言葉と、忠実な臣下である私の言葉のどちらを陛下は信用されると思うかね? そうそう、部下の管理不足についての責はもちろん受けなければならないが」
「うわぁ~、汚ったねぇ~」
シラクサがそう呟く。
「どこの世界でも、偉くなる奴は、人一倍ずるいものだ。だから、そういう馬鹿は偉くはなれない」
「先生、なんでいちいち私を引き合いに出すの?」
「なんだ、せっかく褒めてやったのに」
「えっ、そうなの? 私、褒められてたの?」
「な、扱いやすいだろう」
真一がそう言うと、ミントとシラクサがアハハ~ッと呆れながら笑う。
「なんにせよ、勝負あったな」
真一がそう言うと、ヴァレリアンの前に進み出た。
「宮仕えのお前では、ここらが限界だろう」
「マカベ殿?」
「後は、任せてほしい」
彼がそう言うと、すまない、頼む、と言って彼女は下がる。
「何者だ、面妖な服装をしおって」
「私は、眞壁真一。異世界人だ」
「……はぁ?」
セメン・トールの表情が、この時初めて変わった。
もちろん、呆れているのだが。
「そして、あそこにいる女は、異世界から召喚された勇者だ」
「……すまないが、私は色々と忙しいのだ。これで失礼する」
彼がそう言って屋敷の中に戻ろうとした時、
「阿左美」
真一が合図をすると、何の打ち合わせもしていなかったというのに、阿左美が動いた。
瞬間移動にしか見えないダッシュで、セメン・トールの先回りをする。
開いたままだった扉がバァン!!と大きな音を立てて閉まった。
彼女の身体が扉に激突して止まったのだ。
「召喚勇者?」
「えっ、それって伝説の?」
ヴァレリアンとシラクサが驚いている。
「今の能力と、勇者神殿の神官がお供についてきていることが証拠だ」
「ば、馬鹿な、勇者召喚など魔王が復活するとき以外、許されないはずだ」
「大神官が、その魔王復活を予言したのだ。それが知れると一般人がパニックを起こすから、正体を隠して冒険者をやっているがな」
「勇者、勇者だと、こんな若い女が?」
「今は外見が可愛いだけの、頭が悪くて色々足りない女子高生だが、これから経験を積み、本物の勇者に成長していく」
「エヘヘヘ、可愛いだなんて」
「あの、アザミ殿。他にも色々言われていましたけど」
ヴァレリアンがそう言うが、彼女には聞こえていない。
「さて、そこでだ、領主殿。もし我々が今回の盗賊討伐を勇者が行ったと公表したら、どうなると思う?」
真一が意地の悪い笑みを浮かべた。
彼はこういう表情がよく似合う。
「あっという間に人界、いや魔界にもその噂は広まるぞ。そして、事の真相を知りたがる。ちょっと知恵の回る人間が聞けば、すぐに気付くだろうな。盗賊の後ろで誰が糸を引いていたかということに」
「ウググ」
「当然だが、国王陛下もお前を庇いきれない。いや、それどころか、魔族でもないのに勇者様の手を煩わせた悪徳領主など、積極的に処罰するだろう」
「き、貴様……」
「交換条件だ、セメン・トール卿。お前がため込んだ財産を全て、今回の盗賊の被害を受けた者たちに分配しろ。そうすれば、お前の悪事は黙っておいてやる」
「何だと……」
「あと、勇者が召喚されたことは黙っておいてくれ。先にも述べたように、民が不安がるからな」
「ま、待たれよ、マカベ殿!!」
「ヴァレリアン、ここまでだ。これ以上この男を問い詰めても罪には問えない。どうしてもやりたければ、お前が身分を捨て、罪人になる覚悟で切り殺すしかないだろう」
「……」
「そうなっては悲しむ人たちがいるんじゃないのか?」
「わ、私は……」
「さあ、どうする、セメン・トール卿。返答を伺おう」
真一がそう言うと、阿左美が彼の背後に立ち、ポンとその肩に手を置いた。
「もう諦めた方がいいよ。私の先生は性格が悪いから、本当にひどい目に遭わさせるよ」
と、呟いた。
「わ、分かった……」
こうして、トール領における盗賊討伐クエストは終了したのだった。
盗賊団及び、彼らと繋がっていた警備隊長と兵士たちは王都へ連行され、裁きを受けることになる。
当然、全員死罪だ。
そして領主セメン・トールは、被害を受け傷ついた領民たちに私財の全てを分配したのだった。
領地の統治に無関心だと思われていた彼のその行動に、領民たちは皆驚き、少しは見直すことだろう。
もちろん、本当のことを知れば、とてもそのような感情にはならないだろうが。
領主セメン・トールの屋敷での一件の後、真一たちは冒険者ギルドの宿に泊まり、休息をとった。
ほぼ二日間徹夜状態だったため、入浴後にベッドで横になると、翌朝までノンストップで熟睡している。
「ところで、先生。これからどうするの?」
まだ寝足りない顔の阿左美が、普段は文句ばかり言っている固いパンをガジガジとかじりつつ、そう言った。
今、食堂にいるのは、真一、阿左美、ミント、エリチン、そしてシラクサの五人だ。
ヴァレリアンは自分の部屋で休んでいる。
「とりあえず、まとまった金が手に入ったことだし、ギルドの依頼を受けつつ旅を続けようと思う」
真一が、普段なら「贅沢だ!!」と言って絶対に注文しないコーヒーを飲みつつ、そう言った。
「受ける依頼も、少しは選り好みできるだろう」
なんせヴァレリアンから、盗賊討伐クエストの報酬として金貨二十枚を受け取っているのだ。
はっきり言って、砦に立て籠もる五十人の盗賊を相手にした割には、かなり格安だったが、それでも真一たちにとっては大金に違いない。
「これからシラクサさんはどうされるのですか?」
彼女にそう聞いたのはミントだった。
「それなんだけど、ねえ、シンイチ」
「何だ?」
「私もこのパーティーに入れてよ」
「別に構わないが、どうしたんだ?」
シラクサ・インカラは、依頼ごとにパーティーを変える、ソロの冒険者だった。
今まで通りなら、ここで別れ、次の依頼に向かうはずだ。
しかし、どうやら心境の変化があったようで、仲間に入れてほしいと言ってきている。
「だって、伝説の勇者様のパーティーなんでしょ? これは参加しない手なんかないわ」
「言っておくが、これは内緒だぞ」
「分かってる、分かってるって」
「チャラララッタッタッター、シラクサが仲間になった」
阿左美が、元の世界で有名なRPGゲーム風にそう言った。
どうやら喜んでいるようだ。
「勇者に魔術師、神官に精霊使いに盗賊か。なかなか様になってきたな」
エリチンがそう言った時、
「そこに騎士も加えてもらおう」
と、言う声が聞こえてきた。
顔を向けると、ギルドの入口からヴァレリアン・ホルセットが入ってくる。
「あっ、ヴァレちゃん、おはよう」
「うむ、おはよう、アザミ殿」
そう言うと、彼女は真一の横で立ち止まり、一礼する。
「此度の件、改めて礼を言う」
「報酬はもらった。もう礼は充分だ」
「フッ、そうか。ならば、なぜ村人たちからの報酬は断ったのだ?」
昨日、盗賊の砦において、集まってきた各村の代表者たちは、彼らが取り戻してくれた金品の一部を謝礼として受け取ってほしいと言ってきたのだ。
それは合わせれば、ヴァレリアンが提示した報酬の倍ほどになる金額だった。
しかし、真一は、いや真一たちは、
「報酬は充分にもらうことになっている。だから、それは必要ない」
と言って断ったのだった。
「先生は性格は悪いけど、優しいのさ」
なぜか阿左美がドヤ顔でそう言う。
「そうだな。昨日のセメン・トール卿との交渉は、どちらが悪人か判断に迷ったくらいだ」
「まあ、否定はしない。ところで、騎士も加えるというのは?」
「私も貴君たちのパーティーに加えてほしいということだ」
「えっ、ヴァレリアン様は、王国の正騎士なのですよね?」
驚いたミントがそう聞く。
「うむ、王国の騎士団に所属をしている。いや、していた」
「そのような方が、冒険者のパーティーに加わると仰るのですか?」
確かに、正騎士を正規軍の士官とすれば、冒険者はフリーターのようなものだ。
どう考えても割に合うものではない。
「そもそも、王国騎士は国王陛下から任命されます。つまり、位は低いですが貴族です。勝手に辞められるものではありません」
「陛下と両親には、私の覚悟は伝えた」
「えっ、どうやって?」
阿左美が驚いている。
「水晶念話ですね」
「ええ、少々値は張りますが、昨日のうちに」
この世界では、水晶を通じて遠く離れた相手とリアルタイムで会話をする方法があるのだった。
「ちなみに、どれぐらいかかるんだ?」
「一分間で、銀貨一枚」
「ふざけるな、何だその馬鹿みたいな値段は?!」
思わず真一がそう怒鳴る。
そして、すぐに我に返った。
「い、いや、済まない。で、騎士を休業して冒険者になると?」
「うむ。私は騎士道を貫きたいのであって、自分の心を偽ってまで騎士でいたいとは思わない」
「騎士道と、騎士であることは違うということか」
「此度のことで、それを痛感した」
「で、我々と行動を共にすれば、その騎士道を貫けるというのか?」
「それは、分からない。しかし、何かを得られることは間違いないと思う」
「……」
「あと、私は憧れていたのだ」
「何に?」
真一に問われたヴァレリアンが、頬を赤らめると、少し口ごもりつつこう答えた。
「伝説の勇者様と共に戦うことを」
「いや、絶対にお前が考えているような冒険はできないと思うぞ」
「それって、どういう意味よ、先生!!」
異世界召喚されたポンコツ女子高生勇者の冒険(?)
とりあえずここで一区切りです。
まだまだ続きを投稿させていただきますが、半月ほど、充電&準備期間をいただきます。
よろしければ、また読んであげてください。
よろしくお願いいたします。




