第2話 勇者神殿
【これまでのあらすじ】
勇者として魔王が復活する直前の世界に召喚された女子高生勇者 早瀬阿左美と、その巻き添えとなった教師 眞壁真一。
二人の何とも言えない微妙な冒険がいま始まる。
闇の中に飲み込まれると、今度は周囲は光に包まれた。
それは優しい光で、真っ白な視界の中、無重力空間を漂うように体が宙に浮く。
そのような状態でも真一と阿左美は手だけは離さなかった。
そして、どれぐらいそのような状態が続いただろうか、突然体が硬い地面(床?)の上に触れ、その直後に光が消えた。
「えっ?」「地面?」
二人は抱き合うようにして地面の上に降り立つ。
すると、次第に周囲の光景が見えるようになってきた。
そこは広いドーム状の広間だった。
中央にガ〇ダムより少し背の低い、いかにも女神っぽい石像がそそり立っている。
その石像を囲むように、白い、いかにも神官といった感じの服装をした人達が並んでおり、真一と阿左美はその円の中心、つまり女神像の足元付近にチョコンと立っていた。
「こ、これって・・・・。」
「何てお約束な。」
瞳を輝かせて喜んでいる阿左美と、呆れて溜息をつく真一。
そして二人そろってこう言った。
「異世界召喚!!」「異世界召喚。」
そんな二人を、取り囲む神官は全部で50人程いた。
性別は男女半分で、年齢は平均をすると30代前半ぐらいになるだろう。
呆然と立ち尽くす神官達、そんな中一人の若い女性神官が
「あ、あの・・・。」
と、恐る恐る声をかけてきた。
黒髪ショートカットで、いかにも癒し系の可愛い顔をしている。
彼女だけは、神官達の列ではなく、巨大女神像と真一&阿左美との間に立っている。
「おっ、やっぱり言葉が通じる。」
「えっ、そ、そうですね。」
召喚した側より召喚された側の方があっけらかんとしている。
「あの、よろしいでしょうか?」
「いいわよ、何でも聞いて」
「こら、少しは空気を読め。」
胸を張って堂々としている阿左美を真一が小声で窘める。
「悪いな、こいつちょっと頭がアレなんで。」
「せ、先生、その言い方酷すぎ!!」
「先生?」
「ああ、こいつは俺の教え子なんだ。」
「そ、そうだったのですか・・・・ところで、どちらが勇者様ですか?」
ショートカットの神官がそう言うと、阿左美が力一杯拳を振り上げ、
「勇者キタァ~!!!」
と、絶叫した。
「やかましい!!」
すかさず、真一がその後頭部を平手で叩く。
「い、痛っ、せ、先生、体罰、体罰!!」
「ここは異世界だ、日本の法律は適用されない。」
「あ、あの、この世界でも、暴力は・・・・・。」
神官が小声でそう言うが、二人には聞こえていない。
「とりあえず先生、どっちが勇者かジャンケンで決めようよ!!」
阿左美のその台詞を聞いて、神官達がざわめきだす。
「別にお前が勇者で良いよ、最初に引きずり込まれたのはお前だし。」
「ホント?!やったぁ!!いや~、夢がかなったよぉ~、この日に備えて剣道や弓道をやっていたわけだし。」
「お前・・・・本当に危ない奴だったんだな。」
もう不安しか感じない神官達。
「あ、あのよろしいでしょうか?」
その中から、一際立派な服装の女性神官が進み出てきた。
「ああっ、すまない、どうぞ。」
慌てて真一がそう答える。
「私はハーブ パウロ、この勇者神殿の神官長を務めております。」
そう自己紹介した神官長は、年齢は30代前半ぐらいで、細身でいかにも神経質そうな外見をしている。
「私たちの召喚に応じてくださり、まことにありがとうございます。」
彼女がそう言って頭を下げると、他の神官達もそれにならった。
「勇者神殿?」
「はい、ここは1000年前、魔王ボルテッカーを討伐した勇者ワルダスカーを祀った神殿です。」
「へぇ~。」
瞳を輝かせている阿左美に対して、真一は冷めきっている。
「で、1000年も経って勇者を召喚した理由は?」
そう言いつつ足下を見ると、表面を磨かれた四角い石を敷き詰めた床の上に複雑な模様の魔法陣らしきものが描かれていた。
「はい、実は当神殿の大神官様が、魔王復活の予言をされたのです。」
「予言って事は?」
「はい、まだかろうじて復活はしていません。」
「ギリギリ間に合ったってことね?!」
「そうです。」
「ところで、その大神官様と言うのは?」
真一がそう言うと、ハーブ神官長は振り返った。
そこには、豪華な車いすに乗った老婆がいる。
おつきの神官が、その車いすをゆっくりと押して前に出てきた。
「勇者神殿においては、私、神官長の上司にあたります。」
実際は引退後の御隠居のような立場なのだろう。
その大神官の車いすが真一と阿左美の前で停まると、神官達が一斉に手を合わせて祈りのポーズをとる。
「ハーブ神官長。」
長い年月、大きな声で神官や信者達を教え導いて来たのだろう、彼女の声はしわがれ弱々しかった。
「はい大神官様。」
「ご飯はまだですか?」
「大神官様、つい先ほどお召し上がりになりましたよ。」
「ボケてるじゃねぇか?!!」
思わず真一が叫ぶように突っ込んだ。
「し、失礼な、決してそのような事はありません。」
「本当に、この人が魔王復活とやらを予言したのか?!」
「もちろんです、先月、夜にお漏らしをなさった時、身の回りの世話をしている神官がオムツを替えていたら“魔王の復活が近い”と、確かにそう仰ったのです。」
「・・・・・・あ、あんた達本気なのか?」
「はい、神殿法第9条にこう定められています“勇者神殿は、正義と秩序を基調とする活動を誠実に果たし、布教のための争いと、武力による威嚇又は武力行使は、宗教問題を解決する手段としては、永遠に放棄する。あと大神官の言葉は絶対であり、その指示に決して逆らってはならない”。」
「前半はどこかで聞いたことがあるし、後半はいかにも取って付けたみたいだし。」
もう、どこにどう突っ込んだら良いか分からない。
「あの先生?」
「何だ?」
「もしかして私達って、忖度の結果召喚されたの?」
「お前にしては珍しく、見事に真実を言い当てているな。あと、召喚されたのはお前であって、俺は巻き添えだ。」
「まあ、理由はどうあれ、異世界召喚してもらえたんで、私的には問題なし!!」
「俺は問題大ありだよ。」
「あのハーブ神官長。」
「何でしょうか?」
大神官を乗せた車いすが元の位置に下がるのを待ってから、彼女が真一に向き直った。
「俺は、この勇者様の召喚に巻き込まれたんだ。こいつだけいれば事足りるなら、俺は帰っても問題はないだろう?」
「ええ~っ、先生帰っちゃうの?!」
「当たり前だ、仕事は残っているし、今夜もオンラインゲームにログインしないとパーティーの仲間が待っているんだぞ。」
「あっ、そうか、前衛が二人同時にいなくなったら皆、困るよね。」
「あの、よろしいですか?」
ハーブ神官長がおずおずと手を挙げて、二人の会話に割って入った。
「この度の召喚の儀式は、神殿に残っている記録を基に行われました。しかし・・・・。」
そこで言葉を止めて、周囲の神官達と顔を見合わせる。
それを見て真一は嫌な予感がした。
「まさか?」
「はい、帰る方法はどこにも載っていなかったのです。」
「そ、そんな無責任な、ちなみに1000年前の勇者は?」
「この地に残り、皆にチヤホヤされながら幸せな生涯を送られました。」
「チヤホヤって・・・・。」
「魔王討伐にあたって各国から高額な報奨金が支払われましたし、大陸各地を回って講演会をしたり、吟遊詩人が勇者様の英雄譚を唄うにあたって使用料をとったり、この神殿からも毎年上納金を納めていたとか、もう働く必要などなかったので死ぬまで豪勢な生活をなさったそうです。」
「それだけ聞くと、結構駄目な奴だな。」
「でも、私も復活した魔王を倒したら、同じことができるってことだよね?!」
「復活したらな・・・・。」
何にせよ、これは一大事だ。
真一と阿左美は、訳の分からない理由で異世界に召喚され、帰る方法が無いのだ。
これで魔王が復活しなければ、本当に召喚され損である。
「神官長さん、魔王が復活するまで、俺達は具体的に何をすれば良いんだ?」
「まずは、この世界について見聞を広めつつ、魔物との戦い方を学んで下さい。」
「それって、世界中を回って魔物退治しろってことだよな。」
「人々とふれあい、困っている者を見つけたら救済をして下さい。」
要はゲームよろしく、冒険者として世界を回り、経験値と金を稼げってことか。
それって、ただの冒険者じゃないのか?
「あの神官長さん。」
何か思いついたらしく、阿左美がハーブ神官長に向けて手を挙げてそう言う。
「はい、何でしょうか勇者様。」
「私、この世界のことをよく分からないので、誰か案内を付けて欲しいのですけど。」
確かに彼女の言う事は正しい。
彼女は、この世界の通貨や単位に始まり、文化や生活様式に至るまで、一般常識を知らないのだ。
魔王討伐以前に普通に生活する事すら出来ない。
「もちろんです。」
その辺りは、勇者神殿側も考えていたらしく、ハーブ神官長はそう言うと、二人と女神像の間に立っていた若い黒髪ショートの女性神官を指さした。
「その者が皆さまをご案内いたします。」
「ええ~っ?!そ、そんな・・・・。」
しかし、当の本人は初耳だったらしく、驚いている。
「ミント アンジー、あなたは神聖魔法の使い手にして、その若さで神官になれた優秀な人材です。この大任はあなた以外に考えられません。」
「私ごときが、勇者様に同行するなんて・・・。」
「そもそも、あなたの儀式が成功して、このお二方は召喚されたのですよ。」
「えっ?そうなの?」
神官長の言葉を聞いて、真一と阿左美が驚いた。
どうりで一人だけ、立っている場所が違うと思った。
「神殿の深部に封印された、異世界から勇者様を召喚する方法、それは。」
そこで床の魔法陣を指さす。
「この特殊な魔法陣は、ドラゴンの血に黄金を溶かした物で描かれています。」
「ドラゴンに黄金、なんだか凄そう!!」
「そして、50名の神官が3日3晩祈りを捧げ、魔力を注ぎ続けました。」
「そんなに?!じゃあ、皆さんお疲れですね。」
「最後に私が、召喚の呪文を唱え……。」
「えっ、ミントさんじゃなくて?」
「はい、私の詠唱が終わると、ミント アンジーが一発ギャグをやりました。」
「・・・・・・。」
眉間を右手の親指と人差し指で揉みつつ真一が渋い声で。
「御免、よく聞き取れなかった、最後に何だって?」
「一発ギャグです。」
「それで、皆で大爆笑したの?」
阿左美の方はその行為より、内容の方に興味津々だ。
「残念ながら、見事に滑りました。」
フゥ~、ヤレヤレと肩をすくめ首を左右に振るハーブ神官長。
対してミントは顔を真っ赤にして俯いている。
「だ、だから、私には無理だって・・・・何度も言ったのに。」
どうやら無茶ブリされたようだ。
確かに性格的に、そう言うのには向いていないような気がする。
「ねえ、ねえ、ミントさん、もう一回やってみせて。」
「おい早瀬、お前に悪気が無い事は分かっているが、止めてやれ。」
「ええ~っ、何でですか?」
「いいから、傷口に塩を塗ってやるな。」
真一がそう言うと、ミントが両目に涙を貯めながら、感謝します、と囁いた。
「あと、神官長。」
「はい、何でしょうか?」
「資金的な支援もしてくれるんだろうな?」
「もちろんです、当座の活動資金はお渡しします。」
ハーブ神官長がそう言うと、眼鏡をかけ手に台帳を持った神官を手招きした。
「それで、いくら残っているの?・・・・えっ、それだけ・・・・それはいくらなんでも・・・。」
神官の会計担当者が何事かを耳打ちすると、神官長の表情が渋くなる。
「そうですか・・・・確かに、仕方がありませんね・・・・では端数の方を。」
どうやら話がまとまったようだ。
「銀貨23枚と銅貨20枚をお渡しします。」
「ちょっと待て、何だ、端数って?」
「神殿の今月分の予算です。」
「一か月分の端数って、一年分ぐらい丸ごと寄こせよ!!」
「申し訳ありませんが、召喚の儀式のために準備をしたドラゴンの血と黄金がとても値が張りまして、今月はピンチなのです。」
「貧乏サラリーマンの奥さんが家計簿つけている時に言いそうな台詞だな。」
「あ~、確かにドラ〇もんで、の〇太のママがよく言ってる。」
そう言ってから阿左美が
「ところで、銀貨とか銅貨って、どれぐらい価値があるの?」
と、ミント アンジーにそう聞いた。
「パンが1個銅貨3枚ぐらいで買えます。」
「だいたい銅貨1枚が10円、銀貨1枚が千円、金貨1枚が10万円ぐらいだな。」
すぐに真一がそう計算をする。
「じゃあ、銀貨23枚で2万3千円、あと銅貨20枚だと200円・・・という事は合計で23200円ってことか。」
阿左美がスマホを取り出して電卓アプリで計算した。
もちろん、電波は圏外だ。
「お前、その程度暗算しろよ。」
「えへへへ。」
「ご安心ください、この神殿にいらっしゃる間は、寝る場所と食事は格安で提供させていただきますので。」
「金とるのかよ?!」
「まことに申し訳ありません、これも神殿法で定められておりまして、何人たりとも例外は無いのです。ちなみにお一人様一泊につき銀貨3枚頂きます。」
「二人なら銀貨6枚、4日も泊まれないじゃないか。」
「お~、さすが先生、計算が早い。」
阿左美が感心しながらパチパチと手を叩く。
「お前な、4日後には異世界でホームレスになるんだぞ。」
「勇者として召喚されながら、ホームレスか・・・・それはそれでちょっと楽しそう。」
「楽しいわけあるか!!」
その時、ハーブ神官長が、あっ、思い出した、と言って手を叩いた。
「?」
「勇者様、どうぞこちらへ。」
そう言って真一と阿左美を先導して歩き出す。
彼女は(なんの説明も受けていないので、勝手にそうだと思い込んでいる)女神像の足元へと近づいて行った。
よく見ると、そこに地下へと降りる階段がある。
「その位置からだとスカートの中が丸見えだな。」
男の性と言うべきか、本能的に頭上に目を向けるが、当然真っ暗で肝心なところは見えない。
「なかなか色っぽいですな。」
「お前ここは、先生何見てるんですかエッチとかいう場面だぞ。」
「ええ~先生石像見て興奮するタイプなの?」
「もちろん、違うけど。」
地下への階段は20段程で終わり、そこには鋼鉄製の分厚い扉があった。
その表面には複雑な模様が施されており、それに軽く触れて呪文のようなものを唱えると、自動でゆっくりと開きだす。
「どうぞ、こちらへ。」
ハーブ神官長がそう言って中へと入って行った。
そこは地下室のはずなのに、天井全体がほのかに光っている。
「凄い、どうなってるの?」
それを見て阿左美がはしゃぐ。
「魔光石を切り出してはめ込んでいるのです。この世界には魔力が満ちていますから、それを受けて光るのですよ。」
「魔力が満ちている?」
「おそらく世界を構成する物質や大気の中に、そういった粒子が含まれているのだろう。」
彼女の疑問に、この世界の人間ではない真一が答えた。
「そして、それは人間の意思に反応することによって魔術が使えるようになる。」
「へぇ~、そうなのですか。」
そして、何故か阿左美と一緒にハーブ神官長も感心していた。
この世界の人達は、魔術は使えるが、なぜそのようなことができるかまでは理解できていないのだ。
要は、神の奇跡とか呼んで思考停止し、誤魔化しているわけだ。
地球人類も、原始時代から海や野山で狩りをして生きてきたが、大気や海がどのようにして出来たか知ったのは近代になってからだ。
「さすが異世界人の先生様ですね、とても博識でいらっしゃる。」
「どうせ、この世界は神が作ったとか、魔術は神々の奇跡とか言っているんだろ?」
「まさしくその通りです。」
そうこうするうちに、地下通路が行き止まりになった。
「着きました。」
「何もないけど、ハッ?!もしかして、ここがお前達の終着駅だとか言うお約束ですか?!」
「違います。」
そう言うと、ハーブ神官長がその壁に入って行った。
「あ、あれ?」
「どうやら、あの壁は現物ではないようだな。」
そして真一も一応手を伸ばして一度触れようとする。
しかし、やはり手ごたえは無かった。
「本当に感触がないな。」
「凄いですね、でもここまで厳重に守られている場所っていったい何だろう?」
「ここは、勇者神殿だろ、となれば最も大切な物といえば、先代勇者様関係の何かだろうな。」
「まさかミイラとか?」
「その可能性もあるが、鎧とか剣とかじゃないか。」
「鎧を付けたミイラとか?」
「お前、ミイラが好きなのか?」
そう言いつつ二人も壁を通り抜けた。
すると、そこはイメージ的には石造りの墓所のような感じだった。
10m四方の広さの中央に石棺が置かれており、その隣におそらく等身大の男性の石像が立っている。
ポーズ的には“我が人生に一片の悔いなし”の剣を持ったバージョンで、なかなか凛々しい。
「ここは?」
「ご想像の通り、勇者様ワルダスカー様の墓所です。」
「と、言う事はこれは棺桶?」
阿左美がそう言って近づくと、その表面に触れた。
そこには彼の生涯が文字として刻まれている。
「見たことが無い文字なのに読める。」
「それを言うなら、こっちに来てから、普通に会話しているだろう。」
「そうか、でも異世界ものじゃ常識よね。」
「まあ、会話が出来ないとそこでストーリーの展開が止まるからな。」
「何の話をされているのですか?」
「いや、ファンタジー物の王道について。」
「王道?」
まあ、気にするなと答えて、真一も阿左美の隣に並んで石棺の文字を読みだした。
1000年前、魔王ボルテッカー率いる魔族や魔物達が北の魔界から人間達が暮らす人界へと攻め込んできた。
あまりに強大なその力の前になすすべなく蹂躙されていく人々。
その時、勇者ワルダスカーが異世界から召喚され、彼のもとに人間・エルフ・ドワーフが集結した。
そして各地で地形が変わるほどの激しい戦いが繰り返され、最後は人界と魔界の境にある城壁山脈の死の谷で最終決戦が行われた。
深い谷底で、魔王と勇者の一騎打ちが続く。
その戦いがあまりに激しすぎたため、敵も味方も近づくことが出来なかった。
いつ果てるともなく続く死闘。
そして、ついに決着がついた。
勇者の剣ぺガスが、魔王ボルテッカーの首を刎ね飛ばしたのだ。
「見事だ勇者よ、しかし、我が肉体は滅んでも、魂は再び転生をする。その日を楽しみに待つが良い。」
体から離れ、地面に転がった魔王の首は最期にそう言うと黒い灰となって消えた。
「なるほどぉ~、この往生際の悪い台詞のせいで、いつか魔王が復活するって設定になったわけね。」
「設定って言うな、伏線と言え。」
「どちらも止めてください。この世界にとっては重大な問題なのですから。」
石棺の文字を読み終えた真一と阿左美にハーブ神官長が突っ込む。
「それで、この石棺を見せて、新人勇者に世界を救う覚悟を決めさせようって事か?」
「神官長さん、蓋開けていいですか?中身はミイラですか?」
「ここにご足労頂いたのは、勇者様の装備を引き継いでいただく為です。」
「伝説の勇者の剣や鎧や盾!!」
阿左美が瞳を輝かせつつ、石棺の隣に立つ石像に目を向けた。
いかにも勇者っぽいポーズの男性が鎧兜、盾、そして剣を身に着けている。
「もしかして、この中に?」
真一も驚いて石棺に注目する。
「言い伝えが本当なら1000年前の代物だろ?たぶん使い物にならないぞ。」
「私もさすがにミイラが着ている鎧兜をそのまま身に着けるのはちょっと気持ち悪いかも。」
「安心して下さい、勇者様の装備で特殊な効果が付与されていたのは主に鎧です。」
「えっ?剣や盾は?」
「勇者ワルダスカー様は、魔法剣士でしたので、剣と盾には戦いのたび、相手にあった魔法を自らかけておいでだったそうです。あ
と、戦いのたびによく壊れたり無くしたりしていたので、あまり高価な物を持つと怖くて思い切り戦えなかったとか。」
「じゃあ、鎧兜には?」
「そちらには構造強化と自動修復、あと、魔法障壁と瞬発力・筋力向上の魔術がかけられておりました。それもかなり強力な。」
「盛り過ぎだろそれ。」
「それってチートだよチート。」
「それぐらい装備を強化しなければ、魔王と互角に戦うことは出来なかったという事です。」
確かに、いくら勇者と言っても元は人間だ。
魔王がどれほど強力だったかは知らないが、とりあえず非常識なレベルだった事は間違いない。
「じゃあ、その効果を遺物状態の鎧兜からこいつに移すという訳だな。」
真一が石棺をポンと叩いてから阿左美を指さした。
「はい、もともと勇者様もそのおつもりだったらしく、石棺を開けることなく効果の移動は可能になっています。」
「ええ~、ミイラは見たかったなぁ~。」
「残念ですが、この石棺の中身は空なのです。」
「えっ?何も入っていないの?」
「はい、実は過去に勇者神殿は何度か経営難に陥りまして、何百年か前に、勇者様のミイラを粉にして売り出した事があるそうです。」
「・・・・・。」
「滋養強壮、疲労回復、あと冷え性と便秘によく効くという事でとても高価な値で取引されたとか、あと同じ理由で鎧兜・剣もオ
ークションで売られています。」
「この罰当たり共が・・・・。」
「ただ、鎧兜の効果だけは、こちらに移して保管しておりました。」
ハーブ神官長はそう言うと、決めポーズの勇者像を指さした。
「なるほどな、鎧兜に付与された魔術による効果だから、移動させる事も可能だったわけだ。」
「はい、それでは、少々お待ちください。」
彼女はそう言うと、勇者の石像に近づき、左手を自分の胸に、右手を像の胸に当てた。
そして目を閉じると精神を統一し、大きく息を吸い、そして吐き出す。
すると、勇者像が微かに光を放ちだした。
それが準備完了の合図だったようだ。
「勇者の力よ、新しい勇者に飛んでいけぇ~!!」
ハーブ神官長がそう言うと、勇者像がひときわ眩く輝き、そしてスッと元の状態に戻った。
「終わりました。」
「本当に、あのふざけた呪文で?」
「はい、この方法は歴代の神官長にのみ伝えられてきました。」
「な、なるほど、伝言ゲームあるあるだな、複雑な呪文だと、途中で間違って伝わる可能性が高くなるか。ところで、早瀬どうなんだ?」
「それが・・・・・。」
阿左美がその場でクルリと回りつつ、自分の身体を見下ろす。
「特に変わったところはないですけど。」
「そうか。」
そう言うと真一が近づいて行って、何の前触れもなく彼女のお尻を力一杯蹴り飛ばした。
「キャアアアアア!!」
と悲鳴を上げる阿左美と、ハーブ神官長。
しかし、彼女は少しよろめいただけで吹っ飛んだりしなかった。
「あ、あれ?」
「確かに効果は移ったみたいだな、って、何で今あんたまで一緒に驚いていたんだよ。」
「申し訳ありません、まさか本当に成功するとは思っていませんでしたので。」
「ちょっと待て、それってどういう事だよ?」




