第16話 盗賊退治
「結局、こうなったか……。」
冒険者ギルドの食堂で真一がそう呟く。
頭を抱えている真一の隣で、阿左美、エリチン、そして目を覚ましたミントが、金髪騎士ヴァレリアン・ホルセットの話を聞いている。
「それは、本当ですか?」
「恥ずかしながら、全て真実だ。」
彼女は、ここトール領が盗賊討伐に消極的で、何の手立ても打っていないこと、それどころか、警備隊が裏でその盗賊たちと通じていることなどを説明した。
「どうりで、街の近くで日中に堂々と隊商を襲撃してくると思いました。」
そう言ったのはミントだった。
「それで、あんたはどうしたいんだ?」
やれやれといった感じで、真一がそう聞く。
「野盗討伐。」
「……馬鹿か。」
まさしく一刀両断である。
「分かっている。相手は数十人もいる盗賊団、そのアジトがどこにあるかも分かっていない。それをこのような少人数で倒すことなどできない事ぐらいは。」
「なら、今すぐ王都に救援を求めるべきだろう。」
「それをするためには、セメン・トール卿の許しを得なければならないのだ。」
「だったら駄目じゃない!!」
阿左美がそう言った。
一体誰が盗賊団と通じているのか分からないが、領主はそれを黙認している可能性がある。
まさか自分の領民を襲う者たちと領主が通じているとは思わないが、対策を講じない時点で何か怪しい。
「…………。」
ジィーッと阿左美が真一の顔を睨みつけている。
「駄目だ。」
「まだ何も言っていないでしょ!!」
「言わなくても分かる。盗賊退治をやりたいとか言い出すつもりだろう?」
「だって、ここの人たちはとても困っているんだよ。誰も助けてくれなくて。」
「今日、俺たちを襲ってきた盗賊は二十人。一人減ったが、魔術師もいる。当然、あれが全部ということはないだろう。もし倍の人数がいた場合、全部で四十人だ。」
そこで言葉を切り、
「はい、早瀬阿左美さん。ここで簡単な算数の計算です。四十割る五は?」
「八。」
「はい、よくできました。つまり敵は八倍ということだ。そしてこの差は開くことはあっても、少なくなることはない。」
「で、でも今日は……。」
「あれは追い払っただけだ。敵が死に物狂いで反撃してきたら、あんなもんじゃ済まない。」
「そこは努力と根性でなんとか。」
「お前はそのどちらもないだろうが。」
「少しはあるよ!!」
「少しなんですね。」
阿左美の隣で、ミントが呆れながら笑っている。
「ヴァレリアンさんだったか。我々はまだ駆け出しの冒険者だ。そういう依頼は、もっと経験豊富な連中に頼んでくれ。」
「そ、そうか……。」
そう口では言いつつも、上目遣いで真一の方を見る。
こ、これは……。
ブロンド美人にそんな表情をされたら、日本男児としてなんとかしなければならないような気になるではないか。
しかし、俺は感情で判断を誤ったりはしない。
「報酬として金貨二十枚は準備できるのだが。」
「策を考えてみよう。」
感情ではなく、打算で判断が変わった。
「私も、仲間にしてよ。」
遅れて冒険者ギルドに戻ってきたシラクサに盗賊団退治の話をすると、身を乗り出してそう聞いてきた。
「これで人数は六人になったな。」
パーティー編成のバランスは悪くない。
「ただし、問題は盗賊団のアジトの位置が分からないことだ。」
ヴァレリアンがそう言った。
ちなみに、今日は受付が終わっていたので、依頼の申請は明日の朝一番に行うことになっている。
「それなら心配ない。」
真一がそう言うと、まだ酒が残っているため顔が赤いシラクサを指さした。
「さっそく仕事だ。」
「何々? 何でもやるよ。」
「今日、我々が捕まえた盗賊だが、おそらく今夜中にこっそり釈放されるだろう。」
「えっ、何で?」
「そんな厄介な奴をいつまでも砦にいさせるわけにはいかない。かといって、明るくなってから逃がしたのでは誰かに見られる可能性が高くなる。」
「た、確かに、砦の兵たちは、盗賊を必死になって接待していた。」
ヴァレリアンが、先ほど砦で見た光景を思い出しつつそう言う。
確かに、滞在時間が長くなればなるほど、接待の為の出費がかさみそうだ。
「と、いうわけで、砦を見張って、その盗賊が釈放されたら後をつけてくれ。」
「なるほど、それで盗賊団のアジトを見つけるわけね。」
「その通りだ。」
「任せてちょうだい。」
そう言うと、シラクサは食堂でパンとソーセージを買い込んでギルドから出て行った。
「よし、それじゃあこっちは今日はできることはない。休むとしよう。」
「えっ? 寝るの?」
「ああ、休めるときに休んでおく。」
「それじゃあ、ヴァレリアンだったか。明日の朝にまたこのギルドで。」
「承知した。」
こうして、この夜は解散したのだった。
シンインの街に到着した翌日。
タップリ飲み食いし、ベッドでゆっくりと休んだ真一たちは、冒険者ギルドの食堂で朝食を食べていた。
「パンが固い。」
「ギルドのパンは、保存食としても使えるようになっているんだな。」
朝食のパンをスープにつけてふやかしてから齧っている阿左美に、真一がそう言った。
「やっぱり安いだけのことあって、スープの味も薄いし。」
昨日の夜に寄った白いウサギ亭の料理はかなり美味しかったが、おそらくかなり値段は高かったはずだ。
全部おごりだったので、一切遠慮なく飲み食いしまくったが。
「シラクサちゃん、帰ってこなかったね。」
「いくらなんでも、そんなに近くはないだろう。」
そこへヴァレリアンがやって来た。
「皆さん、おはようございます。」
「あっ、ヴァレちゃん。」
「ヴ、ヴァレちゃん?!」
「すまん、こいつは馬鹿だから。」
生まれてこの方、経験したことがない呼ばれ方に驚いている彼女に、真一が謝る。
「えっ? 駄目だった?」
「いや、構わない。少し驚いただけだ。」
彼女は笑顔でそう言うと、受付の方に向かっていった。
正式に盗賊退治の依頼をするためだ。
そして、それは真一たちがそのまま受けることになる。
「ところで、真一殿。」
申請用紙を提出したヴァレリアンが食堂に戻ってきて、同じテーブルについた。
「今朝、砦の様子を見てきたのだが、やはり昨日の盗賊の姿はなかった。」
「そうか。」
「そもそも砦では、盗賊が捕まったこと自体、なかったことになっている。」
「徹底しているな。」
それにしても、この街の冒険者ギルドは利用者が少なかった。
まあ、ろくな依頼がないので、それが飯の種である冒険者が少ないのも当然だが。
「ここの領主とは一体どのような人物なんだ?」
朝食を食べ終えた真一が、ヴァレリアンにそう質問をした。
「セメン・トール卿のことか……一言で言うと倹約家だな。貴族の割に生活は質素で、趣味は貯蓄だと聞いたことがある。」
「せこい貴族……それはかなりの変わり者だな。」
「そう言えば、私も聞いたことがあります。」
今度はミントが答える。
「勇者神殿には貴族の方々も寄付やお布施をしてくださるのですけど、トール領の領主様だけは、銅貨一枚もそれがないと神官長様が仰っていました。」
「徹底的な倹約家で趣味が貯金か。確かに貴族にしては珍しいな。」
領主や貴族と聞けば、大勢の召使いに身の回りの世話をさせ、贅沢な暮らしをしているというイメージがあるが、聞けばセメン・トールは独身で、広い屋敷で一人暮らしをしているらしい。
「それじゃあ、跡取りは?」
「おそらく、いずれ親戚の家から養子を迎えることになるだろう。」
本当に跡取りがいなくなれば、その家は取り潰され、領地は没収されてしまう。
「それだけ、せこければ、その部下たちに対する給料もあまり期待できないな。」
「確かに、領地を守る兵の数は必要最小限。現に盗賊が領内で暴れまわっているというのに、兵を動かすとお金がかかるという理由で巡回が取りやめになった。」
「普通に考えれば、領内で盗賊が暴れまわったりしたら、被害を最小限度に食い止めるために早期に討伐するはずなのに、その討伐費用が高いから放置をしている。ということか。」
そのような人間が領主では、領民はたまったものではない。
税金はきちんと納めているのに、犯罪や事故が起こっても警察は捜査をしてくれない。家が火事になっても消防は出動しない。
これでは真面目に納税義務を果たす気など失せてしまう。
「ところで、ヴァレリアン。」
「何だ、シンイチ殿。」
「この町に安くて品揃えが良い武器屋はないか?」
「装備を揃えたいのか?」
「ああ、早瀬でも使える武器を買いたくてな。」
本当は真一やエリチンも武器や防具を揃えたいのだが、二人はまだ魔術が使える。
その点、体当たり攻撃しかできない阿左美には、何か武器を持たせる必要があるのだ。
「アザミ殿はどのような武器が得意なのだ?」
「エクスカリバーかゲイボルグ!!」
瞳を輝かせつつ、そう答える彼女。
「聞いたことがない名前だが……それはどのような武器なのだ?」
「それはね!!」
この後の展開が読めるので、すかさず真一が阿左美の口を手で塞ぐ。
「気にしなくていい。こいつの脳内にのみ存在する特殊な武器だから。」
「ひっどぉ~い!!」
「お前は、剣道や弓道をやっていたんだろうが。少しはその数少ない特技を活かせ。」
「ケンドウ? キュウドウ?」
聞き慣れない単語に、真一と阿左美以外のメンバーが首を傾げる。
「我々の国の武術の名前で、サーベルを使った剣術と、弓術のことだ。」
「えっ? アザミ様は武芸を習っていたのですか?」
ミントが驚いてそう言う。
確かに、ほんの数日とはいえ、真一と阿左美がこの世界に召喚されてからずっと一緒に行動している彼女ですら、その片鱗すら感じたことがないのだ。
「ああ、実はそれなりの腕前だ。」
「……信じられない。」
「あ、あの、ミントちゃん、そこまで驚かなくても。」
「フム、それなら一度、私と手合わせをしてみないか?」
興味が湧いたとばかりに、ヴァレリアンがそう言った。
「えっ? 何で?」
「おそらくアザミ殿は、私と同じくあまり重い武器は不向きなはずだ。どれだけ体を鍛えても、女は男に筋力では劣るからな。」
彼女がそう言うと、エリチンが外套から右腕を出し、力こぶを作りつつニカッと笑う。
「い、いや、あんたは男の中でも特殊だから。」
「それに、私は予備の剣を持っている。もしアザミ殿が気に入ったのなら、それを貸そう。」
「ぜひお願いする。」
真一が真顔になってそう言った。




