第15話 宴会
真一達は、ギルドに宿を取ると、夜の街に繰り出した。
「今日は、安い定食じゃなく、少し良い物を食べよう」
「やったぁ~!!」
本当に嬉しそうにはしゃぐ阿左美。
ちなみに、シーフのシラクサも当たり前のようについて来ている。
「この先の白いウサギ亭が美味しいらしいよ」
「ハチミツ酒はある?」
「もっちろん」
肩を組んで前を歩いて行く阿左美とシラクサ。
「ミントさんもご苦労だったな」
そんな二人を目で追いつつ、真一がそう言った。
「私は何もしていませんけど」
「怪我人を治療してくれただろう」
「それは神官の務めですから」
照れながらそう答える。
神官達は治癒の魔術を使って怪我人や病人を治し、その代金を神殿の維持費に充てていた。
治癒魔術は神の奇跡とも呼ばれているが、神への信仰心がない者でも、治癒をしてくれる神官に対する畏怖の念は持っていたりする。
それこそ、戦争が起こっても決して神殿は攻撃されないし、守る側もどれほど負けていても、決して神殿に立て籠もったりはしない。
なんでもありの盗賊ですら、よほどのことがない限り、神殿だけは決して襲わないのだ。
「先生、早く早く!!」
どうやら白いウサギ亭に到着したらしい。
店先で阿左美がブンブンと手を振っている。
店内には、今日の夕方まで真一達が護衛をしていた隊商の御者や、護衛のマイカル達がいた。
ほとんど貸し切り状態で、すでにかなり盛り上がっている。
「おお~、あんたらか!!」
「こっちに来いよ、一緒に飲もうぜ!!」
真一達に気付いた彼らが駆け寄ってきて、腕や肩を掴み、強引に店内へ引きずり込んでテーブルに座らせる。
唯一、エリチンだけは誰も寄り付かなかったが。
「し、しかし、俺達は……」
このノリはミントには厳しそうだし、阿左美は絶対に大変なことになる。
そう考えた真一が断ろうとしたが、
「ハハハッ、今日は俺達が奢るから、何でも飲み食いしてくれ!!」
「喜んでご馳走になろう」
多少のことは目をつぶろうと思った。
1時間後には、真一の考えていた通り、収拾がつかない状態になっていた。
「さあ、次の挑戦者は誰だ? 私は逃げも隠れもしないぞ!!」
ハチミツ酒の飲み比べを始めた阿左美の前には、酔いつぶれたマイカルがいる。
「こいつ、凄いな」
「おい姉ちゃん、負けたら本当に服を脱ぐんだろうな?」
「勇者に二言はないわ。全裸はお嫁に行けなくなるから駄目だけど、下着までならオッケーよ!!」
「いや、下着でも駄目だろ」
こんな大勢の男達の前で、飲み比べをして負けた末に下着姿になるような女と、誰が結婚などするというのか。
「ねえ、シンイチは、私と飲み比べしようよ」
こちらも上機嫌なシラクサがそう言うが、
「そんな品のないことを俺はやらない」
と言って断った。
「じゃあ、ミントちゃんは?」
そう言って彼女の方を見たら、テーブルに突っ伏して熟睡していた。
男連中がジリジリと近付こうとしているが、真一とエリチンが左右を固めて、それを防いでいる。
「このお肉美味しい、お替わり!!」
飲み比べをしつつ、料理もガツガツ食べている阿左美がそう言って木皿を持ち上げた。
確か、あれは肉多めの野菜炒めのような料理が盛られていたはずだ。
「本当にこの店の料理は最高!! パンも柔らかいし」
「本当に、あの馬鹿……」
その時、二人の男がミントに近付いてきた。
「あんたらは?」
それは、今日の野盗との戦いで矢傷を負った護衛達だった。
そして、二人ともミントに治療をしてもらっている。
「あの、彼女が目を覚ましたら、これを渡してくれ」
そう言うと、二人が銀細工のペンダントと指輪を差し出してきた。
「これは?」
「治療をしてもらった時、金を払おうとしたんだが、受け取ってくれなかったから」
「ああ、安物だけど」
「良いのか?」
「ああ、家族の土産用に買った物だけど、また別のを準備するから」
「そうか」
この3日間、ほとんど会話をしなかったが、こんなことなら、もう少し仲良くしておけば良かったと思った。
それからしばらくして、阿左美が真一の隣に戻ってきた。
「本当にだらしないわね、あいつら」
「現役女子高生が、酒の飲み比べで大人の男達を潰しておいて、ドヤ顔ってどうなの?」
おまけに調子に乗って「勇者」という単語を連発していたし。
まあ、誰もまともに聞いてはいなかったが。
「あ~、暑っ」
そう言うと、阿左美がブレザーを脱いだ。
直後に勢いよくテーブルの上に倒れ込み、ゴンッ!! という派手な音を立てる。
「……やっぱりか」
どうやら、ブレザーの加護で泥酔しなかっただけらしい。
「エリチン、そろそろ宿に戻ろう。お前はミントさんを頼む」
「承知した」
そう言うと、二人はそれぞれ阿左美とミントを背負って店を出た。
シラクサはまだ飲み足りないらしく、店に残っている。
もうかなり夜も遅いので、通りは閑散としていた。
どうやら街の人達は、あまり夜遅くまで酒を飲んで遊び歩いたりはしないようだ。
おそらく、盗賊のせいだろう。
街中であっても治安がかなり悪くなっているのだ。
そうでなくても、トール領全体の空気が重いというのに。
街角で立っている女性は、売春婦だろうか。
さすがに酔いつぶれた女を背負っている真一とエリチンに声をかけてきたりはしないが、かなり暇そうだ。
冒険者ギルドに戻ってくると、中に入る。
1階の食堂にはほとんど客がおらず、一人だけテーブルについていた。
しかし、その一人には見覚えがある。
「夕方に依頼書の前にいた騎士だな」
そう、青い胴衣に銀色の鎧、ブロンドの髪に青い瞳という、ある意味お約束の騎士、ヴァレリアン・ホルセットだ。
彼女はグラスを片手に俯いている。
酔いつぶれているのか? とも思ったが、彼女の顔色は白いままだった。
「……」
ギルドのメンバーではなくても、ここで飲食ができるんだな、それとも、彼女は特別なのか?
何にせよ、面倒事の臭いしかしないので、素通りすることにした。
受付の反対側にある階段から2階へ上がろうとする。
しかし、その時。
「先生、おしっこ」
阿左美が目を覚ました。
一度脱いだブレザーをもう一度着せているので、酔いは醒めているようだ。
「行って来い」
そう言って彼女を床の上に立たせると、足元がふらつき、先ほどの金髪騎士のテーブルに手をついて体を支えた。
ガタッとテーブルが揺れ、彼女が顔を上げる。
そして、目を回している女子高生を見た後で、階段の前にいる真一に気付いた。
「貴殿は?!」
あ~っ、やっぱり、来た!!
何となく、こうなるのではないかと予想していた。
「夕刻に依頼書の前で会った冒険者殿だな?!」
「ああ、確かに一度会っているな」
「貴殿は……いや、いい、済まなかった」
何かを言いかけ、苦しそうな表情になると、再び俯いた。
「そうか」
ホッと胸を撫で下ろして2階へと上がろうとする真一。
しかし、
「ねえ、どうしたの?」
阿左美が彼女の隣に腰を下ろし、その顔を覗き込みつつそう聞いた。
ば、馬鹿、止めろ!! 心の中でそう叫ぶが、手遅れだ。
「私達で良ければ相談に乗るよ。こう見えても冒険者なんだから」
「そうか。しかし……相手が野盗では……」
「大丈夫、大丈夫。私達はその野盗を今日やっつけたし、なんと一人捕まえたのよ」
「な、なんと、それは本当か?!」
俯いていたヴァレリアンがガバッと顔を上げた。
「あれ、疑うの?」
「す、すまない。しかし、あなたはかなり若いし、その格好……」
「チッチッチッ、人を見かけで判断したら駄目だって、いつも先生が言っているわ。ねっ、先生」
そして、アチャ~と言った表情になっている真一に声をかける。
「確かに言っているが、お前は見た目通りだ」
「どういう意味、それ?!」
椅子から立ち上がると、ヴァレリアンが真一へと近付いてきた。
「貴殿が盗賊を撃退し、あまつさえ1名捕らえた冒険者だったとは。実は、あなたを……いや、あなた達を待っていたのだ」
「そ、そうか……」
「頼む、力を貸してくれ」
「俺達は冒険者ギルドに登録している。だから、直接依頼は受けられない」
「そうか。では、ギルドに正式に依頼をするとしよう」
「それで、何を依頼する気なんだ?」
「決まっている。盗賊退治だ!!」
女騎士ヴァレリアン・ホルセットが、胸を張ってそう言い切った。




