第14話 依頼達成
隊商がシンインの街に無事に到着した。
「いやぁ~、あれだけの襲撃を受けて、積み荷が無傷だったなんて、奇跡だよ」
隊商のリーダーが満面の笑みでそう言うと、ズシリと重い革袋を真一に手渡した。
中を覗くと、200枚の銀貨が入っている。
これは、金貨に換算すれば2枚ということになる。
事前に通報をしておいたので、街の警備兵が4人やって来て、捕まえた盗賊を連行していった。
それを見送ってから、隊商のリーダーが真一たちの方に向き直り、
「また何かあったらギルドに依頼をするから、その時は頼むよ」
と言った。
「ああ、分かった」
そして最後は握手をして別れる。
「いやぁ~、みんなってすごかったんだね。まさかマナベが魔術師だったとは、びっくりだよ」
彼らと同じく報酬を受け取ったシラクサが、そう言いながら近づいて来た。
彼女は盗賊の襲撃時、マイカル達と共に隊商の先頭付近で戦っていたが、幸いなことに無傷だった。
ちなみに彼女は勇者神殿以前からこの隊商の護衛をしていたので、真一たちよりも報酬は多い。
「君は、帰りもこの隊商の護衛をするのか?」
「そうしても良かったんだけど、護衛って退屈だから飽きちゃった」
真一たちが護衛をしてきた隊商は、ここで荷物を降ろし、今度は穀物を積んで出発をする。
しかし、来る時と違って金目の物がほとんどないため、盗賊に襲われる可能性はかなり低くなるのだった。
当然、積み荷の価値が低ければ、それを守る護衛の人数も少なくて済む。
マイカルたちは引き続き護衛を続けるらしいが、真一たちの契約はここまでだった。
真一は依頼書を取り出すと、魔力で火をつけて燃やした。
これで勇者神殿の冒険者ギルドにある依頼書の写しの色が変わり、依頼を達成したことが自動的に伝わる。
「アザミたちも、ここの冒険者ギルドで次の依頼を探すんでしょ? だったら一緒に行こうよ」
「やったぁ~。そうだ、また同じ依頼を受けるのってどう?」
「う~ん、条件次第かなぁ~」
二人はすっかり意気投合して、肩を並べて歩いている。
「すっかり仲良しさんですね」
ミントが微笑みながらそう言った。
「何言ってるの。ミントちゃんも仲良しだよ」
そう言って阿左美が強引に彼女も引っ張っていく。
「とりあえず、少しお金に余裕も出来たし、今日はゆっくり休むか」
そんな女の子たちの後ろ姿を見つめつつ、真一がそう言った。
「若い女たちが賑やかなのは、人間もエルフも変わらんな」
「……ちなみに、若いエルフって何歳ぐらいまでなんだ?」
「そうだな。生まれて大人になるまでは、エルフも人間もだいたい15年から20年はかかる。ただしエルフの場合は、外見は大人になっても、内面的には100歳ぐらいまでは成熟しない」
「焦る必要がないから、中身はのんびりと大人になっていくわけだな」
「その通りだ」
そう言いつつ、二人も街の中心部に向けて歩き出した。
シンインの街は、もともと商業が盛んではなかったため、中央の大通り以外は地味というか、人通りが少ない。
そもそも交易路からは離れているため、隊商もめったに来ないし、旅行者も寄り付かないのだ。
その通りの端に、冒険者ギルド・シンイン支部があった。
「みんな、プレートは見えるようにしておけよ」
これは冒険者ギルドに入る際の規則で決まっている。
当たり前だが、冒険者ギルドにおける依頼は、登録している者でなければ受けることはできないのだ。
中に入ると、ここも1階は食堂と受付が併設されていた。
「お腹減った」
「後だ、後」
食堂の方にフラフラと近づいて行く阿左美の襟首を後ろから捕まえて、そのまま依頼書が貼られている壁へと向かう。
そこには他に冒険者はいなかったが、一人、場違いな女性が立っていた。
金髪の若い女性騎士だ。
騎士の装備をした冒険者かと思ったが、ギルドのプレートを付けていない。
真一たちは少し驚いたが、彼女を無視して依頼書を読み始める。
「出来れば、今回のような護衛クエストが探すぞ、飯代がただで、人数分の報酬が出るからな」
そう言う真一に阿左美が不満そうな顔を向ける。
「え~っ?! 今度こそダンジョン探索や魔物退治にしようよ」
「まだ、早い」
しかし、この支部に貼られている依頼書は、勇者神殿に比べてかなり少なかった。
おまけに――
「村の警備、家畜の見張り……盗賊がらみばかりだな」
どうやら、このトール領は、今は盗賊のことで手一杯のようだ。
「残念だが、無理だな」
そう言って依頼書が貼られた壁に背中を向けた時、真一の正面に、金髪の女騎士が立っていた。
「ん? 何か?」
元の世界で言うところの、ハリウッド女優のような見事な金髪に青い瞳。
典型的な日本人である真一は、それだけで気圧されてしまう。
「あ、あなたたちは……いや、失礼した」
しかし、彼女は何かを言いかけて途中でやめ、頭を下げると出口へと向かって歩いて行った。
「何なんだ?」
「あの人、多分、王国騎士だよ」
真一の隣に並んだシラクサがそう言った。
「王国騎士?」
「このトール領じゃなくて、アルメシア王国の騎士ってこと。かなりのエリートで、派遣されてきているんだよ」
「ふぅ~ん。でも、何でそんなご立派な人が、冒険者ギルドに来ていたんだ?」
「さあ? それは分からないわ」
「何だか思い詰めた表情をされていましたね」
今度はミントがそう言った。
「盗賊被害が続出しているから、気に病んでいるのかもな」
金髪の王国騎士、ヴァレリアン・ホルセットは拳を強く握りしめ、通りを歩いていた。
冒険者ギルドに依頼書を見に行っていたのだが、そこには頼りにならない軍に代わって、冒険者たちに助けを求める悲痛な依頼が何枚も貼られていた。
「不甲斐ない……」
出来ることなら、自分一人でも盗賊のアジトを突き止め、突入をしたいぐらいだ。
だが、それでは間抜けな女騎士の死体が荒野に晒されるだけだろう。
「そう言えば、今日到着した隊商の護衛が、盗賊を一人捕まえたと言っていたが……」
まさか、それを捕まえたのが、先ほど冒険者ギルドにいた真一たちだとは、さすがの彼女も気付いていない。
彼女は警備隊の砦へと向かって、速足で歩き出した。
砦に着くと、牢屋がある建物へと入って行く。
おそらく今頃は、捕らえた盗賊に対して尋問、いや、拷問が行われているだろう。
あまり見ていて楽しいものではないが、罪を犯した者が素直にそれを認めないのであれば、致し方ないとは思っている。
ドアを開けて中に入ると、そこでは……。
「何だ、この安い酒は?!」
「すいません、今、買いに行かせていますから」
「あ~、縄で縛られた跡が痛い」
「本当にすいません」
テーブルに足を乗せ、ふんぞり返って椅子に座っているのは、今日捕まった盗賊だ。
その周囲で兵士たちが、酒や料理を並べ、愛想笑いを浮かべている。
「な、何を……これは」
「お~っ、気が利くじゃねえか。こんな美人を連れて来るなんて」
賓客扱いの盗賊がヴァレリアンに気付いて、そう言った。
「酒を注いでくれよ。酔っ払った後は……なあ、ここにもベッドはあるんだろ?」
「あ、あの、すいません。あの人は……」
兵士が彼女に駆け寄ってきて、
「騎士殿、出て行って下さい」
と言って来た。
「何故だ? なんなのだ、これは?」
「いいから、ここにいたら話がややこしくなるから、出て行ってください。それとも、本当にあいつと寝てくれるんですか?」
「ね、寝るだと?!」
思わず怒鳴りながら剣を抜きそうになった彼女の背後から
「これはヴァレリアン騎士殿。ちょっと私の部屋で話をしようか」
それは、この砦の隊長だった。
「説明していただけるのですか?」
「無論だ」
そして、二人は隊長の住居兼指揮所の建物へと移動する。
「これは、一体どういうことですか?!」
机に両手をバンッ!!と叩きつけつつ、ヴァレリアンがそう怒鳴った。
上に載っていた酒瓶が転がり、中身のワインがこぼれる。
「あ~、勿体ない」
それを慌てて持ち上げると、直接口をつける隊長。
「答えてください!!」
「あ~、分かった分かった」
面倒臭そうにそう言うと、酒瓶をテーブルの上に戻す。
「彼は盗賊ではなかった。冒険者は、無実の人間を間違って捕まえたのだよ」
「何を言っているのですか?!」
「もう一度、言おうか?」
「本気でそのような事を信じているのですか?!」
「ああ、もちろんだ。全く、困ったものだよ」
「……」
この時、彼女は確信した。
何故、各村から警備の兵を引き上げたのか。
何故、兵士による巡回を止めたのか。
「あなたたちは、盗賊と裏で繋がっている。取引をしているのか?」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。いくら王国騎士殿でも、言っていいことと悪いことがあるぞ!!」
今度は、隊長が切れる番だった。
しかし、口調は怒っているが、その目は笑っている。
駄目だ、このままでは……。
ヴァレリアンは拳を強く握り、奥歯を噛み締めた。




