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疎外感

冬の終わりに起きた姉様の誘拐事件のせいで姉様の今年の学園への入学が正式に見送られた。夏が過ぎる頃には事件の噂話もすっかり聞かなくなり、されども個々のお茶会に積極的に参加する訳にもいかない姉様は妹のラナと一緒に、自分の商店『姫金魚』の新商品の開発に意欲を燃やしていた。

「次の商品は着せ替え人形にしましょう!」

…着せ替え人形?

「好きな服を人形に着せ替えて遊ぶのよ!」

「そんなルイザ達がやってくれる仕事を喜ぶご令嬢が居るとは思えないんだけど?」

僕は率直な意見を述べてみたが、姉様から返ってきたのは 悪いことを考えてる時のニヤリとした笑顔だった。

「ユリウスは分かってないわね!自分を着飾るのは出来上がれば楽しいけど、そこに辿り着くまではそれはもう大変な苦行なのよ?」

「そ、そうなの?」

「去年の王宮での子供のお茶会の時、貴方は先に登城したから分からなかったと思うけど、貴方が起きた時には私は既にお風呂で磨かれてたんだから!」

確かにその日僕は早起きして身支度をして王宮に先に行った。姉様はゆっくり用意できて羨ましいともチラッとは思った。……まさかあの時間から入浴していたとわッ

「女の子はね、オシャレするのは大好きなの!キラキラした宝飾品、ヒラヒラのドレス、髪型だって色々変えたいわ。でもね、自分で着替えるのはとても大変なの。」

「な、なるほど…。」

姉様の言葉に熱が込められていく。

その圧に僕はだんだん押されていく。

「さらに!ドレスはとても高価なのよ!遊びで注文出来るほど私のモラルは崩壊してないわッ!」

…父様なら多少は喜んで買ってくれると思うけど?

「そこでッ腕に収まるサイズの人形の出番よ!」

「?」

「小さければ多少は安価でドレスも作れるしお飾りも小さいから今まで使い道のなかったクズ宝石が使えるじゃない!ゆくゆくはその人形サイズの家具とか小物とか…あああぁ夢が膨らむわ〜!」

「お姉様、それにはやはりマジックテープは不可欠ですよ。」

暴走しかけてた姉様に絶妙なタイミングでラナが声をかける。

新しく妹になったラナは元平民とは思えないほどマナーも言葉遣いも学習知識も優秀だった。

本人は姉様と僕が指導してくれたからと、周りには説明しているが、時々姉様より完璧な時がある。やはり前世で一度人生をまっとうしているという事はそういう基礎知識は完璧という事なのだろう。

……姉様は人生の途中でリタイヤした感じだから時々油断が見え隠れするのだろうか?

「そうよねぇ…マジックテープ欲しいわよね…」


……まじっくてえぷ…とは?


「そうです!着せ替え人形の衣装にマジックテープは不可欠ですよ。某県にあったリトルなワールドの民族衣装の着用体験も後ろでマジックテープ式だったから、ものすごく簡単で安かったんですからッ!」

「えっ!?そうだったの!?……マジックテープ恐るべし…!!」


……だから、まじっくてえぷ、とはっ!?


また二人だけで話が進んでいってしまう。

最近僕だけ疎外感を感じる…悲しい。



そういえば夏前に姉様が父様に何か頼み事をしていたが、泣いて止められていた。

姉様に尋ねたが「内緒」と、教えて貰えなかった。



僕は相変わらず毎日王宮に登城してカインと勉強をしている。誘拐事件のせいで炊き出しに行くことを禁じられてしまいカインが残念がっていたが、またあの様な事が起きたらどうする?と王太子殿下に言われ納得したのか、あまり無理(ワガママ)を言われなくてほっとした。


カインは夏頃から時々お茶会を主催するようになった。

これは社交の勉強の為と将来の側近を選ぶ為だ。

九〜十歳辺りの年齢になると、学園へ入学を控えていたり、将来の為の顔合わせや繋がりを作る為に生活拠点を王都に移している子息令嬢も多い。 冬にしか王都に来れない地方の貴族子女も居るが、その子達は冬の王宮子供お茶会に招くので問題無い。

カイン主催のお茶会は一回に十人前後の少人数しか招待しない。ゆっくりじっくり一人一人を知る為のお茶会なのだ。


そんなお茶会の席でカインは来年の夏に学園へ入学するために今から準備に入ると宣言したため、社交界に密かに激震が走った……らしい。

そりゃどこの家庭も王子と同級生という肩書きは欲しいだろう。下位貴族からすればあわよくばお近付きに…と、いう下心がすっけすけに見える。

王族側からしたら入学は当日まで秘密にしたかったらしいが後の祭りである。

王太子殿下と王太子妃殿下が実際に頭を抱える事態を目の当たりにした僕らは、心の底から反省したのだった。

学園に入学するための準備だが、僕らがやらなければいけないのは、自分の世話を自分で出来るようになるという事だ。

全寮制の学園は身の回りの世話に使用人を連れて行くことが出来ない。

創業者の理念の『自分の事は自分でする』を実践する為の全寮制なのだそうだ。

朝の身支度、部屋の掃除、洗濯は出しておけば数日後には畳んで部屋に置いておいてもらえるらしい。食事は全員食堂で取るのだが、給仕がつく訳では無いので自分でテーブルまで運ばなければいけないと。この辺は王宮食堂で時々経験しているから問題無い。僕もカインも慣れたものだ。

問題は入浴だ。

頭の先から足の先まで自分で綺麗にしなければならない。

この自分で綺麗に洗う、タオルで拭く、着替える、髪を乾かして櫛ずける、という事が僕なら僕専属侍女のルイザが、カインならカインの侍女のメアリーが合格を出さなければ学園へ入学出来ないのだ。

これも学園側が定めた入学規定で、必ず各家庭の合格を証明する書類の提出が義務付けられている。

僕はカインの従者だから入学すれば同じ部屋だが、これは王族への配慮とか僕がカインの侍女代わりとかそういう事ではなく、王族として入学後に学園の様々な仕事をしなければならないカインの補佐としての配慮であるらしい。

当たり前なのだが、他の貴族の模範にならなければならない王族やその従者がきちんと合格出来てないなどある訳ないのだから、つまり同室にして補佐しなければならない程入学後の僕らには学業以外のやるべき事が有るということなのだろう。

……カインのあの長い髪を手入れする手伝いとか……しないとダメだろうな……。

この自分の事を自分でやるという点において、姉様もラナも既に合格を得ている。僕はまだ少し不安が有るらしいから合格出来ていない。

正直、姉様もラナもこういう所が羨ましくもあり、あぁ大人だったんだなと実感させられるところでもある。ラナに至っては学園へ入学するのに足りないのは年齢だけという話を父様から聞いた。

ウチの妹が超人過ぎる…

話を聞いた時思わずそう呟いたら姉様とラナはお互い目配せをしてくすくすと笑いだした。

「なんで笑うのさッ」

ちょっと悔しくて拗ねたように言うと、

「「私達、前世は平民だったのよ。」」

二人して同じことを言う。

「?」

「つまりね、平民だった私は一人暮らしをしてたから、入浴ぐらい出来て当たり前なのよ。」

フフンッと得意そうに姉様が言う。

「私も結婚するまでは一人暮らししてましたし、今世でも平民ですから…むしろ今、侍女の方に手伝っていただくのが申し訳なくて……」

控えめに言うラナに、

「わかるぅ〜」

と、姉様が頷きながら同意する。

「……分からないよ。」

僕はちょっとムッとして反論する。

「あら、拗ねちゃった?でもこんなの慣れだからユリウスもすぐに合格貰えるわよ。」

頭をわしゃわしゃしながら姉様が慰めてくれる。

……拗ねてないしっ!



夏が終わり屋敷の木々も色付いてきた頃、とても久しぶりにカインがシャルマーニ邸に遊びに来た。

しかも今回は婚約者のベルアーニャ侯爵令嬢と共にだ。

「まあぁフローレンス様お久しぶりです!」

「リナリア様もお元気そうで安心いたしましたわ。」

姉様とベルアーニャ嬢の再会の挨拶に全員気圧されてしまった。

「んんっ…あ〜元気そうで何より。」

咳払いして二人の会話に割り込んでいくカイン。誘拐事件でセライラ市から王都に帰ってきた日から一度もうちに来てなかったカインは、姉様に会うのが久しぶり過ぎて少し緊張しているのかなんだか窮屈そうだ。

「カイン殿下もご機嫌麗しゅうございます。」

「うむ。」

姉様もよそ行きの挨拶をし、カインはそのカーテシーに鷹揚に頷く。

「お二人に是非ともご紹介したい子が居るのですがよろしいですか?」

よろしいですか?と尋ねているはずなのによろしいですよね?と聞こえる不思議。

さすが姉様。

「私とユリウスの新しい妹のラナです。ラナ、カイン王子殿下とその婚約者のフローレンス=ベルアーニャ様よ。ご挨拶を。」

「はい、お姉様。…お初にお目にかかりますリナリア姉様とユリウス兄様の妹になりましたラナ=シャルマーニと申します。以後よろしくお願いいたします。」

姉様に紹介されてラナが完璧なカーテシーで挨拶する。

「カインだ。二人の妹なら私にとっても妹だ。私の事も兄と思って良いぞ!」

上機嫌に言うカインの言葉にベルアーニャ嬢と言われた本人のラナが硬直する。

妹なわけないだろう!?

ラナがものすごく戸惑ってるじゃないか!

「ラナ、良かったわね!これで貴女の兄は三人よ!」

……姉様!話がややこしくなるからッ!!

「えっと…フローレンス=ベルアーニャです。リナリア様の妹なら私にとっても妹?かしら?…えっとよろしくして下さいませね。」

ほらぁ…ベルアーニャ嬢が何とか話を合わせようとよく分かんないこと言い出しちゃったじゃないか〜!


「それで今日はお二人揃ってどうしたんですか?」

サロンに移動し、お茶とお菓子を用意して貰ったら姉様が話を切り出した。

「うむ。実はリーナに今度の王宮子供お茶会の時の余興を何か考えてくれないかと思って打診しに来たのだ。」

カイン、姉様の名前が愛称呼びに戻ってるよ……ベルアーニャ嬢(婚約者)の前だろう!?

だがベルアーニャ嬢はニコニコと笑ってお茶を飲んでいる。カインのリーナ呼びは問題無いのだろうか?

「それはまた…突然ね。」

「お、お姉様…言葉がッ…」

ラナが敬語を使わない姉様に焦って、ワタワタしてるのを見たベルアーニャ嬢が、何かに気付いて手を口に当てた。

「ぁぁ…ラナ様、大丈夫ですよ。カイン殿下よりシャルマーニ邸での作法はちゃんと聞き及んでおります。」

ベルアーニャ嬢が微笑んでラナにそう言った。

「「「作法!?」」」

僕ら姉弟妹の声が重なる。

「カイン殿下がここに来る時は、実の兄弟として振る舞わなければならない……のでしょう?」

……カイン…そんな説明したのか…

「そうだぞ。だからラナも気楽にすればいい。」

「……えっ、と………はい。」

戸惑うラナはカインの言葉に何とか納得しようととりあえず返事をしたのだろう。お兄さまにはお見通しだ。

「それで話を元に戻すけど、つまりお茶会の時に去年みたいなゲームをしたいって事よね?」

「ああ。…どうしても無理なら去年同様パズルにするが…」

「去年みたいに誰が優勝!とか決めるの?」

「ん〜…いや、今回は特にそういう事は無くてもいい。茶会なら、既に何度も開いているからな。」

「あぁ…プレミア感があんまり無いのね。」

姉様の言葉になるほど…と頷くラナ。


「「「ぷれ…?」」」


僕とカインとベルアーニャ嬢は良く聞き取れず首を傾げる。

コレはアレだ!前世の言葉だ。

またしても二人だけで分かりあってる…

「王子殿下とのお茶会という特別感が、少し薄れてきてるって事よ。」

「なるほど…」

姉様の説明で納得するカイン。

説明は良く分かったけど……姉様、それめっちゃ不敬だからねッッ!!



今回はちょこちょことあったことをオムニバスっぽく並べて見ました。もちろんユリウス視点で彼の思いを少し滲ませてますが…。

ちょっと中途半端なところで区切って続きは次回です(笑)

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