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新しい妹

姉様の誘拐事件の犯人はオッシ子爵の子飼いの犯罪グループだと判明した。

目的は人身売買。

我が国では禁止されているが、裏ルートで売り買いされているのも事実だ。中には国外に売られるという噂も有る。

姉様がそんな事にならなくて良かったと安堵すると同時に、何故姉様を狙ったのかという疑問も湧く。捕まらない自信でもあったのか?宰相家相手に???

オッシ子爵家は当主が捕まり死刑が確定した。また一族中でこの人身売買に加担していた者は刑量によって死刑か流刑地送りに。それ以外の者は爵位返上の平民落ちになった。オッシ子爵家は事実上取り潰しである。

それと姉様を運んだ馬車を提供したとしてファミーユ子爵も捕縛されたが、娘を人質に取られ無理やり協力させられたという事情を考慮し賠償金を支払う事で手打ちとなった。

この処罰のせいでファミーユ子爵家に娘が居たことが最悪の形で社交界に広まってしまい芋づる式に姉様の誘拐の件も広まってしまった。終わりがけとはいえ王都にほぼ貴族が集まる社交シーズンの最中の出来事なのでお茶会や夜会での噂話にさらに下火になっていた去年の話題と合わさって、またしても噂の渦中に立たされた姉様は、ほとぼりが冷めるまで子供同士のお茶会自粛となってしまったのだ。

この状態を鑑みてさすがに姉様の今年の学園への入学は見送りになった。


僕は従者としての役目があるので王宮にもお茶会にもきちんと出たが、どこに行っても姉様の事や事件の話を振られるので、噂が下火になるまでは地味に苦痛だった。

カインも大人しくするように国王陛下に言われたのか、週に一度のシャルマーニ邸への来訪を禁止された。カインは文句を言っていたが、何処に他貴族の耳目があるか分からないし、父様も真犯人がオッシ子爵だとは思っていないようで、暫くは僕にも警戒を怠らないようにと指示された。

姉様はそんな窮屈な待遇に不満タラタラかと思いきや、新しく妹になったラナと毎日楽しげに何かしらしている……弟の僕を差し置いて妹ばかり可愛がるだと?何かモヤッとするものを感じる。

そういえば姉様達を助けてくれた前クーベルタン侯……キースのおじい様にお礼を兼ねた事情聴取を行ったそうだが、地下通路の件は、有るとは知っていたが実際に見たのは初めてだと驚いていたらしい。姉様を王都まで送る道がかなり遠回りだった件は御者が雇ったばかりの者だったため、うっかり間違えたのでは?と言われた。本人に確認しようにもビッグホワイトベアに殺されてしまっている。馬車に所属を表す物が無かった件は老後の楽しみとして身分を隠して街をウロウロするのが趣味だから普段からその馬車を使っていて、家紋の付いた馬車は整備中だったから仕方なくその無印の馬車を使ったと言われたらしい。

父様はその報告を聞いてなんとも言えない顔をしていた。


「人身売買か…ターゲットが子供なのはどこの世界も一緒ね。」

お茶を一口含みほうっと息をついて姉様が言った。

今日は従者はお休みで、自宅でお茶会をしている。メンバーは僕と姉様と新しい妹のラナだ。

子供用のサロンでテーブルマナーのレッスンも兼ねてのお茶会だが、今のところラナに問題は無い。

最初落ち着いて食事も出来なかったタキの妹とは思えないほどの完璧な所作だ。

出身が下町なんて言われても何処が?と首をひねるくらいだ。

「……ユリウス。」

僕がラナを横目で見ていたら姉様に呼ばれた。

「…何?」

「貴方さっきからずっとラナちゃん見てるけど……好きなの?」

咄嗟に思考が止まる。


……は?ナンダッテ?


「…………お姉様。お兄様は私がシャルマーニ家の一員として相応しいかテストして下さっているんですわ。」

一呼吸置いてラナが答える。


……言葉使いも完璧だ。くっ…


「姉様、僕は新しい妹が貴族としてやって行けるか心配してるだけだよ。」

少しいじけた様な口調になってしまった。

姉様はにまにまと淑女にあるまじき顔でこっちを見てくる。

「へぇ〜。別に可愛い妹を好きになるのはおかしくはないと思うけど?」

「あ、兄としてラナの事はちゃんと大事にするよ。」

「お兄様…ありがとうございます。」

「ふふふ。良かったわね!ラナちゃん。」

笑い合う姉様とラナに何だか肩の力が抜けた。どうやら姉様は僕とラナがちゃんと打ち解けれているか試したかっただけらしい。

それから姉様はお茶のおかわりを入れてもらい、メイド達に部屋から出るように合図した。部屋には僕ら三人だけになった。

カインが来た時も二杯目のお茶からメイド達を下がらせるので特に珍しくもない。

「相談があるんだけど。」

メイド達が部屋から出て、いれたての紅茶に口をつけていた姉様がカップを置いて言った。

「「?」」

「私の商店『姫金魚』の次の新商品の開発なんだけど……」

「「ヒメキンギョ…」」

僕とラナの声が重なる。

姉様の為の商店を父様が用意したのは年明けすぐだった。

スラックラインやパズル等姉様が考案した商品を扱う店だ。商店の名前は初めて聞いたのだが…なんというか、この発音のしにくさは……まさかッ前世の言葉かっ!?

「ちょっ…姉様ッ」

「……ああ…リナリアって『姫金魚草』って言いますもんね。」

前世の話は僕とカインと姉様の三人の秘密だと思って焦る僕に、ラナの言葉が被る。

「そうっ!そうなの!やっぱりラナちゃんは知ってたのね!」

「名前だけですよ?」

僕の思ってたのと違う盛り上がり方をする二人。

「……えっ?」

姉様の前世の言葉じゃ無いのか?

僕の知らないこの世界の言葉…?

いや、でも…響きが違う…よな?

「姉様……その『ヒメキンギョ』って、姉様の…その、昔の、言葉…だよね?」

僕が何とかボカシた感じで尋ねると、姉様は嬉しそうにうなづた。

「そうよ!私の名前の『リナリア』って花が向こうにもあってね!別名が『姫金魚草』っていうの!私のお店だから私の名前を付けてみたの!素敵でしょ!?」

「素敵…そうだね。姉様の名前なんだ……って、そうじゃなくてッ!」

「?」

僕の言葉に首を傾げる姉様。

「向こうって…あの『向こう』なんでしょ?」

「その『向こう』はユリウスの思ってる『向こう』よ。」

「ラナはッ、ラナはなんで知ってるの!?」

僕の言葉に姉様とラナが顔を見合せた。

無言の目配せの後、ラナが口を開いた。

「あの、お兄様。実は私も…その、お姉様と同郷なんです。」


オネエサマトドウキョウナンデス……


「……は?」

「同郷なんです。前世が。」


いやいやいやいや…えッ?

新しい妹が何言ってるか分からないよ!?


「ユリウス〜大丈夫?」

姉様の手が目の前でヒラヒラ揺れる。

…ッは!

少し思考停止してしまった。

「え…っと、つまり、姉様が去年思い出した前世の世界で、ラナも生きていた……って事?」

「そういう事になりますね。」

「多分同じ年代だよね〜」

「そうですね。孫にメタ〇ース?の世界をゴーグル付けて見せて貰えた記憶が最後に驚いた事でしたね。」

「メ〇バース……私ニュースでしか聞いたことないわ。」

「そうなんですか!?アレはなかなか良いものでしたよ。寝たきりの年寄りにも綺麗な景色を見せてくれました。」

「寝たきりの年寄り!?じゃあ長生きしたのね!」

「医療が進むと無駄に長生きさせられちゃいますからね。でも最後まで自宅に居れたので息子や嫁、孫達には感謝してます。」

「へぇ〜そういうの良いなあ…」

少し羨ましそうな相槌をうつ姉様にラナが尋ね返す。

「お姉様は?」

「私?私は大学で徹夜でレポート仕上げてて、レポートが終わった時に差し入れて貰ったチョコレートがウイスキーボンボンだったの。少しなら良いかなって食べたらまあアルコールが空きっ腹によく効いちゃって!ちょっと酔った挙句階段から落ちてジ、エンド。アハハハ!もう信じられないくらいおっちょこちょいよね〜!」

ケラケラと笑う姉様にサァッと青ざめるラナ。

分かる。

僕も初めて聞いた時は何て言えばいいのか分からなかったからね。

「……す、すみませんでした。」

バツ悪そうに謝るラナ。

「やだ!ラナちゃん。気にしないで〜私からしたらもう過去の事だし、未練とかもなんかあんまり無くて、今結構楽しく生きてるんだから!」

姉様は明るく笑いながらそう言った。

この会話の間、僕は完全に蚊帳の外だ。

前世の記憶なんて僕は持ってない。

しかも僕の分からない単語がいっぱい出てくる。分かったのは姉様は階段から落ちて事故死したという事、ラナは老齢まで生きて子や孫まで居たという事だ。

それってどんな感覚なんだろう?

小説を読んでその登場人物に自分を重ねるみたいなものだろうか?

それとも数年前の自分を客観的に振り返って思い出すみたいな感じなのだろうか?

自分が死ぬ感覚って……どんな感じなのだろうか?

「…分からない…」

僕が思わずこぼした言葉は小声過ぎて姉様達の耳には届かなかったみたいだ。

「ラナ」

「はい。」

僕の言葉にすぐに反応する。

僕はふと浮かんだ疑問をラナに投げかけてみた。

「その…この事を君の兄は知ってるのか?」

姉弟、兄妹として同じ立場の彼はどうなのだろう?

「タキですか?お兄ちゃん…兄には言ったことはありません。全然知らないはずです。」

「知らないのか。」

ずっと一緒に育ってきてそんな事有り得るのか?……そういえば僕は早々に姉様から打ち明けられたな……。姉様、隠し事が下手だからな……。

すぐにボール遊びやスラックラインを父様に作ってもらったりして、隠す素振りも無かったけどね。

でも、タキは(ラナ)から打ち明けられてないのか。僕は今こうして話してもらったのに。

これは兄として信用されていると言うことなのだろうか?

…きっと信用されているという事だろう!

うん。

信頼には応えないとな!

可愛い妹だもんな。

僕がちゃんと守ってあげよう!

によによと緩みそうになる表情を引き締めて話題を変えることにする。

「ところで姉様、新商品の話は良かったの?」

「ああ!その話だったわね。次の商品、どんな物が良いかしら?」

話が脱線していた事に気付いた姉様が再度僕らに意見を求める。

求められても僕には良い考えは浮かばないのだが。

「お姉様。ジャンルはどうしますか?」

ラナは姉様の求めている物を探ろうと質問する。

「そうねえスポーツ系とか子供の玩具系だと売りやすいわよね。食品は素材探しから始めないとダメだし。」

「文房具も攻めるなら職人を育てないとですよね。」

「細かい金属加工技術が出来る職人探さないとね〜」

「購買層は貴族ですか?それとも平民ですか?」

「それっそれよっ!見た事ない珍しい物なら上から下に流さないとって言うじゃない?だから一応は貴族狙いだけど、平民用にも応用が効く方が良いわよね。」

「ああ…そうですよね。」


…………話題を変えたのに話に入れない。


ラナは貴族じゃない上に平民だったハズなのに……姉様もラナもまるで大人同士の様なやり取りじゃないか。

……コレが前世の(大人の)記憶があるというアドバンテージかっ!


「子供の時の玩具っていえば…私、着せ替え人形って好きだったわ!」

「ああ、有りましたね!普通の服と着せ替え人形の服が同じ値段で売られてて驚いた覚えがあります。」

「……それって親目線?」

「…じじばば目線です。」

「ぷぷぷっ」

「くくくっ」

二人で大笑いし始めた。

僕にはさっぱり分からない。

「……あのさ、そろそろ僕も仲間に入れて欲しいんだけどッ!」

ムスッとして不満を主張する。


新しい妹はとても可愛いけど、姉様と同じくちょっと何を言ってるのか分からないよっ!











着せ替え人形の替えの服ってUNI〇LOより高くてビックリしたのは……アタシだよッ(笑)

ユリウス君が会話に入れないのは前世の記憶の有る無しに関係ない説……あります。


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