悩みとデートと
深夜。ふと目が覚めてしまったので、用を足して水を飲みに行こうとした。すると、リビングにリナがいた。でもなんだかいつもより暗い様子だ。昼寝しすぎて寝れないのかな。
「リナ。どうしたんだよ。こんな夜中にリビングで」
「え?……カイトくん。ちょっと眠れなくてさ」
「そうなのか。でもとりあえずベッドには入っておいたほうがいいぞ。そのうち寝れるから」
「……カイトくんってさ。スランプになったことってある?」
「え?スランプか。別に大してスポーツとかもやってきてないからなあ」
作曲はちょと苦しみ気味だが。
「……なんか悩んでるのか」
「……聞いてくれる?」
「おう。俺でいいなら」
「ありがとう。そうだね……まあ、一言でいえば、今私スランプ気味なんだ。上手く歌が歌えないの」
まあそうでしょうね。流れ的に。
「そうだったのか。何かきっかけとかあったのかな」
「別に何かあったわけじゃないんだけどね、こないだから新曲の練習を始めてたんだけど、急に上手く声が出なくなっちゃって。とりあえず休養期間を取らせてもらってるんだけど、あんまり長引くとまずいんだよね」
「まあ、でも仕方ないだろ。本人のコンディションを一番大事にしないと」
「違うよ。一番大事なのは、ファンの期待に応えることだよ。このままじゃみんなをガッカリさせちゃうもん。それが一番やっちゃいけないことなの」
「別にファンは待って……」
いや。そうか。焦る気持ちはなんとなくわかるかも。俺もそうじゃないか。比べるのもおこがましいかもしれないが。
「期待に応えなきゃって焦る気持ちは、なんとなくわかるよ。俺も、そんな大したことじゃないけど、似たような経験があるからさ。でも、焦る気持ちがあるせいで、余計にから回ってスランプになったんじゃないか?」
「……それは多分そう。カイトくんのいう通り。変にプレッシャー感じてるせいで、ダメになってるなっていうのは自覚してるんだ。意外と鋭いんだね。結構ボケた人だなと思ってたんだけど」
「え、そうなのか?ま、いいや。だから、なんか思いっきり気晴らしするべきじゃないかなと思うぞ。たとえば、どこか楽しい場所に遊びに行くとか」
「ふんふん。一理あるかな。誰か遊びに連れて行ってくれるといいんだけどなあ」
「一人じゃダメなのか。あえてのヒトカラとかさ」
「……分かっててやってる?」
「ん?なにがさ」
「……一人でどこかに行って、ファンの人に見つかったら大変でしょ?誰か守ってくれる男の人がいたらいいんだけど、いま頼れる人ってほとんどいないんだよね」
ああ、そういうこと。大丈夫。言わなくてもわかるぞ。
「よし、今度の休み、どこかに遊びに行くか。三人で」
「……本当に言葉通りに受け取ったの?むしろ可愛く思えてきたけどね。……明日。二人で遊びに行こ?」
「え。明日俺学校だからさ」
「決定事項ね。はい。おやすみー」
「お、おやすみー」
意外と強引なとこあるんだな。でもまあ、リナのためにヒトハダ脱ぐのも悪くねえか。
翌朝。リナに叩き起こされた。まだ6時だぞ。
「ほら、早く起きて。今日デートに行くって言ったでしょ」
「流石に朝早すぎるだろ。どこもまだ開いてねえぞ。っていうかデー……」
「ユイちゃんが来たら止められちゃうでしょ。早めに出るの。」
「まあ確かにな。じゃあちょっと待ってろ。用意するから」
「うん」
……で、用意して家を出たんだけど。どこ行くのさ。
「あれ、今日いつもより可愛いな。リナ。オシャレな格好してるじゃん」
ほんとにかわいい。黒のウィッグつけてるし、なんか別人みたい。
「ありがとう。……もしかしてジャージで来ると思ってた?」
「まあちょっとだけ」
「こんにゃろ」
「あああ痛い痛い」
頭を両手でぐりぐりされた。
「……駅まで来たのはいいけど、結局どうするつもりなのさ」
「そうだね。まだ早い時間だし、ちょっと遠くまで行こうか」
……連れられるまま、少し遠くの動物園までやっってきた。なんだかんだで開園時間だ。
「じゃあ早速行こうか。ほら、手。繋ごう?」
「お、おう。せっかくだしな」
何がせっかくなのかわからないが。リナのそういう行動力は素直に羨ましい。そしてすごいと思う。
「大きい鳥さんだねー」
「結構こわいよな。あれだけ体格あると」
「わー。赤ちゃんだ。かわいいー」
「本当だ、かわいいな。テナガザルだって」
「ホッキョクグマだ!だらけてるねー」
「昨日の……ほんとだな。かわいいなあ」
全部言ってみろよ?って目で言われた気がするけど、気にしない。
「あ、パンダだ。こっちもグデーってしてるね。やっぱりクマはあんな感じなのかな」
「かもな。可愛い生き物は、だらけてても可愛いんだな」
「そうでしょ?」
「ん?」
……一通り見て回ったのち、園内の池のほとりで休んでいた。
「ふう、結構疲れたな。でも楽しかったよな」
「うん。動物さんたちに癒されたねー」
「特にトラブルもなく終わってよかった。またそのうちどこか行こうぜ?」
「そうだね。でも、今日もまだ終わりじゃないよ?」
「そうなのか?」
……今度はカラオケに来た。
「強いなリナは。すぐに立ち直って、前を向こうと思えるんだから」
「なんの話?」
「リハビリに来たんだろ?」
「違うよ?」
そう言いながらリナが選択したのは「however」。gla……じゃなくて。
「え、その曲って」
「知ってる?私の大好きな曲なんだ。ネットで流行ってたやつなんだけど」
俺の曲だ。俺が作った曲を好きって言ってもらえるのって嬉しい。でも今ここでそう言っても、信じてもらえないよな。
「……たまたま、俺も好きな曲だったんだ」
「そう。じゃあ男声部分歌ってね」
ポイっと投げ渡されるマイク。まあ歌えるけどさ。
「……やっぱりね」
歌い終わった後、何かをボソッと言われた。でも聞き取れなかった。
その後も散々歌いまくったが、全然綺麗な声で歌えてるじゃないか。リナ。
「いやー、よく歌った。というかリナ。めちゃくちゃ綺麗な歌声だったじゃないか」
「えへへ。自分でもびっくりしちゃった。ついこないだまで全く歌えなかったんだけどね」
「今日、リフレッシュできたのかな」
「そうだね。あとは、カイトくんのおかげかな。まだ今日で三日目だけど、出会ってから私にずっと優しくしてくれるカイトくんがそばにいると、なんだか勇気が湧いてきたんだよ」
そう言いながら眩しい笑顔を見せるリナ。
「……俺もなんだか力をもらったかもしれないよ。リナ」
「ん?よくわからないけど、よかったよカイトくん」
なんだろう。なぜだかわからないけど、リナの笑顔を見てると胸がドキドキする。この甘酸っぱい気持ちがあれば、新しい曲が書ける気がする。音楽プロデューサー、デフロストの新たな伝説が、始まるんだ!




