第7話 WORLD PHASE 2
第7話 WORLD PHASE 2
海は机の前に座ったまま、しばらくSTATUSを見ていた。
⸻
LEVEL:3
LEVEL進行度:0%
NEXT PHASE:LEVEL 5
⸻
あと二つ。
Lv.5になれば、WORLD PHASEが次へ進む。
でも。
「……何が起きるんだ?」
表示されているのは、
NEXT PHASE:LEVEL 5
それだけ。
何が変わるのか。
何が起きるのか。
何も分からない。
「このまま行って、大丈夫なのか……?」
今のドリームワールドには、自分しかいない。
何か起きても聞ける相手はいない。
雨が降ったことはない。
危険な生き物も見ていない。
だから今までは、
喉が渇けば水を出す。
腹が減れば食べ物を出す。
眠くなれば地面に毛布を敷く。
それで困らなかった。
でも。
PHASE 2でも同じとは限らない。
何が起きるのか分からない。
だからこそ、不安だった。
海はノートを開いた。
「今できること……」
まず浮かんだのは、住む場所だった。
⸻
PHASE 2になる前に
・住む場所を作る
⸻
「さすがに、ずっと地面はな……」
何かが起きても、戻れる場所くらいはあった方がいい。
昨日は父親と棚を作った。
《工作 Lv.1》も覚えた。
だったら、小さな小屋くらい作れないか。
海はスマートフォンを手に取った。
簡単な木造小屋。
DIY。
簡易小屋の構造。
調べていく。
柱。
梁。
床。
壁。
屋根。
さらに、四角形の枠だけでは横からの力に弱く、斜めに材料を入れることで補強できる。
筋交い。
「これが梁で……こっちが筋交いか」
海はノートに簡単な小屋を描いた。
四本の柱。
柱を繋ぐ梁。
床。
屋根。
壁。
斜めに一本。
「これなら、向こうでも……」
その瞬間。
⸻
《重要知識を理解しました》
《簡易建築の基礎を理解しました》
《DP +5》
《LEVEL進行度:0% → 9%》
⸻
「九%……」
大きい。
ただ知らなかったことを一つ覚えた時とは、明らかに進み方が違う。
海は小屋の絵を見た。
住む場所。
そこで、学校で聞いた言葉を思い出す。
インフラ。
人が生活するための仕組み。
小屋だけあっても、それで生活できるわけじゃない。
「水……」
今までは、喉が渇くたびにCREATIONで一本ずつ出していた。
でも、住む場所を決めるなら、水もそこで使える方がいい。
海は検索する。
貯水タンク。
給水。
配管。
蛇口。
水圧。
高い位置にタンクを置けば、重力を利用して水を流せる。
「こういう仕組みか……」
さらに調べる。
ただ、配管を繋いだり、蛇口を取り付けたりする作業は、今の自分には難しそうだった。
「これは自分でやるより、向こうで設備ごと出した方がいいな」
水を貯める。
そこから必要な場所まで運ぶ。
蛇口をひねれば使える。
その仕組みは理解できた。
⸻
《重要知識を理解しました》
《簡易給水設備の基礎を理解しました》
《DP +6》
《LEVEL進行度:9% → 20%》
⸻
「十一%……」
また大きい。
簡易建築。
給水。
どちらも、ドリームワールドで実際に使える知識だった。
「やっぱり、向こうで使える知識は大きいな」
次。
「電気」
海は検索欄へ文字を打ち込んだ。
発電。
小型発電機。
燃料。
エンジン。
発電の仕組み。
さらに、発電した電気をどう使うのか。
電源。
照明。
コンセント。
「発電機があれば、電気を作れるんだ」
もちろん、燃料がなければ止まる。
使える電力にも限界がある。
「でも、今ならこれで十分か」
さらに基本操作まで調べる。
燃料を入れる。
始動。
停止。
安全な置き場所。
そこまで理解する。
⸻
《重要知識を理解しました》
《小型発電設備の基礎を理解しました》
《DP +7》
《LEVEL進行度:20% → 32%》
⸻
「十二%」
海は画面を見つめた。
もう偶然ではない。
向こうで必要になる知識。
生活そのものを変えられる知識。
そういうものほど、経験値が大きい。
「もっと調べといた方がいいな」
最初は、PHASE 2が怖くて調べ始めた。
でも。
知れば準備ができる。
DPも増える。
LEVELも進む。
海はそのまま調べ続けた。
電気を実際に使う方法。
⸻
《電力利用の基礎を理解しました》
《DP +5》
《LEVEL進行度:32% → 40%》
⸻
次。
小屋をどこに建てるか。
平らな場所。
少し高い場所。
水が集まりにくい場所。
⸻
《居住地選定の基礎を理解しました》
《DP +4》
《LEVEL進行度:40% → 47%》
⸻
「まだある」
次は、周囲を調べる方法。
そもそも海は、ドリームワールドのことをほとんど知らない。
どこまで続いているのか。
何があるのか。
遠くを見るなら、双眼鏡。
これは分かる。
問題は、歩いた後に戻れるかどうか。
「コンパス……」
赤い針が北。
そこまでは知っている。
でも、それだけで帰れるのか。
海は立ち上がり、リビングへ向かった。
⸻
匠はソファでテレビを見ていた。
「父さん」
「ん?」
「コンパスって、ちゃんと使える?」
匠が海を見る。
「今度はコンパスか」
「教えてよ」
「昨日ロープで、今日は工具。その次がコンパス?」
「いいじゃん」
「何目指してんだよ」
「……色々」
匠は少し笑った。
収納棚を探し、小さな方位磁針を持ってきた。
「これ」
海が受け取る。
「赤が北?」
「そう」
「じゃあ北さえ分かればいいんでしょ」
「それだけじゃ帰れないぞ」
「なんで?」
匠は紙に一本線を引いた。
「北へ真っ直ぐ進んだ」
「うん」
「帰りは?」
「南」
「じゃあ途中で東へ曲がって、そのあとまた北へ進んだら?」
海は少し考えた。
「……分かんなくなる」
「だろ」
匠は紙を指した。
「方角だけじゃなくて、どっちへ進んだか。どのくらい進んだか。目印があれば、それも覚える」
「目印……」
海は、荒野に積んだ石を思い出した。
「あれ、ちゃんと意味あったんだ」
「何が?」
「あ、いや」
海はコンパスへ視線を戻した。
身体の向きを変える。
赤い針は北を指したまま。
「北東へ行ったなら、帰る時は南西?」
「真っ直ぐならな」
何度か自分で方向を確認する。
⸻
《探索知識を理解しました》
《DP +5》
《LEVEL進行度:47% → 55%》
⸻
さらに。
⸻
《技能条件を達成しました》
《方位確認 Lv.1を習得しました》
《LEVEL進行度:55% → 67%》
⸻
「よし」
「何が?」
「使い方分かった」
「最初からそう言え」
「これ借りていい?」
「なくすなよ」
「分かってる」
海はコンパスを持って、部屋へ戻った。
⸻
小屋。
給水。
発電。
電気。
双眼鏡。
コンパス。
ノートはかなり埋まっていた。
最初に感じていた不安が消えたわけではない。
でも。
何も知らないまま進むのと、できる準備をしてから進むのとでは違う。
海はもう一度、発電機について調べた。
始動。
停止。
燃料。
安全な置き場所。
⸻
《発電機の基本操作を理解しました》
《DP +4》
《LEVEL進行度:67% → 74%》
⸻
さらに。
簡易給水設備。
タンクを置く場所。
必要な容量。
⸻
《生活用水の確保について理解が深まりました》
《DP +4》
《LEVEL進行度:74% → 81%》
⸻
海は時計を見る。
かなり遅い時間になっていた。
それでも、PHASE 2のことを考えると、まだ調べておきたいことはいくらでもあった。
海は最後にノートへ書いた。
⸻
PHASE 2までにやること
1. 小屋を作る
2. 給水設備を整える
3. 発電する
4. 電気を使えるようにする
5. 周囲を調べる
⸻
「これだけやれば……」
何が起きても大丈夫。
そこまでは言えない。
でも、何もしないよりはいい。
海は所持DPを確認した。
⸻
所持DP:510
⸻
「五百十……」
CREATIONに追加されたものを思い浮かべる。
全部揃えられるかは分からない。
だからこそ、使い方も考える必要がある。
「まずは必要なものからだな」
海はベッドへ入った。
目を閉じる。
⸻
頬に風を感じた。
海は目を開けた。
まだ何もない荒野。
地平線から朝日が昇り始めている。
現実では夜。
こちらでは朝。
海は身体を起こした。
「よし」
「CREATION」
画面が開く。
昨夜調べたものが一覧へ追加されている。
⸻
《新規創造候補を検出しました》
簡易木造小屋
小屋用材料一式
簡易給水設備
小型発電機
燃料
簡易電源設備
LED照明
双眼鏡
コンパス
⸻
海は一覧を見る。
まず。
⸻
簡易木造小屋 300DP
⸻
「三百……」
交換はできる。
でも、それだけでDPの半分以上がなくなる。
視線を下へ動かす。
⸻
小屋用材料一式 130DP
⸻
「こっちだな」
昨日は父親と棚を作った。
《工作 Lv.1》もある。
簡易建築についても調べた。
「自分で作れば百七十浮く」
⸻
《130DPを消費しました》
《所持DP:510 → 380》
⸻
光が集まり、朝日の下に木材や金具が現れた。
まず、建てる場所を決める。
周囲を歩く。
平らな場所。
少し高い場所。
雨が降ったとしても、水が溜まりにくそうな場所。
何か所か見て回る。
気づけば、小屋を建てる場所を探すだけで五百メートルほど歩いていた。
⸻
《移動距離:0.5km》
《DP +5》
《所持DP:380 → 385》
⸻
海は一か所で足を止めた。
地面。
周囲。
高さ。
昨夜調べたことを思い出しながら確認する。
「ここだな」
⸻
《居住地選定の知識を実践しました》
《DP +5》
《LEVEL進行度:81% → 86%》
《所持DP:385 → 390》
⸻
材料を運ぶ。
柱。
梁。
床。
ロープで仮止めする。
金具。
ネジ。
位置を合わせる。
締める。
途中。
柱が揺れる。
「筋交い」
斜めに木材を入れる。
固定。
もう一度押す。
今度はかなり安定した。
⸻
《簡易建築の知識を実践しました》
《DP +8》
《LEVEL進行度:86% → 94%》
《所持DP:390 → 398》
⸻
壁。
屋根。
最後の板。
海はネジを締め、手を離した。
そこに、小さな木造小屋が立っていた。
窓はない。
広くもない。
形も少し歪んでいる。
でも。
屋根がある。
壁がある。
床がある。
「……できた」
今まで、どこを見ても何もなかった。
そこに初めて、自分が戻れる場所ができた。
⸻
《初めて居住設備を建設しました》
《世界開拓への貢献を確認しました》
《DP +30》
《LEVEL経験値 +24%》
《所持DP:398 → 428》
《LEVEL進行度:94% → 100%》
《超過経験値:18%を次LEVELへ繰り越します》
⸻
視界が青白く光った。
⸻
LEVEL UP
神谷 海
Lv.3 → Lv.4
⸻
「よし……!」
あと一つ。
⸻
LEVEL BONUS
最大HP +5
全ステータス +1
SP +3
⸻
表示が切り替わる。
⸻
LEVEL:4
LEVEL進行度:18%
⸻
海は小屋を見る。
「次は……水だな」
CREATIONを開く。
⸻
簡易給水設備 120DP
⸻
内容を見る。
貯水タンク。
給水管。
蛇口。
接続部品。
自分で配管工事までやるのは難しい。
でも、設備としてなら交換できる。
「これにしよう」
⸻
《120DPを消費しました》
《所持DP:428 → 308》
⸻
光が集まる。
小屋の横に貯水タンク。
そこから給水管が伸び、小屋の脇に蛇口が設置された。
タンクには生活用水が満たされている。
海は蛇口の前に立った。
ひねる。
少し遅れて。
水が流れ出した。
「おお……」
両手で受ける。
冷たい。
⸻
《給水インフラを構築しました》
《世界開拓への貢献を確認しました》
《DP +25》
《LEVEL経験値 +12%》
《所持DP:308 → 333》
《LEVEL進行度:18% → 30%》
⸻
海は一度、蛇口を閉めた。
また開く。
水が出る。
今までのように、
喉が渇くたびに水を一本ずつCREATIONする必要はない。
ここへ戻れば、
水を使える。
⸻
《継続的な生活用水の供給に成功しました》
《DP +15》
《LEVEL経験値 +8%》
《所持DP:333 → 348》
《LEVEL進行度:30% → 38%》
⸻
海は蛇口を閉めた。
「次は電気」
CREATIONを開く。
⸻
小型発電機 150DP
燃料 20DP
簡易電源設備 40DP
LED照明 10DP
⸻
合計。
220DP。
今の所持DPは348。
「……結構使うな」
海は少し考えた。
でも。
PHASE 2で何が起きるか分からない。
暗くなっても小屋の中で明かりを使える。
電気があれば、
これから使えるものも増えるかもしれない。
「やろう」
⸻
《220DPを消費しました》
《所持DP:348 → 128》
⸻
光が収まる。
発電機。
燃料。
簡易電源設備。
LED照明。
海は昨夜調べた手順を思い出す。
燃料を確認する。
スイッチ。
スターター。
一回。
ブルルッ。
止まる。
「もう一回」
二回目。
止まった。
三回目。
ブルルルルル――。
乾いた荒野に、機械の音が響いた。
「ついた!」
⸻
《発電インフラを構築しました》
《世界開拓への貢献を確認しました》
《DP +30》
《LEVEL経験値 +11%》
《所持DP:128 → 158》
《LEVEL進行度:38% → 49%》
⸻
次。
簡易電源設備。
発電機から小屋へ電気を供給する。
接続を確認。
スイッチ。
LED照明が点いた。
パッ。
昼間だから、明るさは目立たない。
それでも。
小屋の中に、初めて人工的な光が灯っている。
「来た……」
⸻
《電力供給に成功しました》
《DP +20》
《LEVEL経験値 +14%》
《所持DP:158 → 178》
《LEVEL進行度:49% → 63%》
⸻
海は照明を見る。
スイッチを切る。
消える。
もう一度。
パッ。
白い光。
⸻
《初めて電気設備を利用しました》
《DP +10》
《LEVEL経験値 +10%》
《所持DP:178 → 188》
《LEVEL進行度:63% → 73%》
⸻
「七十三……」
海はCREATIONを開く。
双眼鏡。
40DP。
コンパス。
20DP。
「両方いける」
⸻
《双眼鏡 40DP》
《コンパス 20DP》
⸻
《60DPを消費しました》
《所持DP:188 → 128》
⸻
海は手の中に現れた二つを見る。
「まだ百二十八ある」
海は小屋の外へ出た。
「次は……周りを見ておきたいな」
コンパス。
方角を確認する。
北。
出発地点。
目印。
「よし」
⸻
《方位確認 Lv.1を使用しました》
《DP +5》
《所持DP:128 → 133》
⸻
双眼鏡を構える。
右。
左。
地平線。
何もない。
木もない。
人影もない。
生き物の姿もない。
「……やっぱいない」
今日は、ただ歩くのではない。
どこへ進んだかを確認しながら進む。
北へ。
しばらく歩き、積み石。
さらに進む。
また積み石。
コンパス。
北。
何度か双眼鏡を使う。
荒野。
岩。
それだけ。
二キロほど進んだところで、
海は足を止めた。
「今日はここまでにしよう」
コンパスを見る。
南。
戻る。
積み石を一つずつ辿る。
歩く。
やがて。
遠くに小さな小屋が見えた。
「あった」
思わず少しだけ笑った。
そこが見えただけで、妙に安心する。
自分が作った場所。
ちゃんと帰ってこられた。
小屋へ戻ったところで、
表示が現れた。
⸻
《探索移動距離:4.0km》
《DP +40》
《所持DP:133 → 173》
⸻
続けて。
⸻
《計画探索からの帰還に成功しました》
《DP +6》
《LEVEL経験値 +13%》
《所持DP:173 → 179》
《LEVEL進行度:73% → 86%》
⸻
「あと十四」
海は小屋へ入った。
腰を下ろす。
「……疲れた」
床は硬い。
少し横になってみる。
背中に木の感触が、そのまま伝わる。
海は天井を見た。
「結局、寝る場所はこれか」
身体を起こす。
小屋を作った時に残った木材。
ロープ。
毛布。
「寝床くらい作れるか」
木材を並べる。
四角い枠。
脚。
その上にロープを張る。
棚を作った時のように、まず仮止め。
位置を見る。
締める。
⸻
《工作 Lv.1を使用しました》
⸻
次にロープ。
一本。
二本。
間隔を空けて張る。
⸻
《ロープワーク Lv.1を使用しました》
⸻
海は手で押した。
沈む。
「緩いな」
張り直す。
今度は強く。
もう一度。
「これなら」
毛布を敷く。
恐る恐る身体を乗せる。
ギシッ。
「……」
壊れない。
さらに体重を預ける。
「おお」
地面より、ずっといい。
海は一度起き上がり、全体を見る。
少し歪んでいる。
見た目も良くない。
でも。
ちゃんと寝られる。
⸻
《簡易寝床の作成に成功しました》
《DP +5》
《LEVEL経験値 +18%》
《所持DP:179 → 184》
《LEVEL進行度:86% → 100%》
《超過経験値:4%を次LEVELへ繰り越します》
⸻
青白い光が、視界いっぱいに広がる。
⸻
LEVEL UP
神谷 海
Lv.4 → Lv.5
⸻
海はゆっくり立ち上がった。
「……来た」
⸻
LEVEL BONUS
最大HP +5
全ステータス +1
SP +3
⸻
表示が切り替わる。
⸻
LEVEL:5
LEVEL進行度:4%
所持DP:184
⸻
海は、しばらく表示を見つめた。
Lv.5。
とうとう、ここまで来た。
でも。
嬉しい、とは少し違った。
胸の奥が落ち着かない。
「……これで来るんだよな」
PHASE 2。
何が起きるのかは、結局分からないまま。
それでも。
何もせずに待っていたわけじゃない。
海は小屋の外へ出た。
「……来い」
小さく呟いた。
その時。
⸻
《WORLD条件を達成しました》
⸻
続けて。
⸻
《PHASE 1を終了します》
⸻
視界いっぱいに、新しい文字が広がった。
⸻
WORLD PHASE 2
解放
⸻
海は息を止めた。
荒野。
小屋。
空。
見える景色は、何も変わらない。
「……?」
その時だった。
ポツ。
「ん?」
頬に何かが当たった。
冷たい。
海は指で触れる。
水。
「……雨?」
空を見上げる。
ポツ。
もう一滴。
ポツ。
ポツ。
乾ききった地面に、小さな黒い点が増えていく。
この世界へ来てから、一度も降らなかった雨。
やがて。
ザアァァァ――。
荒野全体が雨に包まれた。
海は小屋へ駆け込む。
屋根を叩く雨音。
今まで風の音しかなかった世界に、初めて雨の音が満ちていく。
海は入口から外を見つめた。
乾いていた大地が、少しずつ色を変えていく。
その時。
⸻
《WORLD PHASE 2》
《気候システムを解放しました》
⸻
続けて。
⸻
《生態系の生成を開始します》
⸻
「……生態系」
海はその言葉を見つめた。
意味までは、よく分からない。
海は雨の向こうを見る。
何もなかった荒野。
そこへ今、初めて水が降っている。
胸の奥には、まだ不安が残っていた。
何が起きるのか。
本当に大丈夫なのか。
それは、何一つ分からない。
ただ。
この世界が、今までとは違う何かに変わり始めている。
そのことだけは、はっきり分かった。
海はしばらく、雨に濡れていく荒野を見つめていた。




