第6話 レベル3
第6話 レベル3
「じゃあ、また明日」
「おう」
分かれ道で、美緒が手を振った。
海も軽く手を上げる。
少し歩いてから振り返ると、美緒の姿はもう見えなくなっていた。
海は一人になり、ようやく大きく息を吐いた。
「……疲れた」
部活の後だから。
それもある。
でも、身体より頭の方が疲れていた。
⸻
LEVEL:2
LEVEL進行度:62%
⸻
視界に浮かんでいた表示は、少し前に消えている。
インフラを知った。
身体の使い方を理解した。
感知が上がった。
《予測》を覚えた。
そして、美緒を助けた。
一つ一つは全く違うことだ。
でも、全部が自分の成長として積み重なっている。
海は歩きながら自分の右手を見る。
さっき、二人の男の動きを避けられた。
一発なら、たまたまだと思ったかもしれない。
でも何度も避けた。
しかも途中からは、青い線まで見えた。
「予測……」
サッカーで覚えたスキル。
それが、あんな場面でも使えた。
だったら。
他のスキルも、使い道は一つじゃないのかもしれない。
そして、もう一つ。
⸻
未使用SP:3
⸻
Lv.2になった時から、ずっと残している。
今までは、何がどのくらい変わるのか分からなかった。
でも今日。
五十メートルも、握力も、実際に数字が変わっていた。
「……使ってみるか」
海は周囲を見る。
住宅街。
この辺りは人通りが少ない。
「筋力に1SP」
その瞬間。
⸻
《SPを1消費します》
《筋力 +1》
⸻
「出た」
残り二。
海は腕を見る。
握る。
開く。
「……分かんねえ」
当然、見た目が急に変わるわけではない。
でも、数字は上がった。
なら。
次。
今日、一番助けられたもの。
「感知に1SP」
⸻
《SPを1消費します》
《感知 +1》
⸻
残り。
⸻
未使用SP:1
⸻
敏捷にも振りたい。
体力も。
精神も。
でも。
海は最後の一ポイントを見つめた。
「これは取っとこ」
何が起きるか分からない。
必要になった時に使えばいい。
そう思って、海は家へ向かった。
⸻
「ただいま」
「おかえりー」
キッチンから彩の声。
靴を脱いだところで、リビングから匠が顔を出した。
「海、ちょうどいい」
嫌な予感。
「何?」
「手伝え」
「やだ」
「即答すんな」
「部活終わりなんだけど」
「十分で終わる」
「父さんの十分、絶対十分じゃないじゃん」
「いいから来い」
「はいはい」
海はバッグを置いて、リビングへ向かった。
床には、板。
ネジ。
金属の金具。
工具。
途中まで組み上がった小さな棚が置かれている。
「何これ」
「収納棚」
「買えば?」
「これくらいなら作った方が安い」
匠が板を持ち上げる。
「そっち押さえて」
「はい」
海は反対側を支えた。
匠が電動ドライバーを持つ。
ウィンッ。
ネジが一気に木へ入っていく。
一本。
二本。
海は、その手元をじっと見ていた。
「……」
「何?」
「それ、簡単?」
匠の手が止まる。
「お前が工具に興味持つ日が来るとはな」
「何だよ」
「昨日は紐。今日は工具」
「別にいいじゃん」
「いいけど」
匠は電動ドライバーを海へ差し出した。
「やってみる?」
「うん」
海は受け取る。
思ったより重い。
「ここ押せばいい?」
「待て」
「何?」
「先にビット合わせろ」
「ビット?」
「先っぽ」
匠が指差す。
「ネジの溝とちゃんと合わせる。斜めに当てるな」
海はネジを見る。
十字の溝。
そこへ先端を合わせる。
「それで押しながら、ゆっくり回す」
「ゆっくり?」
「最初から全開にしたらズレる」
「なるほど」
トリガーを軽く引く。
ウィン。
「あっ」
先端が外れた。
「だから押さえろって」
「思ったよりムズい」
「慣れ」
もう一度。
今度は真っ直ぐ。
押す。
ゆっくり回す。
ネジが木へ入っていく。
「お……」
最後まで入った。
その瞬間。
⸻
《DP +2》
《基礎工作知識を理解しました》
《LEVEL進行度:62% → 70%》
⸻
海の目が少し開いた。
工作。
物を作る知識。
世界を創るうえで重要なのかもしれない。
「もう一本やっていい?」
匠が少し驚いた顔をする。
「どうぞ」
二本目。
今度は最初から真っ直ぐ当てる。
押す。
ゆっくり回す。
さっきよりうまく入る。
三本目。
さらに速い。
「お前、覚えるの早いな」
「そう?」
「さっきまで触ったことなかっただろ」
「まあ」
海は少し笑った。
器用が上がっている。
それも関係しているのかもしれない。
⸻
「次これ」
匠が別の板を渡す。
「このまま付ければいい?」
「ダメ」
「なんで?」
「向き逆」
「どこ見れば分かる?」
「穴」
板を見る。
片側に小さな加工穴。
「こっちが内側?」
「そう」
「なるほど」
海は向きを直す。
「あと、いきなり全部締めるな」
「なんで?」
「少しずつ仮止めして、位置合わせてから締める」
「最初から締めた方が早くない?」
「ズレたら全部やり直し」
「……確かに」
一か所。
軽く締める。
反対側。
また軽く。
位置を見る。
それから、順番に締めていく。
海は途中から、だんだん楽しくなってきた。
「これ、こっち先じゃね?」
「お」
匠が海を見る。
「その方がやりやすい」
「やっぱ?」
「調子乗るな」
「褒めろよ」
「一個ネジ入れられるようになっただけだろ」
二人で笑う。
⸻
しばらくして。
棚の形が、ほとんど完成した。
最後に背面の板。
海が位置を合わせる。
ネジ。
一本。
二本。
三本。
最後。
締める。
ウィンッ。
海はドライバーから手を離した。
棚を軽く揺らす。
「できた」
匠も確認する。
「まあ、こんなもんだな」
「普通に使えるじゃん」
「棚だからな」
「俺、結構作ったよね?」
「三割」
「もっとだろ」
「三割五分」
「細かっ」
その瞬間。
青白い文字が現れた。
⸻
《技能条件を達成しました》
⸻
海の笑みが止まる。
⸻
《スキル:工作 Lv.1を習得しました》
《LEVEL進行度:70% → 84%》
⸻
「工作……」
三つ目のスキル。
ロープワーク。
予測。
そして工作。
しかも。
これはドリームワールドでかなり使えそうだった。
木材。
建物。
道具。
家具。
自分で作れるものが増えれば、完成品をCREATIONで出すよりDPを節約できるかもしれない。
「……これ、向こうで使える」
「向こう?」
海の身体が固まった。
「……高校?」
「何の話?」
「いや、なんでもない」
「お前今日ずっと変だぞ」
「気のせい」
危ない。
思わず口に出してしまった。
⸻
「じゃあ、これ部屋持ってって」
匠が言う。
「え?」
「お前の部屋用だろ」
「俺の?」
「教科書とか床に置きっぱなしだろ」
海は完成した棚を見る。
「俺のために作ってたの?」
「母さんに言われた」
「なんだ」
「嫌なら俺使うぞ」
「使う」
海は即答した。
棚の両側を持つ。
匠と一緒に階段を上がる。
自分の部屋。
机の横。
そこへ置く。
「どう?」
「いいんじゃない」
匠が帰ろうとする。
海は棚を見る。
そして、ふと思った。
「父さん」
「ん?」
「これ、俺一人でも同じの作れるかな」
匠は少し考えた。
「材料と道具あれば作れるだろ」
「設計図なくても?」
「同じの見ながらならな」
「そっか」
「急にDIYでも始めるのか?」
「まあ、そんな感じ」
「金ないなら工具貸すぞ」
「ありがと」
匠が部屋を出ていく。
海は一人残った。
完成した棚を見る。
触る。
板。
ネジ。
金具。
さっきまでバラバラだったもの。
それを、自分の手で組み立てた。
「工作……」
海は小さく呟いた。
机の上を見る。
作業で余った小さな木片。
金具。
ネジ。
工具は匠が置いていったままだ。
「……これで何か作れるかな」
棚を組み立てたのは、
ほとんど父親に教わった通りだ。
なら。
今度は、
自分で考えて作ってみたい。
海はスマートフォンを手に取った。
机の上へ置く。
「立てられたら便利か」
木片を二つ合わせる。
角度を変える。
スマートフォンを置いてみる。
倒れる。
「これじゃダメか」
少し位置をずらす。
もう一度。
今度は安定する。
「この角度だな」
ネジを一本。
真っ直ぐ。
仮止め。
角度を確認する。
締める。
もう一つの木片を、後ろから支えるように取り付ける。
一度失敗。
外す。
やり直す。
十分ほどして。
海は手を止めた。
「……できた」
不格好な木製のスマートフォンスタンド。
左右も少しズレている。
でも。
スマートフォンを置く。
倒れない。
「使えるじゃん」
その瞬間。
⸻
《スキル:工作 Lv.1の使用に成功しました》
《LEVEL進行度:84% → 91%》
⸻
さらに。
⸻
《自ら考案した実用品の作成に成功しました》
《DP +10》
《LEVEL進行度:91% → 100%》
⸻
「……え」
海の動きが止まった。
百。
次の瞬間。
青白い光が、視界いっぱいに広がる。
⸻
LEVEL UP
神谷 海
Lv.2 → Lv.3
⸻
「来た……!」
海は思わず立ち上がった。
続けて表示が現れる。
⸻
LEVEL BONUS
最大HP +5
全ステータス +1
SP +3
⸻
さらに。
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神谷 海
LEVEL:3
HP:110 / 110
筋力 14
体力 16
敏捷 20
器用 12
知力 12
感知 15
精神 12
未使用SP:4
SKILL
ロープワーク Lv.1
予測 Lv.1
工作 Lv.1
⸻
「レベル三……」
残り二つ。
⸻
NEXT PHASE:LEVEL 5
⸻
海は表示を見つめた。
そこまで行けば、
世界は次の段階へ進む。
何が起きるのかは、まだ分からない。
海はSTATUSを閉じた。
机の上には、少し歪んだスマートフォンスタンド。
それを見ると、なぜか笑えてくる。
世界を創る。
そんな途方もないことを言われたのに。
今の自分が作ったのは、
これだけ。
「まあ……一個目ってことで」
海はスマートフォンを置いた。
ぴたりと収まる。
その時。
窓の外から、
鳥の鳴き声が聞こえた。
海は何となく顔を上げた。
電線に数羽の鳥。
その下には庭の木。
草。
小さな虫が窓の明かりへ寄ってくる。
「……」
海の表情が少しずつ変わった。
ドリームワールド。
何度も歩いた。
かなり遠くまで。
でも。
「そういえば……」
鳥を見ていない。
虫も。
動物も。
草も。
木も。
人なんて、もちろん一人も。
今まで、
何もない世界だから。
そういうものだと思っていた。
でも。
世界なのに。
本当に、
何もいないのか。
海の頭に、あの表示が浮かんだ。
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WORLD PHASE:1
NEXT PHASE:LEVEL 5
⸻
「……関係あんのかな」
Lv.5。
世界の次の段階。
海はしばらく窓の外を見ていた。
さっきまで、
早くレベルを上げたい。
それだけだった。
今は、もう一つ。
確かめたいことが増えていた。
あの世界には、本当に自分しかいないのか。




